○大田
参考人 弁護士の大田でございます。
本日は、このような
意見陳述の
機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
日弁連では、消費者保護の
立場から、従前より
金融サービス全般にわたる業界横断的、商品横断的な消費者保護立法の
制定を求める提言を再三行ってまいりました。
今回の
証券取引法等の一部を
改正する
法律案等、以下では
金融商品取引法案と申し上げますが、そのような
金融商品に関する横断的な
規制を目指して
法案化されたものではありますが、その内容を見るときに、日弁連が従前より
意見書等において消費者保護の観点から問題が大きいと指摘した規定や、十分な
議論がなされないまま設けられたもので看過し得ない問題点を含んだ規定も少なからず
存在していることから、本年三月二十四日付で、今回の
金融商品取引法案の修正を求める
意見書を
提出しております。なお、この
意見書は、資料一として添付させていただいております。
私は、日弁連消費者問題対策
委員会副
委員長の
立場で、日弁連のこのような
意見書に基づいて今回の
意見陳述をさせていただきます。
ここで申し上げます私の
意見は、以下の五点でございます。
第一に、
金融商品取引法案においては、商品先物
取引や海外商品先物
取引、海外商品先物オプション
取引などの商品デリバティブがその対象に含まれておりませんが、その対象に含めるべきだと考えております。
今回の
金融商品取引法案の
目的は、その前提となった
金融審議会
金融分科会における二〇〇五年十二月二十二日付最終報告にもありますように、幅広い
金融商品について包括的、横断的な
利用者保護の
枠組みを
整備し、
利用者保護の拡充によって、既存の
利用者保護の対象となっていないすき間を埋めるとともに、現在の縦割り業法を見直し、同じ
経済的
機能を有する
金融商品には同じルールを適用するというところにあったはずであります。
ところが、今回の
金融商品取引法案では、
金融先物
取引法など四法が廃止されて
金融商品取引法に取り込まれたにとどまり、他の
金融商品に関する業法は残され、対象とされなかった
金融商品については、今回の
金融商品取引法における
規制と横並びにするという形で修正が加えられたにとどまっているのであります。
しかし、これでは、先ほどの
金融審議会最終報告に言うところの、既存の
利用者保護の対象となっていないすき間を埋めるとともに、現在の縦割り業法を見直し、同じ
経済的
機能を有する
金融商品には同じルールを適用するという
目的は到底達成し得ないものであると考えております。
そもそも、法
規制のすき間を縫って新たな
投資被害が発生するという
状況は従来から繰り返されており、近年の外国為替証拠金
取引の被害はその典型であります。この被害につきましては、二〇〇四年十二月の
金融先物
取引法の
改正、二〇〇五年七月からの同法の
施行に至って、悪質な業者を撤退させるなど一応の成果をおさめてきているわけでありますが、後追い
規制によって対応がおくれたとの感は否めません。
今回の
金融商品取引法案によって生ずるすき間の問題として最も懸念されるものの
一つに、海外商品先物
取引が挙げられます。
海外商品先物
取引については、現在、
規制法として海外商品
市場における先物
取引の受託等に関する
法律がございます。しかし、この
法律には、その適用範囲が狭く、海外商品先物オプション
取引が対象になっていないこと、行為
規制はあるものの、業者の参入に関する認可、登録等の
規制が全くないなど、
規制法としては大きな不備がございます。それにもかかわらず、今回の
金融商品取引法案においては、海外商品先物はその対象から除外され、先ほど述べましたとおり、
規制法として大きな不備が
存在するにもかかわらず、海外商品
市場における先物
取引の受託等に関する
法律については何らの手当てもなされていないという
状況にございます。そのため、従来外国為替証拠金
取引の業務を行っていた悪質な業者が法
規制の不備のある海外商品先物
取引へと移行し、その結果、被害件数が急増することが強く懸念されるところであります。
さらに、海外商品先物オプション
取引につきましては、海外商品
市場における先物
取引の受託等に関する
法律の
規制対象となっていない関係で、従前から何らの法
規制も及んでおらず、その結果、被害も少なくなく、裁判所が問題のある業者に対して損害賠償を命じた判決も数多く
存在するところが現状でございます。ところが、今回の
金融商品取引法案においては、海外商品先物オプション
取引はその対象からは除外されており、また、その法
規制の不備を補うための何らの手当てもなされていない
状況にございます。
今回の
委員会審議の中で、
政府委員から、これらの
取引については集団
投資スキームにおいて
規制可能であるとの答弁がなされていますが、実際上の被害事案を見ますと、ほとんどすべてが国内の商品先物と同じように個別の注文によって
