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参考人(
脇坂明君) 学習院
大学の
脇坂でございます。
私は、アカデミックに
女性雇用、
女性労働に関してだけ三十年間研究してきた人間でありますが、当時、三十年前ぐらいで
男性で、
女性問題は大体
女性研究者がやるんですが、当時は非常に珍しい存在でした。最近は
男性でも
女性雇用をするんですが。それで、時々によって
テーマはいろんなことをやってきたんですが。
パワーポイントを使って説明させていただきます。(
資料映写)
現在、私が考えております重要な四つのポイントは、ここに、パワーポイントに挙げた四つだと思っています。
お二人の
参考人からもよく出てきましたように、ワーク・
ライフ・
バランス、
仕事とあと生活の
両立ということで、いろんな
企業でそういう施策をやっている、それが一番目。二番目は、
女性の再就職、M字型、ここでの再
雇用といった問題。それからパート能力開発。ちょっと
女性に関係ないようですけれ
ども、僕は間接的に大きく関係あると思っているんですけれ
ども、職業能力評価
制度。それぞれ私なりの考えがあるんですが、ちょっと時間の関係もありまして、焦点を絞るために一番目のワーク・
ライフ・
バランス、特にそのワーク・
ライフ・
バランスがなぜ、これ
企業戦略と考えられますから、ワーク・
ライフ・
バランス施策と
企業の生産性とか業績とか、こういった関連の、これはよく
企業の人事の方とか、あるいは
労働組合の幹部の方とか、その関係はどうなっているのか、よく聞かれますし、それから海外の研究もこういった
テーマが爆発的に増えてきました。ということで、今日はそういう
データが手に入りましたので、それのちょっと研究の一環をここで紹介してみたいというふうに思います。
それで、ファミリーフレンドリー
企業といった、ファミリーフレンドリー
企業というのはどういうものかというと、単に
従業員のニーズだけでなくて、そういう
育児休業とか
育児短時間勤務を入れることが人材確保につながったり能力発揮につながって、簡単に言うと、先ほどの
佐々木参考人もおっしゃいましたように、もうかる、
企業がもうかる、長期的にはもうかるという戦略であります。それは、
男性だけで、
専業主婦のいる
男性だけで
従業員が成り立つよりも、いろんなタイプのキャリアを持っていた人がいた方が
企業にとって生産性が上がると。ここもダイバーシティー、多様性、ダイバーシティーマネジメントと言うんですが、そういったものとも大きく関連します。
用語の説明を何にもやってないんですが、これも研究者によって違うんですが、ダイバーシティーというのが僕は一番広い概念だと思ってまして、いろんな人種を雇う、いろんなキャリアの人を雇う、その中にワーク・
ライフ・
バランスがあって、ワーク・
ライフ・
バランスの中に、これからちょっと中心になりますファミリーフレンドリー、これが、ファミフレ、ファミフレと略しているんですが、そのファミフレと、
独身者にとって生活との
バランス、こういったものが入るというふうに思います。
それで、なぜそういうファミリーフレンドリー施策が重要かというと、先ほど
坂東参考人からもお話がありましたけれ
ども、
子供を産んだ後、継続して就業する人の割合というのは増えてないんですね、むしろ減りぎみといいますか、二〇%から二五%であるというのがこの
データから分かると思います。増えてはないんです、決して。
ただ、
育児休業利用者は非常に増えていまして、だから、二割から二五%のうちの
育児休業を利用する人が増えたというにすぎないわけでありますね。今まで
育児休業を取らずに頑張っていた
女性の代わりに、
雇用保険から四〇%はお金が出るとかいうことで増えてきたと。そうすると、大半の、八割とか七五%の
女性、出産を契機に辞めてしまう。でも、その
人たちのアンケートを取ってみると、職場がもっと働きやすい、出産しても続けることが可能であれば働き続けたかったというのがやっぱり圧倒的に多いわけです。そうすると、先ほど言いました、ファミリーフレンドリー、ワーク・
