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参考人(
紺谷典子君) 経済を専門としております
エコノミストの
紺谷でございます。どうぞよろしくお願いいたします。必死に反対している一人でございます。
小泉さんは、大変有り難いことに、
改革ということに命懸けでおやりくだすっているようなんですけれども、私、不思議だなと思うことがあるんですね。どういうことか。
改革政権が出てくるたびに
国民生活が悪化するんです。細川
改革しかり、橋本行革しかり、小泉
改革に至っては物すごく悪化したということでございますね。何よりの証拠が株価でございます。
国民は、
改革改革と旗を振られますと、いやあ
改革やってくれているんだなと。橋本行革のころには七割の方が
郵政民営化に反対でしたけれども、現在は
民営化に
賛成という人の方が増えてきていると、だから
国民の気持ちはそこにあるんだと総理もおっしゃっていますね。本当だろうかと私は思うんですけれども。
国民はだませても株価はだませないと思っております。
株価を見ますと、小泉政権の発足時一万四千円前後だったんですね。今一万一千円。昨日何か瞬間的に二千円を超えたらしいですけれども。だけれども、ずうっと株価が一度も発足時を超えないというのは一体どういうことなんだろうか。
改革が始まってからもう四年数か月たっているわけですね。痛みを伴っても
改革と言われてじいっと我慢していたら大増税案が出てきたということもありまして、一体いつまで
国民は痛むのかなという思いがあるわけでございます。
株価が下がったということはとても不思議なことなんですよ。どうしてか。今現在痛みがあったとしても、将来に明るい展望が開けているんでしたらば、株価というのは先読みするものでございますから、今現在は不調でも将来が明るいと思えば株価は上がるんです。株式
市場というのは世界じゅうの経済の専門家が売買しているところでありまして、株価の動きというのはそうした専門家の
日本経済に対する見方なんですね。
日本の将来に対する見方なんです。それが四年数か月もたってまだ上がっていないと。上がった上がったとおっしゃったこともありましたけれども、それは御自身が半値に下げたその大底から上がったというだけのことでありまして、いまだに発足時を超えていないと。
改革が進んできたはずなのに、本当に進んだかどうかは御異論はあるかと思いますが、進めば進むほど株価は悪化する、下がる。
国民生活は悪化する。本当に不思議だなと。つまり、
国民のための
改革ではなかったんじゃないのかなという思いがあるわけでございます。
改革というからには、
国民に安全と安心を与えてくださる、豊かで明るい将来展望を与えてくださると、法治国家なんですから法のルールを守っていただくと、民主主義を貫徹してくださるということだと思うんですけれども、どうも分かりづらいなと思うのは、中央省庁
改革法という法が全く無視されていたりとか、民主主義国家とは到底思えないような強権的なルール無視が次から次へと繰り出されるこの
改革というのは、やり方見ていたって
改革じゃないなという感じがしてしまうわけでございますね。
行財政
改革の本丸と総理は度々おっしゃっております。どうして
郵政の
民営化が行財政
改革の本丸なのかということはいまだに分かりません。何でなんでしょうか。お分かりの方がいたら教えていただきたいなと思うぐらいでございますけれども。そもそも、
郵便局を
民間に転売して株式の収入で財政
赤字を埋めようとか、
民間企業にして増税して、それで財政
赤字を埋めようとか、そういう発想もあるかのようにお聞きしておりますけれども、そもそも
巨額の財政
赤字はどうしてこんなに
巨額になったのかという原因分析ができているんでしょうか。
よく公共
事業だとか景気対策のせいだとか言われますけれども、公共
事業は九八年以降激減しております。一方、財政
赤字はそれ以降激増しているということでありまして、少なくとも公共
事業が第一の犯人じゃないということはデータからも明らかでございます。第二に、景気対策なのかと。景気対策は一九九〇年以降全部で百三十兆ほど行われておりますけれども、いわゆる国庫支出のあった真水の
部分というのはせいぜいが六十兆というのがほとんどのシンクタンクの推測でございます、
