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村山参考人 ただいま
紹介を受けました帝京大学文学部の教授をしている
村山です。
私は、皆さんに今レジュメとしての
資料と、それから新聞の切り抜きをコピーしたものを用意させていただきました。お
手元にあるかと思います。それに基づきながら、レジュメについては、皆さんのお
手元の中に、赤く丸をつけてあります。そこを追って、今回の
法案について、問題点と課題を述べさせていただきたいと思います。
私は、それまでは
現場と研究にかかわっていたんですけれ
ども、八年前に、日本一人口の少ない、鳥取大学に赴任しました。そして、そこで学生と一緒に、千人、二千人規模の調査を毎年やってきました。それを踏まえて、
文部科学省から助成金を受けまして、全国五万人を対象として、実際は調査の回答を受けたのは三万人、三万件ですけれ
ども、その調査を実施してまいりました。
そういうことを踏まえて、全国の
実態、これは
保育園、
幼稚園、親、
保育者、全部
現場とやりました。恐らく、日本でこれを総合的にやった調査は、私の知っている限りございません。初めての調査です。その調査に基づきながら、少し問題点を考えたいと思っております。
「はじめに」というところで述べてあるんですけれ
ども、
一つは、この
法案を考える上で、
保育というのは何かということを、やはりコンセンサスをつくっていく必要があるんじゃないのか。これまで
保育という言葉は日本の法律の中で共通に使われています。それは、
学校教育法でも
幼児の
保育です。それから、
保育所の場合も
保育です。そこでは統一されているわけですね。そこは大事な点です。
そして、
保育という中にはどういう考えが入ってくるかというと、それは、横文字にすると、ケア・アンド・エデュケーションという言葉なんですね。これは、日本の
保育学会、唯一の
幼児教育の学会、
保育学会は、ここにも書いてありますように、ケア・アンド・エデュケーションです。それはなぜかというと、
幼児は、
生活の中でさまざまなことを学び、そして、
生活の中でさまざまなことを教えてもらう。そういう
意味では、
生活と
教育が一体的にされなければいけませんよ。これが
保育なんですよ。その理念を、私は今、
保育が大事だと言われる時期に、そこを国民的コンセンサスとして、これは世界的にもそうなっています、これを確立することが極めて大事だろう。これが第一点です。初めのところです。
それからもう
一つは、
保育園や
幼稚園という場は、
子供を
中心にしながら、親と
保育者が日常的に交流し合う場です。それができるような条件整備が必要であるということ。
それから三点目は、そこの主人公は
子供たちですから、
子供たちが本当に
生活が豊かにできるように。
現状は、寝るところ、食べるところ、遊ぶところ、みんな一部屋で済ましています。この水準は敗戦直後の日本の国民
生活の水準です。これが
保育園現場では当たり前になっています。それは日本の最低
基準が変わっていないからです。そういうところをやはり考えないといけない。
それから四番目は、ナショナルミニマム、
保育というものはこういうもので、国としては最低限この水準までは確保しなくちゃいけないよという、その
基準を今示すことが本当の
意味での
子育て支援につながっていくんじゃないだろうか。
それから、この
法案を考える上で大事なことは、
現場の
実態です。
保育所、
幼稚園の
実態は、日本の場合はすごく格差があります。私は、日本一人口の少ない鳥取に行って、調査しながら、改めて感じています。
例えば簡単に言いますと、二枚目の四ページの下に「最低
基準と
保育所運営費の関係」というのを表にしておきました。これは概略ですけれ
ども、最低
基準を一とした場合に、今の
保育所運営費の国庫負担金はどれぐらいかというと、最低
基準では
保育園運営できませんから、大体二倍ぐらい、これは概略ですけれ
ども、二倍ぐらいのお金が出ているんですよ。人の配置も一・六、七倍です。最低
基準では
運営できないんです。
さらに、それでも不十分だから、
自治体がお金を出しています。そのお金を出している
自治体のところが
かなり格差があるんです。
東京の場合は、民間の
保育園でも国の倍に当たる額を出しています。ですから、国
基準の二倍で民間の
保育園でも
運営しています。公立の場合はさらに多いです。ですから、最低
基準を一とした場合に、豊かなところは四倍、五倍の
保育をしている。普通の地方都市は最低
基準の二倍かちょっとしかないんです。国の
運営費の一・五ぐらいにいけばいい方です。こんなに格差があるんです。その格差があるという
実態を踏まえて
法案をつくるときに、
自治体側にちゃんとできるのかできないのか、このことを考えておくことが大事だろうと思います。
それでは次に、今回の
法案の中で問題点を少し述べてみたいと思います。
認定こども園の中身のところで、これは国会
資料集の二ページに載っていますけれ
ども、
幼保の
連携型、
幼稚園型は
幼稚園と
保育所機能、
保育所型は認可
保育所と
幼稚園機能、地方裁量型は認可外、いわゆる無認可
保育所と無認可
幼稚園ですね、
幼稚園機能というのは。つまり、
幼稚園機能、
保育所機能というのは認可外の
施設のことを指すわけですね。この認可外の
施設の
状況がどうなっているか。残念ながら、ちゃんとした調査は
一つもございません。
例えば、どういう問題が起きているかというのをここに出しておきましたけれ
ども、これは厚生省の統計です、認可外
保育所は過去五年間で三十五件の死亡事故が起きています。そして、例えば新聞切り抜きで、私は
資料の四のところに、これは最近のものですが、南日本新聞というのを載せています。この中身はどういうことかというと、認可外、無認可
保育所を認可にしたら、今まで百四十人ぐらい収容していたところは認可にしたら六十九人になった、入れない
