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森田参考人 皆さんのお手元に
レジュメが渡っていると思います。「あらゆる暴力から
子どもを守る視点を」というものと、それから「サクセスストーリー」、この
二つが私の方が提出している資料です。
あらゆる暴力から
子供を守ろう、そういう
仕事を私はアメリカと
日本でしてきて、ことしでちょうど二十五年になります。
子供に対する、女性に対するさまざまな暴力にどう
対応するのか、それにかかわる
人たちへの研修とカリキュラム開発、そういう
仕事を二十五年間してきました。そういう者にとって、今、国会で衆議院の青少年特別
委員会の
方々が、
子供の
安全対策ということに時間を費やしてくださっていることを大変心強く思っています。
その
レジュメのタイトルにありますように、私は、
子供をめぐる
安全対策というのは、あらゆる暴力を考えて総合的に取り組んでいっていただきたいなと思います。しかし、私
たちみんな、マスコミの過熱報道の中で、非常に猟奇的な恐ろしい
事件が起こると、その
事件だけに圧倒されてしまう、そういう不安の伝染力に圧倒されるということを、大いに私
たち一人一人が感じているのではないでしょうか。
実は、
子供をめぐる危険な状態というのは、必ずしも路上で起きているわけではありません。むしろ、性
犯罪を伴う危険な
事件、例えば昨年の広島や栃木で起きたような
事件というのは、数としては非常に少ないです。
子供に対する性
犯罪は大変な数で起きています。しかし、その圧倒的な性
犯罪者というのは、特に
子供を対象にするのをペドファイルという言い方をしますけれ
ども、ペドファイル、
犯罪学のプロファイリングの方からいいますと、いろいろなタイプに分かれますけれ
ども、圧倒的多数のペドファイルというのはいわゆる
状況型というもので、例えば昨年の広島で起きた、あるいは
宮崎勤、あるいは奈良で起きた小林薫、ああいった
事件のあの方
たちは、非常に珍しい加虐型、性癖型、そういうタイプのペドファイルです。
もちろん、起きた
事件は恐ろしいので、私
たち一人一人がその不安の中に圧倒されていって、何しろ路上を、何しろ登下校を守ろうという形になっていきます。もちろん、そういう努力は大変すばらしいと思いますけれ
ども、例えば性
犯罪に関したら、圧倒的多くの性
犯罪は路上では起きていないです。建物の中で起きています。圧倒的多くの加害者は性癖型ではないですから、
子供に対して傷をつけたり殺したりということはしません。しませんけれ
ども、性
犯罪を繰り返ししていく。
そういう非常に典型的な例が、もしかしたら
皆さん新聞で読まれたかもしれませんけれ
ども、つい最近逮捕された福岡での現職の
警察官ですね。五年間にわたって
子供たちを追い回し、性
犯罪を行っていました。しかし、彼は決して傷つけるということはしませんでした。性
犯罪者は普通はしないです、傷つけたら捕まってしまいますから。捕まらないで、
子供たちをだましながら
自分の性的な欲求の対象にしていくというのが彼らが最も望むことです。
私は、こういうことでたくさん本を出しているので、今まで数回、刑務所から、性
犯罪者から手紙をもらったことがあります。拘置所、留置所、刑務所からですね。その方
たちの何人かが、こういうことを
子供たちに教えてほしいというような形で書いてきた方がいます。そういう方の中でも、多くの性
犯罪者というのは、
子供にけがまでさせるということは考えていないんだ、でも、
子供がいるところには必ずたくさんいるんだというようなことを、そのほかのたくさんのことも書いてくださった方がおられます。
ですから、ぜひぜひ、不安に私
たちが圧倒されているなと思ったときは、少し冷静に、もう少し鳥瞰的なところから考え直してみよう、もしかしたら何かタコつぼみたいなところで
対応しようとしているんじゃないだろうか、そんなこともちょっと考えていただきたいと思います。
例えば昨年、広島、栃木で起きたような
事件は、決して今になって起きているわけではありません。一九六〇年代にも七〇年代にも八〇年代にも九〇年代にも、全く同じような性
犯罪行為で
子供が殺された、そういう
事件は一年に一人、二人あるいは三人、そのくらいの程度で各年代を通して起きています。何も今に始まったことではないということも、ぜひ念頭に置いておいていただきたいなと思います。
それともう
一つ、先ほどのお話、どなたかもお話しされていましたけれ
ども、
子供の安全を脅かしているのは
不審者だけではないですね。だから、
不審者というのは一体だれなんだろうと。
