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参考人(津上
俊哉君) 御紹介いただきました
東亜キャピタルの津上でございます。本日はお招きいただきましてありがとうございます。
私、元々は
経済産業省の役人上がりでございまして、この
委員会室にも何度もお邪魔したことがあるんですが、大体定位置は壁際の席でございまして、ちょっとこちらのメーンテーブルに座ったのは初めてなものですからちょっと緊張しております。よろしく
お願いいたします。
お手元にちょっとグラフなんかの入りました資料をお配りしてあると思いますので、これに従って御説明をさせていただこうと思いますが、
最初に少し数字を、何というか、押さえていきたいというふうに思っております。
日本にとって
中国経済というものがどういうことになってきたのかという、この十年間ぐらいの
変化をちょっと見たいということでございます。
まず、二ページでございますが、
中国は最近ですと九%であるとか八%であるとかというふうな高い
経済成長率をずっと続けております。この
中国の数字が、統計数字がどこまで信用ができるのかという問題もなくはないわけでありますけれども、この大きな成長に伴って、外から見た
中国経済のサイズというのが非常に急激に大きくなっているということがございます。
特に、昨年の十二月でございますが、
中国が第一回の
経済国勢
調査といいますか、
経済センサスですね、の結果を発表し、これに基づいて、もう既に発表済みの、何というか、既往の統計数字についても修正を行うということがございました。前々から
中国の
GDP統計というのは、これはちょっと三次産業であるとか新しく生まれた新興の私営企業とかというところが全然捕捉できてないんではないかというふうな、何というか、疑問が
国内からも寄せられておりましたものですから、そこを反映して、全国何百万人かの、何というか、
調査員を動員して、
経済事業者といいますか、事業所をもう一遍洗い直したわけでございます。そういうことの結果、果たしてやっぱり捕捉が弱かったということが実証された形になりまして、
GDPが二〇〇四年の数字、既に発表してあった数字に比べて約一七%膨らむという修正結果が発表されたわけであります。
この数字を、ちょっと少しおかしいんですが、今の
為替レート、最近の
為替レートで比較をした場合に、
中国の
GDPというのが約、
日本の半分に達したのかなという気がしております。ちなみに、同じような数字を九〇年代の後半からプロットしたグラフがそこにございますが、九〇年代の後半の一時期、簡単に申し上げますとということで私などがよく使っておりました数字は、
中国の
GDPは
日本の五分の一でございますという数字を使っておりました。今から三、四年前には、
日本の三分の一でございますという数字を使いました。なんですが、これからは
日本の半分ございますというふうに、何というか、言わなければいけない時代になったのかなと思います。
この上方修正と、もう
一つ急激に二〇〇四年ぐらいに半分に近くなったという原因がございまして、それは円の
為替レートが対
人民元でこの一、二年の間に大分下落をしたということがございます。円は
人民元に対しては少し下がったわけでございますが、この二つの要因から一挙に半分になったということでございます。
ちなみに、二〇〇五年の、去年の通年の
GDPの数字というのが
中国ではもう発表になっております。
日本はまだ発表になっておりませんが、仮に
日本が二%ぐらいは成長しておるというふうに仮定をして仮の計算をしてみますと、もうこれは明確に五〇%を超えております。そういう
意味では、
中国は
日本の半分の
経済サイズの国になったという時代になったと思います。これはちょっと今まで私どもが予想しておりましたよりも速いペースで
中国の
経済サイズは
日本に追い付いてきている。今後を展望しますと、
日本が
GDPで
中国に肩を並べられる時期というのは十五年から二十年ぐらい先かなというふうな予測を前しておりましたけれども、もう少し早いなと、十年ちょいぐらいで肩を並べられることになるかもしれないと、
人民元の
為替レートの上昇が速ければ十年掛からないかもしれないというふうな感じがしてきております。
三ページをおめくりいただきたいと思いますが、こういう
中国の
経済成長によりまして、
日本の
貿易構造というものにも非常に大きな
変化が生まれております。輸出と輸入を合計しました
貿易総額で、おととし、二〇〇四年、
中国が
アメリカを抜いて
日本の最大の
貿易相手になったというニュースがちょうど今から一年ぐらい前に大分新聞なんかでも大きく出たわけでございます。それを示しているのがその四つのグラフの左上のグラフでございます。二〇〇五年の数字ももう出ましたが、更に、何というか、