子供がいっぱいいると。つまり、認可外の
施設は普通の認可
保育所の倍ぐらい
子供が入っていると。これは地方へ行けば当たり前なんです。こういう
実態の無認可
施設、そして、無認可
保育所という問題が大変深刻な問題を抱えている。もちろん、その中で一生懸命良心的にやっている人はいます。でも、そういう
実態があるんだということ。
そういう中で、地方裁量型とか
保育所機能、
幼稚園機能といって認可外の
施設を入れていくということは、
自治体のお金が、現在の認可
保育所だって
東京のような対応ができていませんから、それ以上のことはできないわけです。そうすると、条件の悪い、認可にとてもならない
施設までが認定される。これは実質的にはダブルスタンダードになっていくんじゃないか。ダブルスタンダードになったときに、親にしてみれば、認定されて安心できるかと思ったら、これは安心できないと。入ってみて、だまされたんじゃないのかというふうに思うことも出てくるわけですね。だから、この無認可
施設の問題を入れるというのは、慎重にやらないといけない。私はもっと無認可の調査をすべきだと思います。そういう
意味では、この取り組みは、もし考えるとすれば、私は別に
幼保一元とか
一体化は反対じゃありません。無認可の
幼稚園と
保育所をどうするかということに限定して考えるべきじゃないのかと。
そういう点では、これから望ましい、いろいろなことをやるということであれば、
保育所の今までの最低
基準やあるいは
幼稚園の設置
基準を見直して、そして改善をしようという
視点から、新たな国のナショナルミニマムをつくる
作業に取りかかれるような
視点を出すべきじゃないんだろうかと思います。そういうことを考える上で、今の
保育所や
幼稚園の
制度はどうなっているのかというのを少し述べたいと思うんですね。
時間が限られていますので簡単に言いますと、
幼稚園と
保育所は
かなり違います。それを簡単に
一体化といっても、今の
制度という枠の中では難しいです。どうしてかというと、まず、
幼稚園は親が選ぶ、親と園との契約です。ところが、
保育所はそうじゃない。
保育所は、どうして
保育所というのがあるかというと、日中
保育に欠ける状態にある
子供がちまたに、路頭にさらされないために、そのためには常に
市町村が責任を持って
地域の
子供たちを守る必要があるんだと。そのために
保育所ができているんですね。その責任は当然
市町村にあるわけです。民間ではこれはできません。だから、
市町村が責任を持って、
保育所運営に責任を持つ、入所についても責任を持つ、
保育料についても責任を持つというシステムになっているんですね。そのシステムを、もし崩すということであれば、これは本当に大変な混乱が起きてくる。そこはやはりしっかり押さえる必要がある。そういう
意味では、直接入所という形で、入所や
保育料の責任を園に丸投げするということは、これは法律的にできない、明らかに。もしした場合は、園が全部責任を負うという形になりますから、裁判やいろいろな問題が起きてきます。そういう点で、この問題は慎重にしないといけない。
それから、一元化と、
保育所や
幼稚園とか、夜間
保育とか、多様な
施設があるということは、別な問題なんですね。
制度を一元化するということは、どの
施設を利用しても
子供たちがきちっと保障されるという理念が一元化だと思うんです。つまり、国が、
一定程度、どの
施設に入ってもここまでは面倒を見ますよ、これが一元化。だから、
施設は多様です。その多様性を保障していかないといけないということでございます。
それから、三番目ですね、五ページのところです。
保育サービスのところでの中身ですけれ
ども、例えば、いろいろな違いがある。ここに書いておきました。見てください。時間とか日にちとか、
幼稚園と
保育園は
かなり違います。
特に預かり
保育の問題ですけれ
ども、文部省の統計でも、預かり
保育七割とか、開設しているよと言われています。私の調査でも六割とか七割という数字が出てきます。ところが、どれだけ利用しているのかという人数を確認してみたら、
定員のたった六%しか入っていないんです、
実態は。これは五十万以上の都市の
幼稚園を調査したものです。まだ、預かり
保育というのはスタートしたばかりです。これをどうするかということをもっと煮詰めないといけない。
それから、共用化の問題がありますけれ
ども、共用化はどれぐらいでされているかというと、全
保育園、
幼稚園の六%ぐらいです。まだ、取り組んで、実験的な段階なんですね。そういうところを踏まえて考えていかないといけないんじゃないのか。
最後に、日本の
保育の中で
保育者のストレスが大変たまっています。これは、日本海新聞の記事と私の七ページのところでも見ていただければおわかりになると思います。これは大変深刻です。そしてもう
一つは、そういう中で、日本の
子育て支援の施策が国際的に大変おくれている。最低
基準の職員配置の
資料もこの
資料の中に国際比較をまとめておきましたけれ
ども、見てください、三十人という国はありません。大体、諸外国は十人です、受け持ち人数。そして、
子育て支援の育児
支援費は、日本は主要国で下位です。こういうことをやはりきちっと克服する方策を考えるという
視点からこの事業なりこの
法案をぜひ考えていただきたい。
親も、父親も母親もストレスでいっぱいなんです。父親は長時間労働のために、母親が育児ストレスになっていても手が出せない。我々の調査でいうと一〇%ないし一五%ぐらいの父親が、母親の育児ストレスで仕事が手につかないと言っているんです。そういうときがあるとまで言っているんです。このことをやはり私
たちは考えて、日本の
社会が、
子供に優しい
環境づくりが本当に進められるような、そういう
視点からこの
法案を検討していただきたい。
実態をやはりきちっと調べるということをやっていただきたいというふうに思います。
簡単ですけれ
ども、以上で私のまとめとしたいと思います。ありがとうございました。(拍手)