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参考人(伊豆見元君) ありがとうございます。
本日は、当
委員会にお招きをいただきまして大変光栄に存じております。
十五分程度ということでお時間をちょうだいしておりますが、私は、昨今の六か国協議をめぐる動きを少し中心にいたしまして、
北朝鮮の核問題につきまして私が考えておりますことの一端をここで述べさせていただきたいと
思います。
御案内のように、六か国協議、六者会合が再開するのではないかという期待が出ております。六月六日に、いわゆるニューヨーク・チャンネルと呼ばれておりますアメリカと
北朝鮮との間の言わば
外交接触の場で
北朝鮮側が六か国協議へのコミットメントを表明したと。しかし、いつ六者会合の場に戻るかは特に示唆するところはなかったというのがアメリカ側の照会でありますが、少なくとも
北朝鮮が六か国協議のプロセスについてのコミットメントを確認をいたしましたので、再開も可能ではないかという見通しがたくさん出てきておるところかと
思います。
しかし私は、これを
北朝鮮の観点に立って考えるならばという条件を付けてみますと、やはり難しいだろうと。
北朝鮮が六者会合、六か国協議の場に戻ってくることは極めて難しいというふうに思っております。
大きな
理由として二つ御指摘できると
思いますが、御案内のように、現在は
関係各国すべてが六か国協議を通じて
外交的、平和的にこの
北朝鮮の核問題を
解決しようと、アメリカ・ブッシュ政権もそういう立場でありますし、したがって、簡単には今六か国協議の枠組みというのは崩れないような
状況になっています。
そういう中でなかなか開けないまま一年が過ぎようとしているわけでありますが、しかし、開催できないということは、六か国協議が崩壊するという話ではないわけでありまして、むしろ六か国協議を再開しない方が、しない方がというのは言い過ぎかもしれませんが、六か国協議が再開されなくとも、少なくとも当分の間、これが数か月か半年か、あるいは一年近くになるかはよく分かりませんが、当分の間は六か国協議の枠組みは残ることになる。これは、私は恐らく確実であろうと
思いますし、
北朝鮮の目から見ましても、六者に出ていかない方が実は六者の枠組みは残るんだという考え方は非常に強くあるであろうと
思います。
なぜ六か国協議は開かれなくても枠組みが残る、あるいは六か国協議というものが完全に終わりにならないのかといえば、まだまだ
関係各国は
北朝鮮を六か国協議の場に戻す、あるいは六か国協議の場で
外交的
解決を図るための
努力を尽くしていないと、まだまだやれることがあると、やるべきこともあるという立場にあるからだというふうに思っております。
したがって、ブッシュ政権も、仮に今回
北朝鮮がすぐ六か国協議、第四ラウンドの第四回会合に出てこないということになりましても、すぐさま国連の安全保障理事会にこの問題を付託するということは私はないと思っております。国連の安全保障理事会に持っていく前に中国にもっと役割を果たしてもらう。端的に言うならば、中国に影響力を行使せいと、
圧力を掛けよと、そういう
努力をアメリカは最優先させると
思いますし、最近では、南北間の
政府間の
対話、協議というものもまた再開されましたので、中国に加えて韓国にもそういう
努力、
北朝鮮に
圧力を掛け
北朝鮮の
態度を変えさせるという、そういう
努力をしばらくしていくであろうと
思います。
そういう
努力がすべて功を奏さなかったと、万策尽きたという形になれば、そこで初めて国連の安全保障理事会に持っていくという話になるんであろうと。これは今の段階で国連の安全保障理事会に持っていきましても、ただ
話合いが続くということしか想定できない。国連の場で
圧力を
北朝鮮に掛けていくような方向に持っていく、あるいは最終的な
経済制裁というような形に持っていくということも、現時点では
可能性はほとんどないと断定できると
思います。ともかく、中国、韓国はそういう方向に行くことに反対をしておりますし、中国が反対している限り、国連の安全保障理事会でそのような話が進むことも考えられないということになります。
