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参考人(
早川光俊君) どうも今日は本当にこういう
機会を与えていただき、ありがとうございます。CASAという団体の
早川と申します。(
資料映写)
CASAの説明は一枚目のパワーポイントに書いてありますけれ
ども、一九八八年に設立しました。カサブランカという町がありますけれ
ども、あれは白い家という
意味だそうです。カーサというのは家という
意味で、地球は私たちの家であるということで、この英語略称を使って、今は特に主として地球温暖化問題に取り組んでいます。何をしているかはお読みいただけたらというふうに思います。
今回の法改正への
意見ですけれ
ども、
京都メカニズムの活用に関する事項を定めて、割当量口座簿を法制化することが必要であると考えています。そういう
意味では、改正に賛成です。
しかし、
幾つか御
意見を申し上げたいんですけれ
ども、
一つは、
京都メカニズムに安易に頼るのでなくて、国内対策で
削減することを最優先すべきであるというのが
一つ目です。それからもう
一つは、
京都メカニズムを利用するにしても、その基本的な
考え方、買い取る
クレジットの適格性、質の問題というふうに明日香さんはおっしゃいましたけれ
ども、そういう問題についてのきちっとした議論がなされるべきだというふうに考えます。
京都メカニズムは、御
承知のとおり、排出量取引、共同実施、クリーン開発メカニズムという三つの
制度があるわけですけれ
ども、これは、
京都メカニズムという言い方はCOP4以降こういうふうに呼ぶようになりました。それまでは柔軟性措置という名前で呼ばれ議論されていたわけですね。要するに、国内対策で
削減義務が達成できない場合に、海外で
プロジェクトをしてその
削減部分をカウントしたり、海外の排出枠を買ってきたりということとして議論をされてきた。私たち
環境NGOは、こういったものは運用次第で抜け穴になりかねないとして、その導入に反対していました。現在でもそのおそれはなくなったとは思っていません。
そういった議論の経過もあって、実際に
京都議定書が作られたときに、共同実施、排出量取引については補足性、補完性とも言いますけれ
ども、補足性というものが規定された。クリーン開発メカニズムについても、約束の一部の遵守に資するためという規定が入ったわけですね。この補足性について、数値的にこれを、補足性を表現するかどうかということが随分議論になって、結果的には質的な、定性的な表現にとどまったわけですけれ
ども、こういった議論があったことを私たちは忘れてはならないんだろうというふうにまず考えます。
そして、京都で
京都議定書が合意されて、それから四年間にわたる運用
ルールの議論があったわけですけれ
ども、この運用
ルールをめぐる議論の中心は、この
京都メカニズムの抜け穴、いわゆる実質的な
削減にならない
制度にしないための
ルールづくりであったこともやはり御
留意いただけたらというふうに思います。
私たちは、
現時点で
京都メカニズムについては、もう決まったことでもありますし、これをきちっと活用していくべきだと考えています。四年にわたる議論の結果合意された運用
ルールというのは、抜け穴が基本的に排除できるものになったというふうに考えています。もちろん、心配がなくなったわけではありません。そしてまた、クリーン開発メカニズムについては、
途上国への
資金、技術移転につながり、
途上国が脱化石燃料社会、要するに石炭、石油を使わない社会を形成する準備が可能になるというふうに考えています。ただ、それも使い方次第であるというふうに思います。
そしてまた、
京都メカニズム活用は、産業界などの温暖化対策や技術革新のインセンティブを高めるという効果もあると思います。その
意味では、明日香さんもおっしゃったように、第二
約束期間以降、この
制度がきちっと継続することを国際社会も
日本政府もきちっと表明すべきでしょうし、そのことによって温暖化対策も、またこういったメカニズムの活用も可能になるんだと思います。
もう
一つ私たちが考えているのは、アメリカの
議定書交渉への復帰を促す
可能性です。実は、排出量取引、共同実施、クリーン開発メカニズムはすべてアメリカが持ち込んだ
考え方です。共同実施については気候変動枠組条約が議論されているときから随分問題になりましたけれ
ども、これを強力に主張していたのはアメリカです。排出量取引も、いきなりどんというふうにCOP2でアメリカがペーパーに書いてびっくりしたんですけれ
