○吉野
公述人 最初に御
意見を申し上げさせていただきます慶應大学の吉野でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
お手元に資料を配付させていただきまして、全部で七枚ございますが、五ページ目までページが振ってございまして、最後に二つ表がございます。これを使いながらきょうは
お話をさせていただきたいと思います。
まず第一番目が、一ページの最初にございますが、
財政の現状を、
国民の皆様にわかる指標というのをひとつつくっていただけないかということでございます。それは非常に簡単なんでございますが、
歳入割る
歳出、どれくらい
歳入で現在の
歳出を賄っているか、あるいは
歳出が
歳入をどれくらいオーバーしているかということでございます。
例えば、一の一でございますが、中央政府ですと一・八六というふうになっております。つまり、約二倍弱は、半分ぐらいしか税金で賄えていないという現状でございます。ですから、身の丈以上にどの
程度の
歳出がなされているか。そういたしますと、
財政をバランスさせるためには、この一以上の〇・八六の部分をやはりどこかで削らなくちゃいけない、あるいは税をふやさなくちゃいけない、こういう二つになると思います。
それから、一の二は地方政府の場合でございますが、これはある九州の県の場合でございますけれども、県の税が全体の約二五%でございます。ですから、県の
歳出が四倍になっております。六割近くが中央からの配分、こういうふうになっております。
ですから、やはり中央政府も地方政府も、それぞれのところでどれくらい自分の負担でやっているかということがまず必要じゃないかと思います。
一ページ目の真ん中に図がございますが、これは、ずっと最近まで
歳出を税収で割ったものの比率をあらわしたものでございますが、バブルの時期には税収がふえておりましたからこの比率は下がりましたが、その後、趨勢的な傾向として上がっているということでございます。
二番目でございますけれども、これまで大量の
国債発行でも大丈夫だったじゃないか、
日本経済はこれでうまく動いていたんだから全然心配ないであろう、こういうことでございます。
それでは、なぜこれまでは大丈夫だったかというのを、次の二ページ目をちょっと
ごらんいただきたいと思います。
二つ図がございますが、上の方は、御承知の、各国の債務残高を見たものでございます。一番上でずっと上がっているのが
日本でございまして、GDPの一六〇%以上になってきております。二番目の線がイタリアでございますが、一時九〇年代に
上がりまして、その後少し下がってきております。それから、三番目の線がカナダでございます。これを見ていただきますと、やはり
日本の場合には、ほかの国と比べると相当上がっていっておるということがございます。
今でも覚えているんですが、九一年の数字を見ていただきますと、
日本はカナダとかイタリアより低くなっていたわけです。このとき私が学生に対して、イタリア人は怠け者だからこんな
財政赤字だろう、
日本はこんなにいくことがないだろうと言ったんですが、先日、イタリア人に会いましたら、ほら見てみろ、
日本人も怠け者になったのかというふうに言われまして、やはりこれだけ
財政が大きくなっているということでございます。
では、なぜこれが大丈夫だったかといいますと、次の円
グラフを見ていただきたいと思います。
これは、これまで
日本人が蓄えてきたお金がありまして、それが大半の、ほとんどの
国債を買っているということでございます。左側の白いところが、市中金融機関とございますが、これは銀行などでございますが、これが
国債の約三分の一、三一・九%を買っております。それから右側が、郵便貯金が一六・四%、簡易保険が八・二%、年金の基金が八・七%となっておりまして、やはりこれまで
国民がためてきたお金でこういう
国債を持てたということでございます。
一ページ目に戻っていただきますと、今のを御説明いたしますと、大半の
国債を金融機関が持っていた、高い貯蓄率がこれを保てていたということでございますし、二の二のように、最近は、
企業が
景気低迷で需要が少なかったものですから、銀行の貸出先が余りない、そのために、預金は集まってきますけれども、それを
国債で運用できたということで
国債が保たれていたということでございます。それから、一番下でございますが、もう一つ、ゼロ
金利政策がやはり
国債の大量発行をうまく処理していたといいますか、うまく動かしていた。それは、
金利支払いがほとんどふえなかったということでございます。ですから、この十年以上、
国債の残高は二ページ目の図のようにふえておりますが、
国債の利払い費は、全体の
歳出に占めますとほぼ二〇%ちょっとで
推移しておりまして、ほとんど動かなかったということでございます。
二ページ目を
ごらんいただきたいと思います。
これが今後本当にこれでいいのかということですが、これから
景気が回復してきますと、銀行は貸し出しを伸ばすことになりますので、これまでのように
