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増田参考人 おはようございます。私は、
社会福祉法人はとのさと福祉会の
理事長をしております
増田百代といいます。どうかよろしく
お願いします。
私は、
社会福祉法人の
理事長と、あわせて兵庫県
保育所運動連絡会の役員として、この間、
保育所の現状を調査してまいりました。そして、研究し、よりよい
保育を目指して運動もしております。その
立場から、
三位一体改革、とりわけ国の補助金削減によって兵庫県の
保育所で起きている事実について話し、
意見陳述をしたいと思いますので、よろしく
お願いします。
まず、
公立保育所の民間移管についてです。
公立保育所の
運営費が一般
財源化され、四分の一の自治体が何らかの形で
保育予算の縮小を余儀なくされました。その顕著なあらわれとして、
公立保育所の民間移管が急激に進んでおります。
神戸、西宮、伊丹など阪神間を初め各自治体は、軒並みに
公立保育所の民間移管を提案し、実施をしています。
公立保育所を民間移管して、その浮いた
お金で
子育て支援をするというのです。
民間移管されるある
保育所の
保護者は、なぜうちの
保育所なのか、
子供にどんなメリットがあるのか、民間移管で浮いた
お金はどんな
子育て支援に使われるのか、市から納得できる説明がないといって反対しています。
何よりも
子供たちが犠牲になっています。四月一日に先生のすべてが変わるだけではなくて、
保育所の名前まで変わります。民間移管されたある
保育所に一歳半の
子供を預けている母親は、
子供がストレスから毎日、床におでこを打ちつけて泣くと話していました。
三月定例市議会に、神戸市
公立保育所民間移管反対の
請願陳情が四十二通
提出されました。
保護者を代表して口頭
陳述をした二歳の娘を
公立保育所に預けているお父さんの発言を一部
紹介したいと思います。
私の子どもは、二か月から
保育園のお世話になっています。担任はベテランから
男性保育士まで三人おり、子どもの体調、子ども同士のトラブルなどについて、とても丁寧できめ細やかに伝えてくれます。
男性保育士の周りにはいつも子どもたちがいてとても慕われており、父親として
子育てに参加する励みになります。
市は「
経済的
効果」に期待して民間移管するとおっしゃいますが、本当にそれでよいのでしょうか。財政難だから、在宅の子どもたちの
子育てをする予算がとれない。
公立保育所に
お金がかかり過ぎるので、民間移管をすれば一か所五千万円の財政
効果がある。それを在宅の子どもたちのための予算にすれば、すべての子どもたちにとって公平だといいます。本当の公平とは、在宅の子どもたちにも、
保育所の子どもたちにも、ともに豊かな
子育て支援策を講じ、そこに充分な予算を当てることではないでしょうか。
子どもたちは次の
世代の担い手であり、
社会の宝です。子どもたちを育てるのは、国や自治体の大きな
責任です。市の財政難の原因は、赤字が歴然としている空港の建設をはじめ、無駄な公共事業に市民の税金を湯水のように使ったためです。その財政難のつけを子どもに負わせることはあってはならないことです。充分な予算をとり、児童福祉法第二条に明記された国と自治体の児童育成の
責任を果たすべきではないでしょうか。
と訴えました。
幼い
子供たちは、大人の都合による民間移管の理由など理解できるはずがありません。
子供たちは人と人との信頼
関係の中で
育ちます。
地域社会に見守られ、
子供同士、そして
保育士と
保護者の信頼
関係が
子供たちの豊かな発達の土台となります。今行われている民間移管は、この土台を崩すことにつながります。国の
責任で公私間格差をなくし
保育予算をふやし、
公立保育所を
充実させ、
地域の
子育て支援のセンターに発展させることこそ必要と私は考えています。
次に、
三位一体改革に伴い進んでいる規制緩和で起きていることをお話しします。
神戸市は、西
日本で初めて、
平成十三年から営利
企業の
保育所を四カ所認可しました。その一カ所の株式会社ウィシュ・神戸が設置、
運営するすくすく
保育園は、市内で一番待機児の多い東灘のマンションの一角に設置され、ゼロ歳から就学前の
子供を
対象に四十五人の
保育所としてスタートしました。そのすくすく
保育園の廃園が、
平成十七年十月二十四日の市議会福祉
環境委員会に突然提案されました。
同園は、十月一日時点において、定員四十五名に対して児童が五十名入所しており、職員も二十一名在籍しています。この議会で明らかになったことは、
平成十五年度、市の実地監査において、同園の施設
運営、児童処遇及び会計処理上の問題が明らかとなり、市として健全
運営に向けた指導を行い、
保育内容についてはほぼ問題がない状態になったが、会計処理上の問題については一部是正されたものの解決の見通しが立たず、
平成十七年十月十四日に、
運営主体である株式会社ウィシュ・神戸が廃止承認申請書を
提出し、市としても、会社の経営状態から安定的な
保育所
運営は困難と判断し、廃止承認を行う意思を決定したというものです。
この
保育園は、給食を前日からつくり置きしたり、遊具やおやつがわずかしかなかったりと、
保育内容でさまざまな問題を引き起こしてきました。そのことを指摘した
保育士は、配置転換など嫌がらせを受け、雇いどめされました。この過程で組合が結成され、監査も行われ、
保育所
運営費を
