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2006-03-01 第164回国会 参議院 国際問題に関する調査会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十八年三月一日(水曜日)    午後一時一分開会     ─────────────    委員異動  二月二十二日     辞任         補欠選任      島田智哉子君     富岡由紀夫君      白  眞勲君     広野ただし君  二月二十八日     辞任         補欠選任      小林 正夫君     広田  一君      富岡由紀夫君     犬塚 直史君     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         西田 吉宏君     理 事                 岸  信夫君                 西銘順志郎君                 大塚 耕平君                 佐藤 雄平君                 澤  雄二君     委 員                 末松 信介君                 田村耕太郎君                 伊達 忠一君                 谷川 秀善君                 中川 雅治君                 二之湯 智君                 水落 敏栄君                 犬塚 直史君                 大石 正光君                 工藤堅太郎君                 郡司  彰君                 広田  一君                 広野ただし君                 前田 武志君                 浮島とも子君                 加藤 修一君                 大門実紀史君    事務局側        第一特別調査室        長        三田 廣行君    参考人        専修大学経済学        部教授      稲田 十一君        京都大学大学院        地球環境学堂教        授        松下 和夫君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○国際問題に関する調査  (「多極化時代における新たな日本外交」のう  ち、国際社会の責任ある一員としての日本の対  応(人間安全保障重要性(環境問題、貧困  、感染症等への取組))について)     ─────────────
  2. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) ただいまから国際問題に関する調査会を開会いたします。  委員異動について御報告をいたします。  去る二月二十二日、白眞勲君及び島田智哉子君委員辞任をされ、その補欠として広野ただし君及び富岡由紀夫君が選任をされました。  また、昨日、富岡由紀夫君及び小林正夫君が委員辞任をされ、その補欠として犬塚直史君及び広田一君が選任をされました。     ─────────────
  3. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) 国際問題に関する調査を議題といたします。  本日は、本調査会調査テーマである「多極化時代における新たな日本外交」のうち、国際社会の責任ある一員としての日本対応に関し、人間安全保障重要性、とりわけ環境問題、貧困感染症等への取組について参考人から御意見をお伺いをした後、質疑を行います。  なお、本日は、専修大学経済学部教授稲田十一参考人及び京都大学大学院地球環境学堂教授松下和夫参考人に御出席をいただいております。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  両参考人におかれましては、御多忙中のところ本調査会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。  本調査会では、国際社会の責任ある一員としての日本対応について重点的かつ多角的な調査を進める予定であり、本日は、その第一回目といたしまして、人間安全保障重要性、とりわけ環境問題、貧困感染症等への取組についてお二方から忌憚のない御意見を賜りまして、今後の調査参考にいたしたいと存じますので、何とぞよろしくお願いを申し上げます。  本日の議事の進め方でございますが、まず稲田参考人松下参考人の順でお一人三十分程度で御意見をお述べをいただいた後、午後四時ごろまでを目途に質疑を行いますので、御協力をよろしくお願いいたします。  なお、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、稲田参考人から御意見をお述べいただきたいと思います。稲田参考人
  4. 稲田十一

    参考人稲田十一君) 専修大学の稲田と申します。  人間の安全保障重要性ということで、御承知のように、極めて広い分野で様々な切り口があり、多くの課題を持ったテーマですので、とりわけ私は、近年、焦点を当てて研究しております平和構築復興支援の問題について焦点を当てたいと思います。いや、それでもまだ多くの論点、切り口がありますので、私は、近年、JICA国際協力機構JBIC国際協力銀行平和構築支援のレビューや、あるいは昨年九月まで一年弱、世界銀行脆弱国家を扱いますLICUSユニットロー・インカム・カントリーズ・アンダー・ストレスというところにおりまして、こうした問題について実務を含めて研究しておりましたので、その経験を踏まえて、気付いた点を中心に議論をしたいと思います。  とりわけ、平和構築復興支援に関しては日本では様々な議論がありますけれども、むしろ余り議論されていないか、あるいは重要であるのに余り語られていないような議論を中心に、幾つか論点を挙げながら思うところを述べたいと思います。  まず最初に、人間の安全保障ヒューマンセキュリティーという概念や類似の言葉、政策上の使われ方について述べたいと思います。  御承知のように、日本では人間の安全保障平和構築といった言葉が広く使われておりまして、外務省の新ODA大綱ODA中期政策でも中核的な概念として使われているのは御承知のとおりです。日本は人間の安全保障論を中心とした平和構築論を展開しておりまして、国連にも人間の安全保障基金を創設して資金の拠出を行っているわけです。ただ、人間の安全保障という言葉は日本で議論され使われるほど国際的な開発の世界で使われているようには必ずしも思えませんで、欧米や世界銀行では、平和構築、人間の安全保障という言葉よりは、後で述べます脆弱国家フラジャイルステーツという言葉の方がよく使われているように思います。  脆弱国家とは何かということを説明する前に、まず簡単に人間の安全保障平和構築について述べておきたいと思いますが、人間の安全保障UNDPが一九九四年に使った、持続的に人間開発を進め、その脅威を取り除くことだというような意味合いを使っておりまして、国際社会でこの言葉を好んで使っているのはとりわけ日本とカナダですけれども、カナダ紛争予防に関連する用語として主として使っていて、開発分野を中心に議論しながらこの言葉を使っているのは日本だというふうに言えます。  他方、平和構築は、一九九二年の国連事務総長事務局が、紛争後において安定を回復し経済を復興させるプロセス、それを支援するドナーの諸活動の総称として使ったもので、その後、多くは、外交当局援助機関が紛争前から紛争後に至るすべての過程を含め、また軍事、政治、開発援助すべてを含んだ努力として使っておって、日本もそういう使い方をしているように思われます。もっとも、外務省は、二〇〇二年、とりわけアフガニスタンスリランカの支援以降、平和の定着という言葉を頻繁に使っておりまして、日本の場合は平和構築と紛争後の平和の定着というのを併用しているということが言えます。  さて、人間の安全保障平和構築も実は元々は国連関係機関の用語でありまして、国際的に見ると、とりわけ英国、米国、世界銀行等脆弱国家という言葉を使っているように思われます。二〇〇五年にイギリス国際協力省、同じく二〇〇五年の初頭にアメリカのUSAIDが脆弱国家戦略といった報告書を出して、そうした国々への支援の重要性とその支援の在り方についての方針を打ち出しております。世界銀行は、二〇〇二年以来、LICUSロー・インカム・カントリーズ・アンダー・ストレスという言葉を使って、こちらは余り広まっていないんですけれども、実は昨年の春、パリに本部のありますOECDのDAC、開発援助委員会でこうした問題、脆弱国家平和構築支援に関する主要ドナー間の調整あるいは議論の場があるんですが、そこで異なった用語を使っているのは議論を進めるに当たって必ずしも都合が良くないということで、フラジャイルステーツという言葉をキーワードに、互いの経験を持ち寄り、効果的な支援の在り方を模索していこうということで、共通化の方向にあります。  日本も、とりわけJICA等でこうした問題について以前から研究調査、あるいは実際に幾つかの国で平和構築支援にかかわっているわけですが、ただ、日本にとっては脆弱国家という言葉は使いにくいようでありまして、つまり相手国がこうした言葉を使われることを必ずしも好んではいない。そこで、日本の場合は、脆弱国家という言葉ではなく、国家能力の弱い国への支援、あるいは国家能力の強化が必要な国への支援という形で使っているのが現状であります。一言で言うと、日本の開発援助にかかわる政治、文化といいますか風土の中では、人間の安全保障とか平和構築という言葉の方が世論の支持を受けやすく、また関連予算を取る上でも都合がいいと。脆弱国家というのは、例えばアメリカイギリスといったような国で世論の支持が得やすく、また予算が付きやすいという、そういう違いだと思われます。  要は、どういう形で具体的に相手国に対して支援をするかというところがポイントでありまして、この点については、どういう言葉を使おうとも、各援助機関国際機関とも似たようなアプローチを取っていると言うことができます。それは、例えばコミュニティー開発であったり、近年、開発分野はやり言葉でありますガバナンスの改善であったり、ガバナンスというのは行政能力であったり、民主的な政治体制であったり制度だったりしますけれども、あるいはそういった行政能力の強化あるいは意思決定する能力、実施能力の強化といったようなこと、あるいは住民やコミュニティーのエンパワーメントといったようなことが具体的な支援のキーワードといいますか、キーとなる、アプローチとなっているというのはほぼどの機関でも共通しているわけです。  さて、次に、一般的な論点について一つ二つちょっと取り上げたいと思います。  まず、こうした議論をするときに大前提となる問題として、まず紛争は増えているのか、とりわけ開発途上地域で紛争というのは増えているのかという議論が長らくされてきました。紛争をどう取るかというのは、例えば非常に権威のあるものとしてはスウェーデンウプサラ大学紛争データというのがあって、これはSIPRI、スウェーデン平和研究所のデータとしても広く使われておりますけれども、国内、国家間を問わず、年間二十五人以上の死者を出すものを紛争としてカウントして詳細な統計が取られているわけですが、それを見ると、まあ分岐点となるのは九〇年前後の冷戦の終わりですけれども、冷戦下の八〇年代、かなりの、実は内戦の数は多いわけですが、九〇年以降継続していた内戦は減少する代わりに新しい内戦が出てきて、数としては全体としては増えております。もっとも、二〇〇〇年以降また数が減ってきておりまして、これをどう説明するかという議論というのが別途あります。  ここで幾つかちょっと言っておきたいことは、一つは、アジア地域で紛争というのは九〇年以前も九〇年以降もかなりの数が実は存在しているんだと。インドネシア、フィリピン、インド、パキスタン、スリランカ等、いずれも紛争を抱えた国で、日本のODA伝統的アプローチでは、相手国内に紛争があることを知りつつも、相手国政府に対して支援をしながら国全体としての開発を支援するという立場を取ってきたわけですが、国際社会でこうした紛争の問題に深くかかわるようになっている潮流の中で、日本もとりわけ九〇年代の末から紛争関連地域の復興や開発に深くかかわるようになっているのは御承知のとおりです。  もう一つの大きな論点は、開発が紛争の減少や平和につながるかと。この点についても実務家、研究者を含めて様々な議論がありまして、一般的には、開発援助経済発展を促進することによって開発途上国の当事者が紛争に訴える可能性を低下させる。簡単に言えば、開発は平和につながるという一般的な議論が結構広まっているわけですが、様々な専門家の議論の中では、これは必ずしも実証されているようには思えません。多分、最大のポイントは、貧困と紛争の数が、世界の国を取ってみると、ある種の相関関係を持っているということは事実なんですが、それをどう理解するかということの解釈の違いだと思われます。つまり、貧困が紛争につながるというロジック、という相関は、紛争が多いところで貧困国が多いという、その逆のロジックもあり得ますし、あるいは何らかの要因が貧困と紛争の両方につながっているということもあり得ます。  こうした領域の様々な研究をこの短時間で紹介することはできませんけれども、多分、恐らく最も組織的にやられた研究は二〇〇二年の世界銀行の調査で、それによれば、貧困だけではなくて低成長と、つまり経済停滞とその資源のあるなし、つまり資源があるところで紛争がよく起こっているということが言われております。  ただ、いずれにせよ、この分野の研究というのは様々ありますけれども、個々の実務上の援助機関国際機関は、そうした調査をやりながらも、実務的には現実の途上国紛争要因は極めて複雑でありますから、とはいえ、開発を進める上で何らかの形で開発援助が紛争にかかわっているということも事実でありますから、紛争要因を、例えば多くの援助機関は、構造的要因であったり、引き金要因あるいは継続要因といったような幾つかの分類をしながら、具体的に幾つかの要素というのを取り上げながら、実際の援助を進める上で紛争要因への配慮というのを取り込んでいく。いろんな援助機関とも、日本のJICAもそうですし、世界銀行や、イギリスアメリカ援助機関もドイツの援助機関もそうですが、様々な手法やマニュアル等にもこの数年整備してきております。そして、援助実施における具体的な配慮というのをやるようになってきております。幾つかの例を資料の三ページの下に載せておきました。  ここで一つ指摘をしておきたい重要な論点は、平和のコンディショナリティーと時々研究者に言われるテーマ、より実務的に言えば、開発途上国の予算のファンジビリティー流用可能性と訳されてますけれども、あるいはフィデュシアリーイシューズというふうに言われることもありますけれども、開発途上国公共財政管理全体が重要であって、支援側はそれをチェックすることが重要なんだという議論です。  ファンジビリティーとは、援助資金相手国財政状況全体の緩和につながって、例えば援助によって開発資金公共事業に向けられる国内予算が節約されて、それが他の分野、とりわけ問題なのは軍事予算ですけれども、に向けられる余裕ができることを指します。このことはずっと以前から指摘されていたわけですが、多くの支援国支援機関は、国内の予算の使い方、配分について注文を付けたりすることは国内問題への過剰な関与だとして深く関与しない傾向があったわけです。これを見直すきっかけになったのは、御承知のように、一九九〇年代最初の湾岸戦争であったわけですけれども、近年、この援助資金ファンジビリティーの問題は、とりわけ二〇〇〇年前後から国際社会PRSP貧困削減戦略報告書というのを相手国に、開発途上国の政府に書いてもらって、国家予算貧困削減のためにどう使うかということを出してもらうというような枠組みが全体としてできたこと。それから、日々、重債務貧困国債務削減をする中で、そうしたことを前提として、つまりコンディショナリティー、事実上のコンディショナリティーとして注文を付けるようになってきたことの中で、今や世界的な流れとして定着しているということは言えます。  ここで言いたいことは、日本はODA、援助の供与に当たって、この問題をもちろん知りつつも、またPRSP等枠組みの中で重要な論点になっていることは承知の上で、必ずしもまだスタンスがはっきりしていない、あるいは内政への関与と取られるような注文を付けることに非常に慎重であるということで、そのことの是非、あるいは是非を論ずれば口を出さざるを得ないというのが結論だと思うんですが、そのことについての議論が必ずしもまだ進展していないというのが一つの問題だと思われます。  さて、平和構築復興支援の具体的な事例というのは山ほどありまして、日本がかかわっているものだけでも、例えばこの資料の四ページ目に挙げました幾つかの例をごらんいただければ分かると思います。  ここではカンボジアや東ティモール、アフガニスタンイラク等、あるいはスリランカ、ボスニアといったようなケースを取り上げて、いずれの平和構築復興支援枠組みの中で、単なる開発復興の分野だけではなく、民主的な政治体制づくり、あるいは治安や安全保障部門の改革といったものがすべて連動しながら、そうしたすべての面を含む総合的な国づくりを支援するプロセスとして平和構築がとらえられ、国際社会が関与していると。近年ではある種の協調の枠組みが強化され、その中である種の役割分担ができてきているというのが実態だと思われます。  留意しなきゃいけないことは、その役割分担等の中で、国際社会の援助や支援というのは三つのいずれの要素を目的とするものがあって、それぞれの目的に応じてやはり手段は多少異なってくるであろうということです。開発を進めれば治安が安定するとか民主的な政治体制につながっていくということでは必ずしもなく、この三つの要素がともに着実に進展することがいずれの側面にとっても重要で、したがってこの三つを同時に具体的に進めていかなきゃいけないというのが、いずれのケースでも最も重要な課題なわけです。  このそれぞれのケース、あるいはここで三つの分野を挙げましたけれども、ちなみにこの三つの分野というのはJICA、例えばJICA平和構築報告書外務省の平和の定着の議論の中でも、言葉は多少違いますけれども、いずれもこの三つが柱であるということが指摘されているわけですが、それぞれ様々な事例と課題を含んでおりますので、それを個々に取り上げている時間はございませんので、ここでは次の二つの点にのみ指摘しておきたいと思います。  まず第一点は、開発復興支援の分野が日本の中心的な支援の柱であるということはもちろんのことでありますが、多くの場合、それ以外の分野にも貢献を求められることになります。開発以外の分野、支援する場合も、もちろんPKOであったり自衛隊の派遣であったり、あるいは民主的な政治体制づくりのための具体的な支援であったりするわけですけれども、その場合にもODAが中心となることも、これも事実です。  ただ、開発以外の分野へのODAを使った支援に際しては、まだスタンスが固まっていないケースも多いと思われます。とりわけ、警察分野あるいはDDRDDRというのは武装解除動員解除社会復帰を指す英語の略語ですけれども、こうした治安・安全保障分野にどうかかわるかということについてはまだ経験が浅く、スタンスに揺れがあるようにも思われます。  例を挙げると切りがないんですけれども、例えば日本はアフガニスタンDDRに深くかかわっておりますが、例えば二〇〇二、三年ごろに無償資金協力警察車両の供与の話がありました。これは伝聞情報です。供与が内定した後にあるところから、これは国家権力の行使にかかわる内政問題への関与になりかねないということでストップが掛かった。しかしながら、その必要性、現地での必要性は明らかであって、最終的には日本がアフガニスタン交通警察への車両そのものを普通の車両として供与して、ドイツがこれを、ランプ等をくっ付け、ランプ、サイレン等をくっ付けてパトカーにしたという事例があります。ただし、二〇〇四年ぐらいになりますと、今イラクの復興支援プロセスの中で警察車両の供与は今では問題のない分野として供与されておりまして、その意味では日本のスタンスの変化があるということが言えますが、依然としてこういった警察・治安分野に関しては、日本の貢献というのはいまだ限定的でクリアしなきゃいけない問題もあろうかと思います。  DDRプロセスそのものについても様々な事例が挙げられますが、ちょっと時間の関係でそれは省略したいと思います。  もう一つ言いたいことは、紛争関連地域でも開発や貧困削減事業を進めている例は幾つもあり、これはやはり重点を置いて今後進めていくべきだし、またそこにおいて幾つかのまた課題もあるということです。  一例を挙げますと、もっとも、紛争関連地域に対する日本のODAというのは、無償援助は様々なものがもちろん出されております。ただ、円借款も実は出されているケースは多くあります。  例えば、二〇〇二年、スリランカで、中央政府と北部、LTTEと言いますけれども、武装勢力の間で停戦合意がなされた後、平和の定着と称して、この北部の少数でありますLTTE支配地域への支援も開始されているわけですけれども、そこではJICAが例えばコミュニティー開発パイロット事業をやり、JBIC円借款を使って同じようなスキームでその地域の小規模なインフラ復旧事業や農村の復興開発事業をやっているというケースもあります。また、そこでは、実はこの農村開発支援そのものは、スリランカ中央政府の事業としては世界銀行が同じような枠組みで支援している事業でもあって、つまり無償と円借款、あるいは日本の援助機関支援機関世界銀行のような国際機関というのは協調する可能性というのは幾らもあるし、それがまた有効だということを言いたいわけです。  同様なケースは、例えばフィリピンミンダナオのような地域でもあって、御承知のようにフィリピンミンダナオというのは、過去三十年以上にわたってフィリピン政府と反政府組織の戦闘が断続的に続いている地域で、とりわけ貧困が、まあ貧困率が高いというような地域ですけれども、日本の場合、円借款でこの地域のかんがい事業を支援したり、あるいはフィリピン政府とこの自治政府ですね、ムスリム・ミンダナオ自治政府との間で実施が合意された平和・開発社会基金事業というのがあるんですが、これは実は世界銀行カナダのCIDAが枠組みをつくって、そこに日本がお金を出して協調しながらやっているという事業でもあります。例を挙げると切りがありませんので、このぐらいにしたいんですけれども。  要は、無償と技術協力円借款の連携というのは、極めてこういう紛争関連地域の支援に当たっても重要であり、近年の組織改革論の中で今後改善は期待される分野ではあると思っております。  もう一つは、外国機関との協調の有用性がありまして、日本では、外務省国連開発機関を担当している関係でUNDPとの連携というのは結構あるんですが、昨今、世界銀行等がこうした、いわゆる脆弱国家といいますか、平和構築分野でも開発復興分野では大きな役割を果たしておりまして、こうした世界銀行グループ等との連携の重要性というのも極めて大きいと。現在の日本の援助体制では、こうしたところの連携が若干弱く、若干といいますか、かなり弱くて、今後大きく改善していく必要があるのではないかと思っております。  具体的には幾つかの論点はあるんですが、取りあえずこれぐらいにしたいと思います。質問がありましたら、またお答えさせていただきたいと思います。
  5. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) ありがとうございました。  次に、松下参考人から御意見をお述べいただきたいと思います。松下参考人
  6. 松下和夫

