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伊丹参考人 一橋大学の
伊丹でございます。
本日、こういう席にお招きいただきまして、
参考人として
経済産業政策について
意見を述べる機会を与えていただきまして、大変光栄に思います。
私自身は、
一橋大学で
経営学とか
企業論の研究と教育をもう三十年以上、ちょっと古くなり過ぎておりますが、やってきた人間でございますが、その分野の一環として、
中小企業政策には以前から大きな関心を持っておりました。といいますか、極めて個人的な関心としては、私は実は倒産した
中小企業の息子でございます。もう三十数年前に倒産をいたしましたが、私のような子供が余りたくさん生まれないようにということを
一つの個人の目標として、
中小企業政策審議会にも十数年前から加わらせていただき、今回の法案をまとめることに当たって基礎となりました報告書をまとめました
経営支援部会の部
会長もことしから務めております。
しかし、きょうの
発言は、
経営支援部会の部
会長としての
発言ではございませんで、学識経験者として、
日本の
中小企業に対する政策に関して、特に今回の法案に
関連させるような意味で、私の思うところを述べさせていただきたいというふうに思います。
結論は、お手元にお配りしました資料のまとめのところにございます二点でございます。特に強調したいことでございます。
一つは、
我が国の
製造業の
国際競争力を強化するために
中小企業の強化が必須である、
中小企業の強化なくして
我が国の
国際競争力なしということをぜひとも強調したい。これは既に三人の、私の以前に
お話しになられました
参考人の方々が、どういう形で
日本の
最終製品、例えば
自動車とか、例えば
携帯電話の
競争力に、それぞれの
中小企業の方々が貢献されておられるかということは、既に具体的な例がおわかりかと思います。
もう
一つの私のきょう申し上げたいことは、この
中小企業の担うべき
ものづくり基盤技術の強化ということを
経済産業省の最重点政策の
一つにすべきだ、ひょっとすると一番大切な政策かもしれないというふうに思います。なぜそう思うかをこれから御説明したいと思います。
まず、もとに戻っていただきまして、
製造業の
我が国経済における位置づけにつきましては、この
経済産業
委員会で私がくどくどと申し上げる必要はないと思います。ただ、一点、
我が国の輸出全体を考えますと、
製造業の占める比率は、欧米の先進国よりははるかに
製造業の比率の高い、その意味では
ものづくりに特化した国であるということだけは強調しておきたいと思います。
そうした
我が国の
製造業の国際的な
競争力が強い
一つの大きな要因は、
中小企業群の存在でございます。それが二のところに書いてあることでございまして、さまざまな高度部材産業集積というのが
日本列島の上にある。これが
日本の
競争力を支えている。その産業集積を支えている人たちは
基盤技術を持っておられる
中小企業の方々だ。その方々が、しかもネットワークを構築しておられて、さまざまな
連携を行って、全体として大きな
効果を出しておられる。これが非常に大切なポイントだということでございます。
しかも、そうしたネットワークを通じまして、非常に高度な、そしてスピーディーな、さまざまな
技術の間の
すり合わせというようなことが可能になっております。以下のような、ここに書きました、
競争を通じた
技術力の向上だとか、あるいは
連携の問題が2のところに書いてございます、あるいは、新産業、新
技術を創出するという
効果もあるというようなことが3のところに書いてございますが、こういった具体的な
効果が
日本の産業全体で出ている。しかも、それは、先ほど
志藤さんがおっしゃったとおり、そういった
すり合わせが現場で行われるということでございます。
古い話でございますが、
大田区の蒲田の駅の駅ビルの屋上から設計図を紙飛行機にしてぶんと飛ばすと、三日後に新
製品のプロトタイプがその
メーカーに届くという冗談があったことがございます。そうした産業の集積があるからこそ、実は
日本の大
企業の国際的な
競争力の高い