したがって、
北朝鮮の観点をもう一度申し上げますが、六者会談、六か国協議というのは、今回出ない方が逆にその枠組みはしばらくは残るんだということがあると。一方、六か国協議に参席した場合にどうなるかということでありますが、むしろ参席しますと、今度は協議が完全に決裂して六か国協議そのものに終止符が打たれるという
可能性が相当程度あります。あるいは、そのリスクが極めて高いというふうに言えるであろうと
思います。
これはもはや、六か国協議の中で結果を出すということについての、どうやって結果を出していくかという方法あるいは課題等について、もうアメリカの考えていることと
北朝鮮の考えていることがもはや天と地の差があるほどの開きが出てきたということであります。
御案内のように、アメリカはもちろん
北朝鮮の核を完璧に二度と後戻りしないように、しかも検証可能な形で廃絶する、廃棄、解体させるということに相当な重点を置いております。そして、そのために、昨年の第三回目の会合、ちょうど六月でございましたが、昨年の六月の第三ラウンドの六か国協議の場でアメリカは相当細かい、かつ具体的な解体のための提案を出しました。これは、本当にそのとおりに実行するんであれば、まず確実に
北朝鮮の核プログラムというものは廃棄、解体に持ち込めるだろうと思える程度の詳細かつ具体的なものであったようであります。といいますのは、もちろん全文は公開されているわけではありませんので、我々はそれを手に取って見るわけにはいきませんが、しかし相当具体的で詳細なものであることは間違いないと。ところが、それでは
北朝鮮はもちろん応じるわけがありませんので、いわゆる見返りの
対応措置というふうに、コレスポンディングメジャーズというふうに呼んでいますが、
対応措置をこちら側もとっていくことになります。まあ一種の見返りでありますが。その見返りの
部分が
北朝鮮の目から見るとどうしても納得できない。
アメリカの提案によりますと、一番最初の初期段階におきまして、
北朝鮮が明確に核の廃絶ということにコミットメントをするその段階で、六か国協議のほかのメンバーは
北朝鮮にある種のエネルギー支援、まあ重油支援になると
思いますが、それを行うということになりましたが、この時点でアメリカはそこに参加しないということになっています。ですから、最初に
北朝鮮が動き出すときにアメリカは一切参加しないという形になっている。そして、第二段階以降、実際の実行段階でありますが、実行段階というのは核の解体が進んでいく段階に入りますと、アメリカがそれに応じてある程度見返りに参加して出していくということになりますが、これが非常にまだ茫漠としたものであるということが一つ。二つ目に、ロードマップの形を取っておりません。すなわち、
北朝鮮が何かある行為に出る、すなわち核の解体のある具体的なステップを踏んだときに、アメリカから一体どんな見返りがあるのかというのが組合せにはなっていないわけですね。
ですから、こういうのは
北朝鮮の目から見ますと、一方的に
自分たちの核解体が進んでアメリカから何の見返りが得られないかもしれないと、下手をすると一方的に武装解除を迫られ、あっと気が付いたときには
自分は丸裸になっているが、とても
自分の安全も確保できなければ物も得られないという、そちらの方向に行く
可能性があるということでありました。
実は、過去一年、
北朝鮮はそれをいろんな形でアメリカに修正してほしいと、すなわち第一段階で少しでもコミットしてほしい、あるいは第二段階以降の実行の過程になってきて、履行の過程になってきた場合には、そこにロードマップのようなかちっとした道筋を付けてほしいということをいろんな形で要求してきましたが、ずうっとはねのけられてまいりました。今のブッシュ政権、第一期目もそうでありますが、第二期目ももとよりそういうものを聞き入れるという形にはなっておりません。ですから、そういうのがアメリカの立場。で、
北朝鮮の要求は全然聞いてもらえない。
一方、
