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参考人(大前傑君) 航空機の運航における
安全確保という
観点から御
報告申し上げます。
私は全日空の大前でございます。現在、全日空の運航、
整備、客室、空港というオペレーション部門を統括すると同時に、安全にかかわる最高機関でございます総合安全推進
委員会の
委員長を務めております。
昨年、公共交通機関の
事故やインシデントが続いたことにより、輸送の
安全確保を図るために大変重要な航空法の改正が今
国会で行われました。空の安全を担う航空運送事業者の一員として、本改正法の趣旨を厳粛に受け止め、身を引き締めて十月の施行に向けて万端の準備を進めているところでございます。
本日は、航空機の運航における安全の
確保につきまして、弊社の
考え方を御説明させていただきます。
ANAグループの安全についての基本的
考え方は、グループで定めておりますグループ安全理念の冒頭にも記されておりますが、「安全は経営の基盤であり、
社会への責務である」という言葉に凝縮されております。この言葉は、安全がすべてに優先することをグループの全社員が共有することの
決意を示したものでございます。
グループの安全理念の下に、
安全確保をより具体的に実施していくための規程として安全マニュアルを五年前に制定いたしまして、今般の法改正の作成が義務付けられました安全
管理規程を盛り込む安全マネジメント
システムの
考え方を先んじて取り入れるとともに、実際に各生産部門がこれらをしっかり運用しているかどうか内部監査を実施して
点検し、改善すべき点を是正していく仕組みにしております。
また、安全を推進していく体制といたしまして、各生産部門から独立いたしました総合安全推進
委員会やグループの総合安全推進室を
設置しまして、安全にかかわる方針決定や各部門の
取組に対する助言、勧告、国内外の
事故の
事例等の紹介、安全啓発誌の発行など安全推進活動を行っております。
また、安全にかかわる不具合の多くはヒューマンエラーがかかわっていることから、約二十年前から運航乗務員を皮切りに、現在では
整備、客室、空港といったすべてのオペレーションにかかわる部門を対象にいたしましてヒューマンファクターズ訓練を実施しております。
さらに、安全に関する機材面の強化についても取り組んでまいりました。例えば、昨年の十一月に導入いたしました新型のボーイング737型機には、国内の民間航空では初めてのヘッ
ドアップディスプレーという
装置を装備しております。これは、飛行計器に表示される姿勢や針路などの
情報をコックピットの窓に備え付けられた透明な表示板パネルに投影するもので、飛行中にパイロットが外界から視線を外すことなく、
事故防止に大きく寄与するものと
期待しております。このような新しい
装置やボーイング787といった技術革新の進んだ新しい機材の積極的な導入を通じてハード面での安全強化を進めてまいりたいと思っております。
こうした安全に関する仕組みや
取組を実効あるものにし、お客様に心から御満足いただけるような安全や安心を提供し続けていくために、グループ全社員の安全に対する意識をより一層高めていく努力を継続していかなければならないと
考えております。
これには、社員一人一人が安全に関する約束事を守る、決められたことを守ることが何よりも大切であるという意識を
徹底して共有し、自然に守れるようになる、守らなければ恥ずかしいという風土をつくることだと思っております。万が一、社員が約束を守れなかった場合でも、正直に
報告できる風通しの良い職場をつくっていかなければならないというふうに
考えております。
このため、経営トップと
現場の従業員とのコミュニケーションを精力的に行っております。弊社では、
社長、副
社長及び関係各本部長との間ですべての運航
情報を共有し、不具合事象に対する早期対策、改善
報告を行うことを目的にしまして、OR会と称した会合を毎週火曜日の早朝、羽田空港で開催しております。OR会と申しますのはオペレーションレポートということを略した会議体でございます。また、ダイレクトトークや安全トップキャラバンと称して、
社長を始めとする経営幹部が自ら
現場に出掛け、従業員と直接対話することも行っております。このようなコミュニケーションの機会を持つことで個々の意識も高まっていくものと思っております。
また、安全に対する意識を高めるために、
事故資料の展示施設を今年度内をめどに
設置することを検討しております。
一九七一年七月三十日でございます、雫石で起きた
事故から三十五年近く
たちます。当時を知らない社員がほとんどでございます。こうした世代へ
事故の記憶を引き継いでいくこと、安全に対する
決意を新たにする機会を増やすように努力していくことであります。教育や研修にもこういった展示施設を活用し、
事故の怖さ、悲惨さを伝えることで、絶対に間違いを起こしてはいけないという緊張感を持てる環境づくりをしていきたいというふうに
考えております。
また、今回の法改正を踏まえまして、
安全性の一層の向上につなげていくためにも、特に次の点に重点を置いております。
まず、安全マネジメント
システムの改定を今年度の重要課題としております。安全マニュアルの制定から五年、二〇〇一年八月に制定いたしまして五年近く経過いたしましたので、制定当時の安全マネジメント
システムと今般の法改正で求められる安全
管理体制、欧米の現況を総合的に勘案して、改善すべき点、補強すべき点がないか、今
点検を進めているところでございます。
次に、安全
情報の
報告につきまして、
事故、インシデントを未然に防ぐという
観点から、パイロットや
整備士など
現場の従業員からの
報告が不可欠であるというふうに理解しております。ANAとしても、この航空法の改正を機会に社内の安全
報告制度をより充実すべく検討しているところでございます。
安全
情報の
報告で最も重要なことは、集まった
情報をしっかり分析、評価して、いかに効果のある予防対策を行っていけるかどうかでございまして、集められた
情報を有効に活用し、空の安全に寄与するような仕組みが必要であると
考えております。今回、改正されました新たな航空法の下に、ANAグループといたしましてもより有効な安全
管理体制を構築し、全グループ社員が安全運航に対する意識を一層高めてまいりたいと
考えております。そのためには全社員が
責任と誇りを持って自らの仕事に取り組める企業風土をつくることこそが最大の安全対策ではないかと
考えております。
航空輸送
サービスの利用者である
国民の皆様方の信頼を得られるような航空輸送の更なる安全の
確保に向けて、グループ全社員が一丸となって取り組んでまいります。
これにて私の御説明、御
報告を終わらせていただきます。ありがとうございました。