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参考人(勇上
和史君) 労
働政策研究・研修機構の勇上と申します。本日は、このような機会にお招きいただきまして、どうもありがとうございます。
私は、労働
経済学という分野を専攻しておりまして、本日の
経済及び
所得格差問題ということに関しましては、特にその
所得格差の数値の
水準とその見方につきまして
最初に御説明申し上げます。それから、
所得格差の大きな構成要素として言われております賃金につきましても、その文脈から賃金
格差の
一つの動きにつきまして後ほど御説明申し上げたいと思います。
基本的には、お
手元にお配りいたしましたパワーポイントのレジュメで御説明申し上げます。(
資料映写)
まず、私の
報告ですけれども、一番
最初に、
所得格差が今注目されている、その一番注目されている数値について
最初に見ていきたいと思っております。
レジュメで言いますと三ページの、最近二十年間の課税前の
所得格差というところ、図一というところをごらんいただきたいと思います。
図一を見ますと、これはよく使われますけれども、
所得格差の、
格差の程度を示す
指標といたしまして、ジニ係数という数値を使います。これは、ゼロから一の間取りまして、数値が高いほど
格差が大きいというふうに理解するわけですが、代表的な
所得統計を
四つから
格差の
水準を見ていきますと、一番まあ目立っておりますのが図一の緑の
所得再分配
調査による
所得です。これを見ていきますと、一九八〇年の〇・三四九という
水準から、一番最新年であります二〇〇一年の〇・四九八という
水準まで、特に〇・四九八という数値は非常に高いということで、非常に注目されております。
それから、その他の
数字ですけれども、青い
グラフというのは、同じように、全
世帯の間でどれぐらいの
所得の
格差があるかというものを見たものです。それから、赤い
グラフと四角い黒い点の
グラフは、二人以上の
世帯でどれぐらいの
格差があるのかというのを見たものです。
当然ながら、全
世帯の
格差というのは非常に数値が大きくて、二人以上だけに限っていきますと少し均質化されるということで数値が小さくなっておるわけですが、すべての
指標を、
調査による
データの動きを見ましても、やはり八〇年代の後半、バブルのころですが、八〇年代の後半と九〇年代の後半に非常に数値の
上昇というのが見られると。特に注目されております、その
所得再分配
調査というのがマスコミでも特に注目されておりますが、この
数字を見ますと、直近の〇・四七二という九八年の数値から〇一年まで、非常に急激なカーブを描いて拡大しているように見えるということがまずございます。
この数値に関して非常にいろんな議論が起きたわけですけれども、ところが、五ページ目、レジュメの五ページ目に、やはりその数値の見方について私の方からひとつ、注意点といいますか、を申し上げたいと思います。
まず、
所得の定義が違うということがよく言われます。
所得再分配
調査と、先ほど非常に数値が高い、
格差の
水準が高い
調査の
データがありましたが、この数値は、高齢者について特にそうなんですが、例えば
企業から退職する人については退職金を含むと。ほかの
調査では退職金というのは計上されません。ですから、リストラなどが進んで
希望退職あるいは早期退職が進みますと、その人が一時的な
所得が物すごく多くなるという
傾向があります。
それから、
所得再分配
調査の当初
所得というのは
社会保険の給付を含まないと。ですから、
企業を引退しますと、年金をもらっている人が当然増えてくる、そういった
人口が増えてくるわけですが、そういう
人たちの
所得がこの定義によりますとゼロ円になってしまうと、極端に言いますとですね。ですから、高齢化が進んで
企業から退職する人が増えますと、一時的に非常に退職金を取って、もらって大きな
所得を得た人と、その一年後にはゼロ円になってしまうというような
人たちが増えるというふうな見え方をしてしまいます。ですから、
所得の定義が違いますよということをまず強く注意点としてあるんですが。
それからもう
二つ、これはもう皆様、先生方もう十分に御承知のことかと思いますけれども、この
所得の
格差の
指標が拡大していることについては、やはり
二つの点を考慮して本当に
格差が拡大しているのかどうかというのをチェックした方がよいという注意点がやはり挙げられております。
一番
最初の、
二つのうちの
一つ目ですが、レジュメの五ページの真ん中辺りに文章が書いております。まず、
人口の高齢化の
影響が非常にあると。これは、厚生労働省の方でもあるいは内閣府の方でも最近こういった説明を多くなされていると思いますが、改めて私の方から申し上げますと、同じ年齢の中での
格差というのは、若い人から年を取った人の中をそれぞれ見ていきますと、年齢が上がるほど
所得格差というのは拡大すると。それは先ほどの
山田先生の御
報告にもありましたが、今でも若い人の
格差の方が年をいった人の中での
格差よりも小さいと。そうしますと、
格差が大きなグループというのが
人口の高齢化で増えていきますと、全体の
