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参考人(宮坂
直史君) 防衛大学校の宮坂と申します。
このたびこの席に呼ばれまして、大変こちらの方こそ勉強させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
私の方は、今事務局の方から一枚のレジュメをお手元に配付させていただいたと
思いますが、おおよそその順番に沿って申し上げたいと思っております。
まず
最初に
一つだけお断りをしておきたいんですが、私、防衛大学校というところで、それは
防衛庁の機関ですが、今回ここでお話しすること、私の意見を申し述べさせていただきますが、それは私の所属する機関とは一切
関係はございませんし、また野党、与党を問わず特定の政党の意見を代弁するものでももちろんありませんし、だれかの指図を受けてこう言えと言われたわけでももちろんございませんし、そう言われたとしても、私は国際
テロの問題を長年やってきましたので、私なりの意見をここで言わせていただきますので、そこだけよろしくお願い申し上げます。
まず、大きく二つここで私見を述べさせていただきますが、
一つは
テロ特措法とその改正についての私見ということで、レジュメの一番のところでございます。
このなぜ
テロ特措法というものができたのかということに関しては、もうここで繰り返すまでもないと思うんですけれども、基本的に私は、この
法律、法案を改正して引き続きこのオペレーションに
我が国が
関係していくことには基本的には賛成の立場を取っております。それは、幾つか
理由はあるんですけれども、今回、ちょっとこのレジュメ、お手元のレジュメには書いていませんが、こういう問題はひとつちょっと長期的な視点でお
考えをいただければいいのかなと思っています。
長期的な安全保障問題、海上を、海の上を大量破壊兵器やその関連物質、あるいは国際犯罪、
テロ絡みの関連物質、その他不審なものが海上を移動していると。そういうものに対して国際的にそれを阻止したり捜索をしたりしていくというのは恐らく長期的な
観点で、一年とか二年ではなくて、十年、二十年、それ以上の長期的な
観点で見ると
一つの大きなトレンドになっているであろうと思っております。
今回の
テロ特措法は、もちろん今の
自衛隊が海上阻止を直接担うということではなくて、それをやっているほかの国の後方支援という、黒子と言ってはあれですが、そのような
役割であることも承知の事実だと
思いますけれども、そういうことを長期にわたって機会があるんであるならば続けるということは、単に
アフガニスタンの和平、そして
テロとの
戦いという限定された
目的を超える
意味とその経験があるんだと私は思っております。
幸いにして、今回、
テロ特措法、
テロ対策特別措置法と実は変な名前が付いていますが、本当は
テロ事件対応
特別措置法であるわけですが、そういう非常に限定的な
法律の下に始めたこのオペレーションであっても、この四年間を見ていると随分情勢が変わってきて、先ほど申し上げたように、海上での阻止
活動というのがどうも
アフガン絡みではなくて、アルカイダ絡みではなくて、国際的な安全保障上極めて重要になっていると。
一つ例を申し上げますと、
日本も
参加していますPSI、拡散安全保障イニシアチブ、これは大量破壊兵器絡みの阻止、海上だけではありません、空のこともやっておりますけれども、こういう国際的な
取組。もう
一つは、シージャック防止条約というのが、これは国際
テロ関連条約でございますが、この改正ということも実現しそうな感じになっております。これは正に海上での
テロ行為を防止するための国際的な
取組と。
こういう大きな、
アフガニスタンのみにとどまらず、大きな安全保障問題という流れで
考えていくと、今回ほかの国々と一緒に引き続き洋上でのオペレーションを続けていくということ、それは経験を積んでいくということであって、非常にいいことだと私は
考えております。もっとも、それがコストが非常に掛かってしまうとか、あるいは実際に
脅威に直面して
攻撃を受けているということであるならば話は別ですけれども、そうでなければ続けるべきだし、
自衛隊がそのような形で国際的な経験を積むことは将来的にはプラスになっていくと。元々軍隊は閉鎖的な集団です。そして一国単位で
考えるものです。そういう
考えではこれからの安全保障問題は対応できないわけです。ですから、そのような
観点で
テロ特措法とその改正には賛成、基本的に賛成という立場を取らせていただきます。
ただし、
テロ対策全体ということ、こちらの方に実は私の大きな関心がありまして、国際
テロ対策全体という
観点から見ると、
