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参考人(
天児慧君) ただいま御紹介いただきました早稲田
大学の
天児でございます。
私と
朱建栄さんというのは前からの非常に親しい友人
関係なんですけれども、私も
朱建栄さんも基本的に日中
協調派といいますか、日中
協調関係をつくる、これが非常に大事だという、そういう立場に関しては非常に共通しております。
ただ、私と
朱建栄さんの一番大きな違いというのは、やはり私が
日本人であって
朱建栄さんは
中国人であるということで、そういう
意味では、私が議論するときに、やはり
日本というのは
日本にとって何であるのかと、
日本をどうしたらいいのかと、こういうことがいつも頭の中にあるんですね。恐らく
朱建栄さんの今日の話、最後は非常に
日本へのメッセージといいますか、それもありましたが、やはりそれは
中国人として、あるいは
中国という国を考えたときに
日本との
関係をどうやっていい方向に向けるか、そのことが
中国にとっても非常に大事だという問題
意識がやはり前提にあるからだろうと思います。
私は、新聞でもいろいろたたかれたりとか、いろんなことを書かれたり、私も書いたりしておりますが、私は、例えば台湾問題について
中国に行っていろいろ議論する、あるいは
中国の軍事化について、軍事増強についていろいろ
発言をする。そうすると、
中国のある方は
天児は台湾派かという
意見をもらったことがあります。台湾に行って議論するときは、台湾の人は
中国との
関係をいかに良くするかというようなことを話をしていると、
天児は親中派かという議論をされて、そして、そういう中で私は、
天児は
天児だと、私は私派だということをいつも言っているんですが、やはりそれは大きな枠でいえば、
日本が
東アジアの中でどういうスタンスであれるのか、あるべきなのか、これを
自分の中でいつも考えているからだろうというふうに思います。
そういう前提の上で今日の御報告をさせていただきたいと思いますが、やはり
アジア情勢と
日本外交ということで、私は今、正直に申し上げますと、
日本を取り巻く
アジアの環境というのは決して良くない、厳しいというふうに認識すべきだろうという大きな前提的な認識がございます。これを二番目で少し話をしまして、そして三番目には、つまり二ページ目ですが、我々
外交を考えるときに、少し長期的な見通しというもの、どういうふうに将来を、将来の環境を予測しながら、その下に立ってどういう我々は選択をすべきかという、そういう発想を持つべきだろうと思うんですね。そういう
意味で、例えば二〇一〇年という、それほど遠くじゃないんですけれども、二〇一〇年代というその初頭の国際環境をどう読むかという、これはもちろん外れる方が多いと思います。天気予報以上に外れると思いますが、しかし、やはりそういう見通しを立てるということは大事だろうと思います。これを少し話したいと。そして最後に、
日本の
外交戦略をどう立て直すかということをお話ししたいと思います。
その前に、問題の提起のところで少し触れておきましたが、私は
日本の
外交戦略
課題というのが今見えていないんじゃないかと。皆様方に私は、もう
政治の第一線でしかも
外交問題の御専門にされている方々ばかりですから、私はむしろお伺いしたい。
日本の
外交的な戦略
課題って何だということを明確にしていかなければいかぬ。例えば、国連安保理常任
理事国入りを
外交的な戦略
課題にするのか、これに関しては非常に厳しい状況に置かれているわけですね。あるいはそれを通して
政治大国になるのかと。そして、
政治大国になり、あるいは平和貢献とか国際貢献とかこういうものを
最大の
外交的
課題にするのか、あるいは例えば当面する問題として拉致問題を
外交的な
課題にするとか、そういうことは具体的に何だろうと。
例えば、常任
理事国入りを
外交課題にするならばそれなりのやり方があるわけですね。そのやり方の中では、実は
アジアという問題は非常に重要であるにもかかわらず、
アジアとの
関係がよろしくないと。これなら常任
理事国入りができないというのは、これはやはり支持をしていただかなければできないわけですから、非常に厳しくなるというのは当たり前のことであろう。しかし、そのことが実はうまくいっていないというようなことがあるわけです。そうすると、一体何だろうかという疑問があるわけですね。
そして二番目には、これはもう既に触れられたわけですが、感情的、対
