○伊吹
委員 総理の今の御答弁を、
政府というお立場で、できるだけそのような人間をつくり出すための政策をスピードを上げてやってもらいたいということです、私がお願いしているのは。認識は一緒だと思いますが、どうも私の判断では、アクセルは随分勢いよく踏まれているんだけれども、今申し上げた自己抑制とか人間の品性を守っていくという方のブレーキの踏みぐあいを少し調整してもらいたいなというのが私の率直なお願いでございます。
それで、私は保守主義というものを信奉しておりますが、保守主義には二つの大きな流れがあるんですね。
一つは、今お話をした人間の本性、やはり自助
努力、自己責任、競争
社会、これが基本です。これはもうこれしかない
制度です。これを守っていくために、かつてケインズと大変な論争をしたハイエクという学者がおりますが、このハイエクが言っているのは、人間の力を復活させるというか、つくり上げることによって、市場経済化の深みにはまっていかないようにやっていこうじゃないかということなんですよね。
だから、ここに、これは
総理が官邸で若い記者に囲まれて、悪平等で
努力しなくても同じだとか、一生懸命頑張っても、一等賞、二等賞、三等賞、全部同じだということだと、やる気をなくする人が出てくると。やる気をなくする人が出てきたら
日本はだめになっちゃうんですよ。だから、やる気を起こさせないとだめですよね。
それと同時に、二月一日からジャック・ニクラウスが「私の履歴書」というのを書いているんですね、
日本経済新聞ですか。ここを読みますと、アメリカというのは非常に歴史の浅い多民族の国ですから、
日本のように国内で
社会規範が熟成して定着しているというところまで私は至っていないと思うんですが、ジャック・ニクラウスが言っているのは、自分はヨーロッパ中部を源とする
人たちの子孫である。その
人たちは皆、労働に対して強い倫理観を持っている。その遺産は、アメリカでいえば中西部と言われる
地域、オハイオですよね、ここに住む
人たちの子孫に脈々と受け継がれている。皆、勤勉で、生まじめで、かたく、そして家族のきずな、価値観を重んじている。決して後ろ向きにはならず、かといって容易に浮かれもしないと。こういう規範でもってアメリカ経済の根底は守られているわけです。だから、
総理と同じように、市場経済化によってアメリカを復権させよう、ベトナム戦争でめちゃめちゃになったアメリカを復権させようと。
労働党政権のもとで福祉のばらまき、ちょうど
総理が留学されていたころ、私は大使館におりました。そのころ、見ておって、英国というのは全くだめになると思いましたよ、私は。それを復活しようとしたサッチャーも、やはり
総理と同じように、競争
社会、市場原理というものをてこに活性化を図っているんですよ。
そして、そのときにレーガンが言ったのは、健全なミドルを復活させるために我々はこれをやっているんだということを言っているんですね。健全なミドルというのは、中産階級と同時に、今私が読み上げたジャック・ニクラウスの住んでいるアメリカの中部、この中部の
人たちの倫理観を取り戻そうじゃないかということですよ。サッチャーが言ったのは、あの七つの海に日の没することがないと言われていたときの英国、つまりビクトリア朝時代の英国人が持っていた公に貢献するあの
気持ちを取り戻すために、私はこの市場化、競争化をやっているんだと。
だから、市場化、競争化が目的じゃないんですね。その向こうに何か大きな国家として、宰相としての目的がある。それは、
総理がさっき
中川さんとの間にやりとりされたことで私はいいと思います。
そこへ行き着くために、ぜひ、今のようなもう
一つの流れも、今大いに小泉
内閣のもとで回っているんですよ、これはないなんということは私は申しておりません。しかし同時に、
郵政民営化と同じ情熱でもって憲法改正と教育基本法と家族と
地域の復権の輪を回してもらいたい。これは
小泉総理に私はぜひお願いしておきたいことです。
そして、このことに
