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合瀬参考人 おはようございます。
NHKの解説
委員の合
瀬宏毅と申します。
きょうは、このような場を与えていただきまして、大変ありがとうございます。私の解説
委員としての担当は、
農業、漁業など第一次産業と
食料問題でありまして、日々のニュースの解説のほかに、
日本各地で頑張る
農家の姿を描きます「たべもの新世紀」という番組に出演して
コメントしております。毎週日曜日の朝に放送する番組なんですが、既に六年続いておりまして、
消費者からの反応も多くて、
消費者の
農業の
生産現場に対する関心の高さというものを感じているところです。
私が解説
委員になりましたのは七年前で、それまでは経済番組のプロデューサーをやっておりました。
農業を専門とするようになって感じましたのは、
農業政策の複雑さと難解さでありました。
政策を読み解き、取材してわかったのは、
産業政策であるべき
農業政策に
社会政策だとか
地域政策というものが多く入り込んでいるということでした。また、ほかの産業が、いろいろな人とか企業が入ったり出たりして活性化しているのに比べて、
農業というのは固定されたメンバーが、親子代々ずっと
農業を続けているということでした。産業という視点から見ますと、極めて特殊で、またこれが今の
農業が元気がない原因なのかなというふうに感じました。
農業を活性化させるためには、普通の産業がやっているような、やる気のある人がみずからの知恵と工夫で自由な
発想でやっていくということが必要だと思います。そうしてできた
農産物が
消費者に支持されて、
生産者と
消費者が非常にいい
関係を築く、そういう
関係をつくることが今の
農政に課されている宿題だと私は思います。
そうした視点から、きょうは、今回
提出されております
法案のことについて述べさせていただきますが、私がこれから述べることはあくまでも私の
意見でありまして
日本放送協会の
意見を代表するものではないということをあらかじめお断りしておきます。
さて、今回、農水省から出されました
品目横断的経営安定対策なんですが、私は三つの点で注目すべきだというふうに考えています。
一つは、残すべき
担い手を絞って施策を集中させたことです。二つ目は、一定の
所得を保障した結果、
農家の
経営上の選択の幅を広げたということです。三つ目は、
日本農業を関税で守る構造から税金で守る
方法に転換したということです。
まず、
担い手を絞って施策を集中した点です。
品目横断的経営安定対策は、これまですべての
農家を
対象としていた作物別の
価格補償を、個人あるいは
法人の
所得に注目し、結果的に守るべき
農家に集中させたものであるというふうに理解しています。現在の
農村の
状況を見てみますと、
農業を主にしている人ですとか、サラリーマンをやりながら
農業をしている人など、さまざまであります。こうした人たちすべてを守るのではなくて、
農業政策ですから、やはり今後の
農業を担っていく人を育てていく、これは極めて妥当なことだと思います。
農家にとりましても、一定の
所得が保障されるわけですから、その
所得のもとで、いろいろな作物を組み合わせながら
経営を考えていくということができます。
経営の自由度というのがより増していくものと思います。
さらに、
価格で保護する
方法をやめたことで、
WTOにおける
交渉の選択の幅が非常に広がったというふうに思います。現在、
WTO交渉というのは非常に難航しておりますが、自由
貿易が、ますますこれから、とめようもない、加速していく中で、遅かれ早かれ、多分米も無傷ではいられないというふうに思います。
これまで、
日本の
WTOなど国際規律への
対応というと、常に後手後手に回っておりまして、
交渉が決まってから慌てて
対策を講ずる、こうしたことを繰り返してきました。
交渉は
交渉として、
国内の
改革を進める、こういうことがこれからは必要になってくるんではないでしょうか。今回の
法案は、国際規律への
対応という面でも評価できるというふうに私は考えています。
実は、
農政改革ということで私がぱっと思い浮かぶのは、以前取材で訪れました静岡県大東町の
農業法人のことであります。ちょっとこのことを話したいんですが、この地区は、浜松市の近郊で、兼業
農家が多くいる
地域なんですね。三十年ほど前に、百五十ヘクタールほどの
農地の圃場整備をやったんですが、このときに、町がすべて費用を負担する、そのかわり
農地をすべて吐き出しなさいということをやったわけですね。それで、百五十ヘクタールほどの
農地を、現在、六人ほどの
農家が
米づくりを
中心とした
農業をやっていらっしゃいます。近くに工業地帯がある
