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山下英利君 それでは、
ODA調査団第三班からの御
報告をさせていただきます。
ODA調査第三班は、去る十二月四日から十二日までの九日間、
我が国の
ODAの
実情調査のためにインドに
派遣をされました。
派遣議員は、福島啓史郎
議員、田村耕太郎
議員、大久保勉
議員、
富岡由紀夫議員、
大門実紀史議員そして私の、
団長を務めさせていただきました
山下英利の六名でございます。
まず、インドにつきましては、インドの国そのものがインダス文明に始まる長い歴史と伝統を持つ国であるということ、そしてその
国民性が独立闘争の歴史の中ではぐくまれた高いプライドとともに、アジアのほかの諸国と異なりまして、
日本に対する負の歴史的な遺産が少ないということから、非常に親日的であるというところに特徴があると感じました。現在、約十一億人の
国民を抱える世界最大の民主主義国家であります。そしてまた、近年の
経済成長率は六から八%と大変高く、経済の好調さが注目されている国でもございます。そして、
現地へ行きまして改めて感じましたことは、反面、
インフラ整備が大変遅れているということ、そして
経済成長の中で貧富の格差拡大が一段と顕在化してきていると、そういうところでございます。
我が国は、インドとは一九五二年の国交樹立以来、良好な関係を維持してきておりまして、本年四月には日印のパートナーシップの強化で合意をいたしました。十二月には、ASEAN、日中韓、インドなど十六か国が参加する東アジア・サミットが開催をされまして、今後は、インドを含むアジア
地域における
我が国の果たす役割、中でも
経済協力の外交、経済面での役割が一段と大きくクローズアップされると思われます。
こうした中におきまして、今回の
調査は、インドに対する
我が国ODAの三本の柱と言われるインフラの
整備、貧困の
対策、環境・農村
対策を
中心に
我が国の
ODA予算が有効に使われているかどうか、今後の
我が国の
ODAの
在り方をどう考えていくべきか等の
観点から
調査をいたしました。
次に、
視察先における
調査の
概要を申し上げます。
インドでは、デリーのほかコルカタ、これは旧カルカッタでございます。そしてチェンナイ、これは旧マドラスという名前でございました、の三都市及び周辺
地域で
調査を行いました。
まず、デリーでは、インド
政府の官房長官に当たる首相府のチャバン
大臣、
ODAの窓口となる大蔵省等から
意見の交換をするほか、スラム
地域の
小学校、国立小児
病院、デリーメトロ、デリーの地下鉄でございますが、等を
視察いたしました。
意見交換の中では、インド
政府側から、道路、港湾等のインフラの
整備、
保健、教育など諸施策の中で、重要かつ必要だが採算の合わないものがあって国の予算で対応し切れないものが多い。中でも、インフラの
整備が将来の
経済成長につながると認識していることから、
日本からの
資金を活用するほか、インド
政府の予算も使い
整備を進めていく。そして、現在、四月の日印両首脳間で合意された貨物鉄道新線
建設計画の動きが進みつつあり、
日本からインドへの直接
投資を増加させる大きな役割も期待されているなどの
意見が述べられました。
視察先のスラム
地域の
小学校では、学校校舎の
建設、机、いすの購入に草の根無償
資金が使われ、
子供たちに初等教育はもとより、ミシンを使った裁縫
技術の習熟など、職業能力開発に大きな役目を果たしている、そういったことも実際
現地へ行って見てまいりましたし、
現地から
説明を受けました。
また、国立小児
病院では、
資金が病棟の拡充、エックス線装置の購入などに充てられまして、乳幼児死亡率の改善に一定の
効果を上げているということでございます。ただし、人件費の不足から、医師、看護師が定員割れの状態にある等の問題も
指摘がされたところであります。
次に、コルカタでは、バッタチャルジー西ベンガル州首相等との
意見交換や、国立コレラ・腸管
感染症研究所、地下鉄、立体交差を
中心とした都市交通
施設等の
視察を行いました。
州
政府からは、橋梁
建設など更なる
インフラ整備の
必要性とともに、
経済成長が進み、貧富の差が拡大する中で、貧困
対策が一段と
重要性を増している旨の
意見が述べられました。
視察先の国立コレラ・腸管
感染症研究所では、
技術協力によるコレラ等の下痢症診断の
専門家の養成や無償
資金による研究
センターの
建設が行われております。
日本人医師の
協力によって、インド人の下痢症
専門家の養成が進み、インドで死亡疾患第一位の下痢症による死亡率低下にもつながっているとの
説明を受けました。
なお、現在、東南アジアで拡大している
鳥インフルエンザは、いずれインドへの波及が懸念され、同研究所を
日本との連携によりまして南アジア
地域の
鳥インフルエンザ研究の拠点にもしていきたいと、そのような考えが述べられました。
コルカタの地下鉄
建設は、一九七二年に当時のソ連の
支援を受けて進められておりましたが、その一部の
建設が大変難航をいたしたために、
我が国が八〇年代前半から
円借款を供与して、ようやく九六年に完成をしたものであります。現在、平日一日当たり平均で三十万人の乗客に利用され、市民の足として定着をし、
視察時もかなり多くの人が地下鉄を利用しておりました。
