○安部
参考人 関西大学の安部でございます。
大学の方では、
鉄道を初めとした公共
交通機関の安全マネジメントを勉強しております。その立場から、今回の御提案に関しまして御
意見を述べさせていただきます。
まず第一点目に、今回の
法改正全般でございますが、いずれも
運輸の安全の
向上に役立つ提案だと受けとめておりまして、基本的に賛成でございます。その立場から、さらに幾つか申し上げたいというふうに思います。
まず、賛成と申し上げたわけでありますが、特に三点につきまして今回の提案は非常に有効ではないかというふうに思っております。
まず第一点目ですが、各
事業法の第一条に、法の
目的として、輸送の安全の確保が挿入されたことでございます。
これは実は、例えば
鉄道事業法を拝見いたしますと、従前は「
鉄道等の利用者の利益を保護するとともに、」ということで、
鉄道等の利用者の利益の保護ということでうたわれておるわけですが、利益の保護という場合はこれは安全を含むものとして従前は考えられていたように思います。
今回、ここから、利用者の利益という場合に、安全をさらに取り出して、別に安全の確保ということをうたったわけであります。これは私は大変大きな
意味があるというふうに思いまして、単に利用者の保護だけではなくて、安全ということを一段と重視したというあらわれであります。こういうものを各
事業法の
目的一条に付するということは、
事業者のみならず行政各機関についても安全を重視しようということの
一つの大きな指針なり目標ができるわけでございますから、これは大変すばらしいことではないかというふうに理解をしております。
それから、それに関しまして、さらに、
事業者の安全努力義務ということ、これは言ってみれば当たり前のことなのですが、これも盛られたということで、この二点で
交通機関の安全をさらに高めていこうというあらわれが法的にもここに確認をされたということで、大きな
意味があるんじゃないかというふうに思っております。
二つ目でございますが、輸送の安全にかかわる情報の
報告及び公表について必要な規定が追加をされたということでございます。
情報公開というのは非常に重要でございまして、国民利用者が
交通機関の
安全性を評価するときに、こういったものが提供されますと、その判断材料になります。これも時代の流れに沿う大変適当な施策ではないかというふうに思っております。
第三番目ですが、
航空・
鉄道事故調査
委員会の
目的と役割の中に、被害の軽減に寄与をするということが新たにつけ加えられました。
これは、私たちの間では、サバイバルファクターの評価という、重視ということで言っております。つまり、大変残念なことなんですが、幾ら努力をしても重大
事故を根絶することはほぼ不可能であります。もちろん、ゼロに近づける努力をしていく必要があるんですが、根絶できない場合、不幸にして
事故が起こった場合、それをなるべく被害を軽減するという
観点から、サバイバルファクターの研究というのは非常に重要でございまして、このことが
事故調の新しい役割の
一つに追加されたということでございまして、これも大変私は評価をしたいというふうに思っております。
一方で、幾つか、今回提案されました法案の内容をさらにより高めていくために、
要望なり問題点について少し卑見を述べさせていただきます。
まず、時間的な制約がございますので、すべての条文について触れることができませんので、
事故調関係とそれから
鉄道事業法関係の二カ所につきまして
意見を述べさせていただきます。
まず、
事故調関係でございますが、今回、被害の軽減ということで、いわゆるサバイバルファクターの点が追加されました。これに加えまして、もう
一つ、私は被害者
対応を入れていくことが必要ではないかというふうに思っております。
委員の先生方御存じだと思うんですが、アメリカのNTSBの中には、被害者、遺族を
対応するセクションが設けてございます。昨年起こりましたJRの福知山線
事故の後も、加害企業のJRが被害者の
対応をするということで、随分望ましくない場面がそこには見られたわけでありますので、私はこの際、
事故調がこの被害者
対応をするために役割を果たしたらどうかというふうに考えております。今回の提案の中にはこれは入っておりませんので、ぜひ
委員会としても今後の課題として御
検討願いたいというふうに思っております。
それから、二つ目でございますが、調査機能の充実という点で、今回
国土交通省が努力をされて、昨年度と比べると