    参考人松下和夫君) 御紹介いただきました京都大学の松下でございます。地球環境政策論を専門としております。よろしくお願いいたします。  私のテーマ人間と地球環境の安全保障です。人間安全保障の基本的な考え方につきましては先ほど稲田先生から御説明がございましたので、私の方は、環境の安全保障あるいは環境と安全保障ということを中心報告させていただきます。  環境安全保障という言葉世界的な注目を集めるようになったきっかけは、恐らく、一九八九年に当時ワシントンにありました世界資源研究所の副所長をしていましたジェシカ・マシューズという人がフォーリン・アフェアーズという雑誌に安全保障の再定義という論文を発表しております。これが非常に反響を呼んだわけであります。  この論文の中でマシューズは、環境破壊が直接紛争と結び付くと、そういう新しい安全保障概念必要性を提示したわけでございます。熱帯林の破壊あるいは砂漠化、水資源の不足と、そういった問題が世界各地で進行しております。それが地域紛争の原因となったり、あるいは安全保障の脅威となっていると。そして、環境を安全保障の重要な要素として加えるべきということを主張したわけであります。  典型的には、中東におけるイスラエルとアラブでの紛争の背景には水資源をめぐる紛争がありますし、それからアフリカでも、環境難民の発生と部族対立にも森林の減少などがございます。例えば、一九七七年から七八年にかけて起こりましたソマリアとエチオピアの紛争には、環境を破壊されて遊牧民が放牧をする行動半径が狭まりまして、その結果、土地や水をめぐって、定住している農民、定住部族と紛争が激化して衝突が起こったということがあります。  ジェシカ・マシューズがこの論文を発表した一九八〇年代末から九〇年代初めはちょうど冷戦構造が崩壊する時期でありまして、それと軌を一にするようにして、オゾン層破壊であるとか、あるいは地球温暖化の問題が国際政治の重要課題として出てきたわけです。  国連総会で、当時のモルディブのガユーム大統領が、地球温暖化によって自分の国は海面上昇によって絶滅の危機に瀕していると、そういった演説をしたということも非常に有名なエピソードとして残されております。  現実に、昨日のNHKのテレビのニュースにもございましたが、太平洋のサンゴ礁でできたツバルという国がありますが、平均標高恐らく二メーターぐらいだそうですが、高潮で国が随分水没していると、そういう危険にさらされていると、そういった報告が報道されておりました。そのほか、環境問題が原因となって国家の安全であるとか、あるいは国民の安全が脅かされるという事例はたくさん報告されています。  まず、旧ソ連の社会主義体制が崩壊した背景には、環境問題を放置して、それが、環境問題に取り組む民間団体の活動が一つのきっかけとなって民主化なり体制崩壊につながったというふうに言われております。  それから、現在では極東ロシアであるとか、あるいはシベリアで森林の違法伐採が大変な問題となっております。ロシアの森林管理局の中央政府からの支援が乏しくなってきたということもありますし、それから背景には、中国で洪水が起こり、その結果、中国政府が中国国内における森林の伐採を規制したと、そうすると、その森林に対する需要をロシアに求めて、ロシアにおける不法伐採された森林が中国に入り、そこで加工された森林が日本に入ってくると、そういった関係がございます。  それから、インドネシアにおいては、毎年、ボルネオ島でいわゆる商業的な植林をするために火を入れて山を焼きます。それが、通常であると、雨期に入ると雨によって火が鎮火されるわけですが、雨が少ない年などは森林火災が長引いて、それが煙霧、ヘーズと言っていますが、煙となって海を越えて、マレーシアであるとかあるいはタイであるとかシンガポールに大気汚染を起こしたり、あるいは飛行機が飛べないであるとか、そういった国境を越えた問題を起こしております。  それから、最近のフィリピンにおける洪水も、森林破壊がその被害を大きくしたということが言われております。  こういう問題が各地域、各国で起こっておりますが、正に現在のオゾン層破壊であるとか気候変動などは地球の生態系自体を破壊するということで、人類の存亡の危機にかかわると、そういう問題であるというふうに思います。こういった問題については国際的な取組が必要というふうになっているわけでございます。  そうすると、人間安全保障といったことを考える場合、こういう国民の安全あるいは国家の存立、それから地域共同体の存立と、そういうことから考えると、環境の安全保障が非常に重要な一環となってくる、それが新しい外交のテーマあるいは国際政治テーマになってきているということは当然のことではないかというふうに思います。  そういう中でどういうふうにして国際協調関係を構築していけるか。特にアジア地域において、言わば環境という面から見ると、アジア地域政治体制であるとか、あるいは経済的レベルは非常に多様でございますが、言わばすべてつながっている一つの共同体でありますので、そういうアジア環境共同体をどう維持していけるかといったことが非常に大きい問題になってくると思います。  環境とそれから紛争、平和というのは非常に深いかかわりがありまして、例えばペルーとエクアドルで長く国境を隔てた紛争がありましたが、紛争が解決した後で国境地域を自然公園として、国際公園としてお互いに守っていくと、そういった仕組みもできております。  余談ですが、現在の朝鮮半島における三十八度線の周辺は、結果的には、非常に野鳥であるとかそういう自然が残されている地域であるというふうに言われております。  こういった地球、まあ人間安全保障ということを確保するために環境安全保障をどういうふうに進めればいいかということについて考えてみたいと思います。  まず第一点は、狭い意味での国益というよりは、より幅広く、貧困解消であるとかあるいは環境の悪化を防止すると、そういった普遍的な、まあ人類益といいますか、地球益といいますか、そういう立場で非常に高い理念を掲げて環境を軸とした外交、戦略的外交を展開していくべきだというふうに思います。これは国際環境協力体制の枠組みづくりへの積極的関与ということになります。  ただ、これは裏返しますと、実は、例えば我が国でできたルールを、それを国際的なルールにしていくと。国内で環境あるいは環境と開発に関する成功する事例を作っていって、それを国際的に展開していくということではないかと思います。かつて、我が国は公害問題に非常に苦しみましたが、そういう産業公害を克服する過程で産業公害に取り組むシステムであるとか技術を発展させまして、そういったものを生かして環境ODAという形で開発途上国協力し、それが評価されてまいりました。当時は、ヨーロッパの国も日本の環境対策を勉強しに来るという状況であったわけでございます。  ただし、残念ながら、現在の状況を見ると、例えば環境管理システムとしてISO14001というシステムがありますし、それから化学物質に関する規制等もございます、地球温暖化に関する排出量取引という制度もできておりますが、そういった制度、国際的な枠組みとかルールとか考え方は、日本から出るというよりは、最近ではEUが主導となっております。そういう国際的な規範づくり、ルールづくりにおいて我が国は後れを取っているのではないかというふうに思います。  したがって、こういった高い理念を掲げて、なおかつ良い成功例を国内で作り、それを国際的に発信していくと、そういった考え方が必要であろうと思います。  それから第二点目は、平和のための環境協力。環境に関する協力をすることが地域の平和を醸成する、あるいは地域の安定に寄与すると、そういう考え方でございます。  軍事的な競争による安全保障ですと、一方が勝てば他方が負けると、そういったゼロサムゲームあるいはマイナスサムゲームでありますが、環境について協力することは、地域全体の安全とそれから福祉に寄与するということでありまして、やり方によっては地域全体がプラスサムでありますし、両方が勝てる、ウイン・ウインであります。  現在、先ほど言いました中国であるとかロシアであるとか、森林問題もございますし、それから資源エネルギーの問題もあります。中国では、旺盛な経済成長に必要なエネルギーの確保であるとか、あるいは水資源確保等で国内あるいは国外に資源開発が及んでおります。中国の輸出銀行というような組織がございますが、そういった組織も例えばメコン地域で活動を活発にしております。  一方で、世界銀行であるとかあるいはアジア開発銀行であるとか国際協力銀行、こういった先進国が中心となった開発機関は、過去においていわゆる開発援助が環境破壊に結果的に結び付いたといった反省もありまして、いわゆる環境面の配慮を相当高めています。  しかし、中国の輸銀などにおいてはまだそういった配慮が十分ではないという指摘もされております。こういう中国あるいはロシアの資源エネルギー関係開発関係に対して、地球益あるいは環境保全という観点から国際的ルールをガイドラインとしてつくっていくということも一つの必要な分野であると思いますし、先ほど言いました東アジアにおける環境協力、一衣帯水という言葉がございますが、環境面から見ると、継ぎ目がない一つの織物という形でアジアの環境は構成されております。中国で大気汚染物質が出れば、それが早晩、日本にも影響が出てくるわけであります。  こういったことで、三点目として、東アジア環境共同体という考え方で外交を進めていくべきではないかというふうに思います。  現在、日本政府の主唱で東アジアにおける有害廃棄物の不法な移動を取り締まったり、あるいは循環資源を活用すると、そういう東アジアでの循環共同体という構想も出されておりますし、あるいは東アジアでよりクリーンなエネルギーを広げると、そういったイニシアティブを取っていくということも必要ではないかというふうに思います。  それから四点目としましては、先ほどの、太平洋の島々の例を出しましたが、開発途上国は、気候変動であるとか森林の減少であるとか、そういった環境の変化に対して一番被害を被るという脆弱な諸国であります。そういった国に対する協力あるいは支援を強めていくべきであると思います。  環境協力あるいは環境ODAにおきましても、例えば海面の上昇であるとかあるいは気候変動に対応した農業の支援であるとか、そういった適応策も含めたインフラ整備あるいはODA供与といったことを考えていくべきであると思います。それから、地球観測であるとかコンピューターを使ったシミュレーションだとか、そういった分野でも非常に貢献が期待されているというふうに思います。  それから第五点目ですが、やはり外交というのは恐らく内政と一体化したものであろうと思います。国内で、先ほど申し上げましたが、より進んだ技術とかあるいはシステム、制度、そういったものができていて初めて国際的に貢献ができるわけであります。  ただし、現在の環境政策であるとかあるいは温暖化対策等を見ておりますと、残念ながら政策の国際競争力とか、あるいは制度をつくるスピード感といいますか、そういった分野日本は今や環境政策先進国ではないんではないかということを言わざるを得ないと思っております。先ほど言いましたように、国際的な環境ルールに関する規範をつくる力はEUが、あるいはアメリカとの関係で決まってきていると。最近の報道ですと、環境関係の機材、機器の輸出高もドイツアメリカ日本を抜いて首位に立ったということが報道されております。  そういった面からも、公害対策では相当の成果を上げましたが、現在直面している地球環境問題において政府全体、経済全体として対応できる進んだ企業あるいは進んだ自治体であるとか、そういった取組支援できるシステムをつくっていくべきであるというふうに思います。日本個々の企業は非常に優れた技術を持っていたり、あるいは取組をしておりますし、国民も環境に対する意識は非常に高いと思います。そういう優れた技術であるとか高い意識を生かせる政策、ルール、仕組みをつくっていく必要があるというふうに思います。  少し具体的に、気候変動を例として紹介したいと思います。少し大きい資料で、スライドをコピーしたものをお配りしておりますが、そちらに最近の気候変動の例が出ております。IPCCという気候変動に関する政府間パネルという専門家が集まった組織がありますが、そこが出した報告がございます。  この資料で、四ページをごらんいただきたいと思いますが、四ページの上のスライドでは過去一千年間の北半球の平均気温の変化を見ております。過去一千年間、一八〇〇年代半ばぐらいまでは安定しておりましたが、過去百年ぐらいで急激に上昇しております。下のグラフが過去百年の変化ですが、大体百年間で〇・六度Cぐらい増えております。  五ページへ行きますと、これは将来を予測しておりまして、現在の状況が推移すると、二一〇〇年までには一・四度から五・八度上昇してしまうということが言われております。これは、非常に短い時間で人類にとって経験のない高温の気候が起こるということになります。  現在いろいろな異常気象が起こっております。御記憶に新しいところでは、例えば昨年はハリケーン・カトリーナがアメリカを襲いまして、ニューオーリンズが壊滅しました。それから、おととしは日本には酷暑と台風が多数襲来しました。それから、二〇〇三年の八月にはヨーロッパを熱波が襲いまして、死者が三万五千人出たというふうに言われております。  こういった異常気象が地球温暖化の直接の結果であるということはまだ科学的には明らかではないわけですが、IPCCの報告では、現状のまま推移すると、こういう異常気象が将来は多発するであろうというふうに言われております。  スライド二ページをごらんいただきたいと思いますが、これは大規模自然災害をミューニッヒ・リーという再保険会社がまとめたものでございますが、一九九〇年代に自然災害が急増しております。で、保険金の支払も急増しております。過去十年間の大規模災害をまとめたものがございますが、その上位十一件のうち、九・一一のテロとそれからインド洋の津波被害を除いたすべてが台風あるいはハリケーンなどの異常気象によるものでございます。二ページ下の図は、これは台風十八号の経路でございますが、これも日本の損害保険史上最大の支払を要した案件であります。  これがどういうことが起こっているかといいますと、例えばアメリカでは、テキサス州であるとかそういう南部の州で保険会社が撤退をしているということが起こっております。保険会社が保険金支払に耐えられなくなって撤退すると、そうすると一般の住民にとってみると、保険で被害をカバーしたいと思っても保険会社がない、あるいは、保険会社があったとしても大変高い保険料を取られるということが起こってしまっているわけです。したがって、先進国と言われるアメリカでも、言わば災害から自らを守る手段を得られないという状況が出てきております。  それから、三ページもついでにごらんいただきたいと思いますが、これはヒマラヤの氷河の融解している状況でございます。二十年間で大幅に後退しております。こういったところでは、氷河でできた一種の湖が、氷が解けてダムが崩壊する形で洪水が起こるということも心配されているわけであります。  それから、その下に森林火災の事例が出ておりますが、ロシアでは二〇〇三年に日本の国土の六割に当たる森林が焼失しております。それから、アメリカでは東京都の十四倍の面積が失われています。ポルトガルでは国土面積の八%が焼失するという形で、非常に高温とそれから火災によって森林が失われるという事例が起こってきております。  こういった地球環境の危機が現実の脅威となっているわけですが、それではどういったことが必要かということでありますが、もちろん京都議定書が採択され、日本政府も京都議定書目標達成に向けて計画を作り、取り組んでおります。しかし、そこで問題としては、京都議定書目標達成において、例えばEUのような排出量取引制度の導入が遅れているとか、あるいは環境税といった形で環境に配意をした活動を支援する仕組みができていないとか、あるいは自然エネルギーの導入策が停滞していると、そういった問題があります。  それから、京都議定書自体は、これを完全に先進国が達成したとしても、温暖化に対する取組の非常に小さい一歩でしかないということでございます。  八ページをちょっとごらんいただきたいと思いますが、スライドの八ページの上に図が書いてありますが、現在、人類、人間の活動によって出ているCO2は六・三ギガトン、六十三億トンですが、自然によって吸収されているのは三・一ギガトンと、人間が出している量が自然で吸収される量の二倍以上であるということでありまして、長期的には人間が出す温室効果ガスを半分以下にする必要があるということが科学的には言われていることであります。  そうしますと、そういった脱温暖化社会に向けた長期目標を具体的に明らかにして、それに向けてビジョンを作り、温暖化対策に向けた公共投資であるとかあるいは民間投資、そういったこと、あるいは技術開発を進めていく必要があると思います。そういうビジョンを作った上で技術革新と社会の構造を転換を率先すると。  先ほど申しましたが、こういう一つの温暖化という問題を社会のチャレンジとして受け止めて、環境面で努力する企業やあるいは自治体が、あるいはNPOが報われると、そういう政策なり仕組みをつくっていくべきであると思います。そういった国内的に努力をして成功を蓄積した上で、国際的枠組みへの貢献が必要であろうと思います。  現在、国際的にはEUのポジションとアメリカのポジションとやや乖離がありますが、長期的トレンドとしては、やはり化石燃料の依存を減らし、温暖化を防ぐことができる脱温暖化社会へ移行することが必要であろうと思います。  これはやはり、国連中心とした多国間の取組中心として進めていくべきでありましょうし、幾つかの国で協力するということはもちろん重要でありますが、あくまで世界的な枠組みの中で進めていくべきであろうということが必要だろうというふうに思います。  再度、繰り返しになりますが、環境問題の深刻化に伴いまして、環境からの脅威が人間安全保障にとって非常に重要な課題となっております。そういう現実に直面した我が国の取組としては、高い理念を掲げた上で、言わば平和ということをテーマにした環境協力と戦略的外交を展開していくべきだというふうに思います。こういったことを通じて、国際環境協力枠組み構築への貢献ができると思います。  その前提として、国内で競争力を持った政策を構築していく必要があると思います。特にアジア地域では、経済体制あるいは政治システムが違う国が共存しておりますが、そういう中で環境ということを一つテーマとして、共通課題として東アジア環境共同体的な取組を模索していくべきであるというふうに思います。  それから、京都議定書の下で、国際協力の仕組みとしてクリーン開発メカニズムだとか共同実施などが出ておりますが、こういった仕組みが、先ほどちょっと述べましたが、国内制度が立ち後れているということで、国際舞台で我が国が立ち後れているというふうに言わざるを得ないと思います。非常に良いプロジェクトは既にヨーロッパなどが先に始めているという面もありますので、こういった面を早急にキャッチアップをしていく必要があると思います。  それから、脱温暖化社会へ向けまして、長期的な目標を明らかにしていく必要があるということであります。  それから、環境分野で非常に進んでいる企業もたくさんありますので、そういった先進企業を支援するような、そういう仕組みをつくっていくと、技術革新を促進し、それから社会の構造転換を率先して進めていく必要があると思います。  最後に、温暖化への影響が非常に深刻な途上国に対する協力強化していくということが必要であるというふうに思います。  以上で私の意見表明を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。
  7. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) どうもありがとうございました。  これより質疑を行います。  まず、大会派順に各会派一人一巡するよう指名をいたしたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。  できるだけ多くの委員の方々が質疑を行うことができますように、委員の一回の発言時間は五分程度でお願いをいたします。  また、質疑及び答弁とも御発言は着席のままで結構でございます。  谷川秀善君。
  8. 谷川秀善

