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参考人(
生源寺眞一君) 生源寺でございます。
最初に、
担い手政策を
中心といたしまして、新たな食料・
農業・農村基本計画に盛り込まれました
農政改革の方向について若干の所感を述べさせていただき、続いて今回提案されております
農地制度の
改革について
意見を述べさせていただきたいと思います。
基本計画にはいろいろな側面があるわけでございますが、何よりも今回は
農政改革の羅針盤となることが期待されており、新しく
担い手政策の確立、
経営安定対策、これは品目横断的政策を含むわけでございますけれ
ども、この確立、
農地制度の
改革、
農業環境
保全政策の確立、資源
保全政策の確立、これらの五つの柱が打ち出されているわけでございます。ここで強調しておきたいのは、この
改革の五本の柱が相互に密接に関連している点でございます。したがいまして、全体を
一つのパッケージとして実施することが極めて重要であるというふうに考えております。
多少具体的に申し上げますと、新たな
農地制度、提案されております
農地制度には
担い手政策を強力にバックアップする
役割が期待されていると、こう言ってよろしいかと思います。それから、
経営安定対策、品目横断的政策等でございますけれ
ども、これは
担い手政策の言うまでもなく重要なパーツでございます。さらに、
農業環境政策や資源
保全政策も、実は私は
担い手政策あるいは
経営安定対策とお互いに補いながら
日本の
農業を支える
関係にあると、こう考えております。
現代の
日本の
農業、このモンスーン・アジアの
日本の
農業は、もちろん高度に発達した市場経済に深く組み込まれているわけでございます。ただ、もう一面、環境問題と非常に深いかかわりを持っておりますし、あるいは
農業用水ですとか農道、こういった農村の共有の資源をベースとしている点で言わば市場経済とはやや異質な側面を持っているわけでございます。
このような二つの側面を持っている現代の
農業、これは一方では市場に向き合い、まあいわゆる攻めの
農業を展開する、こういう
経営をバックアップする政策を必要としておりますが、同時に、環境あるいは資源という言わば非市場的な要素の
保全のための政策も必要としていると、こういうことでございます。その意味で、お互いに補い合う
関係にあると、こう申し上げたいと思います。
担い手政策の対象でございますけれ
ども、これは基本計画の表現等でございますけれ
ども、「効率的かつ安定的な
農業経営及びこれを目指して
経営改善に取り組む
農業経営」とされているわけでございます。つまり、既に効率的かつ安定的な
農業経営に到達している
農業者、それから効率的かつ安定的な
農業経営を目指す
農業者についてこれをバックアップする政策が打ち出されていると、こう考えているわけでございます。ただ、
日本の
農業、特に
水田農業の場合には、現在の
担い手の
状況を考えますならば、すぐ後で申し上げますけれ
ども、
集落営農のレベルアップという点も含めて、
地域の中から
担い手を生み出し、これを盛り立てていくという発想が極めて重要であると、こう考えております。
一枚簡単な
資料を用意してまいりました。ちょっとごらんいただきたいと思います。
まず、このうちの下の図でございます。これは農林水産省のお作りになっている
資料をそのまま持ってきたものでございますけれ
ども、基幹的
農業従事者、まあ
農業を仕事としていると、こういう方と言っていいかと思いますけれ
ども、この年齢構成を示しております。御案内かと思いますけれ
ども、年齢の高い層に著しく偏っているわけでございまして、このまま推移すれば
地域の
農業を支える
農業者の急速な減少が見込まれると言ってよろしいかと思います。事実、上の表は、これは農林水産政策研究所の松久勉さんの推計によるものでございますけれ
ども、これは、二〇二〇年の基幹的
農業従事者の数は二〇〇〇年に比べて半数に減少すると、しかもそのうちの三分の二は六十五歳以上になるという推計でございます。
これは実は
日本農業全体についての数値でございます。
日本農業の中には畜産ですとかあるいは施設園芸のように若い
