○平野達男君 私は、民主党・新緑風会を代表いたしまして、ただいま
議題となりました二法案に関しまして、
総理始め
関係大臣に
質問いたします。
まずもって、冒頭申し上げなければならないことがあります。
所得税法等の一部を
改正する
法律案には、いわゆる
予算関連の日切れ事項に該当しないものが含まれております。特に、法案の中心となる
定率減税の
縮減は、その施行が来年の一月に予定されたものであり、いわゆる日切れではありません。本来、こうした部分は別法案とし、
予算の成立とは切り離して審議すべきものであります。ましてや
国民生活に重大な
影響を与える法案であり、公聴会を含めた幅広い角度からの慎重な審議が必要であります。
しかるに、あたかも日切れ法案であるがごとく装いながら法案提出し、年度内成立が必要であるというのは、法案審議の手続をできるだけ省きたいとする官僚の都合を優先させた
政府・与党の国会軽視にほかなりません。強く抗議するとともに、
財政金融委員会の場においては徹底審議を求めるものであります。
今年はプラザ
合意後二十年に当たります。
一九八五年九月、ニューヨークのプラザホテルにおいて、日、米、独、英、仏の先進五か国が緊密な
政策協調と強力な為替介入に
合意しました。
米国の
財政赤字と経常収支の双子の赤字を背景としたドル高是正を目的としたものでした。
プラザ
合意後の翌年度に
経済運営の羅針盤として
策定されたのがいわゆる前川リポートです。前川リポートは、
経済収支不均衡の原因は輸入国ではなく、専ら輸出国である
我が国の輸出志向の
経済構造にあるとし、内需主導の
経済成長を志向する
経済構造への転換を提唱しました。
その
実現を目指す過程で大きなつめ跡が残りました。
合意後、急激に進んだ円高への対応として講じられた
金融政策は、バブル
経済を発生させる背景となりました。バブル崩壊は巨額の不良債権を生み出し、その処理には、資金面においても、人的な面においても今なお大変な痛みを伴っています。また、バブル崩壊後の
経済の下支えに行われた国の
財政発動は空前の
国債発行残高の山を築きました。その山は依然として成長中であります。
プラザ
合意当時、一ドル二百四十円だった為替は百円近い水準になっています。にもかかわらず、
我が国の経常収支は輸出を軸に依然として大幅な黒字を続けています。
我が国輸出産業の底力の強さを示していると言えます。しかし、好調なのは輸出部門だけで、
経済全体としては、長引くデフレ不況からの出口は見えていません。
一方、
米国の双子の赤字が
拡大しているという点において、プラザ
合意当時と現在との日米間のマクロ
経済環境は同じ
状況になっています。
総理に伺います。
当時の
我が国の
経済・
財政状況と現在の
状況とでは、何が変わり何が変わっていないのか。また、プラザ
合意をどのように総括されるのか。特に、前川リポートの言うところの、内需主導型の
経済成長を志向する
経済構造への転換は
実現されたか。
実現されていないとすれば、その原因はどこにあるか。以上、
総理に伺います。
為替介入に関連して、
財務大臣に伺います。
プラザ
合意時とは大きく異なり、最近の為替介入の目的は円高是正へと変わっています。これに伴い、外貨準備高は急激に増え、併せて巨額の含み損も生じているはずであります。その現状について報告願います。
また、一昨年から昨年にかけて史上空前とも言える巨額の為替介入を行っていますが、その
規模はどのぐらいか。さらに、資本収支までが黒字になるほどの介入
規模になった理由と併せ、円高ドル安進行を阻止するには今後とも巨額の介入が必要なのかどうかについてもお聞きします。
以下、法案に関して
質問します。
我が国は、
少子高齢化の進展と相まって人口減少社会に突入すると言われています。こうした変化を踏まえた
税制の
在り方について、その
基本的考え方を
総理に伺います。
所得税法等の一部
改正案の柱は、
平成十一年に恒久的
減税として
導入されたはずの
定率減税の半減であります。中間所得層の家計を直撃するものであります。GDPの六割を占めるのが個人消費、この個人消費の動向が