    ○谷川秀善君 自由民主党の谷川秀善でございます。  稲田松下参考人におかれましては、本日、大変お忙しい中、この調査会に御出席を賜りまして、ただいま貴重な御意見を拝聴いたしました。大変御苦労さまでございます。ありがとうございます。  人間安全保障という言葉が初めて使われるようになってから十年以上たつと思いますけれども、最近は特にいろんな場面で使われるようになっております。そのために非常に幅が広くなりまして、概念も非常にあいまいに、当初使われていたよりはあいまいになってきているのではないかなというふうに私は思っております。  第二次世界大戦終了後は、御存じのように、東西が冷戦状態に入りました。その後、冷戦が終了後は、国連開発機関役割が、開発のみならず、地域紛争や難民の問題など、特に安全保障の領域に広がってきたように思われます。国家安全保障はもちろんでありますけれども、個々、いわゆる人間一人一人の安全保障も考える必要があるわけであります。人間安全保障という場合には必ずしも一致した見解、定義があるとは思われませんけれども、一般的に、広い意味では、環境問題なりテロ対策、人権の問題、武器の国際的管理等、いろいろ国際的な課題や国境を越える脅威のすべてが入る形で使われているように思われます。  日本政府も一九九八年十二月に国連人間安全保障基金資金を供出をいたしました。当初は五億円程度だったと思います。その際に、小渕元総理の政策表明で初めて人間安全保障を公式に支持する姿勢を示したと思われます。それ以来、外務省では、人間安全保障という言葉を大変、好きになりましたのかどうか分かりませんが、多用するようになったと思われます。国家によります軍事安全保障というのは割に嫌われやすいのではないかと思いますが、平和的なにおいがする人間安全保障は受け入れやすいのではないかなと思います。  しかし、人間安全保障という考え方を今後とも国際機関開発の重要な概念としてその存在意義を維持し拡大をするためには、具体的な内容を持つ実務的な概念にする必要があると思いますが、稲田参考人はどうお考えでございましょうか。
  9. 稲田十一