国債を購入し続けるということはできなくなります。
それから、二の五でございますけれども、これはよくアメリカで
議論されるんですが、
国債が大量に発行されているということは、将来だれかがその
国債を返さなくちゃいけないわけであります。永遠に借り続けることはできないわけでありますから、それは我々の世代が、将来の
子供の世代あるいは孫の世代に負担を先延ばししている、こういうことになると思います。
それから、二の六でございますけれども、今後、
景気が回復する中で税収がふえてくるわけでございますけれども、九〇年代の後半にさまざまな減税が試みられまして、ですから、税のいわゆる弾力性というのが落ちてきております。そういたしますと、
景気が回復する中で、前ほどは税収がふえないという
可能性があるというふうに思います。
次に、下の三のところを見ていただきたいんですが、イタリアは、先ほど申し上げましたが、真ん中の図のように少しずつ減ってきておりまして、先週、イタリア人の学者が来たときに、彼らに聞いてみますと、三の一がイタリア人の考え方であると。つまり、
国民の負担というのは、自分の税に見合ったところで
歳出を望む。
日本の場合には、
国民はみんな、税は低く、それから
歳出は高くと。これですから先ほどの一・八六という数字になってきたわけですけれども、どこまで自分で負担できるのか、そこからやはり
歳出の額を決めていくという姿勢にならないといけないように思います。
次は、三ページを
ごらんいただきたいと思います。
こういう
財政の中で、公共
投資とか
社会資本をある
程度整備しなくてはいけないということでありますが、三の二のところでございますけれども、これまでいろいろな公共事業というのは、全部税金のお金あるいは
国債発行で行われてきました。ところが、最近、民間の資金をそこに活用しようという、いわゆるPPPあるいはレベニュー債券というようなことが使われております。
これは、例えばレベニュー債券と申しますのは、それぞれの事業の収益から得られたものでその債券を購入した方に
金利と元本が返済される、こういう
仕組みでございます。これをちょっと説明させていただきたいと思いますが、後ろから二枚目に図がございまして、風力発電、地域ファンドという例がございます。三の三というふうに書いてございますが、これを使わせていただいて
お話しさせていただきたいと思います。
これは、北海道のところでやられている、民間のお金を集めて、いわゆる風力発電、風車ですね、風力発電をつくるというところでございます。この風力発電の機械が大体一つ二億円いたします。しかしそれを、個人から一口五十万円で集めております。その五十万円を集めて、二億円で、もう三つ風力発電の機械ができているんですけれども、そのやり方は、風力発電から出てくる電力、この電力料金を風力発電の会社が受け取ります、そして、そこに五十万円を預けられた方に配当として毎年入ってくる、それから元本を少しずつ返していく、こういうやり方でございます。
これまで三年間これが続いておりまして、五十万円を
投資された方が大体十八万円、今のところ収益を得られている。ですから、これが順調にいけば、必ず五十万円の元本も返りますし、うまくいけばさらに収益が入ってくる、こういうことでございます。
つまり、これまでは、いろいろなこういう
社会資本というのは国がやらなくてはいけないのではないかというふうに言われていたわけですが、それが民間の資金でもできるという一つの例だと思います。
その次のページ、一番最後のページでございますが、インフラの整備のためのレベニュー債券ということを
お話しさせていただきたいと思います。
これも、高速道路の例をとったのでございますけれども、高速道路を建設する場合に、資金をやはり民間から集めます。そのときに、一〇〇%集めてもいいんですが、例えばの話で、七〇%を
投資家から集めます。それから、三〇%の資金は税金のお金で見るわけであります。そうしますと、
投資家の資金は七分の十だけ、てこ効果がありまして、有料道路の収入が入ってきますと、七割の
投資家にその配分がなされるというわけであります。ですから、三割の部分は国のお金、しかし七割は民間の資金。こういたしますと、インフラの整備のための資金が入りますし、そのインフラがうまく動いて有料道路の収益があれば、
投資家の
方々もそこで収益が入る、こういうことでございます。
こういうことをすることによって、それぞれの公共
投資なり
社会資本でこれまでは見えなかったところが、
金利あるいは配当という形で、その事業がうまくいっているのか、それとも余りうまくいっていないのかということがわかるようになっております。
実は、三月の初めにインドネシアに行くんですが、インドネシア政府も、
日本のODAが減ってくる中で、何とかインフラの整備をし続けたいと。私がこのアイデアを言いましたら、では、ぜひインドネシアのジャカルタでもやりたいので来てくれということで、うまくいけばインドネシアでもやらせていただくということになっております。
次は、前の方の三ページにお戻りいただければと思います。