テロ特措法というのはほんの一部にすぎないというふうに思っております。実際、例えば私が本を書いたり論文をいろいろ書いたり意見を発表したりするとき、
日本の国際
テロ対策ってどういうことですか、何ですかといろいろ書くわけですが、
テロ特措法ですか、そのことはほとんど書きません。それは、何というんでしょうか、主役ではないわけですね、国際
テロ対策上は。
それで、今回残った時間で国際
テロ対策というのはどういうものであって、どういうことを目指さなければいけないのかということを述べさせていただきます。それは、レジュメの二番目に書いたものです。
テロ対策には四つの局面があります。
一つは、もちろん
テロを事前に予防をしなければいけないということであります。しかし、どんなに防護
措置をとっても、どんなに予防
措置をとっても、恐らく一〇〇%
テロを予防することは不可能であると。
したがって、大きな
事件が万が一起きた場合には、被害管理と言って、現場で
関係機関が連携をして、できるだけその被害を縮小化していくと、その被害を少なくしていく、そういうような
措置をとらなければいけない。これを被害管理と申します。
しばらくしたら、被害管理も落ち着いてしばらくしたら、それを実行した人たちですね、あるいはそれが組織的な
活動であれば、その組織を追及していかなければならないと。海外に逃げたんであるならば、その犯罪人引渡しだとか、あるいは
日本の警察が行っていろいろな捜査をするとか、現地の法執行機関と協力するとか、いろいろなことをやらなければいけない。
そしてさらに、一段落ついたら、ここがすごく重要な点だと思うんですけれども、なぜ
テロが起こってしまったのかの失敗の教訓というものをやらなければいけないと。これは
一つの省庁がただ自己評価をして終わりというのではなくて、国会なりなんなりが第三者機関をつくって、どうしてこんな
テロが例えば
日本に対して行われてしまったのか、制度的にどういうところに問題があったのかということを見直して、勧告を打ち出していかなければいけないというふうに
考えております。これはアメリカでもイギリスでも主要な民主主義国家はやっているわけですが、残念ながら
日本はやっていないと。
日本の
考え方というのは、これは政治家がとか官僚がとか国民がという、悪いというわけではないんで、全体的な問題があると思うんですが、
テロが起こったと、
テロ事件が起こって、例えばそれが人質
事件だったとすると、人質が解放されて
事件は解決と、そういう
考えで今まで長年来ていたわけであります。無事に人質が解放されても、それを実行した
テロリストだとか、背後に組織があってそれを
活動している、そういう人たちが世界でどこかで
活動していても知らないと。国民的な
レベルで言えば、そんなもの、人質が解放されればそれでもうおしまいというような態度で、忘却ですね、それで
事件はおしまいというその繰り返しだったわけであります、一九七〇年代以降ですね。
こういうのが次から次へと
日本に
テロを引き寄せて、招き寄せていた
一つの大きな原因でもあると。きちんと、何で
事件が起きてしまったのかを検証しないといけないと、その欠陥を改めなければいけないということが非常に重要だと
思います。それが次の段階の予防ということにつながっていくんだと
思います。この①から④、レジュメの、これをバランスよく取り組むことによって初めて
テロ対策というのは完結していくのではないかと
思います。
今、ようやく
日本は変わりつつありまして、①の予防については、昨年の十二月十日に
政府が
テロの未然防止の
行動計画ということを発表して、十六項目に及びますけれども、出入国管理を始めとしていろいろなことを自ら締切り、締切りじゃ、締切りは論文です、
期限を決めて実行するということを打ち出していると。
こんなことは今までなかったことで、今までは大きな
事件があってわっと対応する。正に九・一一もそうですね、九・一一も
テロ特措法もそうだったわけですが、何か
事件があって初めてわっと
行動をすると。そうではなくて、
事件がなくても
テロリストや
テロ組織というのは毎日毎日
活動しているわけであって、そういう彼らが
事件を起こす前に未然に防止するためには広くいろんな
措置をとらなければいけないと。それをようやく去年まとめて、今実行の最中にあるというのは大変大きく評価できることだと
思います。
また、二番目の被害管理ということも、今これは中央
政府機関だけではなくて自治体を含めて、自治体
レベルで、私も先週東京の杉並区で、これは大きくニュースでいろいろなところで取り上げていただいたんですが、杉並区で生物
テロが起きた場合、まずその現地でどのような対応をしなければならないのか、できるのか。マニュアルはあるんですが、マニュアルなんというのは本当に
