○安
冨参考人 慶応義塾
大学の安冨でございます。
まず、本
未決拘禁者の
処遇等に関します今回の立法の意義ということについて申し上げたいと思います。
現在
審議中の
刑事施設及び
受刑者の
処遇等に関する
法律の一部を
改正する
法律案でございますが、これは昨年の五月に制定されました
刑事施設及び
受刑者の
処遇等に関する
法律に引き続きまして、法
改正が見送られた
未決拘禁者の
処遇等について法整備を行うものでございまして、これにより
監獄法の
改正が果たされるということは画期的なことであるというふうに考えております。
もっとも、
刑事施設及び
受刑者の
処遇等に関する
法律では、
刑事施設の基本及びその管理運営に関します事項並びに
受刑者の
処遇について法整備がなされたところでありますが、残されました
未決拘禁者、
死刑確定者等の
処遇との間で
法律上の格差を生じているということになっていることから、その格差を埋めるべく、早急に法整備を行うということが必要となっているわけであります。
その
意味で、
未決拘禁者、
死刑確定者等の
処遇について法整備を行うこの
法律案はぜひとも
早期に成立させていただきたい、このように考えるところであります。
次に、我が国におきます刑事司法における
代用監獄、今代用
刑事施設ということでありますが、この制度の意義について述べたいと思います。
これまで
監獄法の
改正ということがしばしば
議論されましたけれども、これが実現しなかった大きな理由というのはいわゆる
代用監獄、すなわち代用
刑事施設の問題にあったと思います。
代用監獄は、御案内のとおり、
監獄法の第一条第三項におきまして
規定されているところでありますけれども、これが
刑事施設ニ於ケル
刑事被告人ノ
収容等ニ関スル
法律第二条におきまして代用
刑事施設と改められたわけであります。この
代用監獄、今は代用
刑事施設は、これは被勾留者や
受刑者を
収容する警察の
留置場ということでありますが、この代用
刑事施設制度をめぐりましては、捜査
機関である警察が被疑者の身柄を拘束あるいは
収容することによって、自白の強要等の違法な捜査が行われやすく、ひいては冤罪の温床になっているんだ、こういう批判が加えられているところであります。
言うまでもなく、憲法あるいは法に基づき公権力を行使する警察が違法、不当な捜査をするということがあってはならないのは当然のことでありますが、もし違法、不当な捜査が行われるというようなことがあるとすれば、それは、
留置施設における
処遇の問題というよりも、捜査活動そのものの適正さが問われるべきものであるというふうに考えます。
この点につきましては、警察におきまして、昭和五十五年以降、いわゆる捜査と留置の分離を図り、捜査部門と留置部門を被疑者留置規則及び
警察庁組織令において組織上及び
運用上明確に分離をし、被勾留者の
処遇の適正を図る上での制度的保障がなされているというふうに聞いておりますが、今回の
法律案では、第十六条の第三項におきまして、
法律上も捜査と留置の分離を定めて、適正な捜査活動に資するようにしているというふうに思われます。
捜査と留置の分離、これは実務上徹底され、また定着しているものと思いますけれども、本
法案におきまして、
法律上の規範として
規定されているということは重要な意義があるというように考えます。
ところで、我が国の
刑事訴訟法では、御案内のとおり、被疑者を逮捕したときから七十二時間、また、被疑者を勾留請求したときから十日間、やむを得ない事由があるという場合にはさらに十日間、すなわち、最大二十三日以内に公訴を提起しないときは被疑者を釈放しなければなりません。このことは、捜査
機関にとりまして、期間の制約がある中で、検察官が公訴を提起するか否かを判断するために必要な証拠を収集しなければならないということを
意味しております。
殊に、第一次捜査権を有します警察が、逮捕された被疑者を検察官に身柄送致した後も被疑者を取り調べ、短期間のうちに周到で緻密な捜査を遂げて、検察官が証拠に裏づけられた起訴、不起訴を決定する、こういう我が国独自の刑事司
法制度のもとでは、代用
刑事施設というのが重要な機能を果たしていると言えます。
一般に、被疑者は、犯行状況を最もよく知っているというように思われる者であります。物的な証拠や
参考人の供述がある場合でも、被疑者のいわゆる秘密の暴露が犯罪
行為と被疑者との結びつきを認定するのに決定的な証拠となるということも少なくありません。また、刑法を初めとした刑事実体法が主観的要素を要件としていることからも、被疑者の取り調べなくして真相解明ができない場合が多いと言えます。このような被疑者の取り調べを行うに当たっては、捜査
機関と被疑者の身柄を拘束する
場所とが比較的近接し、身柄を拘束する
場所には取り調べ室等の
施設が整備されている必要があります。こういう条件を満たす
施設として、警察の
留置施設、すなわち代用
刑事施設があると考えます。
この代用
刑事施設は、我が国の刑事司
法制度やその
運用におきまして、警察の捜査を支える基盤として機能している、このように評価することができると思います。
次に、我が国の法制上、被疑者の勾留
場所として
拘置所が
原則であり、代用
刑事施設は例外である、こうしたことをしていないという点について述べたいと思います。
代用
刑事施設につきましては、
法律上、被疑者の勾留
場所として
拘置所が