ライフ・
バランスの職場に変わっていけばまだまだその可能性はあるということであります。
問題は、そういった
女性が出産して
子供を持って働き続ける職場、そういうふうなキャリアを持った
女性を多く抱えたときに、
企業は本当にもうかるかと、生産性が上がるかと、落ちるんじゃないかと、業績が下がるんじゃないかと、こういうことであります。これが非常に、人事の人も
労働組合の人も研究者も非常に
興味のあるところであります。
それでちょっと行きますけれ
ども、そのとき、こういう図をよく僕使うんですけれ
ども、
企業の戦略ですから、均等度、男女の均等が進むということとファミリーフレンドリーの度合いが進むということとは私は違うというふうに思っていまして、こういうマトリックス、四つの象限が作れると。均等度は高いけれ
どもファミフレ度が低いとか、
女性が
男性並みに働いているような第四象限にある
企業、あるいは男女全然別々なんだけれ
ども、
女性が
育児休業を取って働き続けることができる第二象限とか、また第一象限、第三象限、どっちも高い、どっちも低い。こういったそれぞれの
企業のタイプが実を言うとあります。
この観点で見ていく必要があるということを前から思っていまして、ここに書かれているのは僕の予想だったんですけれ
ども、こういったことの
データがやっと手に入りました。それは、ここに、二〇〇五年にニッセイ基礎研究所がやった
データでありまして、これも僕が研究会の
委員になって、有効回答四百四十六社しかないんですが、初めて
企業の業績、財務諸表からの業績とか、それと
雇用管理、いろんな
雇用管理
制度があるかどうか、
育児休業を取っている、
育児休業
制度があるかどうかとか、いろんな
制度を設けてですが、それから男女の均等、本当に
女性管理職は何人いるかとか、そういう
データを作りました。
この
データによって、そこに書いています均等度、ちょっと専門的になっちゃいますけれ
ども、均等度はこの八項目から作り、それからファミフレ度は
女性既婚者比率とか、出産しても何人ぐらいの人が継続するかとか、それぞれのいろんなファミリーフレンドリーの
制度があるかないかという
データで均等度とファミフレ度を作りました。
それで、業績です。業績もいろんな業績を取りました。主観的、その
会社の人がどう思っているかという、同業他社に比べた生産性が高いかどうかとかいう主観的な業績と、それと実際の財務
データを取って、アンケートした
会社の財務諸表を調べて、十数年の
データを取って業績と。先ほど言いました、つまり
女性活用とかファミリーフレンドリーの関係と
会社の業績はどうなっているのかということ、これを調べてみました。
結果が、これは均等度、ファミフレ度のものは、これは平均値で第一象限、第二象限、第三象限、第四象限分けたんですけれ
ども、大体その予想どおりの形になって、問題は業績です。業績がこれ、この辺の主観的な業績が必ずしもそんなに四つの象限で差が出なかったということです。しかしながら、この
データは、ここの財務
データ、均等度もファミフレ度も高いところは売上げはそんなに変わらないんです。むしろ均等度もファミフレ度も低い
企業が売上げが高いんですが、
企業にとって一番重要な指標としている経常利益、一人当たり経常利益は断然、均等度もファミフレ度も高い結果が表れて、その他の三つの象限よりも低いという、非常にこの結果が出たときはうれしかったんですけれ
ども、論理的には二つあるわけですね。
均等度、ファミフレ度を高めると、なおさら
企業にとってコストになって業績が落ちる、生産性が落ちるという考え方と、でも、いいいろんなキャリアを持った
女性も、有能な
女性を
従業員に抱えて業績が上がるという両方の考え方があるわけですけれ
ども、少なくとも経常利益に関して言うと、非常に何といいますか、均等もファミフレも高い
企業ほど経常利益は高い。それで、それ以外の、これ、売上げ増加率はやっぱり駄目なんですけれ
ども、むしろ均等度、ファミフレ度高い、売上げ増加率は駄目なんですけれ