企業会計に流用していることが明らかになりました。市は四千九百万円の流用金の返還命令をしました。結果、二千九百万円は返還されましたが、二千万円は返還されないままでの廃園です。
今の
保育制度からすれば、定員以上に
子供が入所措置されている
保育所で、財政難を理由に廃園などあり得ないことです。同時に、他の園の分園でも、市営住宅の取り壊しを理由に廃園手続がされました。どちらも定員を超える
子供たちが入所しています。規制緩和のもとに安易に
企業や分園に
保育を任せれば、
子供たちを無視した廃園が行われ、
子供を路頭に迷わすだけではなく、
保育士の労働を奪い、
保護者が
仕事を続けることを困難にします。
三位一体改革、補助金削減の影響を最も大きく受けている過疎
地域の
保育所の
状況を次にお話ししたいというふうに思います。
兵庫県の北部では過疎が進んでいます。この
保育所はこの
子供たちで終わりです、この後は集落に
子供は生まれていませんと園長先生が言われました。過疎
地域の自治体の多くは
公立保育所を
運営しています。近年、
少子化を理由に廃園、統廃合が続きました。私は山間の小さな町の僻地
保育所の廃園について、現地で調査してきました。
ここでは、五カ所の僻地
保育所に五十六人の
子供が通っていました。全園が同時に廃園手続されたので、
子供たちは町の中の三カ所の民間
保育園に振り分けられました。谷合いから路線バスに乗って通うことになりました。
保護者は路線バスに幼い
子供たちを一人で乗せることに不安を感じ、町に添乗の
保育士をつけることを要望しました。町は、路線バスとの提携、添乗
保育士の手配など悩みを多く抱えており、担当官は、統廃合しても町の財政は潤うわけではありませんと苦しい実情を話してくれました。
公立の
保育士たちは、
保育士としての
専門職の
仕事がなくなり、これからの生活に不安を隠し切れない様子でした。
もう
一つの僻地
保育所は、三人の
子供たちが通っていました。たまたま参観日で、
保育士二人とお母さんとでクッキング
保育をしてとても楽しそうでした。そのお母さんは、
保育園がなくなるのは反対です、でも仕方がないです、老人問題も大切ですが、
少子化対策に力を入れないとだめですね、私の
子供は来年、三十分バスに揺られて町の民間
保育所に通わせなければなりませんと、つらい気持ちを言い残して職場に戻りました。
また、
保育所があったはずの場所でゲートボールをしていたお年寄りたちは、ここには
保育所があって、
子供たちの声や姿を見るのが生きる励みだったと話してくれました。小さいけれども、
子供たちが通っている
保育所を残してほしいというのが心からの願いです。
公立保育所
運営費一般
財源化や
三位一体改革は、このような小さな自治体により大きな
負担を強いています。
一九九五年一月、私たちは阪神・淡路大震災を被災しました。震災が
保育中に起きたらと思うと、今でも胸が苦しくなります。たくさんの
保育所の
子供たちが犠牲になったに違いありません。私は、
保育中に震災が起きても
子供たちが犠牲にならないためにはどうしたらいいのか、震災後、考え続けてきました。
被災直後、神戸から
子供がいなくなったと感じました。被災後一週間ぐらいたって、
子供たちが疎開していったことがわかりました。当時、
厚生労働省から通達を出していただき、被災地の
子供たちは全国各地の
保育所に緊急入所ができ、
保育料が無料になりました。また、全壊した
保育所の
運営費が支払われ、
保育士たちは失業することなく復興に当たりました。施設の
整備も公的保障のもとに再建されました。しかし、
無認可保育所は、
地域で認可
保育所と同じ
役割を果たしていたにもかかわらず、復興のための援助は一切してもらえませんでした。
また、一番心に残ったのは、
公立保育所の建物が
地域の避難所になったことです。最低基準に基づく園舎と園庭を確保した
保育所は、近隣の家屋が倒壊してもしっかりと残っていました。そして、給食室があり乳幼児の生活の場である
保育所は、
地域住民にとって優しい避難所の
役割を果たしてくれました。
当時、避難所を訪ねたとき、半壊した家を片づけに行きたいが、
子供が家で被災したので、自分の家が怖いと言って家に行きたがらない、せめて
保育所で預かってもらえたら片づけができるのにと話されました。
このような
子供の命と生活を保障するためには、最低基準の
引き上げが必要です。
地方裁量の名目で現行基準の切り下げを認めることは、
子供の命と生活を軽視することと言わざるを得ません。OECDの調査でも明らかなように、今、世界的に
保育、幼児
教育の重要性に対する認識が高まっていると聞きます。
日本でも、
保育所の敷地面積を三倍ほど、施設面積を二倍ほどに広げ、耐震を強化し、地下シェルターをつくり、園児と職員が一週間
保育所で生活できる
施設整備がされると私はよいと思います。ヨーロッパ並みの職員配置基準にし、日常は定員の八割の
子供を
保育し、緊急に備えることこそ大切だというふうに思います。
少子化とあわせて
子育てが困難になっている現在、豊かな
子育て文化を蓄積している
保育所を最大限活用するためにも、国の
責任で認可
保育所をふやし、最低基準を
引き上げ、
保育を必要とする
子供たちが豊かな
保育を受け、未来の希望として健やかに成長していけるように、児童福祉法にのっとり、国と自治体の
責任による公的保障の
充実を
お願いして、
意見陳述を終わります。
ありがとうございました。(拍手)