中国感情的反発論が非常に目立ってきていると。本屋に行きますと、
中国関係のコーナーを見ますと、今や反
中国物がもう圧倒的なわけですね。少し、数年前でありましたら
朱建栄さんの本とか私の本が結構並んでいたんですが、今やもうそれがわきに置かれて、もうその
中国批判の本がだあっと並んでいるという、そういう異常な状況が起こっております。しかもそれは、我々から見たらとても
中国専門家とは言えるような人じゃない方々の本がだあっと並んでいるという、こういう状況ですね。それで、そのことが私は実は非常に
外交オプションというものを狭めているという問題があると。
それから三番目のポイントとしては、我が
日本はやはり
アメリカとの
関係が第一だと、これは当然のことなわけです。そして、日米同盟というのを基軸とせよと、これも非常に大事なことであるわけですが、じゃ、日米同盟だけを、
アメリカとべったりしておればそれですべてうまくいくというふうに本当に考えていいのかどうかというのは、多分皆さんもそうは思っておられないだろうと思います。
非常に問題提起的な言い方をしますと、
アメリカは
日本にとって永遠のパートナーであり得るのかと。仮に、
日本というこの国が国際的なプレゼンスを非常に減少していく、あるいは
アメリカにとっての利用価値が弱まったときに
日本というのを
アメリカはどう見るのかという、このことを我々は考えなきゃいけないだろうと。
こういった問題提起の下に、少し、二番目の厳しくなった
日本を取り巻く
外交環境というのをお話ししたいと思います。
先ほども触れましたが、国連安保理常任
理事国、これははっきり言って惨敗なわけですね。
アジアの国から実は事実上の支持がなしと。ブータンと、私の記憶では、間違っているかもしれませんが、ブータンとネパールですか、あともう
一つどこでしたかな、ちょっと忘れましたけれども、三か国、非常に小国がこのG4というのに支持しただけである。
最終
段階に至って
アメリカがこのG4案を反対するというところまで行って、私は本当にこれを見たときに、一九七二年の米中接近におけるニクソンの対日頭越し
外交という、つまり
日本はもうニクソンが米
中国交正常化に踏み込むなんて考えもしなかったわけですね。一切連絡もないままにこの米中接近が始まったわけです。それが田中角栄氏の対
中国交正常化を追い立てるような形で進めた大きな背景にあったわけですけれども。これを思い出して、やはり、
アメリカがなぜG4を反対したのかというのは、私は
アメリカの論理でやったというふうに考えるしかないということであります。そういったこと。
それから、国連の拠出金が言うまでもなく第二位、
世界の第二位。実質的な国際貢献、例えば緊急支援とかあるいは環境問題の、国際的な環境問題とか
貧困への支援とか様々な支援を積極的にやっているにもかかわらず、これもその支持票になっていかない、こういった状況がある。これをやはりどう考えるかというのは、我々
日本の
関係者としては極めて深刻な問題として受け止めるべきだろうということであります。
それから二番目は、先ほども少し触れられました、よく
日中関係を政冷経熱という言葉で言われます。
政治が非常に冷えてしまったと。対話がないと。私は、対話がないということは、これは対話がないということで済ませられない問題である。つまり、対話がないということが事実としてある、これ状況が進行しながら、その中で日中の首脳の対話がないということなわけですね。これは非常に大きな
意味を持っているというふうに私は思います。
これはどういうことか。二国間
関係で見れば、まず
一つは国連安保理常任
理事国入り、これは再対話の可能性を失ったということ。これは谷内外務次官が行かれた十月の十日過ぎだったと思いますが、そのときに
中国側の李肇星
外務大臣、外相がこの問題を実は指摘していたわけですね。靖国問題さえクリアすれば、国連安保理常任
理事国入りあるいはエネルギー資源の問題を十分に対応できると、会話ができるという話をされたというふうに私は聞いておりますが、これができなくなってきている。
それから、政冷だけではなくて、これは
経済に若干
影響が起こるのではないか。つまり、この
中国市場における
経済チャンスというもの、これがしばしば欧米との競争に対して
日本が不利になってくる。これは典型的な
一つの例は新幹線の問題でありますが、この新幹線の入札に関して、
中国の専門家は圧倒的に
日本のこの新幹線の技術、これを高い評価をしておりまして、
