○
参考人(
桜内文城君)
新潟大学の桜内でございます。今日はどうぞよろしくお願いいたします。
お
手元に、A4横の
資料といたしまして、「
特別会計の
現状と
課題」というものを御用意させていただいております。基本的にこれに従って
意見を述べさせていただきます。
まず、
一つめくっていただきまして、本日は
特別会計の
現状と
課題についてお話しさせていただくわけでございますが、これまでも、特に
政府側におきまして、昨年の十二月二十四日に
閣議決定がございました
行政改革の
重要方針と題されるもので、こちらでも
特別会計の
改革については非常に詳しく扱われております。また、今、
政府部内におきましては、
行政改革推進法の法案の
作成作業が行われているところでもあります。そちらでの
議論等をもちろん踏まえつつ、今日はもうちょっと具体的にお話をさせていただきたいと考えております。
特に、私は
公会計というものを
専門としております。
会計の
観点からしますと、従来の
財政学の
歳入歳出というふうな
フローの
観点というよりも、むしろ
資産、
負債というストックの
観点を踏まえて
特別会計の
改革がどうあるべきかという点について申し上げたいと思っております。
大きく分けまして、本日これからお話しいたしますのは、
特別会計の
設置要件の
部分と、それから
特別会計の
財務情報の開示の
在り方について、
現状とその
課題についてお話ししていきたいと思います。
では、早速入っていきますけれども、
特別会計の
設置要件について最初お話しさせていただきます。
この
特別会計の
設置要件は、
現行の
財政法十三条二項に規定されております。こちらに三つ、
要件と申しますか、
特別会計の
種類というか、
設置要件を挙げておるわけですけれども、まず
一つ目、
事業特別会計。これは
法律上の
用語ではありませんけれども、
講学上の
用語です。
法律上は、「国が
特定の
事業を行う場合、」というふうな
文言となっております。基本的には、この下の②、③以外の大半の
特別会計がここに属するというふうに分類されております。
その
目的といたしましては、
独自財源によって
特定の
事業を行うことにより、
特定の
事業に係る
受益と
負担の
関係を
明確化することにあるというふうに言われております。逆に言いますと、
独自財源による
独立採算が成り立たない
事業、すなわち
受益と
負担の
関係が不明確な
事業は
特別会計を
設置する
意味に乏しいという
意味で、その
財政法の
趣旨にやや反するのでないかということでございます。
次に、②といたしまして、これも
資金運用特別会計、これは
講学上の
用語ですけれども、
法律上は、「
特定の
資金を保有してその
運用を行う場合」というふうな
文言がございます。例といたしましては、
財政融資資金あるいは
外国為替資金、これらの
特別会計が属するというふうに言われております。
ここの
目的でございますが、やや上の①と違っておりまして、特に「特別の
資金」、これは
財政法上、四十四条というところにあるわけですけれども、この
運用を
管理すると。で、
現行制度上は、
一般会計は基本的に
歳入歳出という
現金収支、これを
フローというふうに申しますけれども、この
管理に言わば特化しているというふうな言い方できるわけですけれども、特に
金融資産、この
財政融資資金ですとか
外国為替資金の場合には、
金銭債権ですとかあるいは
外貨建ての
債権というものを
多額に保有しておりますので、その
金融資産と
負債の
管理を行うというふうなところにその主
目的があるというふうに考えられております。
それから、③といたしまして、これはややバスケット条項的なものですけれども、
整理区分特別会計というふうな
講学上の言い方がございまして、
法律上は、「その他
特定の
歳入を以て
特定の
歳出に充て
一般の
歳入歳出と区分して経理する必要がある場合」というふうに規定されております。例といたしましては、こちらに
四つほど挙げておりますけれども、実際には①に属する
事業特別会計と結構重なる
部分も多いのではないかというふうな
指摘もなされております。
目的といたしましては、
特定の
行政目的のために
収支を他と区分して整理することというふうにされておりますけれども、ごらんのとおり、やや
設置要件としては包括的に過ぎるのではないかというふうな
指摘もなされているところであります。
先ほど若干述べました
平成十七年十二月二十四日の
閣議決定、
行政改革の
重要方針においても
指摘されておりますけれども、この
設置要件をより
厳格化する必要があるのではないかと。その
設置要件を
厳格化して既存の
特別会計の
必要性なりを精査して、もちろん数を減らしますし、あるいは真に必要なもののみを
特別会計として
設置していくというふうな考え方が示されているところであります。