    参考人稲田十一君) 今、谷川先生がおっしゃったように、人間安全保障という言葉がどのように生まれ、外務省がどのように使ってきたかということは、今おっしゃったとおりだと思います。  最後に御質問がありました、この言葉を重要な、あるいは日本が使うキーワードとして、重要な言葉として、より国際社会で使われるようにしていくためには、今おっしゃったように、支援アプローチとして具体化していく必要があると思います。既に個別の支援アプローチそのものは、例えばJICAや、場合によってはJBIC外務省等も様々な試みをしておりますし、コミュニティー開発アプローチガバナンス改善政府あるいはコミュニティーの、あるいは住民の能力強化、エンパワーメントということは、様々な取組がなされてきているわけです。  実際、例えばコミュニティー開発だとかエンパワーメントといった分野では、JICAUNDP、あるいは世界銀行の社会開発部のようなところで一緒に議論をしたり、あるいは現地で、例えばカンボジアのコミュニティー開発プログラムでいえば、UNDPが主導してきたSEILAプログラムというのがあるんですが、元々CAREREと言っていたのがSEILAになり、そこにJICAもそのコミュニティー開発の一翼を担い、あるいは世界銀行が同じようなプログラムの中で資金供与するといったようなことも行われておって、こうした具体的な支援アプローチとして概念を明確にし、現場でそうしたアプローチを取り込んだ案件をどんどんやっていくということがポイントだと思います。  それが人間安全保障、私個人の感想としては、人間安全保障という言葉を実は使わなくても、コミュニティー開発だとかエンパワーメントだとか参加型開発だとか、あるいはジェンダーの重視だとか、そういった言葉で実はやっているし、できることだと思うんですが、ただ日本としてそうしたアプローチを重視する基本姿勢として、人間安全保障という観点から我々は、日本はこういう分野を重視して今後も支援していくんだということを言うことの意味は大きいと思っております。
  10. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) 会長が大変申し訳なかったんですが、谷川質問はもう終わったと思って私、実は稲田参考人に御答弁をお願いしたんです。あと松下参考人にもお聞きなさる予定やったそうでございますから、残余の時間で、それじゃ……
  11. 谷川秀善

    ○谷川秀善君 一巡済んでからですか。今でよろしゅうございますか。
  12. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) いやいや、もう続きやってください、残余の時間で。大体五分程度と、こう申し上げておりましたから。私が遮ってしまったような形になったことを御理解、お許しいただきたいと思います。
  13. 谷川秀善

    ○谷川秀善君 どうもえらい、質問の仕方が間違っておりまして、申し訳ございません。
  14. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) いやいやいや、どうぞ。
  15. 谷川秀善

    ○谷川秀善君 非常にありがとうございます。  京都議定書は採択以来七年が経過をして、やっと昨年二月の十六日に発効いたしました。これによりまして、日本を含めて議定書を批准した先進国は約束を履行する義務が生じてきたわけでありますが、しかしアメリカは京都議定書から離脱をしたままであります。自由な企業活動と技術開発を重視した独自のアプローチを取っておりまして、EUを中心とした各国との間で地球温暖化についての対応の仕方についての対立が鮮明になってきております。  どうも、地球温暖化問題に限らず、多くの環境対策分野アメリカとEUの方向性の乖離が特に目立ってきているように思われます。また、アメリカは多くの主要な多国間環境条約を批准をしておりません。特に一九九二年以来、この傾向は顕著であります。例えば、一九八九年、バーゼル条約、一九九二年、生物多様性条約、一九九七年、京都議定書、二〇〇〇年、カルタヘナ議定書、二〇〇一年、ストックホルムPOPs条約などであります。  これはどこに主な原因があるとお考えでしょうか。また、どうすればこういう米国の方向を、何といいますか、全体の中で日本が考えているような、またEUが考えているような方向へ持っていかせるのにはどうしたらいいとお考えでしょうか、松下参考人にお伺いをいたしたいと思います。
  16. 松下和夫

    参考人松下和夫君) どうもありがとうございます。大変重要な御指摘だと思います。  アメリカは京都議定書から離脱し、それ以外の重要な環境条約に対しても批准をしていない状況がございます。一つには、アメリカの制度として上院で国際条約を批准する際に三分の二の賛成が必要ということがあります。  それからもう一つは、アメリカは、国内で対策ができている、あるいは制度ができているといった問題についてはそれを国際化するということに熱心でありますが、国内的にまだ制度ができていない問題について、言わば国際的にその義務を履行するということに対する抵抗がございます。オゾン層保護条約、それからモントリオール議定書の場合は、アメリカ国内で言わば規制が先行しておりまして、それを国際的なルールにしようという形でモントリオール議定書ができました。京都議定書については、クリントン政権時代は国際協調的な形で協議を進めておりましたが、ブッシュ政権になって離脱をしたわけでございます。  しかしながら、アメリカは非常に多様な国でありまして、各州の取組、それから自治体の取組、企業の取組も、京都議定書と同じような考え方で取り組んでいるところもたくさんございます。  したがいまして、我が国あるいはEUが取り組むべき方向としては、アメリカ国内が地球温暖化に対して積極的に取り組むような形に、具体的には各州との連携を強めるとか、あるいは現在進んでいる国際的な排出量取引制度であるとか、あるいは技術協力であるとか、そういったことを推進することによって、経済的な面から見てもアメリカが現在の地球温暖化対策の国際的取組に参加しないと取り残されてしまうと、そういう状況をつくっていくことが必要であろうと思います。  したがいまして、日本あるいはEUは、国内において温暖化対策をきちんと進め、それから国際的な協力をより強めることによって、アメリカもそれに加わらざるを得ないと、そういう状況をつくっていくべきであるというふうに思います。
  17. 谷川秀善

    ○谷川秀善君 どうもありがとうございました。  どうも会長、ありがとうございました。
  18. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) それでは、進行します。  大石正光君。
  19. 大石正光

    ○大石正光君 大石正光でございます。  稲田松下参考人、大変ありがとうございました。  いろいろお話をいただきましたけど、非常に大局的な話で、質問するにしても大きな課題でありますので、少し絞って一問ずつさせていただきます。稲田参考人ODAの件、そして松下参考人は環境問題の部分だけで一つ御質問しますので、それぞれ一問ずつお答えいただければと思う次第であります。  いろいろ人間安全保障とか様々な課題をお述べでありますけれども、私が個人的にいつも感じることは、ODA支援の仕方、それが大変おかしいじゃないかと常々考えておりました。で、稲田参考人のお話しになりました、要するに支援をしても国内の内政干渉になるという問題があってなかなかしにくいという問題でありますが、これは、あくまで応援する場合には内政干渉しないと具体的に解決しない問題が絶対一杯あると思うんですね。  例えば、アフリカにしても、砂漠に井戸を掘ってあげようというひとつの支援が結構ありました。ところが、井戸水を掘りますと、地下水が下がっていって木が枯れていくんですね。そして、遊牧民が結局ずっと各地を転遷しながら家畜を飼って生きている場合には、自然の草が生えていったところに渡り合っていきますから、いなくなると自然にまた草が生える。ところが、定着をさせるような形に支援をすると、全部草を食べて全部枯れてしまう。自然を破壊しているのにつながってくるわけであります。  そうなってきたときに、結局、地球というものは、すべて人間が起こした災害によって起こっていると、自然災害は人工的な災害だ、私は一緒だと、そう感じているわけであります。  私も十数年前、自民党でいろいろやっているときに、中国のODA在り方で、実は酸性雨が日本かなり来たときに、あの中国の中の発電所、煙の脱硫装置を日本からODAで中国に支援をするべきであるということを絶えず言い続けました。ところが外務省は、結局は中国はもっと別なことをやってほしくて、何にも、結局その部分は最近になってようやくそういう環境問題がODAで加盟することになりました。私は、あの時点でもっともっと積極的に参加をして主張するべきだと思いました。  中国に対しては、日本のかつての政治家が賠償問題で結局は失敗したと私は思っておりますから、一生懸命応援しても、いつまでたっても中国は当たり前だと思っています。ですから、中国の北京空港や様々のをやっても、結局、中国国民は何にも分かんないで、結局は日本人がこれだけ応援しているということが分からない。  ですから、もっと具体的に分かりやすい政策に、日本政府も中国政府に対してこれをやってほしいということをはっきり言って、中国政府の希望だけを取り入れるという仕組みはもう変えなきゃ駄目だと思いますし、中国が世界じゅうにいろんな海外支援をしているわけでありますから、その余ったお金を全部海外に中国は国際政策でやっているわけであります。ですから、もうそういうことをやった国に対しては、きちっとODAはストップをするべきという強い姿勢をもって当たるべきだと思うんですが、その問題に関して、是非稲田参考人はどうお考えか、その辺を、個人的な意見で結構でありますから、お話をいただきたいと思います。  そして、松下参考人は環境省にいらっしゃいましたから、よく環境問題は御存じだと思います。  ただ、私が、結局は人間が存在があるということは自然を破壊していることであって、要するに、地球が駄目になるということは、人間がいなくなれば自然に地球は自然に戻るだけであります。すなわち、人間が自然を破壊して利用しているだけであって、その問題をもっと大局的に人間が我慢をしなければ結局、解決されないと私は思うんですね。  この地球温暖化の地形の、実は気象の移動の平均気温のあれを見ておりますと、要するに、産業革命をしてからどんどんどんどん地球の温度が上がっていって、結局は人間が人工的にやったことによって大きな問題が起きてきたわけであります。ですから、結局は、地球温暖化にしても何にしても、そういう問題をどう解決しなきゃならないかということは今やっている課題でありますが、その中において、その国々のその自然に対する取組の姿勢だけ一つ御質問させていただきます。  実は、自然再生推進法を発想するときに、たしかデンマークかオランダだと思いましたが、要するに、自然の国立公園をそれぞれ別々にやった、それを点から線につなぐために、実はそこに約二キロから三キロの幅の動物の獣道を造りました。ところが、獣道は人間が結局横断するのを防ぎますから、結局は人間は地下に潜るか地上に上がって、自然の橋で自然のまま動物が自然に動くように、渡るような自然の道路を造りました。そして、例えば河川も、結局、洪水が起きているときにどんどんどんどん堤防を高くしてやっていくことから、逆に言えば、乾季と雨季の関係で自然に川が蛇行できるように、川幅を広げるための努力をやってまいりました。もちろん、アメリカも同じようにフロリダでやっております。そういう部分の中で、自然が自然に解決できるような仕組みを、人間が元に戻してやるということが一番大事だと思っているんですね。  その中で、私が非常にすばらしいと思ったのは、アメリカのイエローストン公園だと思うんですけれども、かつてアメリカオオカミが一杯出て、結局、動物、家畜を殺すといって全部殺してしまいました。結局いなくなって、結局、シカやあらゆる動物が増えてきて、それを人工的に殺せなくなってきたときに、アメリカの自然環境家たちはカナダに行って、かつてのアメリカの、アメリカオオカミの原種に近いものをわざわざカナダから捕獲してきて、それを増殖してイエローストンに放しました。それによってシカとその増殖が防げたという大きな一つの実例があります。  私も、そういう意味においては、日本の環境の一番の脆弱さは、何か人間が手を加えれば自然が守れるという物の考え方を改めなきゃならない。自然は自然にあるべきであって、人間がここに何を、木を植えなきゃならないということよりも、自然に自然が回復をしていくんですね。  そういう意味においては、私はそういう姿勢を環境省に持ってほしいと思っている。かつて、環境省ができたころにはちゃんと哲学がありました。しかし、今の環境行政は、指導をすることによって自然を破壊していっているのが今の環境行政なんですね。  だから、そういう点で是非、今の尾瀬にしても人工的に手を加えることによって自然が守れるという考え方を改めるということを思ったときに、松下参考人はどうお考えなのか、その点を是非お答えいただきたいと思います。  以上でございます。
  20. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) それでは、稲田参考人
  21. 稲田十一