推計でございます。
ところが、九〇年以降どれだけ
国債が増えたのかというと、三百数十兆増えちゃっているわけですね。じゃ、残りの三百兆は何に使ったんですかということでございますね。何に使ったんでしょうか。税収不足を補うために使ってきたということですね。九〇年代の初め、
日本の税収は六十兆を超えておりました。今四十兆台なんですね。森政権までの政権が十一年掛けて減税も含めて十兆減らしたんですよ。小泉政権は、当初のたった二年間でまた十兆減らしちゃったということなんですね。税収不足が
赤字国債のここまで
巨額に膨れてしまった原因であると。
じゃ、税収不足は何で起きたのか。法人税収が落ちたのはなぜでしょうか。景気が悪くて
赤字企業ばっかり増えたからではありませんか。所得税収が、増えたのはどうしてでしょうか。
国民所得が低下してきているからではありませんか。消費税収が落ちたのはなぜでしょうか。物が売れなくなったからではないですか。景気が悪いから財政
赤字が大きくなってきたんです。景気が悪いから税収がどんどんどんどんおっこって財政
赤字が大きくなってきたんですね。その問題は
郵政を
民営化すれば消せるんでしょうか。私はそうは思いません。根本的な原因が解決されていない。
行政改革であるという考えもありますね。本当に
行政改革なんだろうか。
そもそも、この
赤字をつくった原因は何なのかということさえ明らかじゃないわけですよ。
特殊法人改革、
財投改革だとおっしゃるんですけれども、一番効率的な
財投改革、
特殊法人改革は、
財投機関そのもの、
特殊法人そのものを見直していくということなんですね。まずはきちんと会計報告をさせるということではないですか。それで不公正とか非効率の原因を探っていくと。多くの方
たちは、天下り、ファミリー企業の問題ではないかというふうにおっしゃっているわけですね。そこを手付かずのまま本当に
行政改革なんかできるのかと。
そもそも、橋本行革も間違っていたと私は思うんですけれども、何でもかんでも民に任せれば
改革というわけにはいかないと思うんですね。行革
会議自体が行革に反すると。なぜならば、政治復権とおっしゃっていたからです。政治が国家の
運営に責任を持つと。そうであるにもかかわらず、たった十人か数人の有識者を集めて、公開もされない
議論で二十一世紀の
日本の行政の枠組みを決めてしまったわけでございます。
しかも、
国会議員を蚊帳の外に置いてやったと。
国会議員がそれに対して反論すると、いや、
国会議員は黙っていろ、族議員は黙っていろと。
国会議員って何なんだろうかなと私はあのときから思ったんです。
国民が選んだ代表者ではないんだろうかというふうに思うわけでございます。
行政責任ということからいいますと、例えば
金融不安が起きましたね。財政
赤字も大きくなりましたね。税収も不足しましたね。景気もこんなに悪化してきております。その責任をどなたか行政はお取りになったんですか。
景気という観点からいいますと、実はこの十五年間、九〇年からの十五年間、
日本のGDPはほぼ横ばいでございます。一・一倍にしかなっていないんですね。その間、アメリカは二・四倍になっているわけでございます。年率に引き直しますと、アメリカはほぼ毎年六%のスピードで成長してきた、
日本はほぼゼロ成長であったということなんです。これはデータから明らかでございます。
一体
日本とアメリカのどっちが異常だったのかと思ってほかの先進主要国を調べてみますと、何とアメリカが先進主要国の平均値だったということが分かったんです。つまり、
日本は横ばい
状態でずっと世界の流れから後れを取ってきたということですね。
先ごろの石税調会長の論点整理の中にも澄まして財務省はお書きになっているんですけれども、小泉政権発足時の二〇〇一年、
日本の課税最低限は世界の中で最高であった、先進主要国の中で最高であったと。つまり、ほかの国だったらば税を払っている人
たちが
日本では払っていないんだと。ところが、実はもう昨年、
日本の課税最低限は先進主要国の中で最低になっているんです。ほかの国なら税を取られていない人が取られているわけですよ。しかももっと増税するという案が出てきていると。
なぜこんなことになったのかと。簡単ですね。先ほど申し上げたように、
日本の