不審者対策、
不審者情報、余りにも過熱しているために、私
たちが
子供の安全の
教育をするために
学校に行くと、特に教頭先生ですね、パソコンに次々と入ってくる
不審者情報に物すごく振り回されています。親
たちも、携帯メールに登録するとどんどんどんどん
不審者メールが入ってきます。それですごく不安感を感じているし、そしてとても翻弄されています。
対策というのは、もちろん、
不審者情報は
警察の方
たちにとって大切な
情報です。でも、では
不審者が出たら、もしその場に出くわしたらどうするんだろうということに関しては伝えられていないですね。
私は、そういった、もし万一、何かそういう場面に出くわしたらどんなことができるんだろうということを、決して怖がらせずに、そして、こうしなければならないということではなくて、こんなこともできるよという形で伝えていくこと、それが大変重要なことだと思います。それが伝えられないで、こういうことをしないように、こんなところに行くと怖いということだけ伝えられていくと、不安が増大するだけではなく、もし万一、そういうところに行ったために
被害に遭ったとしたら、その
子供は周りから責められます。何でそんなところに行ったの、知っていたでしょう、あそこは危ないと知っていたでしょうと。
しかし、危ないところ、考えてみたら、先ほどの環境
犯罪学の方から、こういうところを考えて建物をつくるとか町づくりをするということはとても重要だと思います。でも、
被害者の側から危ないところというのは、どこでも危ないですよ。
奈良の
事件で小林に誘拐され殺された少女、あの少女が車に取り込まれたその
場所は、非常に人通りの多い、車の交通量の多い道です。そして、あの
事件を
子供たちは見ていました。それを見ていた大人もいました。そういう場でも
事件は起こる。十何年前の
宮崎勤が四人の
子供たちを、五人ですね、実際は、誘拐した。その中の一人の四歳の少女は家の目の前で連れ去られていきました。
危険なところはあると思います。でも、ここは危険だよと言われていないところでも、もしかしたら何かに出会うかもしれない、もし怖い思いになったら何ができるだろうか、そのことを私はぜひとも
子供たちに伝えていく必要があるだろうと思います。
もう
一つ、今とても過熱状態になっているのが、ハードを整備しようと。防犯ベル、
学校にはさすまた、そして
警備員の配置、監視カメラ、いずれもハードです。私は、安心は外には求められないと思います。なぜなら、危機管理ということ、あらゆる意味での危機管理です。例えば、病院で介護ミス、医療ミスを起こさないという意味での危機管理でも、あるいは
子供たちを
犯罪から守ろうという危機管理でも、すべての危機管理の基本はコミュニケーションです。コミュニケーションがないハードだけの危機管理体制は実効力を持たないです。両方通行のコミュニケーションですよ。一方的な、こちらからあちらに、こうしなさい、ああしなさい、そういうコミュニケーションではなくて、両方通行です。
広島の昨年の
事件、あの
事件が起きる一週間前に、あの周辺で全く似たような出来事に遭っていた
子供たちが二人いました。もちろん、身体的な
被害は受けませんでしたけれ
ども、性的な
被害を受けています。非常に似たような
事件が起きているんです。でも、その子
たちは、あの
事件が発覚して大
人たちが大騒ぎするまでそのことをだれにも言わなかったです。初めて、あの
事件が起きて親に言った。そのとき、親が、どうして言わなかったのよ、どうしてもっと早く言わないのと怒りました。その
子供は何と答えたと思いますか、そのどうしてに。怒られると思ったから。それが多くの
子供たちの気持ちです。普通の
子供たちが何かあったときに、ちょっと寄り道しちゃってあそこに変な人がいるのを見たから、それを言っちゃったら怒られるから、そういう思いの中で、言いません。
パトロールの方
たちも、私も民生
委員の方や保護司の方
たちの研修を頻繁にやっていますので、今、民生
委員の方
たちや保護司の方
たちはとても一生懸命
パトロールをしていってくださっているので、私がすごく今強調していることは、傾聴してくださいと。聞いてください、
子供の話をと。
子供にああしろ、こうしろ、こうしろと言う前に、ぜひ聞くという姿勢を見せてください、それができたら
子供たちの方から語ってきますよと。
子供に、あなた、こんなことあったのと言うことは、先ほどおっしゃったように、それを問いただすということはいいことではありません。しかし、本当に
被害を受けた