担い手のおられる分野もあるわけでございますので、
水田農業に限って言いますと、事態はこの推計なりグラフ以上に深刻であると、こう考えていいのではないかと思います。したがいまして、
地域農業の
担い手を支え、また、
担い手をつくり出すということが正に急務であると、こう言ってよろしいかと思います。
新たな基本計画は、
担い手の具体像につきまして二つの重要な点を指摘しているかと思います。
一つは、これは文書そのものを引用する形で紹介いたしますけれ
ども、
地域の
農業生産を
中心的に担う
経営、まあ
担い手ですね、これと兼業
農家、
高齢農家等の
役割分担についての合意形成を図りながら、
担い手の育成確保や
担い手への
農地集積に向けた動きを加速化させていく必要があるとしているわけでございます。したがいまして、
担い手の育成が急務であると、こうする一方で、言わばごく少数の
担い手のみが残るような農村像についてはこれは非現実的であると、こういう
理解に立つと言ってよろしいかと思います。
日本には
日本独自の農村像があっていいわけでございまして、アメリカあるいはオーストラリアのような新しく開発された国とは違う農村像を描き出していると、こう言ってよろしいかと思います。
その上で
担い手の確保の重要性を改めて強調したいわけでございます。もちろん、兼業
農家あるいはホビーの
農業を排除する必要はないと思います。しかしながら、
農業経験豊かな
昭和一けた
世代のリタイアが急速に進む中で、
昭和一けたといっても最もお若い方が既に七十という
状況でございます。こういった
方々のリタイアが進む中で、
農業技術の継承ですとかあるいは大型
機械の
作業といった点で、実は兼業やホビーの
農業も、
地域の
中心的な
担い手ですとかあるいはしっかりした
集落営農なしには存続できなくなる可能性が非常に高いと、こう思うわけでございます。
基本計画のもう
一つの重要な指摘は、いわゆる
集落営農のうち、
経営主体としての実体を持つ組織を
担い手と位置付けた点でございます。
これ、
地域性がございます。また、忠さんのところのような立派な
法人経営が展開しているところもございますので、どこでも
集落営農ということにはならないかと思いますけれ
ども、しかし
集落営農には、個別
経営が直面しがちな圃場の分散の問題を克服しているという、こういう非常に大きな強みがあるわけでございます。これを効率的な
農業生産に結び付ける方向として評価したいわけでございます。ただ、人材の面で
継続性に不安があるといったようなこういう組織も少なくないわけであります。今回の
改革は、そこのところを、
経営体として組織を再編する、これを契機に新しいリーダー層の出現を促す、そういう政策と
理解したいと思うわけでございます。
次に、
農地制度の
改革について所見を述べさせていただきたいと思います。時間の制約もございますので、三つの点に絞って
意見を申し述べたいと思います。
第一は、
担い手への
農地の
利用集積についてでございます。
今回、基本計画にも、
集落を基礎とした営農組織の育成・
法人化を図りつつ、
担い手に対し
農地を面的にまとまりのある形で
利用集積をする、これを推進するということがうたわれたわけでございます。したがって、個別
経営と
集落営農、二つのタイプの
担い手の育成というスタンスが
農地制度上も貫かれていると、こう申し上げていいかと思います。問題は具体的な手段でありまして、農用地
利用改善
事業、またその下での農用地
利用規程を充実するという、こういうことかと思います。
ただ、農用地
利用改善
事業も農用地
利用規程も決して新しい
制度ではないわけであります。既存の仕組みを充実するということはもちろん大事なことでございますけれ
ども、ただ、私の表現を許していただくならば、これらの
制度の本領は、本分は
農地の
利用調整をめぐる
地域の自治的、自主的な
活動を側面から支援するところにあるわけであります。言い換えますと、
地域に
農地の集積を促す内発的なエネルギーが存在しないようであるとすれば、こういった
制度的な側面支援はせっかく準備をしても出番がないという、こういうことになるわけでございます。この意味からも、
担い手政策と
農地制度というのは言わば車の両輪とでも言うべき