    参考人稲田十一君) 大石先生御指摘の件は非常に大きく、かつ重要なテーマでありまして、ちょっと幾つケースに分けて議論したいと思うんです。といいますのは、中国はやはり多少別格な存在でありまして、対中ODAのことを議論するのにはなかなか、今の中国が置かれている現状を前提としないといけないと思いますんで、必ずしもODA全般の話ではないかもしれません。  といいますのは、中国は、実は私、個人的にも日本の対中ODAのレビューという外務省の作業にかかわったことがあるんですが、中国の場合は、実は一九九二年前後を境に国際収支的には余裕ができているんですね。つまり、資金的には必ずしも円借款を必要とするニーズは低下しているという状況の中で、日本ODAというのはどういう役割、意義があるんだという議論がまずベースなんだと思います。その観点からすると、円借款等の役割は実はかなり低下していると。ただ、先方にニーズがあれば、必要なものについては対応していくという姿勢なんだろうとも今思います。  一方、実は中国の草の根無償の案件を幾つか、これも評価させていただいたことがあるんですが、これは個々の村々では極めて高く評価されております。これはもう明らかであって、金額的には少ないんですが、こうした事業は、中国の経済発展の度合い云々にかかわらず、日中の友好関係の観点からもどんどんやっていくべきだと思っておりますし、また、草の根無償は、基本的には個々の村々がどういうものを必要としているのか、それが井戸であれ、クリニックであれ、学校であれ、日本側の貧困削減という方針に合うのであれば、先方の要請にこたえていくというのがやっぱり基本的な姿勢なんだろうと思います。  中国以外、一般的にODA供与に当たってどこまで口を出していくべきかというのは、これは要請主義の見直しと絡んで極めて大きな課題でありますが、これも私は、実は円借款無償、技協は分けて考える必要があるんだろうと思っております。  円借款は、基本的には、どの事業であれ、普通は半分以上は現地の資金であります。半分弱を円借款供与しているわけでありまして、先方から見ると、その事業を自分の予算あるいはどこか別のお金を、それに加えて日本円借款という形で事業を行っているわけでありまして、したがって実は、余り日本貢献というのを前面に打ち出して、先方にもそれに言及しろと言い過ぎるのも実は問題かなというのが個人的な意見です。ただ、逆に無償は、こちらが無償供与するものでありますから、こちらが重要だと思う分野に重点的にやっていくのが必要なことであると思っています。  ただ、いずれにせよ、先ほどのファンジビリティー議論からすると、その国の開発在り方のそのものへの関与にかかわるということは事実でありまして、日本がとりわけ最大ドナーであるような国については、その国のあるべき姿といいますか開発の方向性について、ある種のビジョンを明確にこちら側で持つことが大前提で、これも個人的な意見ですが、個々分野でどういうことが必要か、それを全体として統合して国づくり在り方支援する戦略として取りまとめるところが依然として弱いのかなと。これは別に日本だけが弱いわけではなくて、元々国際社会がその国にかかわる中で、ある種歩調をそろえて同様の議論をしながら、その国のあるべき姿の中で役割分担をしながら支援するというのが多分本筋なんだと思います。  そうすると、重要なことは、日本自身でその国の国づくり在り方議論する、まあ専門能力を付けておくことと、他ドナー国際機関とより密接に協議しながらやっていくということと、他方で、個々の案件や、とりわけ個々コミュニティーに対する無償支援なんというものは、その村々の意思決定の仕組みがちゃんとしたものであるかということを確認しながら現地のニーズに応じていくというのが基本的なスタンスだと思っております。  少し大ざっぱですけれども、そういう印象です。
  22. 松下和夫

    参考人松下和夫君) 大石先生の御指摘について、全くもっともな御指摘だと思います。  人間が自然とどう付き合っていくか。現在の非常に豊かな経済活動も、これは経済活動独自に成立しているわけではなくて、地球という大きな生態系の範囲内で活動しているわけですから、そういう生態系が壊れてしまうと現在の私たちの生活の基盤自体が壊れてしまうというふうに思います。  したがいまして、私たちができることは、自然が自然の力で回復すると、そういう力をできるだけ強めるように、その回復する力を支援すると、そういったことではないかと思います。したがいまして、私たちとしては、非常に謙虚に自然の仕組みを学んで、その上で、人間ができること、それから自然との付き合い方も折り合いを付けていくべきだというふうに思います。  例えば、尾瀬の問題が出ましたが、尾瀬は一つの非常に繊細な生態系でありますので、そこで人が入る場合も、ある一定の範囲内で、場合によっては人数を抑えるとか、そういった形も必要ではないかというふうに思います。  ありがとうございました。
  23. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) 澤雄二君。
  24. 澤雄二

    ○澤雄二君 両参考人、貴重な御意見を今日は大変にありがとうございます。  最初稲田先生にお伺いしますが、稲田先生はその著書の中で、人間安全保障言葉について、国際的議論の中で多用されてきた、それは、この言葉を使って多くのテーマについて議題にすることが可能だからだ、さらに、意見焦点の相違を残しながらも協調する形を取りやすいからだ。非常にまとめやすかったと、この言葉を使えばという意味だと思いますけれども。また、そのことは、でも、共通の目標と価値観の共有を可能とする幅広い言葉として大きな役割を果たしてきたというふうにその価値も認められておられます。そして一方で、今後の課題として、人間安全保障要素を、これは様々な内容がこの安全保障要素にあるわけですが、この要素を具体的な制度づくりにどのように取り込んでいくかが議論されるべきだと、そういう意味では、より実務的なアプローチに転換させなくてはいけないということも言われています。これは谷川先生がさっき言われたこととも共通をいたしますけれども。  そこで、一つの提案について御意見をお伺いをしたいんですけれども、それは、国連の新たな地域拠点として国連アジア太平洋本部を設置してはどうかというプランであります。  国連は、今ジュネーブとウィーンに事務局が、ナイロビに事務所が置かれています。ジュネーブでは人権や軍縮、ウィーンでは犯罪防止や国際貿易、ナイロビでは環境や居住問題というふうに分野を分けて国連活動の中心拠点と今なっています。その役割も果たしています。  このアジア太平洋本部というのは、人間安全保障の活動として脅威が生じにくい世界の構築ということを目的としたいと思っています。これは、この調査会テーマである東アジア共同体の目標とも合致するところがあると考えています。アジアだけではなくて太平洋地域に広げたというのは、カナダ、これは人間安全保障政策に先駆的に取り組んでいる国でありますし、オーストラリアも国連の活動に積極的だから、アジアだけではなくて太平洋地域に広げたいということでございます。  そして、この本部の設置国として日本は最も有力な候補になるんではなかろうかと。それは、国連のシンクタンクの機能を担う国連大学の本部が日本に実は東京にあります。この国連大学が、近年は平和とガバナンス、環境と持続可能な開発、この二つに集約して研究を進めています。地理的にも人材的にも、資本もインフラも、そしてこのシンクタンクも備えている東京、日本というのは、まあ沖縄でもいいんですが、象徴的に、その国連中心の有機的な活動を推進するためにはかなりいい場所ではなかろうかということも考えられます。  こういう提案についてどういうお考えを持つか、御所見を聞かせていただきたいと思います。  次に、松下先生にお伺いをいたします。  松下先生のあの論文、「アメリカの保全思想と気候変動政策」を読ませていただいて、ちょっとそれをきっかけに考えたことについてお伺いをしたいと思います。十二月のカナダ・モントリオールの会議では、二〇一三年以降もCO2の削減義務を先進国は負うことで合意をいたしました。しかし、本当に地球温暖化を止めることができるんでしょうか。多分、松下先生は、止めることができるかできないかを議論するんではなくて、止めなければ人類の未来はないというふうにお考えになっているんじゃないかと思いますが、ここにいらっしゃる委員の大半の方もそういうふうに思われていて、私もそう思っております。  では、どうすれば本当に止めることができるかということでありますけれども、先ほど大石先生もちょっとおっしゃっていましたけれども、それに近い考えでありますが、それは価値観の大転換が必要ではないかというふうに考えます。今の高度産業社会の源というのは近代合理主義にある。その近代合理主義の源を更にたどれば、デカルトの二元論にあるんではないかと考えます。デカルトは、主体として考える自分、それは人間の生命とか精神とも言えますが、それと客体としての肉体ですね、これは物質とか自然とかあるいは環境とも言えるんですが、この関係をとらえようとして結局、デカルトはとらえることができなかった。我思う、ゆえに我ありですから、どっかで関係していると思って彼は一生懸命それを解明をしようとしたけど、できなかった。だから、方法序説では、その主体と客体、肉体と生命というのは脳の松果腺でつながっているんだって、訳の分かんないことで終わってしまうわけですが。  結局、このデカルトの二元論で近代合理主義はできていくのでどうなったかというと、主体の合理性は個人主義という人間観を確立していきました。一方で、客体の合理性というのは生産性の向上と利潤を追求する科学技術文明を発達さしていった。つまり、接点がないまま個別に合理性を追求をしていった、これが近代合理主義ではないかと。  そうすると、この二元的な価値論というのは実は今のこの現代にも影響力を厳然と持っています。これだけ近い将来、先ほどいろいろグラフを見せていただきました。危機的状況が見えているんだけれども、人間は寒さを我慢することなく暖房の温度を上げてしまいます。便利だから車を乗ることをやめることはできません。それから、去年クールビズがはやりました。でも、この冬はウオームビズははやりません。ここにも何か個人主義がありそうな気がします。それはなぜかというと、とにかく夏は暑い、ネクタイは外したいという欲求はクールビズに適したけれども、ウオームビズはそういうものがなかった。だから、極めてこういうものも個人主義的なものと影響を受けているんではなかろうかと。だから、企業もこれだけ危機が目前に見えていても、相変わらず利潤と生産性の追求、やめることができません。ですから、地球温暖化を本当に止めようとしたら、こういう二元論的な価値観ではなくて、主体と客体は実は紙と、表裏のような関係にあるんだという一元的な価値観の確立が必要だと思います。  私は最初に先生の論文を読んでと申し上げたのは、ここから言いたいことでございますが、ですから松下先生のような第一人者の方にこのことをどうか考えていただいて、新しい価値観の確立とそれの宣揚ということをやっていただきたいというふうに思います。  済みません。哲学の時間でないことはよく分かっておりましたけれども、松下先生の書かれたものを読んで是非お力をかしていただきたいと思いましたので意見を述べさせていただきました。感想で結構でございますんでお答えください。  以上です。
  25. 稲田十一

    参考人稲田十一君) 国連アジア太平洋本部の構想については、私、不勉強で詳細を存じ上げないんですけれども、一般的な観点から、今、印象でしかないかもしれませんが、ちょっとコメントをさせていただくとすると、まず第一に、こうした国際機関日本に持ってくることは極めて重要であることはもう間違いないですね。とりわけ、これが具体的な何か事業資金を伴うものであると、その事業やお金の使い方に関する意思決定をどこで行うのかということは決定的に実は重要で、まあニューヨーク、ジュネーブ等にあればやっぱりそこが基点になりますし、日本にあればいろんな形で日本の発言がそこに入っていくということもこれは現実ですから、その構想自体は非常に意味のあることだと思います。  二点目は、ただ、今までこういう構想というのは数多くそれなりにあったと思うんですが、なかなかやっぱり実現し難いところもある。その場合に、やっぱり一つの私の個人的な感想でしかないかもしれませんが、国連大学は、先ほど言及なさったようにガバナンスやその環境を含めた持続可能な開発の問題について調査研究をしているわけですから、ここに何らかのこういった分野支援する基金を日本政府が出すという、出すという形であれば実現可能性は少し高まるのかなと。そういう形であると、まあ調査研究をベースに具体的な支援のお金が付き、その意思決定のベースとなるような調査研究国連大学等でできるというような形だと、もしそういうことが可能であれば、意味はあると思います。  第三に、ただもう一点気になりますのは、アジア太平洋に絞るのか、グローバルなものにするのか。つまり、トピック、テーマそのもの、課題そのものはグローバルな課題でありますから、こういったガバナンスの問題、環境を含めた持続可能な開発の問題に対する基金というのを作った場合に、アジア太平洋地域だけに適用するというようなものがうまく収まるのか。逆に、多分、アジア太平洋と付けた理由はグローバルな各専門機関が別にあるからだということなのかもしれませんが、そこのところの、いかにこういった構想を実現可能なものにするかという戦略というか戦術の面では、ちょっといろいろと選択肢、あるいは考えるべきことがあるのかなという印象を受けました。
  26. 松下和夫