国民の所得、GDPは横ばいなのに、ほかの国は二・四倍になったからでございます。そういう行政、財政の失敗の責任はだれがお取りくださるのかと。どなたもお取りいただいていないわけですね。
金融不安に関して大蔵省は責任を取ったんですか。財政
赤字、税収不足に関して大蔵省は責任を取ったんですか。全然お取りになっていないわけでございます。本当の原因というのをきちんと究明せずに
表面的なところだけいじって、原因分析もしないのに対策を先に決めて、
民営化が自己目的としか思えないような
民営化論議をずっと続けてきたわけですね。
何で
民営化が自己目的化しているかと、思うかといいますと、
民営化の理由というのがころころころころ変わるんですよ。当初と全く逆のことまでおっしゃっているわけです。当初はこのままだと
郵政は肥大化していくとおっしゃっていたのが、今はしぼんでいくから今のうちに手を打たなくてはと、全く逆のことをおっしゃっているわけですね。
そもそも
郵便局が果たしてきた役割ということを考えなくてはいけないと思うんですよね。
国民生活の基盤となる
インフラとしてずっと地方を支えてきたり、あるいは小口低所得者の
金融活動を支えてきたりしたわけでございます。その役割はもう終わったのか終わらないのかと。民にできることは民にという小泉総理のおっしゃっていることは非常に正しいと思います。しかし、民にできることは確かにあるんですけれども、そういったら政府がおやりになっていることの大体は民にできるんですよ。軍隊だって
民間会社がありますね。刑務所だって
民営化されていますね。何で
郵政だけ先になさるのかということが私には見えないんです。分からないんです。しかも、
郵政を
民営化してどこが良くなるか、なお分からないということですから、ちっとも
賛成したいという気持ちに残念ながらなれないんですね。
橋本行革のときからずっと間違ってきたのは、ともかく
民間の判断は正しいということなんですよ。ですから、
財投に関しても、先ほど
榊原参考人から
お話がありましたけれども、
財投機関債、
財投債というようなものに転換することによって、これをもって
改革とおっしゃったんですね。それで、
市場で債券を発行できるような
特殊法人は残してもいいと。それは
事業として成り立つからだ、採算が取れるからだという
お話だったんですけれども、そういう
財投機関こそ
民営化すべきなんですよ。
市場ベースで採算が取れるんですから、それこそ民に任せていただきたいですね。
市場ベースでは採算は取れないんだけれども、
国民生活を守るために必要なことが国の仕事でございます。だからこそ
国民は税を払っているんではありませんか。
国民が税を払うというのは、採算の取れないことでも必要なことはやってくださいねという
意味なんですよ。採算、採算という点では道路もそうでしたけれども、採算が取れるところは造るけれども、取れないところは造らないと。じゃ、道路のネットワークがぶつ切り
状態でよろしいんですかという話になるわけですね。
財投機関債を
市場で発行してって言いますけれども、債券投資をする投資家は、自分が出した
お金が無事戻ってくるかどうか、負担したリスクにふさわしい金利が付いてくるかどうかしか考えないんですよ。これが
国民生活を守るために必要なのかどうかとか、公的
事業として必要なのかどうかなんて知ったことかというのが投資家でございます。そこに公的
事業の判断をゆだねるということ自体がまさしく大間違いというふうに私は思うんですね。
何でもかんでも民に任せようということで
民間の
委員会がやたらめたらできるんでございますけれども、本業でお忙しい方
たちが御苦労なことだとは思いますけれども、しかし、どのぐらいの頻度か、それぞれによって違うと思いますけれど、たまに
会議に出てきて、道路のドの字も知らないような方が御
議論なさって
日本の道路網決めちゃうのかなと、それは大変不安でございます。
国会軽視もいいところでございます。何のために
国会議員がおいでなんですか。しかも、
国会議員が物を言うと族議員がといっておとしめる。
しかし、族議員がいなかったらば政治なんか成り立ちません。無色透明、公正中立な
国民なんかどこにもいないからです。みんな男であったり、女であったり、年取っていたり、若かったり、都会にいたり、地方にいたり、社長だったり、従業員だったり、様々なんですね。そういう方