北朝鮮はこの一年間、もちろん核開発を継続して進めてまいりましたし、なおかつそれを今後も進め、拡大しようとしております、御案内のように。二月十日に外務省声明が出ました。これを一般によく核保有宣言という言い方をすることがありますが、私はそれは極めて不適当な表現であると。保有ではなくて、核を継続して拡充していこうと、核兵器を継続して拡充していきたいという宣言を彼らは行ったわけでありまして、実際にそれにのっとった方向に今動いております。
そうしますと、
北朝鮮にしてみますと、売値が高くなったということであります。昨年の六月と一年たった現在の六月では全く
状況が異なる。昨年
北朝鮮が解体、廃棄しなければいけなかった核プログラムと、現在
北朝鮮が、あるいは将来
北朝鮮が廃棄、解体しなければいけない核プログラムの中身は全く違うものになりつつあると。要するに、たくさん彼らは譲らなきゃいけないという話になります。要するに、核開発をどんどん進めたということはそういうことであります。そうしますと、譲らなきゃいけないものが増えたわけです。まあ増えたというか、
自分で増やしたんですが。増やしたわけですから、見返りは当然それに合うほど多くなきゃいかぬという話です。昨年六月の段階でアメリカが、あるいは我々国際社会が
対応措置として考えている見返りでは不足なわけでありますので、すなわち
北朝鮮は要求をつり上げたわけであります。
これがまあいろいろ言われております、軍縮会談にしたい、我々はもう核保有国だからそうやって認めてそれなりの扱いをせよ、あるいは対等の立場で
交渉をせよとか言っているのは、すなわち
自分たちの売値を上げたという、つり上げたという話でありますから、そうしますと、この二つがぶつかってうまくいくであろうという見通しはまずないわけであります。したがって、六か国協議が再開される、これがぶつかる、どうしようもないなと、六か国協議という場ではとても
北朝鮮の核開発は止められるかどうか分からないなという雰囲気になる
可能性が相当程度ありますので、したがって六か国協議はむしろここで終止符が打たれる
可能性がある。
しかし、誠に皮肉な話でありますが、六か国協議に
北朝鮮が出てこない方が六か国協議は残るけれ
ども、出てきたら最後、終わりになるかもしらぬという話ですし、終わると、当然のことながら、これが国連の安保理に行くかもしらぬということでありますので、
北朝鮮は恐らく、そこら辺を計算いたしますと、私は、今回、六か国協議に応じてくる
可能性は少ないという、まあほとんどないと、まずないというふうに思っております。
そうしますと、結局は、当面、しばらくの間、ぐずぐずっとした
状況が恐らく続くんであろうと。六か国協議も開かれないけれ
ども、国連の安保理に行くわけでもないという。周辺では中国も韓国も一生懸命
外交努力はしているというような
状況。一種の
現状維持であります、ステータスクオでありますが、
現状維持がそのまま続くというその公算が、少なくともまあ半年程度は私は一番それがあり得ると、まあ来年になるまではそういうふうになるんではないかと
思いますが。
その間も問題は、御案内のように、
北朝鮮の核開発は粛々と進んでいく、彼らの売値は更に更に高くなっていく。既に
北朝鮮は、この二年間稼働をしてまいっておりました五メガワットの黒鉛型の原子炉、まあ実験炉、小さいものではありますけど、それを稼働を止めました。そこから使用済みの燃料棒八千本以上を引っこ抜いたと、引き抜いたということもはっきりさせました。これでこれを再処理に掛けますと、更にさてどのくらいできるかでありますが、最低二、三発分、十五、六キロ、あるいは多ければ三、四十キロぐらいの兵器級のプルトニウムを彼らは更に抽出できるという
状況になっている。
その五メガワット関連でいいますと、そういう再処理もありますし、さらに、これはもう相当近く、直近にそうなると
思いますけど、彼らはさらに燃料棒、新しい燃料棒を再装てんしまして、また五メガワットを稼働させると
思います。で、稼働させて、二年ぐらいこれを稼働させて燃焼させていると、また二年後には全部、八千本引っこ抜いて、かなりの程度の兵器級プルトニウムが手に入る段階へと進められるということになる。