事故調のスタッフの拡充等、予算の拡充等やられたわけですが、まだまだ不十分だというふうに思っております。例えば、アメリカのNTSBではございますが、これの年間予算は日本円に直しますと約九十億円程度になります。もちろん、発生する
航空事故の
件数が違いますので、単純な比較はできないのですが、そういう規模でございます。
これはNTSBの関係者がよく言っていることなんですが、NTSBの予算というのはアメリカ国民一人当たりにするとわずか二十四セントの
負担でしかない、つまり三十円程度だということになります。三十円程度でアメリカの
運輸機関の
安全性が
向上するわけだから、アメリカ国民はお買い得なことをしているという言い方をNTSB関係者はしております。
ちなみに、お隣のカナダの国民一人頭の
事故調査
委員会の予算の
負担額は、カナダ・ドルで〇・八六ドル、日本円で約九十円という額になっています。御承知のように、日本の場合は一人頭一円にもいかないというのが今の
現状でございます。
ちなみに、私たちは消防という社会を守る大変重要な装置を持っているわけですが、これは先生方御承知のように各
自治体の予算でございますが、消防予算というのは、市民一人当たりに割りますと一年間約一万円ぐらいの費用
負担になります。一万円の費用
負担から比べますと、
事故調の費用、年間一円というのは余りにも少ないんじゃないかということで、私はぜひ
お願いしたいのは、年間十円ぐらいにしていただけないだろうかと。こうしますと、かなり充実した
事故調査ができるのではないかというふうに思っております。
それから、あと、これは将来的な課題になりますが、ぜひ、将来的には
事故調を
国土交通省から独立させていただきたいというふうに考えております。
実は、アメリカのNTSBは、発足以来三十年近くたっているんですが、約一万二千件の
勧告を出しておりますが、この一万二千件の
勧告のうちの半分がアメリカの
運輸省に対してのものであります。
運輸の安全というのは、場合によっては
運輸行政の瑕疵がその原因になる場合もございますので、やはり私は、アメリカのNTSBや世界の
事故調査機関のように、
運輸行政の不備も問題提起できるような組織に独立をさせるべきではないかというふうに考えております。
以上が、
事故調査機関にかかわる
部分でございます。
続きまして、
鉄道事業法関係につきまして、二点ばかり
意見を述べさせていただきます。
一つは、今回の御提案で、安全統括管理者とそれから運転管理者というものが設けられることになりました。これはこれで私はすばらしいことだというふうに思っておりまして、
事故学、安全学では、社長ないし副社長が安全問題に関心を持って、そこで絶えず安全に配慮することが
事業者の
安全性を高めるという
一つの常識ができ上がっております。安全統括管理者が社長ないし副社長ということで、トップの方がこういう役割につきますと、その企業の
安全性に対する
取り組みは随分違ったものになるのではないかというふうに思っております。
ただ、危惧をしておりますのは、
鉄道を見ますと、我が国は百八十程度の
鉄道事業者がいるわけですが、JRや大手民鉄を除きまして、特に
地方の中小
鉄道会社は体力がございません。せっかくこういう
法律をつくったとしても、名前だけこの管理者を設けて、
実態が機能しない可能性が非常に強いわけであります。
ですので、せっかくこういう
制度を設けていただいたわけでありますから、実を上げるために、国の
指導も引き続き必要ではないか。それから、場合によっては、財政的な
支援を行うことによって、中小
事業者含めて、こういう
制度が有効に機能するような措置をとっていくことが必要じゃないかというふうに思っております。
最後に、関連して申し上げたいのは、私は安全の問題を勉強しておりまして、最近の
状況に非常に危機感を持っていることがございます。
これは、どの
事業者もコスト競争が激しくなっておりまして、
事業者のレベルで、特にメンテナンスの外注が進んでおります。
事業者の本体で、
鉄道会社、
航空会社で、実は、いろいろなメンテナンスの外注などを行うことによって、本体
部分で技術力を持った社員がいなくなりつつあります。長い目で見ると、これは
事業者の
安全性を阻害するものではないかというふうに思っておりまして、こういったことについて、私たちはもう少し目を向けていく必要があるのではないかというふうに思っております。これが、将来的には非常に安全に対する脅威になっていくんじゃないかということを感じておりまして、ぜひこの
委員会の先生方も御留意いただきたいというふうに思っております。
以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)