これをより具体的に見ていきたいと思います。次のページをお開きください。
設置要件の
明確化、
厳格化ということですけれども、これは、
会計学、特に
公会計の
観点からいうとこういうふうな
厳格化の方向が考えられるのではないかということをこちらで書いております。
まず
一つ目といたしまして、
複数年度にわたる
継続的事業であって、
独自財源による
独立採算が成り立つ場合ということを挙げております。
現行制度上は、先ほども申しましたけれども、単
年度の
歳入歳出、これは
フローですけれども、この
管理は
一般会計で十分可能でありますし、むしろ
一般会計はそのような
目的で
設置されているわけですけれども、
複数年度にわたる
継続的事業につきましては、必然的に
資産、
負債、これは正にストックでございますけれども、この
管理を必要とすることになります。ただし、
独自財源による
独立採算が成り立たないような
事業につきましては、
受益と
負担の
関係が不明確ということに当然なりますので、これは
一般会計と区分して整理する
必要性に乏しいということで、
特別会計としては
設置すべきではないというふうな結論に至ろうかと思います。
次に、二つ目の
設置要件の考えられる場合といたしまして、
特定の
資産及び
負債の
管理を行う場合というものが挙げられるかと思います。
現行財政法及び
一般会計というのは、これも繰り返しになりますけれども、
歳入歳出という
現金収支、
フローの
管理に特化しておるわけですけれども、
財政活動の現代的変容、これは何を
意味しているかといいますと、
フローの金額に対してストックの金額が相対的に非常に大きくなってきていると。これはよく言われるところでございまして、
一般会計が、これはもちろん
フローですけれども、
歳入歳出規模が八十兆円前後に対しまして、国の
資産の金額が言われておるところでは七百兆円弱ございます。もちろん
負債はそれよりも多いということですので、こういった
フローの金額に対してストックが非常に大きく積み上がってきている場合にストックの
管理をどういうふうに行っていくのか、特にこの
資産、
負債というものをどう
管理していくのかというのが
財政運営上非常に重要になってきているということであります。
例えば、比喩が適切かどうかはありますけれども、生命保険会社と同様に、
巨額の
年金資産と責任
準備金、これは
負債でございますが、これを抱える
公的年金財政ですとか、あるいは
多額の
金銭債権を保有する
財政融資資金、あるいは
外貨建て資産を
多額に保有いたします
外国為替資金などがこれに該当するのではないかというふうに考えられております。
逆に、上の①、②の
要件を満たさない
特別会計が現在存在するというふうに考えられるわけですけれども、原則としましては、やはり
一般会計への
統合、あるいは
独立行政法人化、さらには
民営化等も検討すべき段階に来ているのではないかというふうに考えております。
なお、
一般会計への
統合の場合といいますか、
統合をするということを検討する場合に、新たに
一般会計に区分勘定を
設置してというふうな御
意見も見られるところでありますけれども、一覧性、総覧性、要は
特別会計というものが
一般会計とともに一覧することができないという問題点が現在あるというふうに
指摘されておりますけれども、その点に関する解決策にはもちろんなり得るわけですけれども、一方で、
一般会計というのは
歳入歳出を総額として
管理すると。
歳入歳出を
特定の費目に結び付けないという
意味で、
一般会計の主要機能といたしまして総体補償機能というような申し方をするわけですけれども、これを阻害することになるリスクも逆に存在するという点には留意が必要だと考えております。
では、次に参りまして、次は、
特別会計に関します
財務情報の開示について若干
意見を述べさせていただきます。
一つ目といたしましては、
国会での議決を要する
予算の範囲ですね。それから、
国会提出
資料の範囲を拡大すべきではないかということでございます。
ちょっと、
現行法上の
財政法十六条と二十八条の規定の一部を抜き書きしておりますけれども、
財政法上、
国会での議決を要する
予算というものはこういうふうに定義されております。
予算は、
予算総則、
歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び
国庫債務
負担行為。基本的には、先ほど申しましたように、これは
歳入歳出を中心としておりまして、
フロー、
資金の
フローをターゲットとしているということでございますが、また、二十八条の
国会提出
資料につきましてもやはり
フローが、
歳入歳出という
フローがメーンになっております。
そういう
意味で、下にポツが付けてございますけれども、