アメリカとの格差を広げて第一位という
貿易相手でございます。
それから、右上のグラフは、これは
日本からの輸出を国別に見たものでございますけれども、
貿易総額が大きいのは要するに
中国からの輸入が大きいせいだという部分が結構あるわけでございますが、それだけではございません。輸出先としての
中国も急激に拡大をしております。
中国との
貿易を論じますときに、いずれにしましても
中国足す香港というのが正味の
中国との
貿易というのに近い数字でございますので、この
中国プラス香港という数字を使ってよく
議論をするわけでございます。
ただ、この
中国プラス香港ではなく、大陸だけに絞った
日本の通関統計の数字をその一番赤色の帯グラフで示しているわけでございますが、二〇〇〇年に、このグラフは
ドル表示でございますが、財務省の元々のその円表示の対中輸出額が三兆円ございました。これが二〇〇三年、わずか三年後に倍の六兆円になりました。昨二〇〇五年には八兆円というふうな形で増えております。
小さな国相手の
貿易は大きなプラント輸出が一件あるとどんと何倍増みたいなことが起き得るわけでございますが、元々三兆ある根っこが三年で倍になったというのは恐らく
日本の
貿易史上これまでなかった出来事だろうと思います。ちょうどこのころ
日本はデフレスパイラルのがけっ縁に立っておるというふうなことで、大変苦しい時期でございましたけれども、まあ企業が苦しいリストラをして大分固定費が下がって減量経営ができたというところに売上げの増大をもたらしてくれたというのは、この対中輸出の激増だったわけであります。
今、
日本の対中輸出額、これは
中国プラス香港の合計額ということでいうと、対米輸出の八五%ぐらいまでの数字になってきております。向こう二、三年の間には輸出額ということでも
日本の最大の輸出先ということになる
可能性が高いのではないかなというふうに思っておりまして、まあ
中国経済というものが
日本経済に持つ
意味というのはかくのごとく非常に大きくなっているということでございます。
四ページ、ごらんいただきますと、その
貿易の内訳が財別に示してございますが、この中で申し上げたいことは、昔の日中
貿易というのは原材料を
中国から輸入して
日本が製品を輸出するという典型的な垂直分業の輸出構造だったわけでありますが、最近はこれが随分変わってまいりました。
日本から
中国へも、
中国から
日本へも、
お互いに資本財あるいは製品、こういうふうなものがどんどん伸びておるということでございます。そういう
意味で、水平分業型の、何というか、
貿易構造に急速に変わっているということでございますが、まあこれは取りも直さず、
日本の多くの日系企業が現地に進出して国境をまたいだ親子間取引をしているというふうな
意味で、まあ日中
経済というのが更に深く有機的に結び付き始めたということの
一つの表れかなと思います。
五ページをおめくりいただきたいと思います。
昨年、まあ反日デモがあったりとか、
中国経済が非常に過熱してバブルっぽいというふうな、何というか、その見方が広がったりというふうなことで、まあ
中国の時代は終わったと、これからはインドあるいはブラジル、ロシアの時代だというふうな、何というか、マスコミ論調がかなり台頭をした一時期がございました。
で、
中国の時代は終わったというこの認識についてでございますが、九〇年代の後半、このころを思い出しますと、
世界で一番
コストの安い
生産国としての
中国に
生産を移して
コスト削減を図ると、こういうふうな、何というか、まあ動機による対中投資みたいなものが非常に多かったわけでございますが、もう今日、
中国は決して一番
コストの安い
生産国ではもうなくなっております。そういう観点からいうと、ロー
コスト生産をするための投資というふうな、そういう
意味での
中国の時代はもう終わったというのは、これは確かだと思います。
また、
日本がこれだけ国際化して、その国際
経済の中に参画していく中で、よく言われる例えで、
一つのかごに卵を全部入れるなと、分散をしろと、リスクヘッジをしろという言い方がございますが、私もこの考えには賛同いたします。全部を
中国に、何というか、投資をするというのは、これはリスクが高過ぎる、ある程度分散をした方がいいという気も私はいたします。なんですが、以上申し上げた上で申し上げるならば、その一足飛びにもう
中国の時代ではないというふうに言うのは大きな誤りだと思います。それは、マーケットとしての
中国という側面を忘れた
議論だからであります。
このマーケットとしての
中国というのを、まあ先ほどの