関連しまして、靖国の問題、それから皇室典範の問題、これは非常に微妙な問題なので、私は余りここで議論することはかえって国益になるのかなという気を持っておるんですが、結局、
日本は世界史の中での例外的な国家だと思うんですよ。アイヌ民族の方とかあるいは在日外国人で国籍を取られたような方と、先ほど
中川さん、安倍さんとの話の中で、共生をしながら生きております。しかし、
日本の大きな歴史の流れを見ますと、一民族で一国家を形成して、その一民族が常に、幕府であるか天皇家であるかは別として、
日本国というものを統治して、そして一言語で隅から隅まで意思が通ずるという国は
日本ぐらいしかないんですよ。
多分、この対極にあるのはアメリカであり
中国であると思いますね。アメリカは、もうこれは人工的に移民ということで多民族を寄せてつくった国なんですね。
中国も、いろいろな言語があります。そして、「三国志」でわかるように、常に国は分かれて戦っております。
しかし、
日本はそうじゃないんですよ。その
日本がそういう国であったから、
日本は、さっき言ったような法に書かれざる民族の申し合わせというか
国民の申し合わせみたいなものが非常につくりやすい国であった。これが保守主義の原点と言ってもいい、
日本は恵まれた国であったと思うんですね。ここの根本にあるのがやはり天皇制だと私は思います。
かつて、
中国へ渡ろうとした遣唐使かな、当時、万葉のときですから遣隋使ですかね、この
人たちが、
中国というのは非常に大きな国だからといって心配していたときに、山上憶良が詠んで彼を励ました歌があるんですね。「倭の国は皇神の厳しき国」「倭の国は言霊の幸はふる国」と。
日本というのは、皇神というのは天皇の皇という字と神様という字ですよ、天皇家がずっと代々
日本というものの中心におられて、それは厳然として揺るぎがないよ、そして大和言葉はどこへ行っても通用するよ、だけれども、あなたがこれから行くのは、大変な大きな国かもわからないけれども、こんな
日本的な特徴を持っている国じゃないんだよということを言って励まして送り出しているんですよ。
私は、
総理と同じように、皇室を守らないといけないし、皇統が途絶えちゃいけないと思います。全く同じ
意見です。同じ富士山の頂上を目指しているんですね。
ただ、これは、大
日本帝国憲法の第一条には、万世一系の天皇
日本国を統治すると明記されておりますね。ここにある万世一系という意味が何だと。今、多分
総理が考えておられるのと同じように私も考えているのは、皇籍を離脱した方を、今、男系だからといってこの人を天皇様だと言ったって、残念なことだけれども、明治維新以前ではありませんからね、
日本の
国民はその人を天皇陛下として受け入れないと思いますよ、私は。そうしたら天皇家はここで途絶えちゃう。
ですから、何とか皇統を守るためにどうするかということなんだけれども、同時に、男系というのは、これは遺伝子的には男親から伝わるY因子というのがあるんですね。これは万世一系と言われている。それで、その場合、今の秋篠宮様とか皇太子の女宮様にはみんなその遺伝子があります。だから、この方々が天皇陛下になられても、別に、男系なんですよ。
そして、旧憲法下では、
総理大臣は皇室へ随分行っておられるんですね、いろいろな日記を読んでいると。芦田均さんだとか吉田茂さんは、一カ月に一度ずつぐらい宮中へ行っておられますよ。これは、例えば入江さんの日記とか木下侍従次長の日記、あるいは徳川義寛侍従長の日記とか読むと、
総理大臣参内と書いてあります。「佐藤榮作日記」にも同じことがたびたび出てくるんですよ。だから、私はやはり、これから
総理、あるいは
総理の後の
総理、そのまた後の
総理と、皇室との間にもう少し濃密なお話し合いがあって、できれば愛子様や秋篠宮様の女宮様に男系の男子の方が御一緒になられるような雰囲気をつくっていくということが、
政府としては非常に大切なことじゃないかと。
ここで、女帝を認めるということは私は賛成なんですけれども、やはりこれだけ世論が分かれて、女系を入れるのはどうかな、といって、男系というだけですぐに天皇陛下だというやり方もどうかな、こういうふうに思います。これが、私が今言った、法に書かれざる