こういう中で、地方経済の活性化ということが今後大きな、
日本の重要な課題になってきていると思います。現在、
景気回復しておりますが、やはり東京とか名古屋とか関西、こういうところを中心に
景気が回復しておりまして、地方の中ではばらつきがあるわけであります。
四の一でありますが、公共
投資の依存型というのがこれまでだったと思いますが、重要なことは、整備された
社会資本をいかに今後有効に活用していくかということではないかと思います。多くの地域では、もうこれまで
社会資本がある
程度整備できてきておると思います。ですから、それをいかにうまく活用するかということがもう一つ重要だと思います。
さらには、そういうところで働いている
方々、技術を、アジア諸国のインフラの整備にもっと活用してはどうかというふうに思います。
例えば
中国ですと、海岸のところから西部地区に対するインフラの整備というのは今後相当必要になります。その場合には、
日本のインフラの整備の技術力というのは相当使えると思います。ですから、ぜひ、
先生方も含めて、政治、民間を含めた形で、いい
意味でのそれぞれの国への援助、それを
日本の技術が使える、こういう形で、
日本で活躍された
方々がそういうところでも働けるということを考えていただければと思います。
それから、四の二でありますが、これまでの
日本の戦後の経済をずっと見ておりますと、やはり守られた産業は衰退するということが最終的には起こっているように思います。ですから、いろいろな
政策、農業でもそうですけれども、補助金漬けとならないように、やはり自立できる、そういう地域の活性化ということが必要だと思います。同時に、四の三ですが、中央に頼る
政策ではなく、地方で考える
政策、それがないと地域の自立がないような感じがいたします。
その中で、四の四ですが、地域の金融とか中小
企業の中で、最近いわゆるリレーションシップバンキングということがよく言われておりまして、長期の契約を考えながら中小
企業と銀行の間で貸し出しをしていく、こういうやり方であります。
それぞれが考えながらやるということはいいことだと思いますが、ここですと、やはり銀行の預金を貸すということでありますから、少し
リスクの大きいところにはなかなか資金が流れないわけであります。そういたしますと、さっき公共事業でレベニューボンドと申しましたけれども、ああいうような
投資のファンドというようなものもつくりまして、そこが少し
リスクをとりながらいろいろな中小
企業に貸していくというところが、もう一つ、銀行と加えてチャンネルとして必要ではないかというふうに思います。
次に、五番目でございますけれども、今後、いろいろ
日本の政府の支出を考える場合には、
歳出を考える場合には、やはりナショナルミニマムとは何かというのをぜひ
先生方に定義していただきたいと思います。これがありませんと、何でもナショナルミニマムというふうになってしまいますと、それをやはり税金で見なくちゃいけない、そうしますと、
国債の大量発行ということになってしまうわけであります。
例えば、四ページを
ごらんいただきたいと思いますが、ここに図がございまして、上の方が国が提供する公共財、それから、下が地方政府が提供する公共財でございます。私、ナショナルミニマムの定義はどこかにないかなと思っておりましたら、スウェーデンの本の中にこういう定義をしている本がございまして、これはそれからとったものでございます。
そういたしますと、例えば、国が最低限提供するものというと、外交とか警察、それから住宅
政策と医療
政策、こういうものが1から9までございますが、これが、国が最低限、どこに
国民が住もうがやることであります。それから、地方政府がやるところは、もう少し住民に近いところ、幼児教育とか地域経済対策とか、そういう形で、住民に近いところは地方政府。ですから、中央政府と地方政府がそれぞれやるべきナショナルミニマムというのをやはりぜひ定義していただきたいと思います。
三ページに戻っていただきますと、そういう中では、私は、義務教育というのは一つ重要なことであると思いますので、これはやはり前向きの支出でありまして、将来の
日本を担う
子供さんたちの
投資であります。ですから、もう少しいろいろ小学校の教育が自由度が認められて、ある小学校では英語の教育も始める、あるところでは地域別の授業をするというような形で、自由度を持ちながら、最低限のところは皆さんがやっていくというようなことが必要ではないかと思います。
それから、いろいろ
政策をやった場合にはその
評価をすることが必要でありますが、教育の場合には、よく言われますのは、非常に長期で時間がかかってわからない、こういうことが、
日本の最近見られる教育の質の低下に結びついているのではないかと思います。そういう
意味では、共通テストとか、その
評価ができる、比較ではなく、
日本の教育がうまくいっているのかどうかということを
評価するための
政策として考えていただければというふうに思います。
次は、四ページ目を