日本の輸出額という観点から見てみますと、この右のグラフのようなことになります。
今の
日本の外需というのは、このグラフからも明らかなように、
アメリカと
中国という東西両横綱によって支えられております。で、それに対して、ほかのインド、ブラジル、ロシア、あるいは最近人気が高いと言われるベトナムも含めてでありますが、ここへの輸出額というのは対中の輸出額の二十分の一以下であります。仮にこれらの右側に並んでいる国が今後その
中国の例えば倍のスピードで成長する、あるいは
日本の輸出額が
中国向けの倍のスピードで成長するとしても、この一対二十以上という大きな差を埋めるのは一体何年掛かるんだろうかということを考えますと、やはりマーケットとしての
中国というものは極めて重要でありまして、まあここからどれくらい
日本が受益をしていけるのかというのが、やはり
日本の
経済の盛衰をますます左右する重要な課題になるんではないかと思います。
以上、ちょっと数字を申し上げましたけれども、全体として申し上げたいことは、今その
中国の
経済が台頭しているというのは、これはまあ
中国の
国内では多々問題をはらんではいるのも事実でございますが、恐らく
世界経済の中で一世紀に
一つ起きるか起きないかというぐらい大きな出来事でございます。二十世紀には、まあその世紀の後半に日独の奇跡の復活みたいなものがありました。十九世紀の後半には
アメリカの台頭というのがありましたが、まあそれと同じぐらいのマグニチュードを持つ
動きが今
中国では起きていて、
日本はその隣に位置するという立場にあります。
WTO加盟を
中国が果たしたときにどこの国が一番得をするだろうかと世銀が九〇年代の後半に内部
調査のレポートをまとめたことがございますが、まあこの中で最大の受益国は
日本になるであろうというふうに予言をいたしたわけでありますが、先ほどのその三年で三兆円が六兆円になったというふうな、こういうふうなファクトを踏まえますと、世銀のレポートというのは正しかったのかなという気がしております。
六ページへ参りますが、じゃなぜこんなふうに急激に、何というか、
日本の
中国からのその受益というのが大きくなっているかということでございますが、私は事実上の
経済統合というのが日中間で音を立てて進んでいるせいであるというふうに考えております。
経済統合というと、
FTA、
自由貿易協定というのが昨今、随分と論じられるようになっておりまして、
日本は東南
アジアとの関係ではまあかなりある
意味では進んできたと言えるわけでございますが、この日中の
自由貿易協定というのは余り論じられない話題でございます。
二つ理由があると思います。
一つは、やっぱりこういう
議論をするときには、二国間関係がまあ非常にいいムードであるというふうな必要がございますので、今はちょっと残念ながらなかなかそういうふうな将来の夢を語り合うという
状況にないということがございますが、もう
一つの理由は、これは
日本も
中国も
お互いが
お互いにとって特大サイズの
経済パートナーなもんですから、仮にこの
FTAが実現すれば、メリットも特大でございますが、弱い産業が受ける痛みというふうなデメリットも特大であります。局所的に物すごく強い痛みを伴うような意思決定というのは、これはやはりどこの国でも政治的に難しいというふうな事情がありますので、なかなか政治の日程表にはこういうふうな日中
FTAみたいなものは載ってこないと。ある
意味でまあかなりちょっと仕方がない話でございますし、逆から言えば、日中
FTAが仮に実現するということになれば、
東アジアの
経済共同体みたいなものはもう百里のうちの八十里、九十里は来たも同然というぐらい大きなアチーブメントでございますから、それはそんな簡単には実現できぬだろうという気もするわけであります。
ただ、他方で、こういう条約を結び合うというふうな
FTAがなくても、
経済実体としては事実上の
経済統合が物すごい勢いで進んでまいりました。先ほど見た数字は正にその結果としてあるわけでございますが、この事実上の
経済統合も
FTAと似たところがありまして、痛みもあればメリットもあると、そういうふうなものであろうと思いますが。
大きな違いは何かというと、
FTAはこれは条約の締結ですから、結ばないと思えば結ばないで済むわけでありますが、事実上の
経済統合は神様の見えざる手が勝手に進めるものでございますので、人間の力で止めようと思ってもなかなか止まりません。
そういうふうな中で、例えば労働集約型の
国内産業がどんどん
中国へ移転してしまうというのは、これは
日本にとってはデメリットなわけでありますが、こういうデメリットがどんどん発現をしていってしまうということならば、そのメリット、デメリットの帳じり、これを