日本側とのこの
政治的な問題さえなければもう踏み込めるという話というのはよく聞くわけですね。これは
朱建栄さんの方がよく御存じだと思いますが、こういうことが踏み込めない。あるいは、先ほど言ったエネルギー資源云々の懸案事項に対する対話を失うと。
つまり、恐らく今の
胡錦濤政権は、
日本との
関係において、重要議題に関しては今のままでは話に乗ってこないだろうと。そして、新たな今
段階の日中
協力というもの、あるいは日中
協力の
枠組みをどうつくるかという機会を失っていくと。つまり、
交流はする、話合いもする、部分的にはいろいろするわけですね。そして、ある
意味では
中国はその部分的な
交流の中で取れるものは取っていくと、どんどんどんどん。しかし、大枠のところの大事なこの会議といいますか対話が進まないという状況が進んでいくことが、本当に
日本にとってプラスなのかマイナスなのかということが問われているということだと思います。
これは実は国際
社会に十分に関連することでありまして、
アジアにおける
日本のプレゼンスという問題、実はこれ、
アジアの諸問題を日中で対話をし、そして
日本の対中
影響力というものを、
日本の
中国に対する
影響力というものを示すことによって、実は
日本のプレゼンスを
中国及び
アジア各国へ、あるいは国際
社会へアピールすることができるわけですね。それを拒否している、それができない。
そうすると、特に、これは後でも触れます
東アジア共同体という非常に大きな
課題が今
アジア、
東アジアにおいてあるわけですけれども、こういう中で、ASEAN自身もこれは
中国のプレゼンスというものに対するある種の不安もあるわけですね。そういうときに
日本も頑張ってほしいと、
日本のプレゼンスを示してほしいという気持ちがあるわけですが、対話そのものがない中で、
中国とASEANとの
関係がどんどん進んでいくとか、あるいは
中国と韓国との
関係が進んでいくということになれば、そこで
日本のプレゼンスがそこへ示されない、そうすると彼らの失望感というものが出てくるという、こういう状況が生まれるだろうと。そして、対照的に、今申し上げた
中国のプレゼンスの大きさというものがどんどん目に付く。これは、例えば六か国協議を見てもそうだろうと思います。あと、今の話に繰り返しになりますから省略いたします。
アジアにおけるこの
日本のプレゼンスの大きさというものが継続されていくということが、実は
アメリカの対日
重視を継続させるかぎでもあるというとらえ方が必要だろうと私は思います。
アジアに対して
日本が
影響力を持つ、そういう
影響力を持っておれば、
アメリカは
日本に対して、いろんな形で
日本に頼んで、そして
アジアで
アメリカの意思をある程度
日本を通して実現してもらえるという、そういう対日
重視というものが維持できるわけですね。ところが、対話がなくて
日本が
アジアの中でプレゼンスが低下していけば、もうこれは
日本を頼ってもしようがないと。そうすると、今最もプレゼンスの高い
中国と直接やるしかないという議論になっていくわけですね。その辺を我々は極めて深刻に受け止めるべきだろうというふうに思います。
それから、韓国を見てみますと、この間、韓流だとか、その前の二〇〇二年の、二〇〇一年ですか、違いますね、サッカーワールドカップですね、二〇〇二年ですか、失礼いたしました。こういった日韓
関係が非常に好転してうまくいこうとしている、そういう動きがあったわけですが、やはり最近の動きを見ますと、対日傾斜から対中傾斜への加速的な転換が進んでいると。これは盧武鉉
政権の特殊性という言い方もいろんなところでされておりますが、やはりこの歴史問題あるいは靖国問題において、このままの状況ではその話が本当に信頼
関係を持ってできないという
意識が非常に強いということは否定できないと思います。
私は、韓国の学者とも随分
交流をしておりますが、つい最近、九月の末に、あるシンポジウムで、実は盧武鉉のブレーンの方と話をする機会があったんですが、彼は
中国に最近行きまして、そして江沢民のブレーンと二人で、私は二時間ぐらいこの
アジア情勢あるいは日中韓
関係のことについて話をしたと非常に得意げに話をしておられましたが、相当やはり今、中韓の間で様々な問題についての突っ込んだ話が進んでいると。そういう中で、日中がなかなかそこへ進んでいかないということは、これは
日本にとって決してプラスだとは言えないということであります。
韓国については、実は私はもっともっと