事件が起こったときに機能するかどうかは分からないと。その検証を自治体
レベルで今取り組んで、シミュレーション、丸一日掛かりで区長さん以下多くの職員が
参加して図上演習をやったと。で、多くの問題点が分かったということが各自治体で今行われています。これも非常に新しい現象で、数年前までは
考えられなかったことですが、こういう点で今徐々に
日本は変わりつつあると。ただ、③と④はまだまだこれからやっていかなければいけないことが多いのではないかというふうに思っています。
そして、こういう四つの局面と同時に、恒常的な
取組として、今、伊勢崎先生の方から
アフガニスタンのDDRの紹介があったと
思いますけれども、対外的な支援とか協力、社会改革を進めていく。これはもう官民一体になって取り組んでいかなければなりませんし、また同時に国内の問題として、
テロ対策は警察だけがやるものでもありませんと、法務省だけがやるものではないと。ましてや中央省庁だけがやるものではなくて、先ほど申し上げたように自治体も取り組むものだし、民間企業も、今、例えば飛行機やあるいは鉄道、
テーマパークを抱えているそういう会社は取り組んでおりますけれども、民間企業もやらなければいけないと。メディアの報道にもいろいろな問題があるし、そちらも意識して報道していかなければならないと。
政府だけがやるものではないと。警察や消防だけが
テロ対策やっていればいいというものではないと。その相互の
関係をどういうふうに築いていくのかということが常に意識して取り組まなければいけないし、また一部では取り組んできているところであります。
そして、レジュメのその下の方ですが、何のために
テロ対策をやるのかという目標がどうもよく見えてきていないというのが私の
考えであります。
日本は何のために
テロ対策をやらなければいけないのかと。
一つは、もちろん
テロの
脅威を削減をして、まあ根絶とまで本当は言いたいんですけれどもそれはなかなか難しいところで、
脅威を削減をして未然に
事件を防止して、でも万が一
事件が起きてしまったら迅速に対応して被害を削減していく。それはもちろん大きな
一つの目標ですが、もう
一つの目標は、
日本が実際に
テロに襲われようと、
攻撃されようとされまいと、
テロ対策というのは国際的な基準で細かいことがたくさん決まっておりますと。
日本はそれに深くかかわってきているわけで、国際基準で
テロ対策をやらないと
日本にいろいろな穴ができてしまうと。
テロリストと言われている人たちは、別に
日本を
攻撃する気がなくても、
日本の中で様々な謀議だとか資金、リクルート、いろいろなことをやられて、
外国で
外国を
攻撃するために
日本が
一つの踏み台にされてしまうと。そういうことを許してしまったら国際的な信用がなくなると。むしろ、その国際的信用を維持するということはとても重要な
テロ対策の
一つの目標になるんだと私は思っています。
最後に、ここで、今既に申し上げましたように、何か
事件が起こって慌てふためいてわっとやるのではなくて、やはり国際
テロというのは恒常的な問題でありますから、
テロ対策基本法、名前は、名称はいろいろな名称があると思うんですが、恒久的な
法律といいましょうか、基本法といいますか、そういうものを
是非検討すべき時期に来ているのではないかと
思います。ここには、
テロリズムの定義とか指定制度とか、主要な国がみんな取り入れているようなそういう仕組みをこの基本法に盛り込んでいくべきだと思っております。
そして、最後に、
テロの
脅威というのは過剰評価しても過小評価してもよくないと。過剰評価というのは、ロンドンで
テロが起こりました、マドリッドで大きな
テロが起こった、そうしたら東京でも起こるんじゃないかと。なぜそんな簡単なことが言えるのか。ロンドンでの
状況と東京での
状況は全然違うものである。決して過剰評価してはいけないし、
テロの
脅威を、しかし同時に過小評価してもよくない。ペルー
事件のように、九六年から九七年にありましたが、だれが、ペルーのMRTAという弱小
テロ組織があれだけの
事件を突然起こすとだれが予想できたのでしょうかと。
テロリストというのはイスラム過激派だけではありませんと、いろいろな種類が国際的に
活動していると、それは予期せぬ形で起こるというのが今までの歴史であったわけです。
ですから、決して過小評価してはいけないし、同時に、繰り返しますが、過大評価して明日にでも東京で
テロが起こると、そんなふうに
考える必要は毛頭はないと。だから、
脅威の度合いですね、今どれくらいの
脅威の度合いなのかということをはっきりと国民に分からせるような形で
脅威の度合いというのを知らせるということがとても重要なことになっていくと
思います。
以上で終わらせていただきます。