赤字にしないと。
経済の衰退を防ぐために
日本がしなきゃいけないことは何かといえば、この事実上の
経済統合から
日本が得られるメリット、得べかりしメリットをもう極力たくさん取っていくということではないかというふうに思うわけでございます。
そういう観点からいいましたときに、私は個人的には現状
日本が得ているこの統合による
中国からのメリットというのは少な過ぎると思っております。ただ、その少ないという理由は、別に
中国がけちだからとばかりは言えないわけでありまして、
日本側が取ろうと思えば取れるんだけれども、
自分で取りに行ってない、取る気になってないというふうな
日本側に起因する部分も非常にあるんではないかなと思っております。
七ページにその辺りのことを少し述べてございますが、例えば、やろうと思えばできることとして、
中国にも今非常にたくさんの
お金持ちが出てまいりました。比率はまだ小さいですが、母数が十三億もいるものですから、富裕層というだけでも大変な人数になってまいりましたが、こういう
お金持ちの
中国人に、
日本観光にもっと来てもらうということがございます。三、四年前にこれを言うと、外国人犯罪とかどう考えているんだというので随分非難を受けたものでございますが、最近は大分様子が変わってまいりまして、各地の、特に西
日本の観光地、あるいは北海道なんかでは
中国からのその観光誘致ミッションというふうなものをどんどん地域で出すようになってきております。
恐らく、今起きてることというのは、三、四十年ぐらい前にJALパックなどという観光商品ができて、
日本人が団体で、何というか、欧米に観光旅行に行き始めたころ、あれとまあかなり似てるんだろうと思います。まあ、あのときにも、恐らく
日本は、何というか、なかなか先進国のマナーや風俗になじめない、何かこう田舎っぺの観光客をやっておったんだと思いますが、その当時、欧米は
お金を落としてくれる
日本人観光客を、何というか、迎えるために、
日本語のできる店員をそのお店に並べてというふうな努力をしたわけでございます。同じ時の巡りというのが今、
日本と
中国の間に来てるんではないかなと思います。
あるいは、もっと微妙な問題としては、政府は外国から
日本への直接投資を増加させようということをしておりますが、この中に、じゃ
中国からの直接投資というのは入るのかという問題がございます。新しく工場を建ててくれるというふうな投資であればどこの自治体も大歓迎ということでございましょうけれども、多くの場合、対日直接投資は既存企業の買収という形でやってまいります。その方がよっぽどメリットがある。
ただ、それは、端的に言えば、買収されたら翌日からは
中国人が社長になるということを
意味するわけでございまして、それを受け入れる従業員ほか
日本側のその心の準備というのはできているのかという問題がございます。これも、従来は、何というか、上司に抱こうと思ってなかったような人が急に上司になるというのは、仕える側にとっては非常に心の戸惑いを伴う話でございます。
ただ、この点についても今から二、三十年前、まあ企業買収ではなかったですが、
日本の自動車メーカーが欧米に進出を始めたときに、現地のワーカーたちにはやっぱり同じような戸惑いがありました。黄色人種が我々のボスになるというような戸惑いであります。なんですが、そういう皮膚の色、あるいは民族の違いということがあるので、欧米諸国はそういう
日本からの投資を歓迎しなかったかというと逆でありまして、元首まで繰り出して壮烈な誘致合戦を繰り広げたのは
皆様御存じのとおりでございます。
それ以外にも、幾つかの例があるんですけれども、
共通することは何かというと、今までそういうふうな相手として
中国を我々は見てこなかったということによる若干その心の戸惑いといいますか、あるいはそこに、何というか、思いが至ってなかったと、考えたことがなかったというふうな、そういうふうな、何というか、心理的な
対応の後れみたいなものが
共通して
日本と
中国の間にはあるんではないかと思います。
そういう目で見ると、これまでの日中
経済関係というのは何でも
日本人が主語、
中国人は客体と、こういうふうな何というか関係でございましたが、そういうふうな時代が終わろうとしているんではないかと思います。
もっと目を外に広げると、欧米の先進国というのはどこを見ても自国
経済を全部自国民でやろうなどという、そういう国柄の先進国というのはほかのどこを見てもないわけでございます。多くはやっぱり自国を場所として貸して、そこに外国人に来てもらって、雇用を創出してもらって税金払ってもらってというふうな、そういうふうな場所を提供するという、こういう部分が国によっては二割、三割。そういうふうな形でほかの先進国は