ども、経常利益変化率はこれ非常に高い、第一象限が高い。均等度もファミフレ度も伸びている。均等度もファミフレ度も高い
企業ほど伸びているということがこの
データから分かりました。
それから、これも一人当たりの経常利益変化額、絶対値なんですが、これでも高い。非常にとにかく、経常利益という
企業にとって一番重要な利益の指標が、現在でもそうですし、過去の変化でも均等度、ファミフレ度の高い
企業ほど伸びているということが分かりました。
それで、一応個別に、いつそういうファミリーフレンドリーの
制度を導入したかも聞いていますので、あるいは均等施策導入したか聞いていますので、仮説は、古く入れた方が業績指標が高いという仮説をしたんですが、これはなかなかうまく出ませんでした。ちょっと推計の方法にも問題があったんですけれ
ども、必ずしもここはうまく出ませんでした。
あと、
労働組合の効果なんですが、これは僕、過去もこういう研究をやっているんですが、大体すべて、今回の研究結果もそうだった。
労働組合はファミフレ度を高めるんです。
労働組合のある
企業は
労働組合のない
企業にとっていろんなファミリーフレンドリーな
制度、ところが均等度は低めるんですね。普通にやっちゃうと均等度は低めると。
労働組合のある
企業ほど均等じゃないという。
あと、しかしながら、さっきちょっと言いました第一象限、均等度もファミフレ度も高い
企業は大体
労働組合がありまして、それは非常にやっぱり効果を持っているということが分かりました。
これまでの研究結果を、このワーク・
ライフ・
バランス研究が海外でも非常に増加、日本でも少しずつ増えているんですが、
データによる限界というのがありまして、だから、ファミリーフレンドリー施策とかワーク・
ライフ・
バランスを充実させたから業績が上がったのか、業績の良い
会社だからワーク・
ライフ・
バランス施策を充実できるか、この因果関係がやっぱりはっきりしないわけです。
ところが、我々が先ほど使ったニッセイ
データでは、十数年分の
データ、いわゆるパネル
データ、ある
企業をずっと追っていくという
データですので、それが一応因果関係が分かるわけです。これは日本でもある
意味では初めての研究で、その同じ研究会のメンバーの阿部、黒澤という研究者の研究結果によると、
育児休業
制度とか
育児短時間勤務
制度を入れた
企業は、短期的には売上げを始めちょっとパフォーマンスが下がるんです。でも、長期的に経常利益とか
雇用とか売上げが上がっていると、そういう研究結果が分かっております。ですから、今度我々がやった研究では、ワーク・
ライフ・
バランスを充実させると長期的に業績が上がるということが示せたということに一応なっております。
こういう話と政策との関係であります。もし、こういうふうに長期的に均等にしてファミリーフレンドリーの施策をどんどん
企業が入れればもうかるのであれば、政策的に別に何にも介入しなくてもいいわけです。それは一生懸命
企業に啓蒙、啓蒙といいますか、啓発して、もうかりますよと言う。ところが、なかなかそれは実際うまくいかないわけでありまして、やっぱり二つの問題がありまして、
企業のトップが幾ら思っていても、むしろトップの意向というのは非常に重要なんですが、やっぱりやり方が、職場レベルで実際に何か均等に、均等施策をやっていく、
女性の部長とか課長を三人から五人つくっていくとか、あるいは既婚の
女性で
子供のいる
女性を重要なポストに就けていくと、これやり方がはっきり分かっていないということがあります。
それともう
一つは、僕のこれまでのいろんな職場での
調査から見ますと、やっぱり
法律とかそういうものがあった方が、いろいろやっぱり職場で何か変えようというときに、職場が非常にやっぱりもめるといいますか、もめるんですね。でも、これ
法律で決まっているとか、こういう
政府の補助金、こういうことをやったらいいというものがあったらやっぱり非常に動きやすいというふうに、よくまじめにやっている、そういう均等施策、ファミリーフレンドリー施策をやっている
企業はそういうふうに言われます。そういう
意味では、
法律の効果あるいは