重視しなければいけない、そういう
相手であると。韓国は
世界第十一位の
GDPですね。そして、
アジアにおいては
日本に次ぐ民主主義の
大国であると。まあ極端な言い方をすれば、韓国との同盟的な提携こそが
日本の国際プレゼンスの維持にとって非常に大事だという認識を持つ必要があるだろうと。
三番目は、現在、昨年ぐらい辺りから非常に積極的に議論された
東アジア共同体構築のイニシアチブを今
日本は失っているというふうに言わざるを得ないだろうと。
中国、韓国というのは、基本的に対日
関係においては民間
交流には力を入れると、やはり
日中関係は大事だと、日韓
関係は大事だと、そういうふうな認識があると思います。しかし、前向きの
外交課題、
外交協力には消極的になっていかざるを得ない。
今回、潘基文先生ですね、
外務大臣、韓国の、あさってですか、
日本に来られます。私は、これは非常に大事な、
アジア外交において非常に大事な
一つのメルクマールだろうと思います。ここで何らかの
日本が前向きの姿勢を示せば、この難局の打開の非常に重要なきっかけになるかもしれない。しかし、これが韓国側の期待に対してこたえられないということになれば、ますますこの今ここに書いたような状況が強まっていくというふうに読むしかないんじゃないかと思います。
あとは少し繰り返しになりますので、そういったことを踏まえて今の
外交の厳しい状況というものがあるというとらえ方であります。
そして、三番目に、じゃ二〇一〇年初頭、二〇一〇年、二〇一二年、二〇一四年ぐらいまでを対象にしながらその国際環境をどう見るかということを若干話したいと思います。
中国をめぐる国際環境を見ますと、御存じのように、二〇〇八年に北京オリンピックがあり、二〇一〇年に上海万博があると。そして、二〇一二年に第十八回の
共産党大会があって、ここで
胡錦濤政権が多分大幅に交代すると。そして、新しい
胡錦濤の次の世代が
台頭してくるという状況が生まれるだろうと思います。そして、国家あるいは民族的なアピールは非常に高まる。さらに、国内の
地域の貧富の
格差とか様々な
格差、腐敗という深刻な問題ははらみながらも、
GDPで二〇一〇年にはほぼ間違いなく二兆ドルを超えるだろうと。
世界第三位の
経済大国になると。そして、軍事力も強化され、国際
社会でも積極的な役割を果たしていくという状況があるだろうと。
そして、そういう中で中台
関係、
中国、台湾の
関係を見ますと、二〇〇七年に総統選挙があるわけですね。そして、今の陳水扁
政権の非常に不人気な状況と
経済政策がなかなかうまくいかない、その他もろもろの問題を考えていくと、私は民進党候補が敗れて
国民党の馬英九候補の勝利の可能性というのは非常に大きいだろうと。そうすると、
中国側との対話という問題が、具体的なその台湾問題をどうするかということについての
政治的な対話が始まる可能性は十分あると思います。
しかも、二〇〇八年のオリンピックでは、台湾同胞に対する大歓迎セレモニーというものを私は多分
中国はやるだろうと思いますね。そうすると、台湾を取り込んでいくという、こういう動きは相当出てくる。そして、
国民党、馬英九さんなんかも言っている新台湾人という発想、こういうものを維持してでも、大枠で緩やかな中台統合というものが受け入れられる可能性というのは実は二〇一〇年代辺りに出てくる可能性はあると。もちろん、民進党が
政権を維持する可能性もあるわけですが、そのときでも対
中国対決というのは非常に困難になるという読み方が普通ではないのかなと。
かぎは、
中国政府がどこまで譲歩するか、台湾に対してですね。私は、
国民党
政権が復活すると、
中国は大幅な譲歩をして、緩やかな
枠組みで台湾統合というのを踏み込むんじゃないのかという予測を実はしております。間違いかももちろんしれません。もしそうなると、中台統合というのは、香港と合わせて強大な中華圏の形成ということを
意味するわけですね。
二番目、それから
中国とASEANとの
関係。恐らくこれは二〇〇二年に朱鎔基前総理がASEANを訪問したときに宣言しました二〇一二年までに
中国、ASEANの
地域FTAを実現するという目標は、メンツを懸けても
中国はやるだろうと。それまで
日本がどこまでASEANとのFTAが進んでいるかどうか、これは非常に大事な問題になってくると思います。
その中で、例えばGMS会議、これは今年あったわけです。雲南の昆明であったわけですが、非常に積極的に