ごらんいただきたいと思います。下の方から、あと残りの時間で少し
お話しさせていただきたいと思います。
よく、国有財産がすごくあるじゃないかと。四ページの下から六行目でございますが、六百九十五兆円、国有財産がございます。アメリカ人の知らない学者の方は、これを全部売れば
日本の
財政赤字はちょうどなくなるじゃないかと。約七百兆円なわけです。ところが、見ていただきますと、八十兆円が外為特会で、そこで為替の買いに入ったり、貿易黒字で入ってきた部分であります。それから、二番目が
財政投融資の貸付金で、これも中小
企業貸し付けとかいろいろなものがございます。それから国有財産四十一・九兆円、これは空港とか裁判所とかこういうところがございます。百三十一兆円が道路とか河川でございまして、そういたしますと、大体全部見ていただきますと、ほとんど売れるものはない。ですから、国有財産というのは六百九十五兆円あるわけですけれども、その中で処分できるというところはまだまだ少ないような気がいたします。やはり
財政の中で
歳出と
歳入を考えながらやるということが必要だと思います。
最後に五ページで、
日本経済とそれからアジアの
関係も含めて
意見を述べさせていただきたいと思います。
七番目は、アメリカとか諸外国を見ていますと、政治、官僚、民間、学者、この連携がすごくとれているように思います。
これも余談ですけれども、韓国などでは新幹線をフランスの新幹線にしたわけですけれども、冗談に韓国の方が、もともと鉄道というのは
日本がつくったものである、ところが、フランスがすごく誘致をしたそうでありまして、美人の
方々も一緒に来られて、それでフランスの鉄道がいいんだというようなことをされて、それでフランスの方に決まったわけですけれども、
日本も、やはりいい
意味で、
日本の鉄道の技術があるわけですから、それを政治家の
先生方も、国、民間、学者も含めて、そういうところで
日本の技術がそちらに使えるようにするということは、アジアの発展にとっても必要だと思いますし、
日本にとっても必要だと思います。
それから、
中国との
関係というのもよく
先生方に理解していただいて、
中国は、その八番に書いてございますけれども、中産階級が随分増大しております。アジアの中では、この中産階級、中流階級の増大というのは、恐らく、
日本からいろいろなものを買う、あるいは
日本の技術を誘導するというところでは、これから相当きいてくると思います。インドもこれから中産階級がどんどん出てくると思います。そういう
意味では、アジアと
日本の
関係を大切にし、その中から、
日本が政治力、官僚、民間、学者、こういうところが一緒になって、いい
意味で海外とネットワークを結びながら、
日本の技術なりを発展させていくということが必要ではないかと思います。
それから最後に、アジアのことに関しましては、金融市場でも、アジアは
日本とこれから結びつきが強くなってくると思います。
八の二のところでございますけれども、アジアの特色というのは、やはり高い貯蓄率。
日本もこれまでは高い貯蓄率でしたけれども、この高い貯蓄率がほとんど銀行の預金に向いている。非常に
日本と似た形態でございます。この預貯金に向いている資金を、やはり債券市場あるいは資本市場の方に一部流していくことによって収益性を上げていくということが重要ではないかと思います。
その中で重要なことは、八の二の4と5というところでございますが、各国とも、いわゆる資産運用が自国に偏っている、ホームカントリーバイアスが非常にございます。ですから、本来収益性が外にあるのに自国の中にとどまっている、こういうことでございます。その大きな
理由は、やはり情報がないということだと思います。例えば我々も、マレーシアの
企業がどうなっているのか、あるいはマレーシア経済はどうなっているのかという情報は余りないわけです。どうしても欧米の情報に偏ります。
ですから、今後アジアとの
関係を密接にするためには、やはり各国の情報をみんながお互い見えるようにする、それから
企業の情報を見えるようにする。そうすることによって、
日本人もアジアの国々を知り、では、どういうところに
投資したらいいんだろうか、あるいはどういう資産運用をしたらいいんだろうか、また、アジア人の
方々が
日本のどういう
企業に
投資をしたらいいんだろうかという、点の情報から面の情報、こういうことが必要ではないかと思います。
最後に、アジアの通貨制度でございますけれども、今のところは、それぞれの国が別々の通貨でございます。ヨーロッパのユーロのように、将来は、相当先になるかもしれませんけれども、一つの方向としては共通通貨の方に動いていくということも一つかと思います。
それは、ヨーロッパの場合は、ユーロができることによってヨーロッパの結束がすごく出てきたわけです。ですから、アジアの中でもやはり為替制度をある
程度共通化することによって、それでアジアの中でのいろいろな
意見の交換、そして、アジア自身がアメリカ、ヨーロッパに対してしっかり
意見を言えるということが必要ではないかと思います。
以上でございます。(拍手)