しかしながら、当初ソ連が見込んだ乗客数が大変過大なために、利用客は見込み数を大きく下回っております。しかしながら、
日本の
円借款をてこに完成にこぎ着けることができた
案件であって、かえってインド側から高い評価を受けているということでございます。
都市交通
整備は、
円借款によりコルカタ市内に四か所の立体交差等を
建設するものでありまして、かつて通行するのに二十五分掛かっていた道路の所要時間が三分間に短縮されるということなど、交通渋滞の改善に一定の寄与をしているという
説明を受けました。
そして次に、チェンナイでは、植林
事業、聴覚障害児の診断・早期教育
センターを
視察をいたしました。
タミルナド州などでは、過度の森林伐採によって森林の劣化が進み、荒廃林の再生が最優先の課題となっております。
円借款を活用して、
地域住民が
プロジェクトに直接参加する形で植林
事業を行い、
地域住民の生活水準の
向上を図っております。
具体的には、樹木を植えて林産物で収入を得たり、土壌の改善を通じて
農業生産の
向上を図ったり、樹木を食い尽くすヤギに代えて乳牛を導入する小口
資金の貸付けなどの取組を行っているということでございます。植林から樹木の
成長、さらに、農家所得の
向上や
地域環境の改善には長期の年月を要するものであり、
事業に対する今後のフォローをきめ細かく行って、その結果を厳しくチェックしていくことが必要と考えられます。
また、インドで
活動する
日本人の
NGO関係者との
意見交換を行いました。
NGO関係者からは、草の根
無償資金協力を受けた場合、現行制度では人件費等に充てることができない、そういった中で非常に厳しい部分があるというコメントがありまして、しかし、
人材やノウハウ、
現場でのネットワークの構築といったソフトの部分こそ
NGOの長所であり、
支援額の増額とともに、実績や能力などで
NGOの格付を行い、それに応じて
支援範囲を変えていくなど柔軟な対応をしてほしいと、これを求める
意見が述べられました。また、
技術協力については、地道な
努力で
現地の人々と
NGOとの関係を育成し、
現地の人々が
自立できるようにするためには、現在三年間という実施期間の延長が必要であるという旨の
意見が述べられました。
そのほか、
調査団は
在外公館、国際
協力銀行(JBIC)、国際
協力機構(
JICA)の
関係者から
説明を聴取し、
質疑を行いましたが、
調査の詳細につきましては今後の
報告書に譲らせていただきたいと思います。
最後に、今回インドを
視察いたしまして、総括的な所見を申し上げさせていただきます。
第一に、インドは
援助国を
日本、米国、イギリスなどの先進G8等に限定しております。そして、語学力などの問題から、欧米諸国に対しては
技術協力などの人的
援助を求める一方で、
日本に対しては
インフラ整備を
中心とした
円借款を求め、
資金とともに
我が国の先端
技術の導入を図ろうとする傾向が強いとのことでございました。
現在、インドに対する
ODAの九割以上が
円借款となっておりますが、顔の見える
援助ということでは、
インフラ整備等の物的な
援助だけでなく、人的
協力を含めたソフト面を重視した
援助が欠かせないものと考えられます。その意味で、今後
NGO等を活用した
援助の充実にも留意していく必要があると思われます。
第二に、インド
政府側は拡大する貧富の格差の問題に対して、
経済成長によって中間層の生活水準を引き上げることで対応しようといたしております。しかし、広大な国土において、人口の七割が農村に住み、農村
住民イコール貧困の構図が作られている現状では、この
状況を見ますと、都市と農村の格差など、インド全体の格差の問題に適切に対応できるかどうか、この
考え方に対しては甚だ疑問を感じたところであります。都市部のインフラへの
援助だけでなくて農村の貧困問題に対応するためにも、草の根
無償資金協力は、金額こそ少ないものでありますが、顔の見える
援助として有効なものであるとの認識を強くいたしました。
第三に、こうした草の根無償について実効性を高めていくためには、実施
案件の評価をきちんと行って、その結果を予算執行に反映させることが不可欠であります。今回の
NGOとの
意見交換の中で、
NGOの実績、能力に応じた
資金の使途拡大や実施期間の弾力化等を求める声が強いことが分かりました。今後は、
NGOからの
意見を吸い上げつつ、実施
案件について事前チェックと事後のフォローアップの体制を
整備することや、草の根無償
案件に関して、
地域個別の
案件としてのみならず、インド全体として
案件について検討する場を設けその評価を今後の
援助に生かすなど、更に効率的かつ有効な
支援の実施が必要と考えられます。
第四に、
JICAの
プロジェクトなど、計画段階ではインド
政府の
意見を聞いて計画作りが行われるものの、実施後の
ODAについて評価し、インド
政府との間でフィードバックする場がないということでありました。今後、
ODAについて、受け手であるインド
政府と供給側である
在外公館、
JICA、JBICとの間で協議の場を設けるなど、事前事後にわたり多面的に
ODAを評価することがその効率化には欠かせないと考えられました。
以上、気付いた点を申し上げまして、
ODA第三班の
派遣報告とさせていただきます。ありがとうございました。