政府の公共部門の介入の効果はあると思います。でも、余りに規制すると
企業の持ち味というのはやっぱり、
企業がフレキシブルに
対応するということを損なわないようにしなければならない。
最初言いました具体的な、具体的な職場でどうすれば本当に均等施策、ファミフレ施策というのが有効に根付いていくのかと、それをやっぱり言わないと駄目だなというふうに思っていまして、私は、基本的にはポイントは、少なくとも、このファミリーフレンドリー施策の中心である
育児休業の利用者がいても十分
対応できるということと、
育児短時間勤務を始めとして、別に
育児、介護によらず、短時間勤務の人が、
従業員が増えてきても十分
対応できる道筋をやっぱり研究しないといけないということでそういう研究もずっとやっていまして、これ最近の内閣府の
調査で、管理職に対する
調査で、部下に
育児休業の利用者がいたとき、その人の休業の
仕事、休業した人の
仕事はだれがやったかという、これ代替要員問題というんですけれ
ども、これはやっぱり非常に重要なんです。
いろんな
調査見ても、
育児休業がなかなか普及しない
理由として、
男性でも六割ぐらいの人が
育児休業取りたいと言っているんです。でも、やっぱりその取れない
理由は、
自分が抜けた後職場どうするんだという、これ代替要員問題というのは非常に重要なんで、これ管理職の
調査で見て、じゃ
仕事をだれが引き継いでいるかを見ると、新卒とかパートとか派遣はそんなに多くないんですね。圧倒的に多いのは職場の複数の正社員、職場の複数の正社員というのがやっぱり多いわけです。
簡単に言いますと、その人の
仕事、休業を取った人の
仕事を分割して、ある部分はだれかに、ある部分はだれかに、こういうふうに僕が実際に、まあ数少ないですけれ
ども、十ぐらいの例で職場
調査をしましたけれ
ども、大体そういうふうにやっています。この部分の
仕事はこの人この人と。それは、非常にうまくやっているところは、その人の能力開発だけでなくてそこの職場の生産性が、一瞬は短期的には低下するんですが、なるべく低下しないような形で人を動かしていくということで、それで、私はこの代替要員のやり方で名前を付けていまして、分担方式と順送り方式という形で名付けていまして、こういう実際の職場の
調査から、分担方式というのは、一人が休んだ後だれも埋めなくて周りの九人でカバーするというのが分担方式で、順送り方式というのは、ある人が休業を取った後は順番に、その能力は下なんだけれ
ども、その下の人から埋めていくと。
実際は、こういうふうに僕、分担方式と順送り方式というふうに名付けてみましたけれ
ども、先ほど言いましたように、実際はこの分担方式と順送り方式の組合せなんです。だから、ある部分の
仕事はそこにいる仲間の同じようなレベルの人がやって、ある部分の
仕事はこういうふうに上がっていくと、そうしたらこの人の能力開発にもつながると、こうすると職場の生産性の低下が最小限に抑えることができる、この人が、有能な人が休業明けで復帰すればまたその
仕事をきちっとやってもらうという形、こういう形が私は、積み重ねていけば、非常に小さな細かな話のように見えますけれ
ども、これが割と重要なんです。
これが、基本的にはもうブルーカラーの職場にしろホワイトカラーの職場にしろ、この積み重ねが、これがだから短期的にでも生産性が、
育児休業の人がいる、あるいは
育児短時間勤務の人がいる、そういう人が一人でもいると非常に職場が、それの生産性が落ちてしまうというふうに思ってしまうと、取りづらい雰囲気に持っていく、駄目だよねという話になってしまうわけです。それは、休業は取れっこないよとか、短時間の
仕事はできっこないよという話になってしまう。こういう工夫を積み重ねていくことが、あるいはそういう積み重ねてきた
企業が、先ほど言いましたように、長期的には少なくとも経常利益という利益の上昇につながっているんじゃないかというふうに思っています。こういうことを、啓蒙啓発だけではなくて、先ほど言いました何らかの公共部門、
法律とか規制とかという形でやっていけば日本の競争力はまだまだ大丈夫だというふうに思っております。
以上でございます。