関係に立つと考えるわけでございます。
今回、
経営安定対策あるいは
担い手政策、これは一定の要件、ここはまだいろいろ議論ございますけれ
ども、これを満たす
担い手に集中的に講じていくということになっているわけでございます。ここは、私は、要件達成への取組を
地域の
一つの求心力として、意欲を持った
農業者に
農地を集中するそういう運動、あるいは
集落営農を
経営体にレベルアップしていくそういう運動、ダイナミズム、これを引き出していく、このてこといいますか、
きっかけにしていくということが非常に大事だろうと思っております。
幸い、全中あるいは
農業会議所を
中心に
担い手を育成し守り立てていくための運動がスタートしているというふうに聞いております。こういった運動と
農地制度が相まって、いい形の
担い手づくりあるいは
農地の集積ができると、こう考えております。
次に、耕作
放棄地の発生防止についてでございます。
この点につきまして、私はかなり思い切った
制度の改善が提案されているという意味で高く評価したいというふうに考えております。問題は実効性でありまして、言わば伝家の宝刀を整備したわけでありますけれ
ども、どこまで耕作
放棄地の解消を図ることができるかどうか、ここが問われるわけであります。
いろんなことが考えられますけれ
ども、例えばそれぞれの市町村の、まあ中山間はちょっと別として、耕作
放棄の実態がどうなっているのかと、新しい
制度の下でこの耕作
放棄地に対してその
地域の
農地に関する組織、機関がきちんと対応しているかどうかということを調査し、これを言わば公表するというようなことぐらいやっても私は、それこそ自給率の向上をとにかく真剣に取り組むという以上、よろしいのではないかと、こんなふうに考えております。
それから三番目でありますけれ
ども、これはこれまで特区という形で行われてきたリース方式による
法人の参入について事実上
全国化するという、こういう方向が打ち出されているわけでございます。
この論点は、言わば既に十年以上と言っていいかと思いますけれ
ども、随分議論が重ねられ、またある意味では一歩ずつ、そろりそろりと
制度の改善を進めてきたということもあり、現時点でリース方式で参入に道を開いたことは妥当であると、こう考えております。特区方式の下で、言わば参入する側も受け入れる側も言わば相当な緊張感を持って
制度を運用あるいは
利用してきているというふうに考えております。これを言わば
全国化する、緊張感を
全国化するということが、今後の
農地制度全般にもかかわりますけれ
ども、非常に大事だというふうに思っております。実際、
食品産業ですとか
建設業のような
農業と比較的親和性の高い
産業の分野から関心が集まっておりますし、これは農村に新しい動きを生む要素として評価したいと、こう考えております。
この点に関連いたしまして、これが
最後になりますけれ
ども、
農地について、特区で行われてきたこの文脈ででございますけれ
ども、所有権まで取得を認めるべきだという、こういう議論があるということを承知しております。
この議論の背景には恐らくいろんなことがあるんだろうとは思いますけれ
ども、私自身は今回のリース方式という形で
制度の改正としては妥当ではないかと、こう判断をしておりますけれ
ども、所有権の取得も認めるべきだというこういう御議論の背景には、言わば借地の
農業の不安定性に対する懸念といいますか、あるいは不満といったようなものがあるのも事実かと思います。ここは、むしろ
法人経営のみならず、通常の
農家の貸借による
農業、あるいは
農業生産法人の場合の貸借もそうでございますけれ
ども、むしろ
日本農業全体としてここは真摯に受け止めて考えるべき要素があるのではないかと、こう思っております。
長年言わば土地を所有する側の権限をしっかりさせることを通じて貸しやすくするという流れが続いてきているわけで、これはこれで意味のあることではございますけれ
ども、しかし借地
経営の安定化ということに関しては、やはり
農業をやる側のいろいろな見解、物の見方なりをきちんとお聞きし、これを受け止めて今後の
制度の改善なりに生かしていく必要があるのではないかと、こんなふうに考えております。
以上で私の
意見陳述を終わらせていただきます。