○赤松(正)
委員 公明党の赤松正雄でございます。
五年間の
憲法調査会でのさまざまな
調査を踏まえまして、このたびの特別
国会において
憲法改正のための
手続法たる
国民投票法を審議するこの
特別委員会が設けられたことは、時宜にかなったことであると思います。
さきの
憲法調査会における
調査は、あらかじめ
憲法改正を意図するものではなく、
現行憲法の実施状況を広範かつ総合的に
調査するというものでありました。しかし、実際には、
最終報告書にありますように、
幾つかの
項目において
憲法を変えた方が望ましいという
意見が多数を占めたことは、また疑い得ない事実であると言えると思います。ただ、そうはいいましても、もともとのねらいが
改正を目的にしておらず、
調査研究の域を出ていないわけでありますから、何をどう変えるかあるいは変えないかについて、改めて
議論をする場を設ける必要があるわけであります。
私は、さきの五年間の
調査会を第一段階とするならば、第二段階としては、具体的にどう
憲法改正を進めるのかの
議論を集約する場をつくるべきだと考えてまいりました。つまり、仮に将来において
憲法改正の
発議をする場としての常任
委員会的なるものが設けられなければならないのならば、それは第三段階に位置すると考えるわけであります。すなわち、具体的に
憲法改正の作業が完成するには三つの段階を経なければならないというものであります。そして、第二段階におきましては、
現行憲法が
制定以来用意してこなかった、
改正のための
手続としての
国会法
改正やらあるいは
改正手続法としての
国民投票法についての具体的な取り決めがなされなければならないというわけであります。
以上のような
意味で、今、私たちは第二段階に入っており、その冒頭の作業として、今申し上げましたように、これまで放置され続けてきた
手続法を整えようとしている、こんなふうに言えると思います。
こう申し上げますと、ちょっと認識が違うとの御
意見が出てくるかもしれません。
特別委員会という場はあくまでも
手続法をつくるためのものであって、これが終わると直ちに
憲法改正の
発議権を持った常任
委員会を設置すべきだという考えなどがそれに当たります。しかし、それはいささか早とちりというものではないかと思います。
さきの
憲法調査会の目的は、さきにも申し上げましたように、あくまで広
範囲に
調査をするためのものだったわけですから、くどいようですけれ
ども、改めてここで、どこをどう変えるかあるいは変えないかの
議論をする場が必要になってまいります。ただ、その場はこの
特別委員会でなくてもいいかもしれません。
憲法改正のための
調査会といったように、
改正を射程におさめた第二局面のものであればいいのではないかと思います。
ところで、この
国会においては、きょうからそうした
手続をめぐっての法案をつくり出すための広範な
調査研究がなされるわけでありますけれ
ども、じっくりと落ちついた作業を行い、可能な限り各党間の
合意を得た上でのものが生み出されることが望まれます。
これまで
憲法九十六条の規定を実際に移すための
手続法がつくられてこなかったことにつきまして、
国会の怠慢だとかあるいは立法府の不作為であるとのような批判が長くなされてきたことは
周知のとおりであります。そうした見方については、現在の時点からすれば、なぜ
憲法制定時に用意されなかったのか、あるいは何ゆえにその後につくられなかったのか、よほど立法府が怠慢ではなかったのかなどとの疑問がつきまとうわけでありますけれ
ども、それは、常に現在から過去の歴史を見る際に陥りがちな誤りというべきものの
一つにすぎないと思います。
戦後の日本が
憲法をみずからの手でつくり、そしてみずからの手で変えるという仕組みの可能性について、それなりに落ちついた環境の中で
議論をするには、少なくとも六十年の歳月が必要であったということに尽きるのではないかと思います。
我が党にありましても、どこをどう変えるかあるいは変えないかについての方向性が定まってからでも、
改正の
手続法をつくるのは待っても遅くはないとの
意見がありました。つまり、第二段階において、私が先ほど申し上げました第二段階において
憲法改正の具体的方向性を詰めた上で
手続法はつくればいいのではないかという主張であります。これには、
手続法ができると一気に
改正の機運が高まり、今までとは逆の
意味で落ちつきがなくなるとの危惧があるやにうかがえるわけであります。しかし、それもまたいささか早とちりと言うべきかもしれません。
ルールができたからといって試合の結果が決まるというわけではないのと同様に、
手続と実際に事が進む
経緯とは当然ながら全く別のものだからであります。
ところで、これまで
議員連盟や
与党の間であるいはまた
野党の中で、
手続法をめぐっての
議論を続け、それなりの結論めいたものがまとまるに至っております。私もそうした作業の一環に携わらせていただいたわけでありますけれ
ども、細かい点は後に譲るといたしまして、私として気になる最大の課題は、
国民投票にかけるに当たっての発問単位のことであります。
先ほ
どもお二人の
委員からございましたけれ
ども、一括
方式にするのか、それとも個別にするのかという点であります。仮に、
現行憲法を例にとって言えば、補則も含め百三条すべてについて一括で
賛否を聞かれても、部分的にいい悪いがあって、まとめて聞かれても困るということが多いと思われます。だからといって、個別に聞くとなると、今度は、膨大な量を前に
一つ一つの是非を明記するという作業はとてつもなく大変なものになると言え、通常の衆参両院の
選挙を初めとする
投票行為を想定した場合、こういったことになじむのかどうか極めて疑問だと言わざるを得ません。このあたりをどうすればいいのか、これから