景気を大きく左右することは言うまでもありません。
金融危機が叫ばれ、デフレスパイラルが懸念された時期もありましたが、堅調な個人消費が
景気の底割れを防いできました。
景気を自律的な
回復軌道に乗せるには、やはり民需中心の需要
拡大が必要であります。このためには、民間の設備投資とともに、個人消費が堅調に伸びていく環境を整備することが不可欠であります。
しかし、
国民生活をめぐる
状況は厳しくなっています。
医療費
負担の増、
年金保険料の
引上げ、配偶者特別控除の
縮減など、
国民負担が増える
制度改正を現
内閣は次々と
実施しています。
民間部門の貯蓄・投資バランス、いわゆるISバランスはトータルとしては黒字を続けています。それは
我が国の経常収支黒字の大きな要因となっています。しかし、内訳には大きな変化があります。
国民の旺盛な貯蓄意欲に支えられた家計部門は大幅な貯蓄超過、企業部門は支出超過という状態が長く続きました。しかしながら、最近は家計部門の貯蓄超過は縮小しています。代わって企業部門は貯蓄超過に転じ、その幅は
拡大しています。
国民経済計算によれば、
平成十一年度から十五年度にかけて雇用者総報酬は約十兆円減少しています。一方、同じ時期に企業所得は約十一兆円増えています。雇用者総報酬の減がそのまま企業所得へ転嫁された形になっているわけであります。こうしたここ数年の雇用者総報酬の低下あるいは労働分配率の低下を背景とし、家計収入は減り、貯蓄の取崩しも増えています。
二月の月例
経済報告では、個人消費は伸びが鈍化からおおむね横ばいへと判断が下方修正されました。企業部門は好調なものの、家計部門の
回復の遅れが明らかになっています。家計をめぐる
状況が厳しさを増しているにもかかわらず、
政府がやろうとしているのが
定率減税の半減という実質の大増税であります。
総理は、現在の
経済状況については
定率減税の
導入時とは異なり、
経済体質は強化されている、今後とも引き続き民需中心の緩やかな
回復を続けると見込んでいると、
定率減税の
縮減を正当化しています。民需主導といっても、これまで企業部門の設備投資は伸びていますが、個人消費は、先ほど言いましたように、堅調ではあるものの伸びていません。設備投資も輸出関連が主体であり、事実上、外需主導になっているわけです。
個人消費が伸びるための前提条件となるのが雇用者総報酬の増加であります。確かに、最近になって雇用者総報酬が名目で上昇しています。しかし、これがどこまで続くかは予断を許しません。むしろ、原油価格の高騰は続いており、原油を使う素材産業が価格転嫁を進めれば、川下の加工産業がコスト吸収へ人件費を圧縮する可能性が高いと見るべきです。
今後とも引き続き民需主導の緩やかな
回復を続けると見込む根拠と、それは個人消費の
拡大による自律的
回復を意味するのかどうか、
総理に伺います。
また、
景気回復が見込まれる段階ではなく、
景気がいわゆる踊り場を過ぎ確実に上向くまで、あるいは雇用者総報酬が伸び、個人消費が安定的に伸びるまで、サラリーマン家庭を直撃する増税には踏み込むべきではないと考えますが、
総理の見解を伺います。
さらに、
政府は
定率減税の半減だけではなく、廃止まで視野に入れ、その実行の可否は
景気の動向を見ながら決めると伝えられています。この
景気の動向とは具体的に何の尺度をもって判断されるのか、併せて
総理に伺います。
国債管理
政策について伺います。
平成十七年度末の
国債の
発行残高見込みは五百三十八兆円、国、
地方を合わせて七百七十四兆円、対GDP比は一五〇%を超える
規模となっています。なぜ、これまでに
我が国の
国債発行残高が増え、かつ増え続けるのか、その根本的な原因はどこにあるのか、
総理の見解を伺います。
発行主体にとっての利払い費の増大、保有主体にとっては含み損の発生によるバランスシートの毀損など、
国債の金利変動による
財政、
経済のリスクは
国債発行残高が増えれば増えるほど増します。今後の
景気上昇局面における金利上昇リスクへはどのように対応していくのか。
財務大臣が言うように、あるいは
総理が言うように、