    参考人松下和夫君) 澤先生の御指摘、大変深い考えに基づいたものだと思います。  まず第一点の、現在の進行していると思われる温暖化を止められるかということでありますが、恐らく止めることは難しいと思います。私どもにできることは、その進行するスピードをできるだけ緩やかにしていくと、一方でそれに対する適応を進めていくということだと思います。  先ほどのグラフで示しましたが、科学者の言うところによると、現在、人間が出している温室効果ガス、これはCO2でいいますと六十三億トンで、自然が吸収する量は三十一億トンですから、現状から半分以上下げる必要があると。そういった方向に向けて、あらゆる技術、あるいはあらゆるシステムを使って進めていくということが必要であろうと思います。  それから、その根底として価値観の大転換が必要であろうということでございますが、私も個人的にはそれに全く同感でございます。個人的には、まあ東洋的な価値観であるとか、あるいは仏教的な自然観であるとか、主体と客体の一体化であるとか、そういったことについては非常に共感を覚えるものですが、ただ現実の社会としては、現在の社会は市場経済というもので運営されていると。それら市場経済で、個々の企業なり個人は利潤最大化であるとか、あるいは自分の満足感を高めるということで動いていくこと、これを変えることは非常に難しいと思います。その市場経済自体は現在あるいろいろな資源を効率的に配分することは非常に優れていると思いますので、ただ、そこで欠けていることは生態系的制約ですね。先ほど言いましたCO2の出している量が既に地球が吸収できる量を超えていると、そういった制約が現在の経済に入っておりませんので、それはやはりトータルで、非常に難しいわけですが、キャップを掛けてそのキャップを達成するように、あとはそれぞれの国でやるとか、あるいは企業であるとかそういう主体に公平に配分して、公平に配分するというところが難しいんですが、ある一定の合意に基づいて配分して、その後で配分されたものをできるだけ合理的に、技術を開発した人はそれを提供するし、新しいシステムをつくればそれを交換するという形で効率的に、できるだけ費用効果的に下げていくと、そういう規模の問題と、それから公平な配分と、それから効率的な交換という形で、言わばキャップ・アンド・トレードといいますか、総量を決めておいてその中でできるだけ効率的に配分すると、そういう仕組みが現実的ではないかというふうに考えております。
  27. 澤雄二

    ○澤雄二君 ありがとうございました。
  28. 西田吉宏

  29. 大門実紀史

    大門実紀史君 本日はありがとうございます。大門でございます。  両参考人に一点ずつ、もう簡潔にお伺いしたいと思います。  稲田参考人には、世界銀行の動きですけれども、新総裁でウォルフォウィッツさんか、ウォルフォウィッツさんですね、なりましたですけれども、彼はネオコンと言われたり、中東に自由経済圏つくるというようなこともおっしゃっていた方ですけれども、そのウォルフォウィッツの新総裁の下で今後の展開として世銀がどういう方向に行くのか、御所見があれば伺いたいということでございます。  松下参考人には、先ほど東アジア環境共同体について少し触れられましたけれども、もう少し詳しく、今現在の動きがあれば、どこが主体でどういうふうなことを今の段階で目指してやっているのか、教えていただければと思います。  以上です。
  30. 稲田十一

    参考人稲田十一君) 実は、ウォルフォウィッツが世銀に新総裁として来た六、七月というのは、私が九月の初旬に帰国しましたので、その間の二か月ぐらいはウォルフォウィッツはほとんど何もしておりませんで、余り大きな動きはなかったので、ウォルフォウィッツの総裁の下での新しい傾向ということについて私は余り多くを語ることがちょっとできる立場にはないんですが。ただ、私のもう少し中長期的な観察に基づく見解としては、世界銀行はいずれにせよ開発機関の方に急速にあるいは着実に徐々に、徐々に着実にかじを切ってきているということは間違いないと思います。これはウォルフェンソン時代からの傾向です。  実は、私は九六、七年にウォルフェンソンが総裁になった最初の半年ぐらいにも重なっているんですけれども、この半年は大変な改革で、組織的にも大きく変わりましたし、貧困削減を組織目標とする方向に大きくかじを取って、実はその後着実に、少しずつ、人事的にも社会開発といったそれまで余り主流ではなく、世銀では主流ではなかった分野を重視しながら、国連関係機関にいたスタッフも多く取り込んできております。その意味で、今や世銀は国連開発関係機関役割が非常に重複するものになっておって、これはウォルフォウィッツになってもその方向で進む話だと思っております。  私が実は関連して非常に気になっておりますのは、世界銀行国連開発機関と並んで世界開発機関として大きな役割を果たしてきている中で、日本援助体制がいわゆる、つまり世銀は日本の財務省が管轄し、国連開発機関外務省が管轄しているという、この点が、何というんですかね、日本ODAが、二国間ODAがこういった世界銀行等の国際開発金融機関との連携がうまくいっていない一つの大きな要因だと思っているんですね。いずれ機構改革があるとは思われますが、その中で財務省と外務省連携で、こういった、それまで、ある種外交サークルと国際金融サークル等で分かれていた開発世界が国際的にはもう一体化している中での日本開発体制の在り方というのを議論しなきゃいけないというふうに思っております。
  31. 松下和夫

    参考人松下和夫君) 東アジア環境共同体について御質問ありがとうございました。  東アジア環境共同体、これはまだ構想といいますか、まだこういう考え方が出てき始めたという段階であります。しかしながら、そういったものに対する一つの芽は出ております。その前提としては、先ほど申し上げましたが、東アジア地域政治的にも経済的にも非常に多様な国から構成されておりますが、環境面で共同に取り組むという枠組みができていないということがございます。  個々テーマでは、例えば酸性雨については日本の環境省がイニシアティブを取りまして、東アジア酸性雨モニタリングネットワークという仕組みができまして、現在は国連環境計画の下で運営されておりまして、十か国程度が加入して、各国の酸性雨の状況を一定の仕組みでモニタリングすると、で、お互いに協力をするという仕組みができております。  それから、廃棄物については、先ほど紹介いたしましたが、不法廃棄物の適正な処理であるとか、あるいは地域における資源の循環を進める仕組みであるとかいう形で、これも日本のイニシアティブだと思いますが、進められております。  それから、あとアドホックな形では、例えば日中韓の環境大臣会合であるとか、あるいはエコ・アジアの環境大臣会合というような形でアジアの環境大臣をお呼びして日本で会議を開いて協力を強めると、そういうことが始まっておりますが、例えばEUが共同で共通の規則を作っていくとか、あるいはEUに加盟しようとする東ヨーロッパ諸国はEUの環境基準にあらかじめ適合する形で政策を取った上で加入するとか、そういうことがやられておりますが、将来はできる限り東アジアでより高い方に環境基準を高めていくという仕組みをつくっていくために、それから、相互に資金を融通したり、経験を交流したり、あるいは仕組みを共通化するという形で、東アジア環境共同体というものを具体化していく必要があるというふうに考えております。
  32. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) どうもありがとうございます。  以上で各会派一人一巡いたしましたので、これより、午後四時ごろを目途に自由に質疑を行っていただきます。  質疑を希望される方は、挙手の上、私の指名を待って質疑を行っていただきたいと存じます。  それでは、質疑のある方は挙手をお願いいたします。──はい、分かりました。  前田武志君。
  33. 前田武志

    ○前田武志君 稲田先生に、人間安全保障ですか、実態はコミュニティー開発であり、そしてガバナンスであり、あるいはエンパワーメントですか、日本の場合、この分野というのは、先ほどのお話でも御指摘のように、無償援助分野ですよね。むしろ、お金の方よりも、いかに人材とそしてノウハウでもって相手国に受け入れられる、あるいは向上させるような援助ができるかということなんだろうと思うんですね。  ということで、今のその分野というのはJICAになるんでしょうけれど、JICAの体制だけで非常に心もとないなという感じがするんです。多分、他国の場合には、もちろん国を挙げてのいろんな組織があるんでしょうし、NGOなんかも非常に活発に連携をしてやっているということを承知しているんですが、日本の今の体制の評価とそしてどのようにこれを格段に対応できるようにレベルアップさせるか、御所見をお聞きしたいと思います。  それから、松下先生には、先ほど来も触れられておられましたが、要は、ポスト議定書と言わず、今の段階においても、御指摘のように、日本、後れていると思うんですね。特に、EUなんかは排出権取引のような分野においては、もちろんあのEUというかなり一体的な価値観を共有する、しかも市場経済が非常にうまく動いているところですから、相当進んでいるということを承知しているんですが、それに比べて日本の場合には、もちろん取り巻く中国は、あるいはインドは市場経済化しているにもかかわらず対象外ですよね、今のところ、CDMなんかの。  しかも、アメリカはああいう状況だという中で、日本の中の体制も、こう言ってはなんですが、縦割りの中で環境省必ずしも、というよりも余りパワーがない。実際に産業分野等に力を持っているのは経産省であり財務省でありという構図の中で、少なくともCDMということで言われるのは三つ分野があるようですね、こういうものをもっと市場化してどんどんどんどんやっていく必要がある。国内向けのキャップなんかをどんどん具体化する必要があるだろうし、それともう一つは、APPですか、これをどういうふうにうまく、その中に日本自体がもっとそれを方向付けるぐらいのやり方があるのかないのか、この点についてお聞きをいたします。
  34. 稲田十一

    参考人稲田十一君) 日本無償援助は、こうしたコミュニティー開発ガバナンスやエンパワーメントといったコミュニティーレベルの事業を進める受皿としての制度には余り関与していないというのが現実だと思います。むしろ、日本無償援助は、こういった農村開発をやる場合であっても、建物であるとか小規模な道路、学校といったハードな部分の支援中心でありまして、こういった受皿としての制度あるいは意思決定組織やメカニズムづくりといったところは余りかかわっていないんですね。  JICAはこうした専門家はおります。おりますが、基本的には相手国の中央省庁の農村開発省だとか内務省だとか、地方開発やそういったところを扱う中央省庁への専門家として派遣されているのがほとんどであって、これは本を正せば、日本ODA相手国中央政府を対象に支援しているという、ここが大本の制約条件だと思うんですね。JICAにも、実はJBICにも、社会開発とかこういったコミュニティー開発だとかエンパワーメントやガバナンス専門家はいないことはないんですが、ODA支援在り方として、例えばコミュニティーに直接中央政府をバイパスしてお金を出せるかというと、そうではない。あくまで中央政府の地方開発プロジェクトの中で事業支援する形になっているというのが一つのネックだと思います。  それから、やっぱりコミュニティー開発そのものは国際的に非常にある種はやりのアプローチで、国際機関や国際NGOが現地NGOなんかを取り込みながら現地で意思決定組織やメカニズムをつくるところから始めて、そこを受皿に支援しているケースが大半です。もっとも世界銀行はそれも中央政府を通じてやっていますが、その一方で、そのコミュニティーのそういった受皿としての意思決定組織やメカニズムづくりというところは別途、専門家やアドバイザーを派遣したりお金を付けて国際NGOを雇ったりしてやっているわけですね。  ですから、日本専門家はもちろん少ないことは事実ですから、過渡的には、こういった国際NGOや国際機関を、こういった制度づくり、受皿づくりのソフト部分を依頼する形の枠組みづくりというのが一つ必要だと思います。つまり、日本無償案件は基本的には日本人タイドですから、こういったアドバイザーやコンサルタントで、こういったコミュニティー開発やエンパワーメント事業日本人以外の専門家の方が多いですから、そういう枠組みをつくりながら、他方、こうした分野に直接支援できる政策スタンスを取る必要があると。  極端なケースでいうと、例えばカンボジアではアメリカは、USAIDは中央政府に対しては直接支援は一切せず、こういったコミュニティー開発に対してNGOを経由して支援しているんですね、ほぼ全額。日本と対極のアプローチですけれども、まあそれがいいかどうかは分からないんですが、そうした形ができる枠組みがあれば専門家はいないことはないというのが私の印象です。
  35. 松下和夫

    参考人松下和夫君) ポスト京都議定書あるいは現在の京都議定書に向けた取組において日本がある意味で後れているという御指摘、これは私も同感でございます。排出量取引制度についても現在検討されておりますが、世界の動きから見るとやや後れているのではないかというふうに思います。  それで、例えばEUであるとかあるいはイギリスでの仕組みができてきたプロセスを振り返ってみますと、もちろん担当する役所であるとかあるいは専門家で詳細な議論をされているわけですが、どちらかというとかなりトップダウンといいますか、政治的なリーダーシップであるとかあるいは経済界のリーダー的な方がイニシアティブを取るとか、そういう形で方向性を出した上で詳細は役所関係者であるとか専門家が決めたというような形になっていると思います。  もちろん、事務的に詳細な部分をきちんと詰めることも必要でありますが、やはりある程度の方向性を政治的なレベルあるいは大きな方向性として出していくことが必要ではないかというふうに思います。日本の企業もいろいろと技術を持っておりますし、現在、ビジネスチャンスを求めて動いていますので、そういう仕組みができれば非常に動き出すというふうに思います。  それから、インドと中国の問題がありますが、インドや中国も、トップリーダーは例えば温暖化問題であるとかあるいは環境による制約というのは十分理解しておりまして、独自の必要性から、例えば自然エネルギーを増やす努力をしたり、バイオマスであるとかあるいは風力であるとか、そういった取組を強めております。環境対策もやろうとしております。日本がそういったところに対してどう協力できるか、国内的な取組もどう支援できるかということがポイントになるかと思います。  もちろん我が国には、省エネルギー技術であるとかあるいはハイブリッドカーであるとか太陽光発電であるとか、いろんな技術もありますしスキームもありますので、そういったものを生かして、先ほど出ておりましたアジア太平洋パートナーシップ、APPですか、これについても関与をしていって、なおかつやはりポイントとしては、それが世界全体の枠組みである京都議定書であるとか気候変動枠組みをより強化するという方向にできるだけ進めていくということが必要であるというふうに思います。
  36. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) 加藤修一君。
  37. 加藤修一