ども、これもアメリカが持ち込んだ
制度です。クリーン開発メカニズムも、COP3の最終
段階でクリーン開発
ファンドというアイデアをこういうものに変えたのはアメリカが中心です。
そういう
意味では、こういう
制度についてやはりアメリカ
政府自身も、それとアメリカの産業界自身もメリットを感じている。運用することに積極的な側面を持っているんだと思いますね。こういう
制度がきちっと動き出すこと、
京都議定書がきちっと動き出したときに、アメリカの産業界にしてもやはり横で見ているわけにいかない
状況が来るんではないか。そのためにも、こういう
制度をきちっと動かすことが必要なんだろうというふうに考えています。
国内対策優先という話をさせていただきましたけれ
ども、なぜそう言うのかという
一つ目の理由ですけれ
ども、二度が限度と書きました。温暖化を、どこまで進むのか、どこまでで抑えるべきなのかという議論はなかなか科学的にも難しい面がありますけれ
ども、今、世界のNGOが主張しているのがこの二度という
数字です。
これは、EUが一九九六年、COP3の前からポジションにしていた
数字なんですけれ
ども、気温上昇幅を工業化以前、要するに一八五〇年ごろから二度未満に抑えなければ、地球規模の回復不可能な
環境破壊によって生存の基盤が脅かされる
可能性がある。今IPCCは、このまま進めば百年後、二一〇〇年には五・八度上昇する
可能性を示しています。恐らく今のまま対策が取られなければ、五・八度に限りない近い気温上昇が起こるのかもしれません。それではとてもじゃないけれ
ども生態系はもたないということであります。
そして、これは中央
環境審議会が昨年五月に出された報告書の中で、二度を議論の出発にして、もし二度に気温上昇幅を抑えるとするならば、世界全体の温室効果ガスの排出量を、二〇二〇年に一九九〇年比で一〇%、二〇五〇年に五〇%、二一〇〇年に七五%
削減すべきことが必要になるというふうに言っています。これは世界全体です。
日本とかアメリカとかそういった先進工業国は特別の責任を負っていますから、
途上国の伸び代を考えれば、これ以上の
削減は求められることになります。
そういうことを前提に考えますと、国内対策を優先していかないと後で非常にしんどい思いをする、苦しい思いをするんだろうと思います。カーブを曲がるのに、やはり手前からカーブを曲がる準備をしていればスムースに曲がれますけれ
ども、カーブに入ってからハンドルを切ったんでは非常に危険なことになる、不安定なことになるというようなことだろうと思っています。
一度、二度までがどういう
影響なのか、二度を超えるとどういう
影響なのか、少しちっちゃな字で申し訳ありませんけれ
ども表にまとめておきました。後でごらんになっていただけたらと思います。
概略的に言いますと、二度までならば
途上国に一定の
影響が出てくる、経済的な
影響が出てくる、一定といってもかなり深刻なんですけれ
ども。それが二度を超えると世界規模になってきます。経済力のある国でも、やはり地球温暖化の
影響を回避できなくなる、対処できなくなるということであります。
国内対策優先第二の理由というのは、第一
約束期間、現在の
日本の六%、ヨーロッパの八%、全体で五・二%の
数字では地球温暖化を防げないということがまず念頭に置かれるべきだと考えています。先ほ
ども申しましたけれ
ども、
日本で一定の
削減をしようとすれば、大幅な社会経済システムの改革が必要です。そのためにはできる限り早く行動を起こさないと間に合わないということであります。ここで対策を怠ることは将来の世代に大きなツケを残すということを私たちは考えなければいけないと思います。
六%
削減、今、
京都議定書目標達成計画が閣議決定されているわけですけれ
ども、これは私は不
達成計画だと思っています。明らかにこれはできないと思っています。そうすると何が起こるかというと、できなかった分
京都メカニズムに頼ることになる。あの
計画は、要するに
京都メカニズムの利用は青天井です。最後に残った部分を
京都メカニズムというふうに私は読みますし、多分そうだろうと思います。先ほどホットエアを買わざるを得なくなるだろうというふうに明日香さんはおっしゃいましたけれ
ども、私もそういうふうに思います。
私たちの試算では、ちゃんとした対策を進めれば二〇一〇年までに一九九九年比で一一%
削減可能だという
数字になっています。詳しく説明する時間がありませんので、
数字だけを提示するにとどめます。
京都メカニズム活用の基本的
考え方ですけれ