たちの様々なグループ、様々な地域の利害得失を一か所に集めて、どういうような
改革を行えば最大多数の最大幸福を求められるのかという御
議論をしていただかなければならないときに、様々なグループの利害を代表して
意見を言う方
たちを族議員だとおとしめて
意見を聞かないんです。マスコミは、反対派は、自民党の反対派は特定
郵便局長会の票が欲しいんだとおっしゃる。野党は
郵政の労働組合の票が欲しいんだとおっしゃる。それは正しいのかもしれません。正しいのかもしれませんけれど、それはそれとして反対派の
意見にきちんと耳を傾けるということでなければ、
改革なんかできないんですね。
そもそも
改革というのは、さっきも申し上げましたように、人により、立場により、違うんですよ。それを、私の
改革に反対する者は抵抗勢力だと決め付けて、人の言うことには耳をかさないということであってよろしいんでしょうか。本当に
改革を目指すならば、まずは自分と異なる
意見に耳を傾けるということが第一歩であるはずですね。
マスコミもおかしいなと思うのは、古巣の跡目相続争いに敗れた方が古巣を守旧派と呼んだら、一緒になって守旧派と呼ぶと。小泉さんが御自身の
改革に反対する人を抵抗勢力と呼ぶと、一緒になって抵抗勢力と呼ぶと。今回は、反対票を投じた人、欠席した人を造反議員と呼んでいるということでありまして、一体ジャーナリズムの中正公立というのは一体どこに行っちゃったのかなというふうに思うわけでございます。そういう見方ではなくて、きちんと
国民の立場から立ってどうなのかということをお考えいただきたいと思うんですね。
郵政が果たしてきた役割は幾つかありますけれども、
一つは、地方や小口や、そういうところの生活基盤となってきたと。今や、その生活基盤を壊すだけでなくて、
日本の民主主義も破壊されつつあるなというふうに感じているわけでございますけれども、公的
資金の提供者でもあったわけですね。今後、
日本はもう公的
資金は要らないんですか。
郵政に
お金を返す、年金に
お金を返すというふうに言っておりますけれども、しかし、返す
お金の半分は、大蔵省が厚労省とそれから総務省に話を付けて
財投債半分買わせているわけでございます。それから大量の
国債も持ってもらっているわけですね。そういう公的
資金ニーズはどうなったんだろうか。
私は、
郵便貯金というのは第二
国債であると思っております。証券投資が嫌いな
日本において出し入れ自由な貯金という形を取った
国債だと思うんですね。出し入れ自由な分だけ金利は低くてもいいと。どんな
過疎地でも小口でも
サービスしているという点で更にその金利は低くてもいいということでありまして、そういう
資金調達のルートというのをあっさり捨ててしまってよろしいんですか。
肥大化ということをよく言いますけれども、銀行に比べて肥大している、保険
会社に比べて肥大化していると言うのは
国民の視点に立っておりません。単なるもうけ仕事をしたい営利企業の立場に立っているということでありまして、
国民の観点、国家の観点から見たらば、必要とする公的
資金の需要からいって、
郵便貯金のあるいは
簡保の
お金が集まり過ぎであるということかどうかでもってしか肥大化かどうかということは判定できないはずなんですね。それが肥大しているということであれば、金利を下げていけばよろしいというふうに私は思っているわけでございます。
いずれにいたしましても、
改革というのは何らかの目標が明示されていなくてはなりません。
現状分析がきちんとされていなくてはいけません。
現状のどこが問題なのか、行政、財政のどこが問題なのかという
問題点を明らかにしないまま、いきなり対策が出てきたということをもって非常に不思議な
議論になっているなと思うわけでございます。
理由がはっきりしないというその一点だけをもっても
郵政民営化に反対したいと。
国民の生活
インフラを壊すという点でも反対したいなと思っておりましたけれども、このところの
議論の成り行きを見ておりますと、
国民の生活
インフラだけではなくて
日本の民主主義さえ破壊され掛かっているということで、強く強く反対させていただきたいと思っております。
どうも大変失礼いたしました。