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参考人(
岡田恒男君) おはようございます。
岡田恒男でございます。
私は、長年、
大学におきまして
建築構造学、特に
耐震構造の研究とか教育に携わってまいっております。
大学を定年退職いたしました後は、現在、
財団法人の
日本建築防災協会というところにおきまして
既存不
適格建物の
耐震診断とか
耐震改修の
普及促進に携わってきております。
今回の
事件が発生いたしましてからは、
国交省の御指示の下、
違反のあった
建物をどのように補強すれば元どおり安全になるかというような点につきまして、
特定行政庁、自治体でございますが、これを
技術的に
支援しようということで、
協会内に
違反是正計画支援委員会というものを設置いたしまして、間接的ではございますが、被害に遭われた
方々の
支援を申し上げているところでございます。
さて、御
承知のように、我が国の
建築物で一般的に言いまして
耐震性に問題があるものは、一九八一年の
建築基準法が
改正された以前に建設されたいわゆる
既存不
適格建物に多いということでございまして、それ以降の
建物の
耐震性というのは格段に
向上しているからそんなに大きな問題はないだろうということで、
既存不
適格建物の
耐震性を
向上することが最も重要で、かつ最も急がれている
地震対策の
一つであろうと、こんな
認識を持っておりまして、これは現在でも変わっておりませんけれども、そちらに力を入れてきたところでございます。
特に、昨年の十月には
建築物の
耐震改修の
促進に関する
法律が
強化、
改正されまして、この辺の
耐震化も一段と進められる準備ができたと考えておりましたや
さきに、
構造計算書の
偽装事件という予想だにしなかった
不祥事が起こりまして、ごく最近建設された
建物の中にも問題があるものが含まれているということが判明したわけでございまして、これは
建築構造を
専門としてまいりました一人といたしましても誠に遺憾なことでございまして、これはもう痛恨の極みと申し上げなきゃいけない
事件であろうかと考えている次第でございます。
安全な
建築を造ることを職務とし、かつそれを
責務としていた
建築士が、
自分で自ら
構造計算書をごまかすという、これは極めて情けない、特異な
事件でありますけれども、二度とこのような
不祥事を起こさないような
対策を施すのは当然のことでありますが、このような
不祥事を生む素地が
建築界全体としてなかったのかという点については、これは
建築界挙げて総点検を行う必要があると考えております。
もちろん、
事件の発生直後からいろんな
調査がされております。例えば、
社会資本整備審議会の
建築分科会の
中間報告が二月に出ておりますし、
構造計算書偽装問題に関する
緊急調査委員会の
最終報告書も四月に出ております。この辺に
事件の詳細な分析とか今後の
対策についての多くの
提言もされております。
建築関係の各種
団体からの
意見書も多く出されてきております。
この辺の報告、
提言を拝読いたしますと、共通していることは、直接の
原因はもちろん当該者の
職業倫理観の
欠如ということから発したものでございますが、同時に、これらを取り巻く
建築生産の仕組み全体にも問題があるのではないかということの指摘がなされていることでございます。
今回の
建築基準法等の
改正案を拝見いたしますと、そのような提案を踏まえて、まず第一弾として
建築基準法等の
改正、特に
建築確認を厳格化し
適正化しようというところに焦点を当てた
改正によりまして再発の防止を図ろうとしているのだと理解できます。
本日、私は、
建築確認の厳格化、特に
建築確認における計算プログラムというものの位置付け、それから若干
指定確認検査機関の
業務の
適正化などの
改正案につきまして私の考えを御披露申し上げ、先生方の今後の御審議の
参考にしていただければと、こんな気持ちで参上した次第でございます。
度々申し上げておりますが、今回の
事件というのは、直接的には
建築士が
構造計算書を
偽装し、それが
建築確認の段階でも見逃されたというところから端を発しているわけでございますから、
建築確認の厳格化をまず図るというのは、再発防止策としては最も直截的な手段であろうかと思います。今回の
改正案には、
指定構造計算適合判定機関というものを新設して、
通常の
建築確認に加えて、
構造計算については特に