    ○加藤修一君 公明党の加藤修一でございます。  稲田参考人そして松下参考人、忙しいところを大変にありがとうございます。  まず最初に、私は松下参考人にお尋ねしたいと思っております。  地球環境問題、特に地球温暖化問題というのはやはり人類の共通の大きな脅威であり、ますますこれは増大しつつある非伝統的な脅威であると認識しております。国家の枠内の安全保障を超えて、すなわち一国のみの努力では解決に至らないと、個々人から成る人類社会の脅威であり、そういった意味では、人間安全保障を正面から脅かすものであるというとらえ方ができると思ってございます。  二〇〇五年の二月の十六日に京都議定書が発効いたしまして、二〇一三年以降のいわゆるポスト京都についても国際社会で削減努力が行っていかなければいけない、まあ国内的にもそうでありますけれども、国会決議、そういう意味での国会決議を行いまして、京都議定書目標達成計画の閣議決定も行われたわけであります。  先ほど松下参考人から話がありましたように、現状は、排出量の削減量は六プラス八ということで一四%である、それを削減して二〇〇八年から二〇一二年の五年間平均で一九九〇年と比較して九四%にするという極めて大変な話でありまして、そういった意味では、京都議定書での国際的約束の履行に向けて着実に当然実行しなければいけない、しかし事態は極めて深刻であると。こういった中で、二〇〇五年の末でありますけれども、税制改正のときでありますけれども、四千億円弱の環境税を示す環境省、一方、環境税がなくても達成可能という政策を示す経済産業省、この考え方の相違はどのようにとらえているかというのが第一点目の質問であります。  そして、果たして現状で目標達成は可能なのかというと、これはもうかなり厳しいなという見方が多いように私は思っておりますが、省エネの効果的な展開、先ほど松下参考人から話がありましたように、再生可能エネルギーの導入とか、前田委員から話がありましたように、京都メカニズムの活用などの様々な施策が京都議定書目標達成計画の中にあるわけでありますけれども、京都メカニズムについては、排出権取引、共同実施ですか、あるいは近い将来、排出量が先進国を追い越す途上国のCO2の削減努力、それを進める観点からはCDMの推進が特に大事であると思っておりますが、私は特にその省エネルギー関係のプロジェクトの国連のCDM理事会の認証の簡素化ですね、簡素化を是非至急行い、実効性を上げるべきだと考えております。  そこで、質問になるわけでありますけれども、ポスト京都も含めて、数値目標の達成に向かった場合に、松下参考人から見て、何が重要なポイントになるかというのがこの二点目の質問になります。  それから、次の話でありますけれども、今後とも、やはり政府サイドやNGOもそうでありますけれども、取組が極めて重要であると思っております。先ほど松下参考人から市場経済の話が出ましたが、もちろんこれをいかに積極的に活用するかということが大事であると思っております。そういった点から考えますと、環境金融あるいは金融市場の役割、お金の使い方でありますけれども、それに目を向けていくことが大事である、この分野からもやはり環境対策を推し進めていくことが私は大事だと思っております。  国際社会においても環境銀行というようなものが現れ始めておりますので、まずはやはり銀行がエクエーター原則、その普及、活用が非常に大事ではないか。その原則は、やはり海外のプロジェクトファイナンスに関して、地元の環境や社会に与える影響を配慮するに当たって、やはり民間の銀行共通の基準というふうに言われておりますが、世界銀行グループの基準が使われているわけでありますが、国際的金融機関はこの原則にサインして、やはりファイナンスの行動を私はすべきではないかなと、そんなふうに思っております。  さらに、私は大事だと思っておりますのは、現在熱心に議論されている件でありますけれども、それは責任投資原則ということであり、これはエクエーター原則が直接、エクエーター原則のいわゆる直接金融版という、そういうバージョンだと思っておりますけれども、今後やはり幅広く私は活用を期待していかなければいけない、そういう原則だと思っております。  この原則は言うまでもなく、UNEPですか、FI、UNEPファイナンシャルイニシアティブが主導しているわけでありますけれども、これは単なる環境対策にとどまらない、金融及び市場において、例えば年金の基金、そういったものを資金運用するに際しては、環境とか社会配慮を当たり前のこととしてビルトインしていこうという考え方であると思っておりますが、やはり市場を通じた資金の流れを環境等に振り向けようということが大事であると。やはり私は、二つの原則を基にして金融分野における極めて重要な方向性が出始めたなと思っておりまして、環境の安全保障の確立をする上では大きな役割を果たすのではないかと思って十二分に活用すべきであると、そういうふうにとらえております。  そういった意味で、松下参考人はこの辺についていかなる御見解をお持ちでしょうかというのが三点目でございます。  次に、稲田参考人にお尋ねをしたいわけでありますけれども、先ほど松下参考人から日本の規範形成力はEUがトップである、あるいはドイツが環境機器輸出でも首位であるという、そういった意味では日本の状況は厳しいなと。  私自身は、環境技術とか環境ビジネス、環境教育あるいは環境文化、そういった日本がある意味で得意な分野を効果的に伸ばして環境立国を目指すべきであると思っておりまして、その下で、ちょっとイメージでありますけれども、将来的には環境保全、人道あるいは平和、そういったものを輸出すべきであると考えております。  ところで、貧困根絶に向けた国連のミレニアム開発目標がありますが、よく言われることは、環境悪化と貧困の悪循環、環境悪化が貧困を進める、貧困化が更に環境悪化につながる。この意味では、国際的な金融機関の行動というのは私はプロジェクトファイナンスの推進に非常に大きな責任がある。先ほどの二つの原則、特にエクエーター原則に基づいて、やはり今後、国際的な金融機関人間安全保障につながる行動をすべきであるというふうに考えているわけでありますが、この辺についていかなる御見解をお持ちかということでございます。  これが第一点目です。  二点目は、その人間安全保障の考え方を進める上では、やはり一人一人の意識や姿勢の問題が大きいのではないかなと、そんなふうに思っておりまして、そういった意味では、二〇〇五年の一月から開始しておりますESDの十年、すなわち国連の持続可能な開発のための教育の十年、これが極めて密接にかかわってくるんではないかなと、そんなふうに思っております。  これは二〇〇二年のヨハネスブルク・サミットで日本政府が提唱したものでありますけれども、ESDを大きな傘の下で、貧困や人権、男女間の不平等等、あるいは人口、エイズなどの感染症など多様な問題をとらえて、持続可能な開発という価値観としてとらえ直していくことが重要であると。そして、このESDの十年を進めることが結果として人間安全保障を積極的にサポートすることにつながるんではないかなと、そんなふうに考えておりますが、この辺についてはどのように御見解をお持ちか、お伺いしたいと思います。  以上でございます。
  38. 松下和夫

    参考人松下和夫君) 加藤先生御指摘の税制の問題でございますが、京都議定書を達成する手段として、二〇〇五年の税制改正の議論の中で、環境省は環境税四千億円、それから経済産業省は環境税なしでも達成可能という議論があったということでございます。  これ、私の印象でございますが、環境税なしで達成しようとしますと、結果的には個別のセクターであるとか企業に排出量を割り当てるというような形にだんだんなってきておりまして、ある意味では統制経済的になってしまうのではないかというふうに思います。むしろ、企業の選択ができる、自由な選択で技術を選択できると、そういう形で経済環境税という形でインセンティブを与えた上で目標達成に向かうという方向が望ましいのではないかというふうに考えております。  それから、京都メカニズム、特にCDMの理事会における手続を簡素化するという御意見ですが、これについては私も賛成でございます。  それからもう一つは、やはり京都メカニズムの下のクリーン開発メカニズムというプロジェクトが、ともすると、本来の目的である途上国の持続可能な開発に寄与するというよりは、むしろより効率的に排出削減クレジットを獲得するという方向に向かいがちでありますので、原点である途上国の持続可能な開発に寄与するような、そういうプロジェクトをできるだけつくっていくということが必要であろうと思います。  それから三点目として、環境金融の役割について御指摘がございました。やはり、環境対策という上で、その基となるお金の流れをできるだけエコロジカルにすると、環境に適合した資金の流れをつくるということが非常に大事であるというふうに思います。  現在、世界銀行であるとかアジア開銀であるとか、あるいはJBICなどにおいても環境に配慮したガイドラインを作ったりしておりますが、恐らくもっと重要なことは、そういった世銀なりアジア開銀なりあるいはJBICなりが提供する資金の行き先として、在来型の化石燃料、石油、石炭の探掘であるとか、そういった事業に対するウエートをできるだけ減らして、むしろ自然エネルギーと言われるような太陽光であるとかバイオマスであるとかあるいは風力であるといった、そういったプロジェクトを増やしていくということも必要ではないかというふうに思います。  それから、エクエータープリンシパルという形で民間企業、民間金融機関が融資をする際に環境への基準をつくっていくと、これも大変重要であるというふうに思います。それで、これは例えば中国の議論も出ておりますが、中国が今現在、国際金融であるとか資源開発でも非常に大きい役割を占めるようになっておりますが、そういう中国の資金もやはりそういった国際的な基準にちゃんと適合してもらうということも大事ではないかと思います。  ISOという形で企業の環境マネジメントシステムが言わば世界標準化しております。例えば、ヨーロッパで活動する民間企業はISOを取得していないと取引ができない場合があると、そういったこともありまして、日本企業はたくさんISOを取りました。日本企業は世界で一番ISOを取っている件数が多い状況でございます。現実はどうかというと、今は中国が、中国の企業がISOを一生懸命取っております。これは国際取引をする上でISOが必要だというふうに認識したからですね。したがって、例えば中国の金融機関が海外へ出て資源開発する際に国際的な環境スタンダードを守ることが必要であるというような、そういう形ができれば開発資金資源開発において環境の配慮がもっと進んでいくのではないかというふうに思います。  直接金融においてもUNEPのファイナンシャルイニシアティブ、これはまだ拘束力はないわけですが、事実上それが一つの基準としてそれを投資家も評価すると、あるいは年金資金もそういった形で使われるということになれば大きい役割を果たしていけるというふうに考えております。
  39. 稲田十一

    参考人稲田十一君) 世銀等、国際開発金融機関の環境問題とのかかわり方について、私自身は別に世銀のサポートをする立場には全くありませんので、非常に研究者として思うところを述べますと、歴史的には世銀等の大規模インフラ事業、とりわけダム等が環境に必ずしもいい影響を与えてこなかったというのは事実だと思います。世銀はそれは、私の観察によると、世銀はそれはよく分かっていて、とりわけ二〇〇〇年辺り以降様々な改善努力というのをやっているようです。  一つは、主要な世銀の事業については必ずソーシャル・インパクト・アナリシスというのをやり、そこに環境アセスメントを必ず取り込むと。で、環境の専門家をそこに派遣して、環境へのインパクトを必ず事前に評価するという仕組みを取るようになっていますし、組織的に言えば、その社会開発をやる部局は今はESSDと言っておりまして、エンバイロメンタリー・アンド・ソシアリー・サステイナブル・ディベロプメントというのがその局の名前になっていて、社会開発に当たって、開発に当たって環境へのインパクトというのを欠かせない要素というふうに一応位置付けているんですね。  それから、PRSP貧困削減の戦略報告書と、その国連のミレニアム・ディベロプメント・ゴールズ、ミレニアム開発目標というのは実は連動しておって、一応ミレニアム開発目標が目標、PRSPはそのためのその道筋、手段という位置付けが国連グループと世銀の間でなされていて、PRSPの中には必ず環境分野への、環境へのインパクトというのが一分野として、一項目として入るようになっているという、そういう変化はあると思います。  もう一つ言えば、先ほど松下先生の方からもありましたように、グローバル・エンバイロンメント・ファシリティーといったような環境改善につながる事業そのものに対する資金供与というのを増やしてきているというような現実もありますが、これはいずれにせよ、こういった評価は環境の専門家の方にお任せしたいと思います。  それから二点目で、加藤先生がおっしゃった持続可能な開発に加えて、人口やら感染症といったような要素を取り込むことの重要性というのは正におっしゃるとおりで、したがって私は、その持続可能な開発という言葉からそういった環境以外の言葉も取り込んだ、環境も含めて環境以外の重要な問題を取り込んだ人間安全保障という言葉が使われるようになり、広まっているのはそういうことだと思うんですね。これも、私自身は必ずしも環境の専門家ではないので、こういった問題をとらえる言葉としては人間安全保障というのがよりふろしきの広い、問題をとらえやすい言葉だと思っております。  以上です。
  40. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) 次に、犬塚直史君。
  41. 犬塚直史