中国はこれに、大メコン圏構想にコミットしているということが目立っております。
二番目、この朝鮮半島をめぐる国際情勢。
北の核問題というのは多分一件落着をして新たな
段階をこれから入るわけですが、もちろん非常に厳しい問題が幾つもあるわけですが、しかし問題は、少しずつ北朝鮮のソフトランディングの問題になってくるかもしれない。そして、ソフトランディングの問題になってくると、当然日朝国交正常化の問題あるいは南北統合の問題が出てくると。
北朝鮮は、自らの金正日体制維持のためには、
中国依存というのはますます強まっていくんじゃないのかと。
中国は
アメリカとの
関係悪化は断固回避をしたいと。しかし、北カードというのは非常に
重視、使えるという判断を持つ可能性は高いだろうと。そして、韓国の中で北朝鮮脅威というものが
交流が進み薄れていけば、北への
経済支援あるいは共存の制度的
枠組み構築というのは進むだろうと。
そうすると、日朝国交正常化交渉も、これは当然やっていかなければいけないわけで、歴史問題は改めてここで重要な問題になってくると。
日本が恐らく歴史問題できちっと対応をしない限り、中韓連携というものが今進んでいるわけですね。一番この歴史問題で
日本にとって打撃があったのは、やはり中韓連携が進んできたということだと思いますが、これが正に更に進み、これに北が加わるという、こういう構図が生まれ、
日本は立ち往生状況になってしまうと。
三番目、米中
関係をめぐる国際環境。
これは、現在も生きている
トウ小平の二つの指示がある。二十四文字指示、二十四文字全部入れていませんが、一番大事なのはこの韜光養晦、絶対に、韜光養晦って三番目のフレーズですが、これは力を養うと、絶対に対決しない、頭に、先頭に立って対決をしないという考え方ですね。それから、十六文字指示で、信頼
関係を増加し、煩わしいことを減少させて、
協力を
発展させて、決して敵対
関係を持たないというこの指示ですね。これは今も生きていると思います、米中
関係において。ですから、台湾問題に関しての原則を維持しながら、しかし全体として米中の
協調というものを示すだろうと。
アジアにおける問題は
中国との対話が不可欠という、こういう流れを、そういう認識を
アメリカが持てるような流れを恐らくつくっていくだろうと。そこで、かたくなに歴史を拒否して、歴史問題を拒否して、対米強化・依存のみで
日本外交を乗り切ろうとすると、それは
日本の孤立化というものを、不可避だろうということですね。
最後に、この
日本の
外交戦略をどう立て直すかということで、三点ほど指摘したいと。
一番目は、局部的な国益論から総合的国益論の発想を持つ必要があるだろうと。恐らく
政府指導部の考える国益のみが国益ではない、ナショナルインタレストというのは、いろんな形でナショナルインタレストはあるだろうと。そして、これほど
日本の
経済が国際
社会の中にコミットすることによって
発展を維持する、こういう
枠組みができたときに、海外での順調な企業展開というのは実は非常に重要な、
日本そのものが生き残っていく重要な国益なんですね。
それから、国益というものを考えるときに、国益というのは、
自分が得すれば
相手が損するという考えじゃなくて、両方とも得をするという発想の国益を我々はこれから追求していかなきゃいかぬだろうと。つまり、狭い国家主義的なイデオロギーの固執から
発展、安定、充実、安心
社会を実現する。つまり、非常に大事なことは、魅力ある
日本をどうやって将来実現するか、これが私は非常に大事だと。そして、それが可能になってくれば、私は
日本というのが自信を回復していく。つまり、
経済成長の早さとか
GDPがどれだけなってくるかと、
中国がどれだけなら
日本はどうかという、こういうレベルの、つまり量の勝負はもう必要ないだろうと、私は。質の問題をこれから
日本はしっかりと考えなきゃいけないということです。
そして二番目は、
アジアにおけるパワーの移行が進んでいるというこの前提というものをしっかり認識した上で、
外交戦略の組立てが問われているんだと。恐らく
中国は全方位、積極
外交を一層展開するだろうと。
中国は
アジアだけに注目していないですね。
世界的な形で、例えばEUとの
関係、あるいはインドとの
関係、ロシアとの
関係、
アメリカとの
関係、そういう中に
アジア外交もある、対日
外交があるわけですね。これは恐らくするだろうと。そして、したがって
アジアの盟主争いというのは、僕は無