地域ですから、会社勤めの人は会社勤めに集中してほしい。それから、
野菜、園芸も盛んな
地域ですから、園芸の人は園芸に集中する。そういう人たちは、
農地を出して、そこで
米づくりをやる人は
米づくりをやる、こういうふうに分けたわけですね。
その結果、この
地域では
米づくりをやる人は非常に低コストで
米づくりをやっておりまして、現在、これは去年の
価格なんですが、コシヒカリを六十キロ
当たりおよそ一万六千円で地権者の人たちに販売している。これは十キロ
当たりにしますとおよそ二千七百円でありまして、私たちが東京でコシヒカリを買うとおよそ五千円ぐ
らいはするわけですね。この
価格は、
消費者としても非常にハッピーでありますし、
生産者としても非常に高い
利益を上げている。地元のものを地元に売るわけですから流通経費はゼロでありまして、ここでは
生産者と
消費者の非常にいい循環ができている。米の消費もこの
地域では落ちていないというふうに言われております。今では、この
地域は、全部、およそ一ヘクタールほどの区画にし直して、さらにコストダウンを目指して、多分、六十キロ
当たり一万円ぐ
らいまでは引き下げられるだろうというふうに言われております。
私は、最終的には、こういう
地域を
日本じゅうにつくることが結果的に
日本の
農業を強くすることだというふうに思うんですね。今回の農水省の
法案が直ちにこうした姿をつくるわけではありません。ただ、構造
改革のスタートに立っただけだと言うべきだと思うんですね。逆に言うと遅過ぎるぐ
らいだということです。しかし、重要なのは、着実にこれを実行して活気ある
農業をつくることだというふうに思います。
今回の
法案をより
実効性の高いものにするためにはどうすればいいかというと、
参加者をふやすことであります。これまでの国会の議論を聞いておりますと、当初の
参加者というのは、
面積ベースでおよそ五割ですか、百六十万から百七十万ヘクタールとされています。ただ、
現場の話を聞いていますと、かなり苦労されているようなんですね。
原因の
一つと私が考えるのは、この
法案が非常に難しくて難解である、理解しにくいということと、もう
一つは、
農家がメリットをなかなか感じにくいということなんです。農水省で出された試算によりますと、支援水準はこれまでの支援水準と
余り変わりないというふうにされています。この
法律の大きな
目的の
一つが、構造
改革を加速するという面であることを考えると、やる気を引き出すためには、最初は若干手厚くやって、その後、効率のよい
経営ができた段階で徐々に引き下げていく、そうした工夫も必要なんではないでしょうか。
一方で、
農家にも考えてほしいのは、積極的に参加に取り組んでほしいということなんですね。私も取材などで農山村をよく歩きますが、かなりやはり皆さん
高齢化していらして、耕作放棄地も目立ちます。高齢者の方が生き生きと
農業をやるということは、それはそれで結構なんですが、それはそれとして、体力のあるうちに、これからの国際情勢の変化に
対応して、きちんとしたやはり産業としての
農業をつくり上げておく、
地域も活性化していく、そういうことも考えなければいけない時期に来ているんではないかというふうに思います。そのためにも、やはりきちんと取り組んでほしいというふうに思います。
最後に、民主党の案について少し触れたいと思いますが、農水省の案と最も違いますのは、
対象者を絞り込むのかどうかという点です。民主党案では、すべての
農家を
対象とした直接
支払いというふうになっています。確かに、小さい
農家で、知恵や工夫を駆使して、きちんとした
経営をやっていらっしゃるというところがあることは私も存じております。
ただ、これからの
農業を担う、
日本の
食料生産ということを担う
農家となるとこれはどうかというふうに考えるのは、私の知っている
農業法人の人は、これは社員をいっぱい抱えているわけなんですが、その方を独立させるときは五ヘクタールからやらせるんですね。小さい
面積ではやはり
農家としてはなかなか自立しにくい、五ヘクタールあれば、いろいろな作物を分散してやはりリスクヘッジができるんですね。
農業を
経営として考えることができるという理由からです。
やはり、私たちの税金を使うわけですから、
対象者にはこれからの
日本農業を担う
経営者としての視点を持っても
らいたいというふうに思うわけです。
最後に、活力ある
日本農業を実現するためには、実はこの問題だけではなくて、
農地問題など非常に多くの解決しなければならない問題が多いことも事実であります。ただ、
政府には、一刻も早く構造
改革というスタートラインに立って、とにかく進めても
らいたいというふうに私は思います。
どうもありがとうございました。(拍手)