○円より子君 私は民主党・新緑風会を代表して、
食育基本法案に対し反対の立場から討論を行います。
国民の
食生活において、
栄養の偏り、不規則な
食事、肥満や
生活習慣病の増加、ファーストフードのはんらんなどに加え、
遺伝子組換え食品や
残留農薬、
食品添加物の
安全性の問題、BSE問題などの問題が山積していること。また、
我が国の食料自給率がカロリーベースでわずか四〇%にとどまり、食の海外への依存の問題が一向に解決されていないことなど、この
法案の前文にもうたわれているような
我が国の食が抱える深刻な現状については私
たちも
発議者と
認識や危機感を共有するものであり、食や農を対象とする
政策の重要性は、健康で文化的な本当の
意味で豊かな
国民生活を将来にわたって実現していくためにますます高まっていると考えます。
しかしながら、この
食育基本法案には次のような問題点が含まれており、私
たちが賛成できる内容とはなっておりません。
まず、食とは本来
個々人の選択と自由に任せられるべきものであり、その内容について国家が介入すべき性質のものではないということです。
法案には健康な
食生活という文言が多く用いられておりますが、何を健全な
食生活と考えるかということも、年齢、嗜好、体質などに応じて個人が自由に判断し、選択すべき問題であり、その在り方を国が
基本法の形で
規定して唱道し、
食生活という個人の
生活の内面にまで踏み入って協力や責務を押し付けることには慎重であるべきです。アメリカ、イタリア等の欧米諸国でも、
国民の健康維持の観点から望ましい
食生活の実現に関する様々な
施策が行われていますが、
食育基本法のような
法律を制定している国はどこにもありません。
既に文部科学省、
厚生労働省、
農林水産省等が
食育に関する
施策をそれぞれ
推進しており、また地方自治体
レベルでも
食育を
推進するための計画を策定したり、
学校給食の在り方について見直しを行ったりするなど、独自の
取組を
推進しております。このような
状況の中で、私
たちがなすべきことは、食をめぐる
環境を改善するための
個々の具体的な
施策を強力に
推進したり、自治体
レベルの
取組を
制度的にも
財政的にも支援するための
取組、仕組みを実現させることではないでしょうか。
発議者は、私や同僚
議員の
質疑に対し、この
法律が成立すれば、
食育に関する
施策を実施する各省庁がこの
法案を根拠に予算を獲得しやすくなるというメリットがあるのだと再三強調され、
食育に関する個別法や
個々の
制度改正についての
検討は
基本法の成立後の課題であると答弁されましたが、そのようなことでは、この
法律は各省庁による予算獲得のための便利な道具として都合よく利用されるばかりではないでしょうか。
子供たちへの
食育が重要であると考えるならば、経済性の追求に偏り、
食育の理念に照らして問題の多い
学校給食のセンター方式から自校方式への転換、学校
栄養職員や学校教諭の配置促進、
家庭科教育の充実などの
施策を実施することこそが急務のはずです。しかし、この
法案は、
基本法としての限界から具体的な
施策については訓示
規定にとどまっているため、例えば
学校給食について、
発議者からは自校方式の方が望ましいと思うとの答弁をいただきましたが、この
法律の成立後、そうした
発議者の意思が
行政によって十分に尊重され、具体的な
施策に結び付くという確実な保証はありません。
参考人としてお呼びした方の中には、センター方式に変わるときに反対意見を述べましたが、
財政がもたないということで押し切られたと無念の思いを述べた方もおられます。
基本法の制定よりも、まず
学校給食を自校方式に戻すことにエネルギーを注ぐ方がよほど重要な政治の
責任ではないかと思われます。
さて、多くの
国民は食の安全について高い
関心を持ち、安全で安心できる食材を使ったおいしくて健康にいい
食事を自分でも食べたいし、家族にも食べさせたいと思っています。妊娠中の女性の場合や育ち盛りのお子さんのいる御
家庭では特にそうでしょう。また、親子で一緒に
食事を作ったり、家族そろって食卓を囲んだりすることの楽しさや大切さも、国に一々言われなくても皆分かっていることだと思います。
にもかかわらず、
食品の
安全性についての不安が依然として払拭されないのはなぜなのでしょうか。
栄養の偏りや不規則な
食事、家族ばらばらの
食事を余儀なくされているのもなぜなのでしょう。それは、これまで国がその
責任において
食品の安全に関する十分な
情報を
国民に分かりやすく提供してこなかったし、
国民が仕事と
家庭を両立できるように全力で支援してこなかったからではないでしょうか。
国が行うべきなのは、従来の
農業政策や貿易
政策をも含め、食をめぐる様々な問題の原因や背景を分析し、これまでの対応の不十分の点や問題点を検証し、その上で
個々の課題について具体的で強力な
施策を展開することです。そうした分析や検証を行わず、安全、安心な
食生活を送るために必要な
情報提供もなく、母親だけでなく父親も
子供もそろって料理をし、家族そろって食卓を囲むことを可能にする
環境整備もないままに、
食育の名目で
法律を制定して
国民や
家庭に責務を負わせることは、国の
責任をあいまいにし、放棄することであり、本末転倒であると
指摘せざるを得ません。
さらに、本法に基づいて設置される
食育推進会議については、
消費者や農林漁業者の代表の実質的な参加が行われるかどうか、法文上は明らかではありません。また、
推進会議の所掌事務には、関係
行政機関の相互調整や
施策の実施
状況に関する検証・評価及び監視の事務が明記されておらず、
推進会議を設置することで
食育に関する
施策が本当に総合的、効率的かつ
効果的に実施されるようになるかどうかも疑問です。年にわずかしか開催されず、各省ばらばらの
施策を追認するだけの会議であれば、設置しても無
意味ではないでしょうか。
食育の
基本理念の真の実現には、以上述べたような問題点のある
基本法を制定することではなく、
学校給食制度、
栄養教諭
制度、
食品表示
制度、雇用や仕事と家族
生活の両立支援、また職住近接の住宅
制度等々の具体的な諸
制度を改善し、充実させていくべきであり、
消費者や
国民の権利の観点が必要であります。
国民の権利ではなく責務をうたう一方で、国等の
施策について具体的方向さえ示さない本
法案には到底賛成しかねることを申し上げ、また、本
法案の成否にかかわらず、私
たち民主党は、食や農にかかわる個別法や各種
制度の改善及び充実を追求し続けていく所存であることを表明し、私の反対討論を終わります。