審査を厳格にしようという方策が述べられております。
審査を厳格にする要点というのは、当たり前のことでありますけど、優れた能力を持った人間が十分な時間を掛けて
審査する、これに尽きることでございますけれども、現実にはそういう人材の数にも
審査をする時間にも制限がございます。
そこで、今回の
改正案を拝見しますと、これ大きく二つに分けて、
一つは
大臣認定プログラムというのを新しく認定して、こういうものを使った
構造計算については、同じプログラムによる再計算を行うことによって、もう一度計算をし直すことによって
検査の手間を簡単にして、それ以外のものについては高度な
専門家による
審査を行うという二段構えになっております。私はこれは非常に現実的な提案ではないかと考えております。
ただ、具体化に当たりましては、例えば
大臣認定プログラムをどのようなものにするのか、あるいは再計算した場合の
審査をどの程度簡略化するのか、あるいは
専門家による
審査になった場合も、当然
設計者は計算プログラムというのを使ってまいるでございましょうから、これらのプログラムをどのように評価するのか、認定するのかしないのか、この辺についての詳細な検討が今後必要だと私は考えます。
それから、
改正案に盛り込まれております
審査のための指針を作る、これも大変重要なことではないかと思います。これらの整備がされていけば、恐らく現在に比べて格段に
建築確認の実は上がるのではないかと期待できるところでございます。
ただ、このような方策に対して、
建築界の一部には若干の戸惑いもあるようでございます。それは、
構造計算のプログラムを
建築基準法の中で正式に位置付けるということ、あるいは
建築確認のプロセスに再計算ということを取り入れるということなどから、
建築の
設計行為というのが
法律で強く制約されてしまうのではないかということの疑問から生じているのではないかと私は考えます。しかしながら、現在では、
構造計算プログラムを使わない
建築設計というのはもうあり得ない
状況になっております。
それから、今回の
事件というのが、
構造プログラムを用いた
構造計算書を
偽装して、それが見逃されたというところからスタートしているわけでございますから、計算のプログラムとかあるいはそれの使い方についてある程度の制約を加えるというのは私はやむを得ないことではないかと考えております。
ただ、これは不適当に使っている者に対する制約でありまして、これまでも今後も、適切に使っている人
たちあるいは
設計者に過度の制約を加えることになっては身もふたもないということになろうかと思います。したがって、こんな観点から、今後は具体的なシステム
設計を行うことにより、
さきに述べました疑問点などの払拭をする必要があろうかと考えております。
若干
専門的になりますけれども、
建築構造における計算プログラムの位置付けというものについて私のお話を申し上げたいと思います。
一枚だけ図を用意いたしましたので、これをごらんいただきながら私が説明をいたしたいと思います。
これは、
構造設計の基本原理、それから
建築基準法などの
技術基準、それから
構造計算プログラム、三つの関係を示したものでございます。本来、
構造設計あるいは計算というのは力学とか
地震学などの原理原則に基づいて行われるものであります。したがいまして、それがうまくいっているかどうかの判断は適切かどうかということになります。適切な
設計がいい
建築を生み出すということになります。
つまり、理にかなっているかどうかというのがその判定の原則でございますが、実際に
設計をする人がすべて原理原則に立ち返って
自分で行うというのはこれはもうできない相談でございますので、原理原則だけでは判断できない部分を補足したり解釈したり、あるいは取決めをするということから
建築基準法などの
技術的な法令というのが必要になってきているわけでございます。この場合は、判断基準というのは
法律に合っているかどうか、適法であるかどうかということになります。
しかしながら、
建築設計に係るすべての事象を法令で事細かに取り決めることはできません。不可能であります。そこで、
設計者の判断にゆだねられている部分も多々ございます。
そこで、
設計者というのは、適法か否かの判断に比べまして、やはり常に原理原則に戻り、適切であるかどうかという判断が必要とされます。このために
設計者に高い
専門性が求められるわけでありまして、同時にここが実は