原則であり、代用
刑事施設は例外にすぎないと言われることがあります。しかし、
刑事訴訟法の解釈といたしまして、
拘置所と代用
刑事施設のいずれかを
原則とし、いずれかを例外とするというふうにしているわけではありません。
刑事訴訟法では、裁判官が被疑者を勾留する旨の裁判をするに当たって、勾留
場所を指定して勾留状に記載しなければならないという
規定になっております。この勾留
場所の指定は、裁判官が当該事件に存する諸事情を総合して裁量により決める事項でありまして、法規上、この指定を直接拘束するような
規定はありません。これまでの刑事司法の実務では、被疑者の勾留
場所は、当該事件の捜査に当たっている警察署の
留置場を指定し、捜査が
終了して起訴されると、その事件の係属した裁判所に近い
拘置所に被告人を移監するという
運用であるということであります。統計を見ましても、勾留される全被疑者のうち、
拘置所に入所した人員の割合というのは、昭和四十六年には一八・五%であった。これが
平成十六年には一・七%になっているというふうに聞いておりますが、このことからしても、代用
刑事施設を勾留
場所とすることを例外とする判断を裁判官がしていないということがうかがえると思います。
次に、代用
刑事施設の漸減ということについて述べたいと思います。
代用
刑事施設を
廃止すべきである、こういう
立場から、昭和五十五年の
法制審議会の答申の百十項の(二)におきまして、代用
刑事施設の漸減を求めた漸減事項であるという
意見があります。しかし、この百十項の(二)につきましては、そもそも代用
刑事施設の漸減について立法することを求めたものではなく、
改正法の実施に当たっての
運用上の
配慮事項とされているものであります。
そして、この項目の趣旨につきましては、代用
刑事施設はあくまでも例外であり、
廃止に向けてできるだけ減らしていくべきであると解釈される
立場があることは承知しておりますけれども、私はそのように考えません。先ほども述べましたが、
刑事訴訟法では、被疑者の勾留
場所として
拘置所あるいは代用
刑事施設のいずれかを
原則とし、いずれかを例外とする、こういうことはしていないのでありまして、この点につきまして、
改正法の実施に当たって
配慮すべき事項により変更を加えようとするものではあり得ないからであります。
私は、この趣旨につきまして、勾留
場所は裁判官の適正な裁量により指定されるべきであるが、裁判官が勾留
場所を
刑事施設に指定しようとしても、最寄りの地に
刑事施設が存在しないとか、
刑事施設の
収容能力が十分でないという理由から、
留置施設を勾留
場所として指定せざるを得ないというような例を徐々に少なくするように
刑事施設の増設やあるいはその
収容能力の増強を図る、このように要請したものというように理解しております。
もし、代用
刑事施設を漸減させるということを定めたり、あるいは具体的に求めたりすることになりますと、現に裁判官によって
拘置所でなく代用
刑事施設を勾留
場所としているというこの現実の
必要性を損なうことになるばかりか、迅速適正な捜査の遂行にとって大きな障害になると思います。また、近年の厳しい治安情勢を反映して、警察の
留置施設の過剰
収容状況が深刻化しておりますが、その厳しい財政状況の中で、現実の留置需要に応じた
収容力を確保するために、都道府県において
留置施設の整備などに大変苦労しているというように聞いております。こうした
予算措置にも大きな支障が生じてしまうのではないかと懸念するところであります。さらに、留置業務に精励している
第一線の警察官の士気をそいでしまうということになるのではないかという点も忘れてはならないように思われます。
次に、今回の
法律案におきます
留置施設に関する改善点に関する評価を述べたいと思います。
まず、この
法律案の第二十条から第二十四条までに
規定されております
留置施設視察
委員会であります。これは、警察本部ごとに、部外者である
委員から成る
留置施設視察
委員会を設け、
委員会が
施設を視察し、その運営に関し留置業務管理者に対して
意見を述べるというもので、
留置施設の運営を外部の者が直接チェックすることができ、また、
施設側に率直な
意見を述べられる、こういう点で画期的なものであるというふうに考えます。
これにより
施設運営の透明化が図られ、被留置者の適正な
処遇の大きな担保となるものというように評価することができます。
また、
法律案の第二百二十九条から二百三十五条までに
規定されています不服申し立て制度でありますが、これも、昨年成立いたしました
刑事施設及び
受刑者の
処遇等に関する
法律におきましても、警察本
部長に対する審査の申請や事実の申告等の制度が設けられていたところでありますが、今回の
法律案では、
刑事施設における不服申し立て制度との均衡を図り、警察本
部長の裁決等に不服がある被留置者は都道府県公安
委員会に不服申し立てを行うことができるようにするなど、制度の充実が図られております。
こうした不服申し立て制度の整備は、被留置者の
権利救済の観点から、大きく評価することができると考えております。
以上、
法律案につきまして
意見を申し上げましたけれども、この
法律案は、
未決拘禁者の
処遇等に関しまして今日の
法制度として合理的であります。御
審議の上、速やかに成立することを希望いたします。
以上でございます。(拍手)