ども、一・六%を限度にしていただきたいと思います。国内対策をきちっと優先すること、
京都メカニズム一・六%を超えて活用しないということを明言することによって逆に国内対策が進むんだろうと思います。国内対策をゆるゆるにして
京都メカニズムでどこかで
数字合わせすればいいやということになると、逆に国内対策が進まないことになるというふうに考えます。
それから、どのようなものを買ってくるかということですけれ
ども、やはり
環境的にも経済的にも持続可能な開発に役立つような
プロジェクトからの
クレジットを優先してほしい。そしてまた、今
CDMにしてもほとんどアフリカに
プロジェクトがありません。ああいう不安定な
地域では投資をためらうということもあるでしょうけれ
ども、
現実的にアフリカではほとんど
プロジェクトが
計画されていません。そういったものも是正する形での活用を
日本政府としては考えていただきたいと思っています。これは
CDMの実施
予定地域です。サブサハラ・アフリカは
一つしかない。
私たちが懸念している
プロジェクトが
幾つかあります。
一つは先ほどから出ているホットエアです。御
承知のように、ロシア、ウクライナは一九九〇年に比べて半分近い排出枠を持っています。経済が破綻したために排出量が減って、そして半分近い排出量をそのまま持っているわけですね。ただで持っている。これをお金にして売れるわけですね。これを買ってきたんでは実質的な
削減にならないことは明らかです。恐らくホットエアを買うことは考えておられないと思いますけれ
ども、明日香さんもおっしゃったように、ここに踏み込まないことをやはり希望しますし、是非ホットエアなど買わないでほしいと思います。
もう
一つは吸収源
プロジェクトです。吸収源についてはいろんな議論があっていろんな枠組みが、歯止めもできましたけれ
ども、やはり非常に不安定なものです。せっかく植林しても山火事でなくなってしまうこともある。永続性が問題になりますし、そしてそもそも吸収源というのは温暖化対策として見た場合、長期的に見た場合
プラスマイナスはゼロです。そういったものに頼るべきではないというふうに思います。
もう
一つ具体的に問題になっているのはHFC23の破壊
事業です。このHFC23の破壊
事業というのは、これは現在
計画されている種別の表ですけれ
ども、フロン
事業とメタンが異様に大きいことがお分かりいただけます。その中で最も心配されているのがHFC23の破壊
CDM事業でして、これはHCFC22をつくる過程で副生物としてできる非常に温室効果が高いガスですね。それで、この非常に温室効果が高くて、高いがゆえにこれを破壊するのは非常に安くできます。
削減コストも極めて安いために、この
クレジットの販売利益がHCFC22の生産、販売する利益を上回る。そうすると、この
CDM事業を
目的にこのHCFC22の
工場を新たに造っていくということが起こりかねないわけですね。これについては、
先進国についてはもう廃止の方向が決まっていますけれ
ども、
途上国についてはまだ、廃止の方向は二〇四〇年と決まってはいるんですけれ
ども、まだ
数字が決まっていません。二〇一五年までは生産はどんどん増やしてもいいことになっているという事情があります。こういうものに頼ると、これは持続可能な
発展に役立たないと考えるわけであります。
最後に、急速に進む温暖化という話だけをさしていただきたいと思います。
御
承知のように、一九九〇年は過去千年の中で最も高温の十年だと言われています。観測史上、大体百四十年間の観測データがありますけれ
ども、平均気温の高いベストファイブは一九九八年以降に集中しています。昨年二〇〇五年は、統計によっては史上最高ないしは二番目に平均気温が高かったと言われております。一番が一九九八年、二番が二〇〇五年、三番が二〇〇二年、二〇〇三年、二〇〇四年という順番であります。
地球温暖化は私たちが思っている以上に急速に進んでいるように思われます。恐らく二度未満に抑えようとすれば、私は、二〇四〇年ころまでに
削減方向に向けて、
大気中のCO2濃度が下がる方向に向けて動き出さないと間に合わないんだろうと思います。今後十年、二十年の取組が決定的に重要だと思います。温暖化というものは、私たちの孫とか将来の世代ではなくて、私にとってみれば、私の
子供が私の年齢になったときに、既に回復不能な
環境になっているかどうかの問題としてとらえるべきだと思います。そういう観点から、是非この
京都メカニズムの活用についても考えていただけたらと思います。
発言を終わります。ありがとうございました。