ですから、五メガワットで進めている核開発がありますし、二つ目には、建設途中で工期を中断しておりました五十メガワット、さらに二百メガワットという、電力の規模でいうとそれだけになりますが、プルトニウムをもしそこから抽出するんであれば、また量が飛躍すると、拡大するというものの建設も始めると、再開するということを今非常に強く示唆しておりますが、恐らくこれは現実のものになるであろうというふうに
思います。
まあ、ただ、五十メガワットであっても最短で二年ぐらいかと。
北朝鮮は二年以内ぐらいに何とかしたいと言っているようでありますが、まあ二年として、二年でできて、そこから原子炉を動かすと、更に二年ぐらい掛けないと燃料棒を燃焼させられない。それから、それを引っこ抜いて、引き出してきて再処理に掛けてプルトニウムを作る、また一年という話ですから、これはまあ最短で恐らく五年ぐらい掛かりますので、五年掛かるということは、すなわちブッシュ政権の間には実は
北朝鮮のプルトニウムは増えないということですが、しかし核の開発はどんどん進む。
さらにもう一つ、三番目には、秘密裏に彼らが進めておりますウラニウムの方でありますが、ウランの濃縮プログラムによる核開発というものも、当然これも進んでいると考えるべきであろうということであります。そうしますと、継続して
現状維持を続けるという意味では、当面はこれでいいわけでありますが、少し先を見ますと、問題はより困難になりますし、危険度は更に増すということになります。
例えば、半年あるいは一年、数年たってこの問題を
外交的に
解決しようと、その
チャンスがそのときまで残っているかどうか分かりませんが、そうだとしますと、少なくとも売値が物すごく高くなりますから、それを
北朝鮮に放棄させるためのコストは物すごく高くなる。後になればなるほど、我々が支払わなければならない見返り、コストというのは相当高くなると。これはもう明らかでありますし、そのコストをうまくみんなで分担して調整できるかどうかも余りよく分からないような話になります。
あるいは、
交渉の取引、
交渉、取引というのが不備に終わると、
外交的にうまく
解決できなかった場合には、
北朝鮮の核開発はどんどん進んで、最後は核ミサイルというものを手にした
北朝鮮と我々はどう共生するかと、どう一緒に生きていくかという問題にどうしても直面する。その際どう
対応するのかと。
日本も核武装を行うべきなのか、あるいはアメリカのそのエクステンデッド・ディターランスですか、核の傘あるいは拡大抑止というものでアメリカに守ってもらうのか。そのアメリカの核の傘の有効性みたいな問題も更に考えなきゃいけないと
思いますし、その際、例えば非核三原則というのでよろしいのかと、持ち込ませないというその三番目の原則をそのまま維持していることが意味があるのかどうかと。
そういう問題にも我々は直面するということになりますし、あるいは
北朝鮮の核開発がうんと進んだ段階で
北朝鮮が不安定、混乱の
状況に追い込まれた場合にどうなるかと。今度はたくさん持っている
北朝鮮の核が外に流出するかもしれません。拡散する。拡散というのは、もちろん
北朝鮮の核に対抗するために別の国が核兵器開発に走るというのも拡散ですが、
北朝鮮の大量の核兵器が外に流出していくというのもありますし、とりわけ、それは少ないときにはその心配というのは相対的に小さいわけでありますが、量が多くなれば、流出というのは、
北朝鮮はやっぱり売っ払うかもしらぬということを当然我々は考えなきゃいけないわけですし、それが例えばアメリカの一番の懸念であることは御案内のとおりでありますが、アルカイーダのような国際的なテロ組織の手に渡った場合にどうなるのかということも我々が考えなきゃいけないということであります。
したがって、今、
北朝鮮の核問題というものが私は当面みんなで先送りしようとしている
状況にあると
思いますし、実際先送りするんであろうというふうに私は予測をしております。しかし、そういう
状況で果たしてよろしいのであろうかという大変強い疑問を持っております。現在、我々には危機感は明らかにあるでしょうが、切迫感は全くないというように私は
思います。危機感に加えて切迫感を持ち、今すぐ直ちにこの問題をできるだけ早く
解決するための処理、
対応ということを考える時期に来ているのではないかというふうに思っております。
時間を若干超過いたしましたが、ありがとうございました。