取引を行う形式ものでありまして、このような形式のものについては集団
投資スキームの
規制対象にならないことは明らかであります。
海外商品先物や海外商品先物オプション
取引については、
金融商品取引法の対象に含めた上で、登録制、無登録営業禁止及び違反に対する罰則の付与などの参入
規制、それから、後に述べます不招請勧誘の禁止や適合性原則などを含む厳格な行為
規制がなされなければならないものと考えております。
さらに、国内の商品先物につきましてですが、これについては、その苦情件数が、国民生活センターのデータで見ても、一九九三年度には千八百六十三件であったものが、その後急増を続け、二〇〇〇年度以降、直近の二〇〇五年度まで毎年、一九九三年度の苦情件数の二倍をはるかに超える四千件以上もの苦情を出し続けているわけでございます。
この商品先物
取引の被害について、
政府委員の説明の中では、二〇〇五年の国民生活センターの苦情件数が四千二百十二件となっていることをもって、過去二年から大幅に減ったとして、被害が減少した、二〇〇五年五月
施行の
改正商品
取引所法における勧誘
規制が功を奏したなどとの答弁がなされていますが、本年一月に全国各地の単位弁護士会を中心に実施した全国一斉先物
取引・外国為替証拠金
取引被害一一〇番では、商品先物
取引だけで、前回の二〇〇四年の一一〇番の苦情件数よりも九十一件も上回る多くの被害、苦情の電話が全国各地から入っております。この点については、資料二の一、二の二において
提出しておりますので、参照いただきたいと思います。
また、この一一〇番の中で、
改正商品
取引所法が
施行された二〇〇五年五月以降の被害、苦情の内容を見てみますと、しつこい勧誘を受け、断っても勧誘が続き、
取引を行うことになってしまい被害を受けたなどという苦情、被害の件数が数多く
存在しております。この点については、資料三におきまして具体的に個々の聞き取りの内容を整理しておりますので、参照いただきたいと思います。
このような点から考えますと、二〇〇五年五月
施行の
改正商品
取引所法によって勧誘
規制が
強化されたとはいっても、それによって直ちに被害を減少させるものであるとは到底評価できないと考えております。
また、商品先物
取引の被害では、その被害額が巨額に上ることが少なくなく、生活
資金である預貯金などを根こそぎ奪われた事例や、多数の借金を余儀なくされた事例も見受けられます。また、商品先物被害に遭ったことから、人間不信やノイローゼ、家庭
崩壊に及んだ事例、前途の希望を失って自殺に追い込まれた事例、さらには先物
取引による損失が原因で被害者自身が横領等の犯罪行為を行ってしまった事例な
どもございます。最後の事例については、資料四として、新聞報道でそのことが明らかになっている事案を並べておりますので、それについても参照いただきたいと思います。
このように、国内の商品先物による被害は、単に被害件数が多いというだけにとどまらず、被害の内容が極めて深刻な事案が多いのでありまして、最もひどい
金融商品による被害と言えるのであります。
ところが、このような国内の商品先物
取引についても、今回の
金融商品取引法案ではその対象から除外され、わずかに、商品
取引所法を
金融商品取引法における
規制と横並びにするということで若干の
改正が加えられているにすぎません。そして、今回の商品
取引所法の
改正の内容を見ますと、先ほど申し上げた国内の商品先物
取引被害の件数の多さや深刻さなどを考えると、到底これでは被害の救済は図れないというふうに考えておるわけでございます。
でありますから、国内の商品先物についても、
金融商品取引法の範囲に含めた上で、その危険性の高さや被害の実態を踏まえた厳格な法
規制を行うべきと考えております。
第二に、
金融商品取引法案におきましては、電話、訪問による不招請勧誘、いわゆる勧誘の要請をしていない顧客に対する勧誘ということでございますが、これを禁止する規定を置いておりますが、消費者保護の観点から見ますと、国内の商品先物
取引、海外商品先物
取引、海外商品先物オプション
取引を含むすべての
金融商品について、原則としてこの不招請勧誘を禁止すべきであります。そして、その適用除外については、それぞれの商品性やコンプライアンスなどを点検した上で、その後になされれば足りるものと考えております。
金融商品の中で被害の多いのは、国内の商品先物
取引や海外商品先物
取引、それから海外商品先物オプション
取引、さらに外国為替証拠金
取引などがございます。これらの被害の大
部分は、電話や訪問による不招請勧誘がその発端となっております。とりわけ国内の商品先物については、先ほど述べましたように、被害件数が減っていないということ、それから被害の内容が深刻であることなどがあるわけでありまして、到底、先ほど申し上げたとおり、従来の勧誘
規制では足りないということになります。
