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参考人(
樋口美雄君)
慶應大学の
樋口です。どうぞよろしくお願いいたします。
私の今日
お話ししますのは、時間が二十分というふうに限定されておりますので、まず
最初にその
少子化の
要因をどう考えるか、これに対する
政府の
政策の
在り方、そして時間があれば
最後に、それが
社会にどういうインパクトを与えるかというような結果について
お話をさせていただきたいというふうに思います。
お手元に
資料が配付されておると思いますので、それに沿って
お話をさせていただきます。
まず、なぜ今、
少子化対策といったものが必要であるというふうに考えられてきたんだろうか、あるいはこれまで十分そういった
議論がなぜ進んでこなかったんだろうかということについて触れさせていただきたいと思います。
これはもう申し上げるまでもなく、戦前における産めや増やせやというような嫌なトラウマ的な経験というものを
日本はやってまいりました。その結果としまして、
政府は
家族政策、
家族の中での
議論については介入するべきではないというような考え方が非常に強かった。これは、それぞれの
家族内で
議論していくべき問題だというふうに考えられてきたところが多かったんではないかというふうに思います。
しかし、今、私が考えますのは、なぜこれを考えていく必要があるかというところにつきましては、そのマクロ的な施策あるいは
財政的ないろんな
バランスの問題、こういったところで問題が起こっているがゆえにこの問題を取り上げるのではなく、むしろ
個人の自由、選択といったものがいろんな
制約によって制限されてきている。この
制約といったものをいかに緩和していくかというような
個人のその
選択肢といったものの拡大、実現といったものを考えてこういった
対策を行っていくべきではないかというふうに思います。
特に、
世代別に
希望する
子供の数と
現実の
子供の数、これを
比較してみますと、四十代以上の人については、かなり
希望の数とその
現実、実際に何人持っているかといったところの差は小さいわけでありますが、それ以下の若い
人たちになってきますと、
希望子供数、これと実際の何人
子供を持っているかといったところに大きな乖離がある。でありますので、
政策として、本来持ちたくない、
子供が欲しくないというふうに思っている
人たちに対して
政策で持てということではなく、むしろ個々人が
希望する
子供の数を実現する上で
政策的なサポートが必要なんではないかというふうに考えております。
そういった上で、
日本の、では現状、どういうような
特徴があるんだろうかということにつきまして、特に
国際比較を織り交ぜまして、ほかの国と
比較し、
日本で一体どういう
特徴があるんだろうかということについて御説明したいというふうに思います。
そこで、まず、
皆様に配付しました
資料を見ていただきたいんですが、二枚、
最初文字がありまして、その後に図が何枚か載っているかと思います。まず、図の一といったものを見ますと、これは
横軸の方に、実際に
女性が働いている
比率がどうであるか、
女性の
労働力率、これが取ってあります。そして
縦軸の方に
合計特殊出生率が取ってありまして、ここで注目されますのは、この
関係が
右下がりの
関係がある。すなわち、多くの
女性が働いている
社会においては
出生率が低いというようなことがどうもあったらしいということであります。
特に注目されますのは、これ、一九八〇年の
数字でありまして、今から二十数年前の
数字では、国際的に、
仕事を取るのか、
女性が
職場に進出するのかそれとも
子供を持つのか、どちらを重視するんだというようなことから、
二者択一というようなことでこれが
議論されてきた材料になっております。
ところが、世界的にこの
動きといったものが大きく変わってきている。もう一枚めくっていただきますと、図の二というのがございます。これは、同じ
指標に基づきまして、二〇〇〇年の
数字、二十年後の
数字を描いているわけでありますが、明らかに図一と比べましてむしろ
右上がりの
関係になってきた。
右上がりということは、
先ほどの八〇年のときには
子供を持つのか
女性が
職場進出するのかというような
二者択一の
関係であったわけですが、むしろ二〇〇〇年になりますと、
女性の多く働いている国の方が
出生率も高いというような
関係、すなわち両立し得るというような
関係が出てきているということであります。
このプロセスにおきまして、
各国、いろんな
対策が打たれました。これは国の
対策もありますし、
企業における
対策、あるいは
家庭内における
男女の
役割分担の
対策、こういったものが同時に行われるというようなことによってこういう変化があったわけでありますが、これからまず何が言えるのかといいますと、よく、
神話に近い
状況で、
女性が
社会進出をするとその分だけ
出生率が下がるんだというふうに思われてきた面があるわけでありますが、今、国際的な
比較からそれは否定されているというようなことが言えるんではないかというふうに思います。