財政規律の確保は最も重要な条件ですが、しかし
財政規律の確保、維持、
国債保有者層の多様化だけで対応は十分なのか、
総理に伺います。
また、
国債の長期金利の形成は市場に任せるのか、あるいはその動向については
政府、日銀による
一定の管理下に置くのかも併せて伺います。
政府は二〇一〇年代初頭に基礎的
財政収支、いわゆるプライマリーバランスを均衡させるとしています。国の
財政赤字が持続可能な水準でコントロールされるためには、これと併せ名目成長率が名目金利以上であることが必要です。しかしながら、近年は金利が名目成長率を上回る状態が長く継続しています。いわゆるリスクプレミアムによって名目金利は名目成長率を上回るという有力な説があります。
財政赤字の継続による
国債発行残高の増大はこのリスクプレミアムの増
大要因であり、名目金利と名目成長率が均衡することはかなり困難と見なければなりません。どういう条件になれば名目成長率が名目金利と均衡するのか、その道筋はどうなっているのか、またそれは二〇一〇年代初頭までに達成可能なのか、
経済財政担当大臣に伺います。
年金事業等の
事務費に係る国の
負担の
特例措置に関して
質問します。
年金保険事業
制度においては、保険料は事業の
事務の執行に要する
費用に充当することを本来認めてはいません。
制度の運営に必要な経費は全額国費で
負担することを
基本としております。一方、他の
政府管掌の保険事業では、
事務等は保険料収入を充当することを
基本としています。
事務費に関し
年金制度が独自の
制度体系になっている理由を
財務大臣にお聞きします。
法案は、本来国庫で
負担すべきものに対し、一部保険料を充当するというものであります。その対象をこれまでより限定したことは半歩前進ではあります。しかし、保険料で事実上国庫支援を行うことに変わりはなく、本末転倒であります。高まっている
年金制度への不信解消のためにも、
年金保険料は保険給付金にしか充当しないという本来の原則に戻るべきと思います。
財務大臣の見解を伺います。
もし、どうしても保険料で
事務費を賄う必要があれば、
制度の根本から議論し直し、
特例法ではなく
年金法等の
改正を目指すのが筋と考えますが、併せて見解を伺います。
景気がこれから
回復へ向かうための大きなキーワードは、成長期待と信頼であります。先行きは明るいとの市場の確信が投資や消費の
拡大につながり、お金の循環を円滑にすることは論をまちません。
この成長期待の形成と浸透には、本来であれば
政府が大きな
役割を果たさなければなりません。そのためには、市場と
政府との間に
一定の
信頼関係が成立することが必要です。そのためには何をすべきか。
政府が何をしようとしているかについての明確な
方針と具体策を明示し、それを確実に実行する。もしできなければ、大したことないとか、
政策変更でありながら
政策強化などとごちゃごちゃ言わず、ごまかさず、きちんと
説明責任を果たすことがまず必要であります。要するに、これまでの
政府の対応とは正
反対のことをしなければならないということであります。
これまで、企業や
国民の自助自立の精神と、それをばねにした懸命の
努力を
推進力として、
経済は底割れすることなく動いてきました。しかし、デフレからの脱却と本格的な
景気回復の筋道は一向に見えていません。ちなみに、長い踊り場は世間では廊下と言います。今の
状況は、その廊下が下り坂に向かっているように思えて仕方がありません。
一方の官、すなわち信頼をかち得ないためにその
推進力が機能しない
政府・与党の下、この難局を乗り切っていかなければならないことにこの国の
経済の苦しさとつらさがあります。
経済という生き物は、この苦しさとつらさに懸命に耐えている、耐えかねない
状況に来ている。
総理は、眼光紙背に徹すれば物事が見えると、どこかの場で、記者会見でおっしゃいました。是非、眼光紙背に徹して今の
状況を見ていただきたい。それでもこういう
状況が分からないとすれば、
総理の目こそ節穴であると、このことを申し上げまして、私の
質問を終わらしていただきます。(
拍手)
〔
内閣総理大臣小泉純一郎君
登壇、
拍手〕