そもそも、
投資被害の損失をめぐるトラブルの多くは不招請勧誘に端を発していることから考えれば、本来、すべての
金融商品について不招請勧誘を原則として禁止することが原則であると考えます。
このような不招請勧誘に対する厳しい
姿勢は
世界的な
流れになっているのでありまして、
我が国においては、わずかに、外国為替証拠金
取引を
規制しその被害を救済するために二〇〇五年七月に
施行された
金融先物
取引法だけにとどまっているわけでありますが、この点から見て、
我が国の不招請勧誘
規制は大きく立ちおくれているというふうに考えざるを得ないのであります。
このような
意味で、今回の
金融商品取引法案において不招請勧誘を禁止することが置かれていることは評価すべきでありますけれ
ども、この禁止対象が政令に定めたものに限るとして極めて限定されていること、それからさらに、横並びの
規制であるとされている国内の商品先物についての商品
取引所法の
改正法案にはこれが盛り込まれていないことなどは、非常に問題であると言わざるを得ません。
第三に、
金融商品取引法案に規定されている適合性原則についてですが、これについては、
法律上の実効性を
確保する観点から、これに違反した場合については、損害賠償義務、取り消し権、無効などの民事上の効果を伴わせる規定を設けるべきであります。
金融商品取引法においては、適合性原則が規定され、適合性判断の一要素として
投資目的を含めたことは評価できるのでありますが、民事効果が見送られているのであります。
適合性原則は、
投資者保護の観点はもちろんのこと、
投資市場における不適格な
投資者を排除して
投資市場の公正を図るという側面があるのでありまして、多くの行為
規制の中で最も厳格に守られなければいけないものであります。そのために、その実効性を
確保するためには、適合性原則違反については民事効を付与すべきものであると考えます。
第四に、プロ、アマの問題でございます。
金融商品取引法案においては、プロ、アマ区分を設けて、一般
投資家にもいわゆるプロとされる特定
投資家に移行する道を開いているわけですが、そもそも、プロ、アマ区分の趣旨としては、アマには適正な
投資保護を
確保する一方で、プロについては行政
規制でなく
市場規律にゆだねる、過剰
規制による
取引コストを削減するということでありますので、一般
投資家の保護の観点においては十分に保護されなければならないことは明らかであり、この観点から見ますと、安易にアマからプロへの移行を認めてしまいますと、説明等を受けずにリスクの高い
投資に引きずられてしまうことが十分予想されるのでありまして、断じて認めるべきではないと考えております。ここで言うプロについては、機関
投資家に限定されるべきだと考えております。
最後に、
金融商品取引法案においては、損失補てんの禁止が規定され、それと横並び
規制であるということから、商品
取引所法においても新たに損失補てんの禁止が規定されています。しかし、国内の商品先物
取引については、被害件数が多いこと、また被害が深刻であることからかんがみまして、損失補てんの禁止を国内の商品先物
取引については認めるべきではないと考えております。
もともと、損失補てんの禁止がありますと、業者がその規定を盾に、被害
回復に向けての示談交渉を拒否する口実に使われるというおそれが従来から指摘されているところであり、国内の商品先物については、その内容の深刻さ等から、損失補てんの禁止を置くことになりますと、商品
取引員の側から、その規定の
存在をもって損害賠償の示談交渉を拒否するという事例が十分予想されるのであります。そして、多くの場合、早期救済が図れなくなり、裁判によるある程度の時間をかけた解決にちゅうちょする人については、その救済を断念してしまうということも考えられるのであります。
さらに、各地の消費生活センターにおいては、これまで、勧誘当初の事案についてはそのあっせん処理において解決できた場面がございますが、損失補てんの禁止が入ってくることによって、このような救済の道も閉ざされてしまうわけでございます。
さらに、この損失補てんの禁止規定については、本来、商品先物については従来から慎重な審議をなされてきたわけでありますが、今回においては何らの審議もされないまま、その規定が盛り込まれたところを考えますと、そのプロセスにおいても大きな問題があると思います。
以上、私が述べましたことについては、
金融商品をめぐる救済現場におきます全国の数多くの弁護士の声を集約したものでございます。そして、それはまた、全国各地の
金融商品をめぐる被害に遭っている多くの消費者の声でもあります。
諸
先生方におかれましては、何とぞ私たち日弁連の
意見を十分に酌み取りいただき、今回の
金融商品取引法案が消費者保護のためによりよき立法になるように、修正が必要なところは十分な審議をいただいた上で修正いただきたいと存じます。
御清聴ありがとうございました。(
拍手)