では、どのような
動きが
各国で起こってきたんだろうかというようなことをこの図の三以降で見ております。
先ほど申し上げましたように、我が国の場合、この
少子化対策、
家族政策といったものに対して、
政府の介入を避けるといったようなところから、十分な
対策が打たれてこなかった。その一つの
指標としまして、例えば
GDPに占めるこの
家族政策費、何%支出されているのかというような
財政的な面から見ることが可能かというふうに思います。
これを見ますと、この図の三、いろんな国が書かれてありますが、左の方に
日本といったものが
丸印で書かれています。これが〇・六%
程度だというようなことでありまして、ほかの国と比べてやはりその
比率が低いなというのがまず第一に注目されるところであります。この右、
横軸の方を見てみますと、ここでは
家族政策財政支出、
GDPに占める
比率というようなことでありますから、これが右に行けば右に行くほど多くの
財政支出がこの
家族政策に充てられているということになります。しかも
縦軸、
先ほどと同じような
合計特殊出生率でありますから、この
関係が
右上がりになっているということは、多くの
財政支出をこの
対策に打っているところではやはり
出生率が高いというようなことがまず見られるということであります。
ほかの国ではどうかということを見てみますと、例えば
フランス、ドイツ、こういったところでは、ほぼ
公共事業費に匹敵する額がこの
少子化対策に使われているということであります。
日本では、
先ほど〇・六%がこの
家族政策費に使われているというふうに申し上げましたが、これは
公共事業費に比べれば十分の一以下、一〇%以下だというようなことであります。さらに、
デンマーク辺りまで行きますと三・六%というように、非常に多くの
お金がここに使われてきている。しかも、ここに出しております
お金というのは、
財政支出というのは、直接、実際に掛かった、
財政に支出されている額でありまして、国によってはこのほかに
減税という形で
税金を、子育てに、免除するというようなことで、ここに入っていない
数字もかなり出ているということであります。
こうなってきますと、やはり
財政支出をかなりしていかないとこの
少子化対策というものにはならないんだなというのがまず一点確認されるかと思います。
しかし、では、出せば
それなりの効果があるんだろうかというようなことを考えてみますと、必ずしもこれが
十分条件ではない面があります。例えば、今の図の三で見てみますと、この線よりも下の方にある国というのは、同じ
財政支出をしても
出生率が低いというようなことになるわけでありますが、それはどういう国だろうかということを見ますと、スペイン、イタリア、ギリシャ、この
国々、いずれも地中海に位置している国でありまして、そこの文化的な
特徴というふうに言われますのは、
男女の
役割分担がはっきりしている、
女性は
家庭を守り
男性は外で働き稼得してくるというような、そういった
文化的特徴がはっきりしている国だということが言えると思います。さらには、
日本でも韓国でも、さらに最近
議論になっております東アジアの
国々におきましても、そういった背景が強い国でありまして、そこでこの
出生率の
低下といったものが急ピッチで進んでいるということが確認されるだろうということであります。
もう一枚めくっていただきますと、今度は
女性の働きやすさ、それとこの
合計特殊出生率の
関係を描いたものになっておりますが、ここでは右に行けば行くほど働きやすい
環境がいろいろ整備されているということになります。働きやすい
環境とは何かといいますと、例えば
男女間の
賃金格差が小さいとか、あるいは
育児支援が十分になされているかとか、あるいは
管理職に占める
女性の
比率がどうなのかというような、こういったいろんな
指標を集計しました
指標になっているわけでありますが、それが右へ行けば行くほど
女性が活躍しているねというようなことで見られるわけであります。これを見てみますと、明らかにこの
右上がりのグラフということであります。ということは、やはり
女性の活躍している
社会の方が
出生率が高いというようなことが出てきているわけでありまして、これが
先ほど、八〇年代は実は逆だったというようなことでありまして、この二十年間に世界が大きく変わってきたということを物語っているということが言えるんではないでしょうか。
こうなったときによく
経営者の
人たちから疑問が出されますのが、
女性が働きやすい、例えばいろんな
雇用慣行、これを見直すというようなことになりますと、
企業の
競争力が失われてしまうんではないかというようなことが懸念されます。例えば、今までのような長い
残業時間、これをすることができないというようなことになってくれば、
企業自身あるいは国全体の
競争力の
低下を招いてしまうんではないかというようなことが懸念されるということでありますが、私はこれが二番目の
神話ではないかというふうに思っております。
といいますのも、次の図の五というのを見ていただきますと、これ