意味であると。指導力とか指導的役割を分有していく、あるいは役割分担をしていくということが必要だと。そして、日中間の政冷経熱
現象というのは、これは単に日中二国間の問題ではないと。これはもう先ほど申し上げたんで、繰り返しません。
大事なことは、
中国との
関係を改善するということは、この日米中の
関係の中で言わばゼロサムじゃないんだと。日米VS
中国でもなければ、日中が連携することによってVS米国でもないと。つまり、米国とのしっかりした
関係を持っている
日本が
中国と積極的に対話することで、
日本の存在感もあるし、日米中のトライアングル
関係がスムースにかつ効果的になるだろうという、そういうとらえ方が必要じゃないのかということを申し上げたいと思います。
それから、重要な
外交手段としての
経済援助
外交、これを見直していかざるを得ないだろうと。
外交カードとして今まである種、ある面では、もうばらまき的なODAの使い方があったと。これはよく言われていることでありますが、人材育成とか環境保護・改善とか緊急支援とか、こういったものに非常に具体的に見える
外交をしていく、ODAの
外交が必要であろうと。その場合に、これは
政府がやるんだということだけじゃなくて、
政府とNGOとか、あるいは、例えば
日本のODAを使いながら
中国の人民解放軍と
日本の自衛隊が
協力するとか、こういった言わば多極間
協力のメカニズムをこういう中でつくっていくという、これは非常に大事じゃないのかというふうに思います。
それから、
中国も実は
経済的に深刻な弱点を実は持っているわけですね。恐らくこれは、先ほど言ったような二〇一〇年に向かって深刻化の部分も広がっていくだろうと。したがって、実は
日本の高技術、高い技術あるいはノウハウというのは、
中国の
経済発展を維持するためにも非常に必要なんですね。この支援というのが実は日中
協力関係強化につながっていくし、
日本のプレゼンスを高めていくことになるんだということです。
それから、日朝国交正常化の問題も恐らくこれから重要な問題になってくる。そういう中で、大きな視点から考えると、この過去の清算というものを、これやらざるを得ないわけですから、やることを通して、敵対的でない
関係をどうやってつくっていくかという、こういうアプローチが必要だろうというふうに思います。
最後に、これは直接具体的な話じゃないんですけれども、一言。私は研究者ですので、歴史もやってきておりますので、思い出した言葉を紹介したいと思います。
つまり、
外交的には毅然とした態度を取れば、国内世論というのは拍手喝采を受ける。しかし、結果的には極めて深刻な
外交的失敗というものを被ったケースは歴史上あるわけですね。いろいろあるわけです。
例えば、
日本の国際連盟脱退という、こういう事態が一九三三年だったと思いますが、あります。あるいは、
日本を盟主とする大東亜共栄圏の建設、こういったものはその典型であったのではないのか。つまり、国連、国際連盟脱退のときに松岡洋右
外務大臣はもう非常に格好良かったわけですね。そして、
日本に戻ってきて、
日本の民衆によって拍手喝采を受けるわけですね。ところが、それが実は
日本の正に戦争への道というものにつながっていく非常に大きな
外交的失敗のスタートになったということ。
そして逆に、例えば日露戦争のときのあの問題で
日本は国力がなかったと、そしてこのまま日露戦争を継続していけばこれは
日本も駄目になっていくと、そこのところを早いところ判断して早期の解決をやるしかないという決断をして、
アメリカの仲介を頼ってポーツマス条約を結んだいわゆるこの小村寿太郎
外交、これはその小村寿太郎が
日本に戻ったときに、その得た収穫が余りにも少ないと、賠償金も取れなかったということで猛烈な反発を食らって、そしていわゆる日比谷焼き打ち
事件まで起こったわけですね。しかし、長い目で見れば、極めて冷静な、適切な判断というふうに言えるだろうと思います。
こういったことを考えると、やはりこのまま靖国問題で中韓の要望に耳をかさないで毅然として自己主張を堅持するということが、結果的にはあらゆる重要議題に関しても対話の道を失い、ますます
外交的孤立の道を歩むことになると。それは
アジア及び国際
社会における
日本のプレゼンスそのものの低下にもつながりかねないし、その間に
影響力を増す
中国に大きな差をどんどん付けられていくことになると。私は、今こそ冷静沈着で包括的で柔軟な
外交判断が
日本のリーダーの中で求められているということを強調して、私の考えを終わらせていただきたいと思います。