格差というのも拡大しているように見えるというのがまず一番目です。
それからもう
一つですが、核家族化が進んでおりますし、
若者については単身
世帯が増加しております。そうしますと、一人
当たりの
所得が低いような
世帯というのが、やはり
世帯が小さくなっていくと増えてくると。
ですから、そうした
人口の高齢化、我が国は非常に高齢化の
スピードが速いと言われておりますが、そういった高齢化と、それから各家族単位が小さくなってくると、
世帯構成の人数が少なくなってくるといったことが、
二つをやはりチェックしてから
格差の動向というのを見ないといけないだろうというふうに思われます。
その後のお話は、では、この
二つをチェックした後に、
格差は拡大しているのかいないのかということがやはり最も問われるだろうというふうに思っております。
そのお話を申し上げますけれども、私は、ここでは真の
格差というふうに記しております。
二つ、最近、
データを、元々の
データを駆使しないとなかなかこういった計算ができないんですが、
二つの推計があります。
まず、全
世帯の動向については厚生労働省が、先ほど使いました
調査の
所得の
データを使いまして、
二つの
時点で
格差を比較するには、やはり
世帯の年齢が変わってしまうこと、それから
世帯の構成が変わってしまうということは取り除いた上で計算した方がいいということでやっております。
この結果を見ますと、一九九五年と九八年の比較では、見た目上は七%拡大しているように見えるけれども、
世帯の年齢構成、それから
世帯の構成、単身
世帯の数とかですね、そういった構成を調整しますと、同一にしますと、七%から三・二%へと減ってしまうと。それから、九八年から二〇〇一についてはもう少し細かく調整をしておりますので更にその効果が大きく出ておりまして、前の年と、前回の
調査と同じ年齢構成、
世帯構成であるとするならば
格差は〇・六%の
上昇にとどまるということで、こういったことが最近
資料として出されているわけですが、しかしながら、〇・六という
数字を大きいと見るか小さいと見るかはありますが、拡大しているということは言えるかと思います。
それから、二人以上の
世帯に関しては大阪
大学の大竹文雄教授が研究なされております。少し、時間がございませんので結果だけ申し上げますけれども、レジュメの七ページにそうした結果を載せております。やはり同じように、年齢別に見た方がいいと。高齢者のウエートが、比重が増してくると見せ掛けの
格差の問題がありますので、年齢別にどの年齢で
格差が拡大しているのか見た方がいいと。さらに、一人
当たりに近いような、
世帯の人数で割ってあげた
所得を見てあげた方がよいと。そうすれば
二つの
影響というのはなくなるだろうということをやっております。
結果ですが、九四年までの結果では、このコントロール、制御をしますと、ほぼ縮小若しくは横ばいであったと。ところが、九四年から一九九九年にかけては、大竹教授の結果によりますと、二十歳から三十歳の辺りの年齢の一人
当たりに近いような
所得が拡大しているということが分かっております。最新の
全国消費実態
調査をやっております総務省の結果でも、これに近いような二十代の
格差というのが出ております。
ですから、各論としては、やはり拡大している層があるというのが私の
報告の一点目の結論でございます。
その各論として拡大しているところは何かということがレジュメの十ページの図四というところに記しております。先ほど、若い層で
所得の
格差が拡大していると申し上げましたけれども、これはやはりこの図の四についても言えるということを示しております。
グラフがカラーでないので恐縮なんですが、やはり大竹先生の結果をここでは引用しておりますが、
グラフが右上がりになっているものが
一つ、あるいは九〇年代後半に関して
二つあるかと思います。一番上がっておるのが二十代の前半、それから最近もう
一つ上がっているのが二十代の後半というものです。これは、全
世帯の、百人いるとしますと五十番目の人の
所得の、つまり真ん中ですから、真ん中のその半分以下しかもらっていない
世帯はどれぐらいの割合あるかというのを年齢別に見たものなんです。そうしますと、若い人のところで、全
世帯の中央値、真ん中の更に半分以下しかもらっていない人が四割ぐらいいるというような形で、しかもその数値が上がってきて四割ぐらいになっているということを示しております。
私は、こうした若年層に見られる
格差拡大の背景としては、非常にオーソドックスな見解かもしれませんが、やはり正社員と非正社員の就業機会、それからその中に見られる賃金
格差というのが原因であろうということをこの
報告では後半で示させていただいております。
その若い人の就職というのは、やはり入口の問題でかなり左右されていると。レジュメの十一ページ、十二ページというのは、内閣府の
データを引用してきまして、高卒者の進路、大卒者の進路というのを見たものですが、やはり九〇年代後半に高卒についても、進学者が増えたということもありますが、就職率、
グラフの青い
数字ですが、下がってきていると。大卒についてもやはり九五年ぐらいに、図の六というのを見ていただきますと、青い
グラフの
数字が九五年にがくんと、就職者
