○
櫻井参考人 櫻井よしこでございます。
きょうは、
意見を申し述べる場を与えていただきまして、ありがとうございます。
藤本参考人と
高橋参考人が極めて具体的な
法的解釈及び
現場の
事例をお話しなさいました。私は、
ジャーナリストとしてさまざまなことを取材してきた
立場から、
一般論としてこの
共謀罪について述べてみたいと思います。
日本で、あるグループが
共謀して
日本国民の命を危うくしたり危害を加えたりするケースとして典型的に私が思い浮かべるのは、オウム真理教の
事件と
北朝鮮による
拉致事件でございます。疑問は、なぜこうした
事件を
日本国は防ぐことができなかったのかということです。
例えば、ある人は、このようなことを防ぐ
法律がないんだというふうに言います。
北朝鮮の
拉致工作員が
日本国に入国して捕まった場合も、彼らを逮捕できる
法的根拠としては、
出入国管理法違反であるとか
外為法違反、極めて微罪で、実刑一年、
執行猶予三年でみんな釈放されてしまうわけです。ひどい場合には、彼らは、
日本国潜入に使ったゴムボートであるとか
通信機器を
私有財産であるからといって要求して持って帰る、それを
日本国は取り締まることができない。こういう
現実があるときに、
共謀罪のようなものはやはり必要なのかなと思わざるを得ない面は確かにございます。
しかし、それと同時に、今回の
法案を見ますと、これが
国連の
条約に合わせて
国内法として整備するという側面は十分に理解できるのでありますけれども、もしかして、この
国連条約の域を超えている部分があるのではないか、
日本の
法体系になじまない面があるのではないか、もしくは、
組織犯罪集団というけれども、本当にそれが
組織犯罪集団にだけきちんと限られているのか、もしくは、これは拡大解釈されて、
共謀しましたね、あなた、うなずきましたねというふうな、一種の心の問題にまで、内面の問題にまで踏み込んでいく
危険性はないのか、こうしたことを慎重に考えなければならないだろうと思います。
なぜこのようなことを申し上げるかといいますと、例えば、私
たちは
個人情報保護法案というものを体験しております。これは一年前に導入されました。そして、今や、これがどのような使われ方をしているかというのは、多分議員の
皆さん方も、これは幾ら何でも行き過ぎじゃないのという
事例が
全国津々浦々、少なくないわけですね。だれも、
法律をつくるとき、このような事態が出現するとは恐らく考えなかったであろうというふうに思います。
もう
一つ私が心配しているのは、このところ随分と
国会で
議論になりました
人権擁護法案のことでございます。
人権擁護法案は、御案内のとおり、だれかが
差別を受けた、嫌がらせを受けたとされることを
人権擁護委員に通報して、
人権擁護委員から
人権委員会に通報して、それが認められれば
当該本人は調べられるというものでございます。これはもう
公正取引委員会と同じ強い権限を
人権委員会が持ちますから、これを拒否すれば
罰則を科せられるわけでございますが、これも私
たちはさんざん
議論してまいりましたけれども、
人間の心の問題に踏み込んで、これは
差別ですねということを言ってしまうわけですね。
心の問題を
法律で規定することは極めて難しい。難しいがゆえに、
人間は往々にして過ちを犯す。だから、
各国での
人権擁護というのは極めて具体的な
個別法に基づいて行われているわけであります。今回のこの
共謀罪も同じような問題を含んでいるのではないか。もしそうだとするならば、ここに私
たちは
留意をして、しっかりと歯どめをかける必要があるんだろうなということを感じております。
もう
一つ。例えば、自民党も
共謀罪に関しては、
共謀罪に資する
行為というふうな歯どめをおかけになりました。これは私は評価したいと思いますし、
民主党の方は、
予備行為、準備
行為ということを言いました。これも私は評価をしているわけです。私は、この
二つの案の細かい相違ということを、重箱の隅を針でつつくような
議論は実はしたくないのでありまして、私の心の中で考えていることは、もしここで、歯どめをかけましたよ、規定しましたよということでみんなが納得してこの
法律をつくったと仮定いたします。その後一体どうなっていくか、これは住基ネットで非常にはっきり出ているわけですね。
住基ネット、私は、
全国でいろいろなところを駆けめぐって、あの住基ネットシステムに反対をした本人でございます。そのとき、総務省とさまざまなやりとりをいたしまして、総務省は、いえ、この住基ネットはごく限られた政府の事務に使うんですということから始まりました。それで、導入されて五年目になろうとしているわけですが、今、すべての政府事務にこの住基ネットが使用されているわけですね。範囲が飛躍的に拡大されました。途中で変えられていくことについては、議員の
皆さん方もほとんど
留意なさらない。メディアもほとんどこれを報ずることがない。知らないうちにわっと広がっていっているわけですね。
ですから、私は、
日本国民を守るという意味での、
共謀罪という
法律の名前そのものがかなりおどろおどろしいわけではありますけれども、この趣旨は大事なものだとは思うんですけれども、しかし、それを安易に導入してしまった後でどこまで拡大するのかということについて、過去の
事例を見れば、少なくとも、この会場にいるだれも責任を持つことはできないだろうということが予想されます。
したがって、私は、
民主党案の
限定しましょうということに非常に強い共感を覚えつつ、自民党の
皆さん方にもしっかりとした歯どめをかけていただくような法的措置をこの中に盛り込んでいただきたいというふうに思います。
以上です。ありがとうございました。(
拍手)