特別会計の主たる機能が
資産、
負債の
管理にあるというふうに考えるとすれば、
国会での議決を要する
予算の範囲については、例えば予定貸借対照表あるいは予定財産目録ということでございますが、これらを含めまして、
フロー及びストックに関する
会計情報を両方とも含む通常の財務諸表にまで拡大すべきではないかと考えております。その場合、もちろん財務諸表の作成、開示に関する一律の
会計基準というものが必要になってまいります。
なおといたしまして、次のポツですけれども、
決算情報といたしましては、財務省・
財政制度等審
議会等の御努力もありまして、現在では
省庁別財務書類あるいは国の財務書類というものが公表されております。しかしながら、
国会における
予算審議に提出される
資料といたしましては、その作成、開示に関する
会計基準はいまだ存在しておりません。したがいまして、
特別会計ごとにあります個別の
設置法に従いましてばらばらに情報が開示されている状況にとどまっているということが言えようかと思います。
また、現在のところ、
決算情報といたしましても、もちろんまた
予算情報といたしましても、
財務情報が適正であるかどうかという点に関しましてきちんとした監査というものが物理的にも不可能であるというような状態にあるということは
指摘できようかと思っております。
その次の点でございますが、ではそういった組織の
在り方をどうするかという点に
関係してまいります。
ただし、私は元々役人をやっておりました。したがいまして、組織の
在り方についてどうこう申し上げるつもりはございません。役人というものは与えられた組織と
目的の範囲内でそのパフォーマンスを最大化すべき存在であって、自らの組織の
在り方について口を出すべきではないと考えるからです。役所の組織の
在り方は
政府のガバナンスそのものに直結するというふうに言えますので、その責任を負うべき立場にある政治がお決めになることだと考えております。
したがって、ここでは先進各国の例を簡単に御紹介するにとどめますが、
財政運営のプレーヤー、各
省庁と、アンパイア、基準設定及び監査
権限を有する主体の
権限と責任を分離独立させている点には留意が必要だというふうに考えております。
では、次に参ります。
次に、一覧性、総覧性を備えた
政府全体の
財務情報の作成、開示という点でございます。
これは
特別会計に限らない
部分も含みますけれども、
特別会計の
改革におきましても、主権者たる
国民に対する
政府の責任の
明確化、これ
会計用語ではアカウンタビリティーというふうに申しますけれども、このやはり重要性ということを強調しておきたいと考えております。
一つ目のポツですけれども、
決算情報のみならず
予算情報としても
一般会計及び
特別会計を連結、合算及び内部取引の相殺消去をいたしまして、一覧性、総覧性を備えた
政府全体の
財務情報を作成、開示すべきだというふうな
意見を持っております。
もちろん、
特別会計というのは
会計学上は
一つの
会計主体というふうには考えられておりません。むしろ、国という
一つの法人格を持ったものの中に存在する勘定区分にすぎないというふうに考えておりますので、この
一般会計、
特別会計を無理に分けて考える必要はないと考えておりますけれども、いずれにいたしましても、
政府全体の
財務情報というものが一覧性、総覧性を持って、正に
決算情報のみならず
予算統制上もきちんと開示されていくことが必要であるということでございます。
最後に、これも
一つの
意見でございますが、
政府の
財政政策におきまして、従来重視されてきました
歳入歳出という
フローの
管理に加えまして、
資産、
負債というストックの
管理を同時均衡的に行う
公会計の手法を導入すべきではないかというふうに考えております。
現在、
政府の方でも
歳入歳出一体
改革に向けまして検討が進められているところでございますけれども、
資産、
負債というストックの
管理というものが、先ほど申し上げました
財政運営の現代的変容の中でやはり重要性が増してきております。
下にちょっと小さく書いておりますけれども、
資産とは現役世代のみならず将来世代も利用可能な資源を
意味します。その一方で、
負債というものは将来世代に先送りされた
負担を
意味します。したがいまして、
政府が自ら保有する
資産、
負債を
管理するということは、現役世代と将来世代との間で時間軸上の
資源配分を行うことというふうに言い換えることができます。
公会というものは、言わば将来世代の声なき声を客観的な数値で示すことによって、現在及び将来の
国民の間での
受益と
負担の公平を図るための
会計の技術であるというふうに考えております。
以上をもちまして、私の
意見陳述を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。