経済を運営しております。
だとすると、
日本だけ同じようなことをやらなくてやっていけるのかしらという気もするわけでございます。ウィンブルドンナイズという言葉をちょっと勝手に作りましたが、御案内のとおり、ウィンブルドンのテニス大会というのは、場所は
イギリスですが、セミファイナル以降は
イギリスの選手なんかだれも残ってないというふうな、そういうふうな
状況をやゆした言葉でございますが、私は、現状の
日本はちょっと余りにも島国的に偏り過ぎていると。もう少し重心をウィンブルドン化して移した方が、
日本にとってもっと、何というか、利益のあるような、そういう明日が来るのではないかという気がいたします。
八ページへ参りますが、
日本と
中国の
経済関係。
中国が特にWTO加盟をしました。それから、
中国の
経済レベルが相当上がってきて、前のようなもう目のくらむような
経済格差が大分縮小してきたという中で、
日本と
中国の
経済往来というのは随分と昔に比べてやりやすくなっております。貨物の移動、
資金の移動、情報、技術の移動、こういうふうなものについて、もうそれほど、これがどうにもならないというふうな障害はなくなってまいりました。
ただ、
一つだけ依然として深刻な問題として残っておりますのは人の移動でございます。しかも片側。
日本から
中国へ行くのは、もうノービザになりましたので全く何というか不便がなくなりましたが、
中国から
日本へ来るというのが依然として非常に大きな障害が残っております。それは、元々
日本は島国だというふうなその文化の問題だけではなくて、まあ非常に世間が心配する外国人犯罪の問題というふうなことがあるものですから、そういうふうなことになっているわけでございますが。今のその出入国管理
制度というのは、やはりこれまで見てまいりましたような日中の現状から見て非常に合わないものになってきているという気がいたします。
一方では、規制の必要のない、まあ
お金持ちみたいなところまで規制が、不必要な規制が依然として続いている中で、他方では不法な入国だとかそういうふうなことについては、やろうと思えば予算を付ければもっともっと何というか手が打てるというところがまだまだ残っておるんではないかなという気もするわけでありまして、ここら辺のめり張りをもっと付けていくということが必要だと思います。
こういう話になると、よく法務省であるとか外務省であるとか、そういう担当官庁が頭が固いのであるというふうなことが話題になるわけでありますが、私は担当官庁を批判しても問題の解決には何らならないと思います。
というのは、担当官庁は、問題が起きれば何やっているんだと批判されますが、苦労してこうやってめり張りを付けて入国者数を増やしても、現状ではだれも褒めてくれません。そういう減点主義の採点基準に遭えばどの人もみんな保守的になるというのは、これは仕方のないことであります。国民全体の意識改革が伴わないとこういう問題は解決しないということだと思いますが。
まあ、
お金も随分持つようになってきた
中国人に対して、昔と同様の、何というか、扱いをしていては失礼であるというふうな面もあるかもしれませんが、私は、この人の移動の制限をもっと緩和をしていくということの重要性というのは、
日本の国益に照らしても非常に喫緊の課題だと思っております。
経済的利益だけではなく、ほとんど
日本のことをよく知らない
中国人に、
自分の目で現実の
日本を見せてあげるという機会を増やすということは、これは非常に大きな
意味があるというふうに思っております。
九ページに参りますが、
経済面では、産業界は随分ともう
日本と
中国の間で深い結び付きをするようになりましたが、実は、車の両輪に例えますと、もう
一つの
タイヤであるところの金融、証券というふうなフィナンシャルな部分がこの産業界に、何というか、見合ったような形での発展を遂げられておりません。このことによってだれも得をしていないという
状況がございます。
もちろん、金融が余り発達してないというのは、
中国の規制があって
日本の金融産業が思うようにやらせてもらえないという事情もございますけれども、まあそれだけではなく、どうも金融産業というか金融界にですね、
中国でお客様にするのは日系企業だけという、まあ
日本人村ビジネスみたいな、そういうふうな意識が非常に強いということも影響しているのかなというふうに思っております。この点でもう少し金融の方の
タイヤが発達をしてくれば、多くのこれまでなかなか考えられなかったような新しい受益の姿というのが双方に生まれるのかなというふうに思っております。
それと、先ほど
小川先生の方から
お話がございましたが、日中の