    犬塚直史君 今日はありがとうございます。  稲田参考人にお伺いいたします。  海外での国際協力というのを考えるときに、やっぱり一番私は問題になる一つは、国内での有権者の協力に対する意識の喚起といいますか、そういうことだと思うんですけれども、例えば地元に帰っていろんな人たちといろんなお話をして、人間安全保障に絡むような話をしても、何でこれだけ景気が悪くて商店街もシャッターだらけなのにアフリカにお金を出さなきゃいかぬのか、あるいは人間安全保障まで話をしなきゃいけないのかというのが率直なところですね、まあそういうことなんですね。特に、地方に行けば行くほど、あるいは会社が小さくなればなるほどそんな余裕はないよというのが正直なところだと思うんですね。これはきっと経済的には恵まれていると言われるあらゆる国の有権者の正直な感想だと思うんですけれども。  そこで、ちょっと一つお伺いをしたいんですが、先生のこの著書をちょっと拝見をしたんですが、共有された規範の正統性と、現実主義と社会構成主義ということをここで触れておられまして、まあ国際的な正統性というものを本当に打ち立てていくということが必要じゃないかということをここでおっしゃっておられるようなんですけれどもね、今これだけダイナミックに動いている、しかも各事例によって本当にいろいろな工夫をずっと積み重ねてきた今までの援助在り方、この在り方というものが、法的に言うとですね、国際的にそういうその積み重ねが国連憲章の中にはただの一行も書いてない。国連憲章の六章の紛争の平和的解決、七章のまあ強制的な解決の間にあると言われているこの今の言わば六・五章の積み重ねというものをもうそろそろ、言わば人間安全保障原則というのがあるかどうかあれですけど、そういったものをそろそろ六・五章として国連憲章の中に書き込んでいく時期じゃないかと思うんですけれども、そういうことをすることで本当に世論というか、興味の少ない人たちの意識も喚起していくことができるんじゃないかというふうに考えるんですけれども、六・五章追加の必要性について御意見をお願いします。
  42. 稲田十一

    参考人稲田十一君) 大変な課題でありまして、人間安全保障平和構築日本がかかわっていくことの意味、重要性というのは、これは一国レベルとしては否定できないんですが、有権者レベルの意識の話としてはやっぱりお金の問題がありますよね。  予算を、つまり日本資金的にどの程度貢献するかという問題はもちろん国際社会にとっては非常に重要で、日本資金はもういろんなところで大きなインパクトを持っていることは事実なんですが、私自身は、やはり資金量の問題では必ずしもない、もちろん資金量の問題も大きいけれど、資金の額の問題でもない。人間安全保障とか平和構築というその中身を詰めていけば、ますます資金の問題ではなくて、開発途上地域のある種の制度の問題であったり、どういう社会をつくっていくかという問題であり、そこにどうかかわっていくか。それぞれの分野日本専門家あるいはNGOがどういう形でそこにかかわっていけるかというところがやはり一番重要であって、それは必ずしも金額の問題ではないと思うんですね。  ですから、そのODA予算が必ずしも増えていくという状況ではなくても、場合によっては減っていくという状況の中でも、ますますその人間安全保障平和構築により効果的な援助というのは可能だし、そういう方向でその中身を詰めていかなきゃいけないというのが基本的な考えです。  そのことと、国際社会でこういった開発途上国開発や制度の在り方について共有された規範、あるいはそれを支援することについての国際社会の規範意識があるかどうかというのはまた別の話で、日本等が熱心に取り組む中でそういう規範ができていくことはもちろん好ましいことですので、そういう方向で努力すべきだとは思っております。  国連憲章の改定等の話は必ずしも私が専門的に取り組んできたテーマではないので、余り多くを語ることはできないんですが、一つ、私の理解では、この国連憲章の六章、七章、とりわけPKO等にかかわる話も多いかと思います。このテーマと、やはり私が先ほど来話したような開発支援を通してどういうふうに国際社会の平和と安定に貢献するかという話は、どう取り込んでいいのか、私もちょっと必ずしも十分なアイデアを持ってはおりません。また、どの程度それがフィージブルなのかもよく分かりません。  ただ、開発を通して、あるいはODAという手段を通して民主的な制度づくりだとか安全保障環境の改善ということができることは事実で、それは先ほど来、最初に私が説明した報告は、開発支援をやってそれにつながるということじゃなくて、民主化支援やるなり、治安安全保障につながる支援在り方、ダイレクトな支援在り方というのが重要だということであって、そういった多様な側面を議論して、日本貢献を、あるいは日本でなされている様々な議論をそこにインプットしていく努力は必要と思うんですが、具体的にどういう形でやればいいかは、むしろいろいろとお教えいただければと思います。
  43. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) はい、ありがとうございました。  広田一君。
  44. 広田一

    広田一君 民主党・新緑風会の広田一でございます。本日は両先生、誠にありがとうございました。  まず、稲田先生に御質問をさしていただきます。  今日は人間安全保障ということを中心のお話でございましたけれども、先生自身はこの人間安全保障に匹敵する、また、あるいは上回る影響力を持った概念として、ガバナンスを挙げられていらっしゃいます。今日もそれには若干お触れになってはおりますけれども。これは一九八九年の世銀報告で明らかになったということで、非常に言ってみれば短期間で急速に普及をしてきたんですけれども、それが非常に広い概念だったものが、実務的で具体的な内容になってきたというふうな御指摘をされているわけなんですけれども、こういうふうに具体的になってきた経緯、理由、背景などについてまずお伺いをしたいと思います。  そして、そういうことを踏まえまして、ODAのお話とか、それからあと内政への注文等を通じていろいろな日本支援というものはあるんですけれども、先生自身、前田議員さんの質問に対して、日本はハード中心になっているというふうなお話がございましたが、その一方で、ちょっとどの委員会か忘れたんですけれども、麻生外務大臣が、自分が総務大臣のときに非常に日本の地方自治制度について各国から研究の問い合わせ等が多々あったというふうなことをおっしゃられております。  国の運営を考えた場合に、地方政府在り方というのは最終的には大変重要な面になってくると思うんですけれども、こういったことに対する日本政府取組をどういうふうに評価をされているのか。それと、この地方自治のことに関して、そういう制度面の支援でほかの諸国で非常に評価されている国等があれば御紹介をいただければなというふうに思います。  続いて、松下先生に御質問をさしていただきます。  これも先ほど来議論があったことなんですけれども、先生自身、国内制度の後れが国際舞台での立ち後れになっているというふうな、まあレジュメにも書いてある中で、環境税を具体的に挙げられております。そして、先生のパワーポイントの八ページにも、環境保全型税財政改革についても少しお触れになっているわけでございますけれども、これちょっと具体的にお聞きしたいんですが、この環境税につきましては、地方もよく森林環境税とか様々な取組をしている自治体もあって、それを国全体に広げていこうというふうな取組をしている自治体もあるわけでございます。  そういった動きをどのように評価されているのかということと、あわせて、先生は特定財源の諸税を廃止をするべきであると。道路特定財源なんかを廃止すべきであるというふうな書き方されているわけなんですけれども、特にその道路特定財源の今一般財源化というふうなところが議論されている中で、一部にはそれを環境税として振り分けたらどうかというふうな議論もあろうかと思います。こういった考え方についてどう思われるのか、併せてお伺いしたいと思います。
  45. 稲田十一

    参考人稲田十一君) まず、ガバナンスについてですが、御指摘のように、ガバナンス世界銀行等がとりわけ中心になって開発を左右する大きな要素だということで議論を深めていったものですが、それが今日、開発世界定着して広がっている理由は幾つかあって、大きく分けると、まず世界銀行自身の努力というか、政策の変化というのがあると思います。  一つは、ガバナンスの内容というのは具体的には何かという、何を改善していったらいいのかという要素を特定していったということですね。やがてこれ実は指標化にまで至るんですが、つまり今、実はCPIAといいまして、政策・制度指標というのが作られていて、これが四つのカテゴリー、二十項目にわたってあって、開発途上地域の大半の国をレーティング、数値化しているんです。これがいいのか悪いのかは議論があるんですが、そこまで具体化し、かつ九八、九年、九八年ぐらいから、このガバナンスの度合いが開発を左右するのだから、その度合いに対応して世銀の政策を決めていくという、ある種のガバナンスを基にした選別の政策を取っていくんですね。  これもいいのか悪いのか、非常にいろんな様々な議論がありますが、そうしたことによって、この具体的なガバナンス個々の項目の改善必要性というのが非常に強く途上国側にも認識されるようにいや応なくなっていったということが一つと、もう一つは、これは世界銀行の別に議論だけではなくて、OECD、パリのDAC、開発援助委員会で外務当局が主として絡んでいますが、そうしたところでの共通の議論となり、またUNDPもこの開発を左右する要因としてのガバナンスというのを、実はそれぞれ定義も項目、考える項目も少しずつ違うんですが、やはり開発を左右する非経済的な要因、社会的な要因政治的な要因も含めてそういうのがあるんだということについてはコンセンサスがあって、個々に具体的な内容を取り上げ、共通のガイドラインを作り、具体的に改善するための様々な技術支援やアドバイスや能力開発支援というのをやってきたというのが今日広まっている背景だと思います。  二番目の御質問にありました地方自治制度で、日本は、外務省JICA等、こういった開発途上地域の地方自治の在り方を含めたガバナンス支援というのはそれなりに力を入れてきたことも事実です。  日本は、よく指摘されることですけれども、明治維新あるいは第二次大戦後に大きな制度改革があって、地方自治やら法律、憲法、民法を含めた法律の制度づくりやら、あるいは警察制度やら、様々な制度の改革、異色の歴史というのがあって、これが途上国でそれなりに参考になることもあって、日本ガバナンス分野での制度づくりの支援をする際に、こういった分野日本経験を学んでもらうために、セミナーを開いたり公務員を呼んだり専門家との意見交換を行ったりということはやっているんですが、少し厳しい率直な言い方をすると、日本のやっぱり基本スタンスは、日本のやり方を見て学んで、それを自分の国に当てはめてうまくやってくださいというのが基本的スタンスだと思うんですね。世銀や欧米は、これも賛否両論あって批判されることも多いんですけれども、ある種有効だと思う制度を現地でつくり上げる支援をするんですね。  これは世界銀行もそうだし、地方自治の分野ではUNDPドイツのGTZ、あるいはアメリカのUSAIDといったところが結構熱心で、世銀も、地方分権も行政の分権と財政、予算の分権があって、とりわけ世銀は予算の分権制度については様々なアドバイスをしてるんですけれども、ですから、こういうところではまだまだ日本は弱いのかなという気がします。  どういう地方自治制度がいいと言われているかについては、これは行政学等の分野の専門の方が最近この開発分野でもいろんな論文を書いておられて、私は必ずしも専門ではないんですが、とりわけ近年、日本とのかかわりで議論になったのはインドネシアの地方分権の制度づくりでありまして、これもUNDPやGTZがかかわり、世銀がかかわり、USAIDもかかわり、うまくいっているのかいっていないのか、それ自体が大きな議論の題材となってますが、大きく制度が変わって大変革の途上にあることは御承知のとおりです。  こういった途上国の制度づくりのどういうやり方が適切であって何ができるのかというのは引き続き大きな課題だと思うんですが、日本の場合はもう少し、何というか、現実問題として、こういった国際機関や他の援助機関専門家を派遣して相手国のキー・ミニストリーでもう素案を全部作っているという現実の中では、そこにももっともっとかかわっていいんじゃないかなという気がしております。
  46. 松下和夫

    参考人松下和夫君) 第一点目の森林環境税あるいは地方環境税の評価でございますが、環境問題はもちろん地域でできるだけ解決できることは地域で解決すると。そのためには、地域のことは地域が自ら決定できる、あるいは自立して行動ができるという意味において、その財源もできるだけ地域で確保するということが必要でありますので、地方環境税という制度は歓迎すべきだと思っております。  森林環境税の場合は、都市住民も含めて広く負担を、薄く負担をしてもらって、それを森林の管理に充てると、あるいは間伐作業であるとかあるいは環境教育に充てるということでございますので、そういった意味で地域の合意を得て進められているというふうに考えております。  それから、地方環境税のほかの事例としては、産廃に対する税金であるとか、あるいは地球温暖化対策に対する税制も考えられています。産廃税については、インセンティブ効果といいますか、産業廃棄物を抑制する効果があるというふうに思います。それから、地方温暖化対策税は、温暖化対策で地方が果たす役割が大きくなってきますので、こういったことも考える必要がありますが、国全体の税制、例えば国が温暖化対策税を導入した場合に、その整合性を考えていく必要があるというふうに思います。  それから、二点目の特定財源の廃止の関係で、道路特定財源を廃止するべきだということでありますが、これは必要でない道路の建設を抑制するという意味において一般財源化が望ましいと思いますが、その税収を環境税的、あるいは環境対策に使うということであります。  環境税の効果として、税収を環境対策に使うということと、それから環境に負荷を与える悪い活動を抑えるというインセンティブ効果がありますので、道路特定財源から得た財源を環境税あるいは環境対策として使うということで税収効果があるわけですが、一方でインセンティブ、環境、地球温暖化に与える影響をどう抑えるかというインセンティブもまた別途考える必要があるというふうに思います。
  47. 西田吉宏

    会長西田吉宏君) ありがとうございました。  予定の時刻までまだ少しございますが、他に発言もないようでございますので、本日の質疑はこの程度といたしたいと思います。  一言ごあいさつを申し上げます。  稲田参考人及び松下参考人におかれましては、長時間にわたりまして大変貴重な御意見をお述べをいただきまして、おかげさまで大変有意義な調査を行うことができました。  今後、お二方のますますの御活躍を祈念いたしまして、本日のお礼のごあいさつといたします。ありがとうございました。(拍手)  本日はこれにて散会いたします。    午後三時四十分散会