横軸の方は今、図の四で見たものと同じであります。右に行くほど働きやすい
環境が整備されている、
賃金格差が、
男女間の
賃金格差が小さいとか、あるいは
管理職の
女性比率が高いとか、
育児休業が整備しているとかというようなことがあるわけでありますが、それが、では
国際競争力とどう
関係しているのかというものを見ているものであります。これは、下の方がこの
ランキングとしまして
国際競争力の高い、強い国だというふうになっております。逆に上の方が
ランキングの低い国というようなことになっているわけでありますが、これを見ると、
右下がり、すなわち
女性の働きやすい
環境を整えている国の方が
国際競争力が高いというような
関係が出てきているということであります。
これを考えてみますと、
先ほど申しました二番目の
神話、
女性の働きやすい
環境を整えていくとその国の
経済力が、
競争力が落ちてしまうとか
企業の
競争力が落ちてしまうというのは、どうも
神話に近いんじゃないかというようなことが予想されるわけであります。
実際、これは
国際比較であったわけでありますが、
国内において、例えば
企業別のデータを用いまして、働きやすい、
女性の働きやすい
環境を整えている
企業とその
競争力の
関係を見てみますと、最近ですと、この
国際競争で見たのと同じような
関係が出てきている。やはり
それなりに
女性の働きやすい
環境を整えている
企業の方が
競争力を高めていくというような経過が
日本国内でも出てきているというようなことから、これも両立し得るものであるというようなことでありまして、どちらを取るんだという、
女性の働きやすい
環境を取るのか
国際競争力を取るのかという
議論がもはや成り立たなくなってきているというようなことがこれで言えるんではないだろうかというふうに思います。
以上が
国際比較から言えたことであります。
さらに、では
出生率低下要因というものがどのように考えられるんだろうかと。これは
日本国内の事情に照らし合わせましていろんな分析した結果、これは私だけの分析ではなく、多くの
研究者が分析してきた結果といったものを少し整理してみたい。整理してみますと、どうも八〇年代に言われていた
要因と九〇年代に言われるようになった
要因、これがかなり変わってきているんじゃないかというふうに予想されます。
八〇年代、特に八〇年代後半の
バブル経済の中で言われましたのは、
経済が豊かになった、その結果、親が
子供をどんどん
支援していくために
子供は働く意欲を失っている、さらには、結婚するということによっていろんな責任が発生するわけで、それを回避したいと。親の方がパラサイトシングルというような形でいろんな
支援をしているがゆえに結婚しない、
少子化が進んでいるんだというようなことが言われてきました。さらには、
女性の
キャリア志向が強まってきている、その結果、
職場に出る
女性が増えてくれば
出生率が下がってくるんだというようなことが言われてきたかというふうに思います。
しかし、どうもその傾向といったものが九〇年代には、その
影響といったものを否定するものではございませんが、残っているとは思いますが、更に新たな問題というものが出てきているんじゃないかというふうに思います。それはむしろ、
経済が豊かになったから
少子化が進展しているというよりも、
経済成長率がストップし、そしてそれによって特に
若者の収入、さらには将来に対する不安、こういったものが高まったことが結婚したくても結婚できない
人たちを増やしてしまっているんだというような言い方がなされるようになってきたかと思います。そのことがまた
晩婚化に
つながり出生率を下げているんだというようなことで、よく言われますのが
フリーターの問題あるいはニートの問題というようなことが指摘されるようになったかと思います。
これもまた
最後の図の六というのがございますが、これを見ていただきますと、通常、八〇年代言われた、
女性の
キャリア志向が強まったことが
晩婚化を招き
出生率を下げているんだというふうに言われてきたわけでありまして、もしそれが本当であれば、
学校を卒業して
フリーターになっている人と
正社員になっている人、その人がその後、結婚する年齢に差があり、どうも
フリーターの方が早く結婚して、
正社員になっている
キャリア女性、
キャリアの
男性の方が結婚が遅いというようなことが予想されるわけでありますが、そういったことが起こっているんだろうかということを検証した図、それが図の六であります。
これ、
学校を卒業しまして一年後に
フリーターであった
男性、
女性、そして
正社員であった
男性、
女性について、その後、何歳で結婚しているのかというものを見ているものであります。そうしますと、例えば三十歳の時点を見ますと、細い
実線、そして太い
実線、これはいずれも
女性の
正社員であった人あるいは
男性の
正社員であった人を見ているわけでありますが、そちらの方が
点線よりも上に来ているということがお分かりになるかと思います。
点線の方は
フリーターを示しているわけでありますから、どうも
フリーターよりもむしろ