日本の
社会規範の根底にある問題であるだけに、
総理がここのところのいろいろな
意見をよく聞いてい
ただきたい。
富士山の山頂に登るということは、私は全く同じ
意見です。富士山の山頂に登るのが嫌だという人は、これはもうさっきのように、抵抗勢力か何か知らないけれども、既得権を持ってる人はほっておいたらいいというのと同じで、だけれども、登り方にいろいろな登り方があるなということは、御答弁は要りません、このことは非常に微妙な問題ですから。ぜひ考えてい
ただきたいと思います。
それから次に、予算
委員会ですから、十五分ばかり
財政の話をいたしましょう。
まず、谷垣
財務大臣は、これは予算
委員会の所管
大臣なんですね。だけれども、ほとんど質問はありませんよ。だから手持ちぶさ
ただと思われるだろうけれども、実は、小泉
内閣でやろうとしている施策をすべて、あなたが金銭面でこれを表示するという責任を負っておられるんですよ。だから、常にここに座っておられなければならない。だから、ここで行われている質問は、
財務省の質問じゃなくても、やはり予算査定のどこかに
関係があることだと思って、ぜひ聞いておいてもらいたいんですね。
さっき
総理がおっしゃったように、
財政というのは非常に難しいですよ、人間がやることだから。つまり、ある人が、これがぜひ必要なんだ、おれの団体だとかおれの業界に必要なんだと。そうじゃない人が見たら、そんなものは不必要なんですよ。力任せに何言っているんだ、票をちらつかせてということはいっぱいあるわけですよ。
税の議論も、先ほど
中川さんとの間にありましたね。所得が多い人の立場からいえば、やはり累進的な所得税は嫌なんですよ。そして、所得のある人もない人も、物を買ったときには同じように課税される消費税でやってもらいたいと。だけれども、所得のない人の立場は逆なんですよ。消費税は厳しい、きつい、だけれども所得税なら、おれは所得がないから、累進的に高い
人たちの負担でもっておれの
社会保障、おれの介護保険、おれの老人医療はみんな賄ってもらえるということになっちゃうわけですよ。
だから、Aさんの公平はBさんの不公平ということはありますから、税制とか予算をやる立場というのは、富士山に登るときに、山梨から登る道もあり、静岡から登る道もあり、お互いの目的が一緒だったらこういう考えがあるんだなという、やはり謙虚さというのかな、説明責任というのか、迂遠だけれども、時間がかかってかなわないけれども、説得をしていく
努力とか、こういうものが必要だと思うんですよ。
そこで、
財政の
状況というのは、もう
皆さんよく御承知のように、ことしは七十九兆七千億という一般会計を組んでいますね。ところが、その中で、過去の、私
たちのお父さんやおじいさんが税金を払わずにうまいことをしてしまったために、返さなきゃいかぬお金が十八兆八千億あるわけでしょう。私
たちが税金を納めたり、私
たちが稼いだけれども、私
たちの意思で使えないの、この十八兆八千億というお金は。これは、世代間の公平感からいってまことに不公平ですよね。それで、そういう不公平をやられちゃったから、では我々も、今度は二十九兆幾らという借金をして、次の世代に同じように回してやろうじゃないかということになっているわけですよ、今。
だから、できるだけ早く
財政を再建しなければならないという立場は、
中川・竹中、与謝野・谷垣論争とか、最もおもしろおかしく言われているけれども、みんな共通認識なんですよ、これ。
ただ、どの順序でやっていくかというだけの、手法の違いだけのことですよ。大きな違いは何もありません、
自由民主党の中だから。
そうすると、この七十九兆のうち二十九兆も借金しているわけだから、何とか戻さないといけないわけでしょう。戻す方法は三つしかありませんね。
それは、
一つは、歳出をカットして、
小泉改革の大きな流れの中で、不必要な
政府の関与というのをできるだけ削除していく、あるいは無駄遣いを削除していく、これが