比率が六七%、以前は八割だったんですが、六、七割に下がったということで、入口が、正社員に関して、あるいは就職するということに関して、かなり九〇年代の後半、半ば以降に
格差が広がっていると。特に、ここで挙げているフリーターというのは就職も進学もしなかった人なんですが、その
比率が就職者に対して大体半分、半分弱ですね、ぐらいの
比率で上がってきていると。
そうして就業機会が入口でまず違ってきますと、十三ページに、非常に急ぎ足で恐縮なんですが、十三ページに掲げております正社員とパート、ここでは時間が短い労働者という
意味でパートを使っておりますが、そうしたその賃金
格差の
影響を完全に反映してしまうだろうと。
例えば、年齢別に男性のものを見たものが十三ページの図の七ですけれども、例えば、十七歳あるいは十八歳、十九歳のところでは、仮にボーナスを含んで時給を換算しましても、正社員一〇〇に対して短時間のパートと言われる
人たちは八、九割はもらっていると、時給換算で、年収で。ところが、二十代の前半あるいは二十代の後半というふうに年齢が上がっていきますと、この
数字が七〇%になり、六〇%になりということで、当然ながら正社員は勤続の年数に応じて賃金が上がっていくわけですが、パートに関しては賃金が勤続に応じて上がっていくということは非常に弱いと。ですから、
二つの差というのはどんどん、
企業内で勤続、同じように
長期化していっても拡大していってしまうということが
現状でございます。女性についても同じようなことが言えます。
私は労働
経済学というのを専攻しておりますので、
意識については非常に素朴なことしか申し上げられないんですが、最後にレジュメの十五ページで
意識について申し上げたいと思います。
やはり、そうした就業機会の
格差というのが拡大しておりますと、
若者については失業の不安、失業の
リスクというのを感じる人というのが増えているということが現れているのではないかというのが十五ページの図の九ですね。男性についても女性につきましても、特に若年者で拡大して、不安
意識というのが広がっていると。
それから、仕事の満足度ですけれども、やりたい、やりがいのある仕事に就けるかどうかということですが、十六ページの図の十を見ますと、やはり一九九九年と二〇〇二年の比較で不安
意識というのは少し高い、若年層で高まっているだろうということです。こうした
格差の、客観的な
格差の拡大とそれから主観的な不安
意識というのは、やはり若年層に関してはリンクしたものが見られるのではないかというふうに思っております。
私がこの
格差の拡大の問題に関して最後に十七ページで申し上げたいのは、やはり就職の機会、新卒一括採用という
雇用慣行の中で就職の機会というのが若年層についてはずっと低下
傾向にあったと。それが非常に長く続いたわけですから、一方では
長期不況ということで言えるかと思うんですが、しかし、
景気回復しても、そこで正社員になれなかった層、あるいは選ばなかった層もいるかと思いますが、そうした層がここで訓練を積まなければ、次に
景気が良くなっても簡単には正社員に移行したり、あるいは昔の、賃金が
上昇するようなカーブのところに乗ってきたりということは非常に難しいと。そうしますと、行く行くは生涯の賃金が全く違ってくる。それから、それが子供の
教育投資なり、あるいは結婚するかどうかにも既に
影響があるというふうに言われておりますが、そうした構造問題、次の世代の問題も含めて
長期的な問題になり得る、つまり構造問題への転化が懸念されるであろうということです。
私は
雇用の問題について特にふだん研究しておるものですから、
所得格差という非常に大きな問題から最後に提言が非常にミクロな問題に近い提言になってしまいますが、やはり
長期不況の
影響を受けるというのが若年層に一番行くということは
先進国共通して言われております。
そうしますと、やはり多様な入口というのを保障する必要があるだろうと。非正社員化の波というのは非常にトレンドとしては高いですが、じゃ、正社員にならなかった層、なれなかった層については、一方で戦力化していこうという
企業の動きはございます。大体三、四割の
企業が正社員に登用するという制度を設けておりますし、私が
調査した中でも、いい人を、その中から何度も来てもらって、契約社員と言われる人の中で何度も来てもらって正社員を勧めるというふうなことをやっている
企業も、メーカーあるいは小売業、あるいは福祉関係ですね、限らず出てきておりますので、そうしたものを推奨する、グッドプラクティス、良い事例を発掘して啓発していくということが必要だろうと。それから、正社員が一方で非常に仕事がきついということがありますから、多様化の話も、正社員という中でいろんな層をつくっていく必要があるんではないかということも述べております。
また、
雇用保障が不安定であったり、あるいは能力開発の機会が限られているということがございますので、それは個人にお金を費やして
教育開発、訓練するということが難しいことであれば、政策によってそれを訓練、支援していくといったこともやはり非正社員から正社員へ、あるいはスキルアップということに関して政策的にできることがあるのではないかということで考えております。
以上でございます。