経済がもっと、何というか、ウイン・ウイン型に発展をしていくための非常に重要な課題は、双方の
通貨というのが今よりももっと安定すると、予測可能になるということでございます。そういう観点からの
通貨協調みたいなものも今後していかなきゃいけないことだと思います。
最後に、政冷経熱という言葉が随分と昨今語られることが多い日中関係でございますが、私は、政治が冷たくても、
経済が例えば前年割れするみたいな形での後退をするということはなかなか考えにくいと思っております。短期的に、例えばインフルエンザが大流行して、まああのSARSのときみたいなことになるというふうな短期的なショックが加わると、まあちょっとその話は別でございますが、趨勢としては政治関係にかかわらず
経済は更に前へ前へと進展をするだろうというふうに思いますが、じゃ今のままでいいじゃないかということになるかというと、やはりそこはそうではないのではないかなと思います。
今でも前へ進んではおりますけれども、得べかりし利益というふうな物差しから考えますと、これはもう莫大なものを失っているというふうに思います。注文が取れないのは別に新幹線だけではございません。多くの地方で地方政府が、日中関係が波立っているときには、外国製品を、外国設備を調達しようかというときに、
日本はちょっとやめておこうというふうな形で、言わば君子危うきに近寄らず式で、結果的に
日本製品が排斥されてしまうというふうなことがもう日常茶飯、全
中国であちこち起きていることを考えますと、やっぱりこの政治関係がいいということはやっぱり
経済にとっても非常に重要な問題だと思います。
ただ、公平のために申し上げますと、別にそういう
状況というのはこの数年の間に起きたことではなくて、ある
意味では戦後六十年たつもまだ、何というか、その歴史問題が
お互いに清算できてないというこの半世紀がもたらしていることだと思います。
こういうふうな政治ががたがたするというふうな
状況について、最後の十一ページでございますが、私は、数年前まではこの
経済の急激な、何というか、緊密化によって
お互いの関係がすごく良くなるんではないかという期待を持った時期がございましたが、ただいま現在で言いますと、ちょっと期待を下方修正して、そして腹をくくることにしました。向こう十年、二十年、日中関係というのはがたがたする
可能性がかなりあるというふうに思っております。
昔は、
一つの地域の中で一国と一国の
経済的な地位が逆転するみたいなことが起きると、大体まあ十中八九は戦争になったものでございます。今は文明の世の中ですからそういう野蛮なことに直ちになるとは思いませんが、昔だったら戦争になってもおかしくないぐらい微妙な時期に
東アジアが入ったということは言えるんではないかなと思うわけでございます。特に、その中でやはり
お互いの国民が
お互いの国に対してどういうふうなイメージ、感情を持つのかというふうなところは、これがなかなか人間の心理の問題なものですから調整が難しい、時間が掛かるということがございます。
今後の日中双方望まれることとして、
日本側について言えば、やはり
中国に対する古い固定観念みたいなものを捨てて、新しい現実に適応した、何というか、
中国との付き合い方ということをもっと学ばなきゃいけない。端的に言えば、
中国が台頭してくるという現実を、まあちょっと抜かれるのは人間だれしも嫌だけれども、そういうものとして受け入れるという覚悟が必要でしょうし、それを生かしていくというどん欲さも必要でしょうし、他方、
GDPで抜かれたからといって
中国からけおされる必要はないのだというふうな、何というか、心理の調整をする必要もあるだろうと思います。
中国に望みたいことは、今や
自分が
世界じゅうの中でどれほど影響力のある重い存在になっているかということについての思いがまだ至っておりません。そういう観点からいえば、去年の反日デモなんかはもう典型でございますが、周りからどういう目で見られているという、そういうふうなことにもっともっと思いをいたして、大国としての度量ある振る舞いというようなものをもっと身に付けてもらわないといけない。
そういうふうな時間の掛かる心理の調整というものを両国はまだ抱えておると思います。ただ、この心理の調整を早く終了させることができればできるほど、両国の国益は増進すると思います。
そういう
意味では、現役、我々生きているその今の世代の
日本人としては、後代により繁栄した、より、何というか、周辺と友好関係を保つような
日本を残すために、我々の世代で調整できるものは極力調整をしていくというふうなことを図っていくのが世代の責任ということではないかと思っております。
ちょっと時間を超過してしまいましたが、私は以上でございます。
どうも御清聴ありがとうございました。