設計者の腕の振るいどころということになっているわけでございます。さらに、
審査をする側の力量もここで問われてまいります。
その一例は、ちょっと難しい言葉を使わせていただきますが、適切なモデル化でございます。モデル化というのは、
建物の骨組みなどを計算機のプログラムが
認識できるように組み替えてあげる、あるいは翻訳している作業のことであります。図面をそのまま
コンピューターに入れれば
コンピューターが自動的に
安全性を判断してくれるわけじゃございません。計算プログラムというのは、それでは最後に書いてあります、基本的には計算のための道具であります。結果の判断は、したがいまして、正確かどうかというところに尽きます。
計算のプログラムが適法かどうかということにつきましては、プログラム自体をあらかじめ評価することによってある程度これはできます。しかしながら、その結果が適切か否かというところはできません。
建築確認に際しましても、結局、その割合はともかくも、その結果が適切なのかどうか、適法なのかどうか、かつ正確なのかどうか、この三つの判断が必要となります。基本原則に戻って、適切であるかどうかというところまで判断をする必要性の高いほど
専門性の高い
審査が必要だということになってまいります。結局、その度合いに応じた
審査を行い、
審査基準の整備をするということになろうかと考えます。
したがいまして、
建築確認の簡素化というのを目指した今度の
大臣認定プログラムというのは、かなり適用範囲を限定して、すなわち適用できる
建物の形とかサイズとか
構造形式などを限定することによって、基本原則に戻った判断ができるだけ少ない、言い換えるなら、逆に
設計の自由度が制限されているというような計算プログラムにするのがよろしいのではないかと私は思います。
自由度のある
設計をする場合には
専門家による
審査が有効に同時に機能するようなシステム
設計がこれから必要になります。この場合に備えまして、多分、
大臣認定プログラムよりは自由度の高いプログラム、現在使われているようなプログラムもそうでございますけれども、こういうものをどうするかという検討が早急にされるべきではないかと思います。
建築基準法の中の今度の
改正案の
確認制度のことだけにつきまして申し上げましたけれども、これ以外の、
改正案に盛り込まれております
指定確認機関の
業務の
適正化、厳格化につきましては、これは
是非厳格に適用していただきたいと思います。
建築確認は
通常の商取引とは違います。安い、早いではなくて、丁寧、確実ということが重要であります。そのためには多少費用が高くなるかもしれません。時間も掛かるようになるかもしれませんが、この点につきましては
是非国民の皆様にも御理解賜らなきゃいけない点ではないかと思います。
私は
自分の目で
指定確認機関の
実情を確かめたわけでございませんけれども、公開されている資料を見る限り、
建築主事あるいは
確認検査員一人が年間に
審査する件数が余りにも多いように思います。これでは丁寧、確実な
建築確認は難しいと思います。
建築主事とか
確認検査員の
仕事の環境の改善というのが必要だと思います。そうでなければ、今後、
構造を担当する
建築主事とか
確認検査員になろうという若手が出てこなくなるのではないかと危惧いたします。もちろん、
情報の公開とか立入
検査の
強化というのは必須でございますので、
是非進めていただきたいと思います。
また、こういう
制度の整備に加えまして、最も重要なのは結局は人の育成ではないかと思います。高度の
専門性と高い
倫理観を持った
建築構造の
専門家と、同時に適切な
審査ができる
建築主事あるいは
建築確認機関の育成なしには根本的な解決にはならないと思います。
大学レベルでの教育から始まり、
建築士の資格
制度の在り方、研修
制度等についての再検討が必要だと思います。特に、
建築主事並びに
建築確認検査員が
建築生産の最新の
情報とかあるいは高度な
技術情報を取得できるための仕組み、例えばデータベースを構築しておいて、それを常にそういう
審査をする側に提供するような仕組みの整備も今後重要ではないかと思います。
以上、今回の
建築基準法の
改正案について私の考えておりますことの一端を御披露申し上げました。
なお、別途、私が今回の
事件に関しまして
建築の
専門誌から受けたインタビューの記事のコピーを配付いたしましたので御参照いただければ幸いでございます。
御清聴ありがとうございました。