製品ができているのだということを象徴するようなジョークでございます。
しかし、そうした構造的な
特徴が継続的に
機能するためには、現在、大きな
課題を抱えていると私は思っております。
一つは、マーケットに近い
企業、発注
企業でございますね、例えばトヨタ
自動車であったり
日産自動車であったり、そういった
企業が持っている市場ニーズに関する情報が高度な
技術力を持っておられる
中小企業にきちっと持ち込まれるということだ。これは案外難しい。もう
一つは、それぞれの
中小企業が、持ち込まれたニーズに対応してきちっと力を発揮できるだけの実力をそれまでに蓄積していることだ。この二つだというふうに思います。
しかし、先ほど申し上げましたように、市場に近い発注
企業、これのことをこの文章では
川下企業と呼んでおりますが、それと
中小企業の間の
情報交換には、さまざまな理由で困難が増していく危険もございます。
一つは、固定的な
系列関係が流動化して、したがって、従来は
系列関係の枠の中で
情報交換がうまくいっていたものが、必ずしもそうはいかなくなる。もっとも、
志藤さんの
お話をお伺いすると、かえってそれがいいこともある、そういうことだったかもしれません。
もう
一つは、ITが進みますと、電子情報だけで
企業間の
取引が行われるようになることによって、
技術開発に必要な非常に細やかな
情報交換ということがややおろそかにされてしまう傾向が出てくる、そういうことでございます。
さらにもう
一つの問題は、さまざまな
技術の分野で
高度化してまいりますと、蓄積が本当に必要になってくる。その蓄積が、こんな不確実性の高いときに
中小企業の
経営体力でどの程度できるだろうか。こういったさまざまな問題がございます。
そこで、四のところにまいりますと、今回の政策が多分ねらっておられる、あるいは私も審議会の議論に参加しておりますのでよく承知しているつもりですが、その
特徴は私は二つあると思います。
一つは、
支援の対象を個別の産業とかではなく
技術というものに定めたということでございます。したがって、
技術というものを持っておられるのであれば、業界団体としてはどこに属しておられても全く構わない。そういうふうに、
技術そのものを
支援対象にした。これは初めてのことではないかと思います。
もう
一つは、個々の
技術ごとに、例えば鋳造、例えば
メッキの
技術ごとに
技術別指針を示すことで、今度はその
中小企業の方々がどんな
技術蓄積をすればいいのかという目標とビジョンを与えたい、そういうものでございます。
さらに、2のところに含んでおります三番目の
特徴は、その
支援の
企業としてのターゲットを、我々の仲間内の言葉で言いますと、富士山の七合目に設定した。トップを行っている、ほっといてもどんどん伸びていける
中小企業ではない、しかし、五合目以下の、いろいろな問題で苦しんでおられて別個の
支援が必要な、その
中小企業でもない、しかし、トップを目指そうとする努力をしている方たちを政策
支援のターゲットにしたい、そういうことでございます。もちろん、ターゲットを決めるということは、一方で、限定をしてしまって機会均等に反するというような御
意見もあるかもわかりませんが、これは、限定を厳しくし過ぎる必要はございませんが、ターゲットを決める必要があろうかと思います。
以上のようなことを考えまして、まとめのところに、先ほど御紹介した
意見を書いたわけでございます。
最後に、
技術別指針を各分野につくるプロセス自体が大きな意味を持つということを書きました。
こうした指針ができ上がるプロセスは、行政府の人間が自分たちだけでやっても絶対にうまくいかない。したがって、業界団体との極めて緊密なコミュニケーションがどうしても必要になる。そのプロセスで、恐らく
経済産業省の若い方たちが学習をされるのではないか。それも私は非常に大きな
効果ではないかというふうに思います。あるいは、そこででき上がりました
技術の指針が、厚生労働省
関係のさまざまな教育機関等でも、あるいは工業高校でも使われる、そういったさまざまなインパクトがこの
技術別指針から生まれることを私としては期待しております。
以上でございます。(
拍手)