正社員だった
男女の方が早く結婚しているというようなことが見られる。
これは、九〇年代になって調べてみますとはっきりするようになってきたというようなことでありまして、ここから示唆されることは、
女性も働きやすい
環境を整えていくというようなことが重要であることは間違いないわけでありますが、それと同時に、
経済的な
支援、特に将来に対する不安、こういったものを取り除いていくというようなことがここで一つ重要な
少子化対策になるんだというようなことが言えるんではないだろうかというふうに思います。
そういうことを考えてみますと、
政策的に今何が求められているんだろうかというような
政策面について
お話をしますと、まず
若者の雇用不安の解消、これが第一に必要ではないか。
その中で、特に今
フリーター問題という形で触れましたが、同時に起こっていますものが、問題が、
労働時間の二極
分化が急速に進展してきている。これは、例えばリストラクチャリングという形で
従業員の数を減らしました。減らした結果として、今度残った人について、辞めた人は失業問題とかという形でいろんな問題を抱えているわけでありますが、
企業に残った人につきましては
労働時間がかなり長くなってきている。週六十時間以上働いている
人たちの三十代あるいは二十代の
人たちの
比率が特に急速に上がってきているというようなことでありまして、
片方で
パートタイマーのような
労働時間の短い人が増える一方で、長時間
労働者、週に六十時間ということになりますと、
所定内労働時間四十時間ですから、
残業時間を二十時間以上している。五日間ということで、一日四時間以上
残業しているということでありますから、会社が六時に終わっても十時ぐらいまでは平日毎日残っているというような
若者が増えてきているということから、この
労働時間も含めて
対策を考えていかなければいけないんじゃないかというふうに思います。
要は、普通の人が普通に暮らせる
状況というものをどう作っていくのかというのがポイントになってくるんではないかというふうに思います。今はそういった意味で、生活の
バランスが大きく崩れてきている。
片方、
パートタイマーで
賃金の低い人、
片方は長時間
労働、
仕事の方は安定しているというような人、こういった二極
分化という問題が起こってきているわけでありまして、この問題を解決するということが
少子化対策にもつながっていくんではないかと思います。
そしてさらに、
最後のところで申し上げたいのは、
家族政策費の問題になるわけでありますが、ここでの
経済的支援をどう進めていくのか、あるいは
保育サービスに対する
支援をどう進めていくのか。これ、
育児休業手当が現在のところ
雇用保険の中から給付されています。それにどうも問題が、私は、
限界が発生してきているんじゃないかというようなことで、むしろ
一般財源の方から出すべき時期に来ているんじゃないか。特に、
少子化対策というようなことで考えるのであれば、
雇用保険の趣旨からいってこれには
限界があるというようなことでありますので、
税金で集めた
一般財源の方からやはり支出していくというような
仕組みの組み直しといったものが必要になってきているんではないかというふうに思います。
さらには、
減税、
タックスクレジット。これは、
減税といいますと
税金を払っている人の
税金をまけますということですが、元々、例えば
専業主婦になっている場合には
税金払っていない。そうなってきたときに、例えば
フランスで昨年から導入されるようになりました
タックスクレジットというようなことで、負の
所得税というような形で
税金払っていない
人たちに対しては逆に助成を行っていく、給付を行っていくというような
仕組みというものを考えるということも必要になっているかと思います。特にどのところでやるのか。例えば
フランス辺りですと、一人、二人の
子供についてはこういった
手当というのは必ずしも多くないわけですが、三人目から急激に増加するというような
仕組みを取るとかということも行われているということでありました。
さらに、
児童手当の問題、さらには、
日本では
シングルマザーというふうに言われています片親に対する
支援の
在り方をどうするのか。
最後に申し上げたいのは、
保育サービスにつきましてやっぱり多様な
選択肢、メニューを用意していくというようなことでありまして、これを必ずしも
保育所だけで行うということではなく、時にはベビーシッターも活用できるでしょうし、
認定ママというような
仕組みも、
保育ママという
仕組みも考えることができるんじゃないかということで多様なものを用意していく、それを国民の方が選択していくというようなことが必要になってきているんじゃないかというふうに思います。
最後の五番目のところは、もし後で御質問があればお答えすることにしたいというふうに思います。五番目では、むしろ
社会にどういうインパクトをこの
少子化がもたらすんだろうか、高齢化がもたらすんだろうかというようなことを書いておりますが、時間の
関係で以上で話を終わりにさせていただきます。
どうもありがとうございました。