調査研究をしていく上での最大の問題点であるというような気がいたします。
国民、有権者全体に対して最初から
全面改正を問いかけるというのは不可能に近いのではないかという気がいたします。先ほ
ども申し上げましたように、現在の衆参両院を初めとする
投票風景を思い浮かべるにつけ、膨大な
投票用紙に掲げられた文案を
一つ一つ見ながら、それに例えば丸やペケをつけていくなどという
行為は至難のわざであります。
憲法に関心がある人にとってさえもたやすいわけではなく、まして、例えば高齢の
方々などにおいて、想像を絶したものになるのではないかと言えると思います。仮にそうした
方式を選択すれば、
投票率は極めて低くならざるを得ないということが十分に予測をされます。
したがって、どうしても
国民に直接問いかけるという場合、数点に絞り込んでの重点
方式にならざるを得ないといった気がいたします。しかし、全面的な
改正をするということが仮に決定した上で絞り込むといっても、どうそれを行うかは、またそれはそれでさまざまな問題を引き起こしかねません。その点、例えば私たちが主張をしているように、当初から今の
憲法に加憲をしていくということなら、おのずから限定的になるわけで、比較的容易に事は運ぶということが目に見えてまいります。
手続についての問題を論じる場面でありながらつい中身に入ってしまい、我が田に水を引いてしまいましたけれ
ども、事ほどさように、密接不可分に関係しているということでお許しを願いたいと存じます。
また、
国会が
発議した
憲法改正案については、当然ながら、
国民に徹底して知らされることが望まれます。とりわけ、
改正されたらどうなるのかと同時に、
改正されなかったらどうなるのかについての詳細な解説が、事前にすべての
国民のもとにそうした説明が配布されることな
ども大事になってくるのではないかと思われます。
改正されない場合、
現行の明文の規定に戻るのが筋だろうとは思いますけれ
ども、
現行憲法の規定
自体に解釈をめぐってさまざまな異なる
立場があるケースなど、なかなか一筋縄ではいかない事態が起きてくる可能性があります。そうした点も含めて、
国民投票の
ルールづくりとともに、あらゆる観点から起こり得る事態を想定しての説明書的なるものも必要になってくるのではないかと思われます。
以上の点が、
憲法改正を進めていくための
手続としての
国民投票法案を考える上での、私が考えます極めて重要なポイントだと思います。
それ以外のものにつきましては、そう深刻な問題はないのではないかと思います。
選択の余地が余りないように思われるものは、
一つは、
国民投票の実施を単独で行うか、あるいはほかの
国政選挙と同時にするかといった点があります。これは、事の重大性にかんがみて単独が望ましいと思われます。
もう
一つは、
投票の成立
要件であります。これも、素直に
改正賛成票が有効
投票の
過半数を制したら
改正が成立すると見るべきではないかと思います。
投票率が例えば五〇%に達しないというときは無効にすべきじゃないかといったふうな主張がありますけれ
ども、これは余計なハードルをつくるものだというふうな思いがいたします。
一方、選択の余地があると思われるものとしましては、
一つは、
国会発議から
投票までの
期間についてであります。これは、例えば六十日以上、百二十日以内とするとか、あるいはまた三十日以上、九十日以内とするかなどといった選択であります。
いま
一つは、
投票権者の
年齢についてであります。これも、例えば
現行の
選挙と同様に二十歳以上とするか、それとも例えば十八歳以上にするべきかなどといった選択があります。
また、先ほ
どもお話に出ておりましたけれ
ども、見逃せない大事な課題としては、
賛否両陣営のキャンペーン活動や、あるいは
情報媒体を使っての宣伝活動についてであります。これは、
原則、基本的に自由とすべきことは言うまでもないと思います。脅迫だとか買収による
投票強制やら、あるいは事実に基づかない虚偽の主張や、公序良俗に反するものは認められないということはまた当然であります。ただ、新しい時代状況に応じて、新手のPRなどが登場する、そういう手法が登場する可能性があるだけに、慎重かつ念入りな検討を要する分野であることもまた言うまでもないと思います。
冒頭に述べましたように、私は、三段階を経て
憲法改正の
議論は進められていくということが望ましいと考えておりますけれ
ども、この
手続法についての結論が得られた時点で、引き続きこの
特別委員会の場か、あるいはまた装いを新たにした、例えば
憲法改正のための
調査会といったふうなものの場において、どこをどう変えるかあるいは変えないのかの個別的、逐条的
議論が行われるべきではないかと思います。いわば、
憲法草案の形をめぐって本格的に詰めていく
議論であります。常任
委員会をつくって早く結論を得るべしという動きもあるやに感ぜられますけれ
ども、そうではなくて、まずは草案の
合意が得られるまでの作業が必要であるとの考えであります。
改めて申し上げますけれ
ども、公明党は、
現行憲法については、すぐれた中身を持っているものだけに、変える必要がある条目というのはそう多くないとの認識に立っております。ごくわずかのものについて新たにつけ加える必要があり、それを加える、つまり加憲をしていけばいいとの
立場であります。
ともあれ、タブーを設けない
議論を活発に展開してきたこの五年の歴史を持つ
憲法調査会の伝統の上に立って、この
特別委員会が新たな第二段階のとば口として、まず最初に
憲法改正の
国民投票手続法の
ルールづくりに向けての本格的な
議論を開始することになりました。そのことを十分に評価したいと改めて申し上げまして、私の
発言とさせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)