一つでしょう。
もう
一つは、税収というのは、何をどれだけ売りました、何キログラム、何百リットルとかいう単位で税金は入ってこないんですよ。税金は必ずお金で入ってくるから、今、
小泉改革の
成果で、実物経済はもう圧倒的に回復しました。これは、
小泉改革の最大の、やはり
規制緩和、競争原理導入の
成果として、
国民の
皆さんがよく認めてくれないといけない。それで、金に敏感な人は株式市場に行っているから、そういうことを読んで株式市場はぱっと戻っている。しかし、実物経済は回復しているんだけれども、名目の物価が戻らないんですね。だから、物価を戻してくれば、名目掛ける税率で税収は入ってくるから、税収は自動的にふえてくる。これが二番目の方法なんですよ。
三番目の方法は、それでも足りなければ、
制度的に税率を上げる、つまり、消費税率を上げるとか、あなたがさっきおっしゃっていたような控除を縮小するとか、そういうことをやるということになると思うんです。
それで、これはどれもやらなければならないんですが、これのどれに重点を置いてやっていくかという方法論の話に今なっているだけのことなんですよ。そこで、常識的に考えて、まず最初にやらなければならないのは歳出カットですよね。
ここで、私は二つの問題を提起しておきたい。
一つは、ここでも議論になっているのは、予算
委員会は余りにも一般会計重視主義の議論になり過ぎておりますね。一般会計は七十九兆七千億でしょう。しかし、特別会計は合計すれば四百六十兆あるんですよ。
ただ、四百六十兆の中で、国債整理基金特会とか
地方交付税とかという仕分けをして通り抜けするのが大体約三百兆ありますからね。それでも百六十兆、一般会計が七十九兆であるのに特別会計がそれだけある。だから、我が
自由民主党は、特別会計の中身について、根本的に突っ込んでこれを
改革しようということを今、党で一生懸命やっているわけです。
それで、一般会計重視主義で、ぜひ今後考えておいてもらいたいことは、例えば
財務省は、
小泉総理最後の予算編成ですから何とか三十兆を切りたいんですとか、そういうことを言って、一生懸命一般会計のカットに
努力をされるわけですよ。そして、医療費がこうだとかああだとか言っているわけですね。
ところが、医療費でいえば、医療費というのは全体で幾らあるかというと、二十八兆円あるんです。ところが、一般会計から医療費で使っているお金というのは約七兆円ぐらいですかな、七兆もいっていないと思いますよ。
国民健康保険特会への繰り入れが約三兆、
政府管掌保険への繰り入れが約八千億、それから老人医療の健康保険への補助が二兆八千、合計で約七兆ぐらいですよ。
この二十八兆円のうち、七兆円を抑えようという
努力をされるでしょう。すると、どういうことが起こっているか。これは、よくやはり見てもらいたい。
つまり、起こっていることは、特別会計に入っていくお金を抑えるから、医療保険の特別会計で保険料を上げるか自己負担を上げるだけの結果になるんですよ。そして、医療の無駄というものがどこまで排除されているか。
だから、医療費というのは、これは私は、
総理が、何でもかんでも
総理の意思だとか言って、勝手に決めるみたいなことをマスコミは言っているけれども、年末の予算編成で、私は御一緒に幾つかの部分で接触があったけれども、総額管理という話がありましたね。これは、最後には、やはり積み上げてやっていかないと無理だなという判断を
総理がしてくれたわけですよ。
私は、総額管理は絶対反対。それはなぜかというと、経済の調子がよくなったら無駄はますますふえますよ、総額管理みたいなことをさせたら。だから、やはり積み上げをしてやっていかないとだめなんですね。
それで、その分野で、私は、谷垣さんにぜひこれから頑張って、一般会計の国債だけを減らしたらいいというんじゃなくて、特別会計、
地方財政も含めて、資金が効率的に使われているんだという
財政にぜひしてもらいたい。これは、ずっと座っておられたからお願いをしておきます。
どうぞひとつ、御感想があれば。