子供は、それをだれかに安心した環境の中で語らなければ、そのトラウマはいやされません。だれかに批判されたり、だめでしょう、そんなところに行って、早く帰ってこないからそういうことになったのよ、そういうようなことなしに、ただ聞いてもらう。聞いてもらうことによって、怖さや泣きたかった思いや、あるいは性的なことをされた何か嫌な気持ち悪い感覚や、そういったことが
言葉にして、あるいは涙にして出てくる、それが
子供にとっての心の応急手当てです。そういうことがされることによって、それは実は、その後トラウマにならないで済むんですね。でも逆に、どんなことがあったの、うん、それで、あんなところに行ったからいけないんでしょう、あなたという形でコミュニケーションがされると、それは大きなトラウマになっていきます。ぜひ、聞くということをしていっていただきたいなと思います。
ハードの中で、
防犯ブザーということ、全国の
子供たちに少なくとも貸与はされているかなというふうに思います。しかし、私ははっきりと言ってしまいます、
防犯ブザーは役に立ちません。
防犯ブザーは、役に立つとしたら、その瞬間に手に持っていなかったら役に立たないです。
では、すぐに手に持てるように、かばんの中に入っていたのではもちろん使えないですよね、それでは首にかけさせようと、それだけは絶対に言わないでください。絶対にさせないでください。大変に危険な武器です、相手にとって。首に何かがかかっていることは、がっとつかめます。ここにぶらぶらかかっていることも、それでがっとつかまえられるんですね。わざわざ武器を提供しているようなものですよ。
防犯ブザーを提供することをそんなに私は勧めませんけれ
ども、どうしてもやらないでほしいことは、首からかけさせるというようなことは絶対に言わないでください。それだったら、かばんの中に入っている方がまだましだなと私は思います。
既にこんなに大きな恐怖を
日本じゅうに広げた広島の
事件でも、そして栃木の
今市の
事件でも、どちらもその子
たちは
防犯ブザーを持っていました。しかし、電池が入っていなかった、家に置いてきた。物に頼ってしまうとそういうことが起きてくると思います。
これから一分でお話ししようと思っているCAPというプログラム、
日本では十年間
実践してきました。このプログラムは、アメリカで一九七八年に、昨年起きたような恐ろしい
事件の結果、生まれていったプログラムです。プログラムとしては、世界じゅうに広がって、二十八年の歴史があり、
日本では十年間の歴史を持っています。この十年間の中で、
日本じゅう、すべての都道府県にCAPのプログラムが広がりました。十年間で約二百十六万人の大人と
子供たちがプログラムを受けました。
このプログラムは、
一つずつのクラスに授業の時間をもらって入っていくという大変難しい、入っていくのが難しいプログラムです。講堂にたくさんの
子供を集めてやるというのではなく、
一つずつのクラスに入っていって、そして
子供たちに、参加型で、いろいろな
意見を、そしてロールプレーをしながら、あらゆる暴力、
子供同士のいじめにも、そして今のような誘拐の場合にも、そして知っている人からの性的な
被害にも同じ
方法で
対応していきます。
そのプログラム、いろいろなことを教えますけれ
ども、
一つ、
防犯ブザーにかわるものとして、特別な叫び声というのを教えます。特別な叫び声です。これを実際に一度練習します。私は、
自分自身が三十年前にこの特別な叫び声を物にして、あの恐ろしいアメリカで怖いと思ったことはないです。私は、
自分の中に武器を持っているといつも感じています。これは、身体の敏捷性と、それから、私は大切、そんなことをしないでよという、これはいわゆる人権意識です。この
二つさえあれば、いつでもどこでも、そして何年たっても、大人になっても使えるものです。
身体の敏捷性というのはどこで生まれてくるのかといったら、一度でいいから安全な場でやってみるということです。
子供たちが
警察のプログラムに行ったら、大声を出しなさいと言われた。お母さんもいつも大声を出しなさいと言っている。でも、大声ってどういう声なの。知らなかったけれ
ども、CAPのプログラムを受けたら、ああ、こういう声なんだ、ああ、こんなふうに出せばいいんだというのが初めてわかった。やってみる。大声を出しなさいというメッセージは広まっていても、では、親や先生が
一緒にその声を出してみる。そして、出してどうするの、出して逃げるんです。そういった、実際にやってみる、そういう
子供の視点に立った、そして、力を従来は持たないために
被害者になりがちな、そういう
人たちの視点に立った
対応をぜひ
皆さんも検討していただきたいと思います。
ありがとうございました。(拍手)