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参考人(朴一君) 紹介いただきました大阪市大の朴と申します。よろしくお願いします。
本日は、このような
調査会にお呼びいただきまして大変光栄でございます。私は在日の三世でございまして、
日本に生まれ育っているわけですが、国籍は
韓国ですが、
日本は第二のふるさとと思っております。
韓国に行きましたときは
日本の立場を
韓国の政治家たちに紹介し、
日本では
日本の人たちに
韓国に対する理解を深めたいという活動をしてまいりました。本日は三十分という短い時間ですので、できるだけ効果的に時間を使って、私が日ごろ考えていることを皆さんに述べたいと思うんですけれども。
まず、今、
山影先生の方から、特に
ASEANと
日本とを
中心にした
東アジア共同体についてのビジョンみたいなものが語られたと思うんですけれども、私は、やはりその
東アジア共同体ということを考えるときに、やはり軸になっていくのは日韓と日中の
関係が非常に重要になっていくのではないかというふうに考えています。
御承知のように、
東アジア共同体というのは、
東アジアという大きな
枠組みの中で、EUとかNA
FTAのように
貿易とか投資あるいは安全保障の面で
協力体制をつくるということですけれども、こういったEUの経験を例えば見たときでもお分かりのように、特に歴史的な敵対
関係にあったフランスとドイツが劇的な和解を遂げてEUというものをつくり上げてきたんですけれども、そういった
意味では、日韓の歴史的
関係を克服しながら、日韓が軸になってEUに発展していくことが今求められているんじゃないかと私は痛切に感じます。
そういった
意味で、現在
日本では空前の韓流ブームというのが続いています。先生方の中でも見られた方がいらっしゃるかもしれませんが、ブームの
きっかけをつくったのは
韓国ドラマの「冬のソナタ」という作品です。私もこの間、副主役を務めたパク・ヨンハさんという方とお食事をしたんですけれども、非常に好青年で、今若い女性に大変人気がございます。
この「冬のソナタ」というDVDボックスが三万五千円するんですけれども、これが三十六万セット売れたと。「冬のソナタ」の小説が上下合わせて百二十二万部売れたという、考えられない、これまでには考えられないことが起こっています。さらに、CDとか、ペ・ヨンジュンさんの写真集、これは今はもう在庫がなくて増刷中なんですけれども、さらに、冬ソナのロケ地を巡るツアーとか、この間もソウルから飛行機で帰ってきましたら、ソウルからのその飛行機、私以外のすべての客がおば様たちで、ペ・ヨンジュンさんのポスターを持ってキャーキャー言っておったんですけれども。
そういうふうな、
韓国の
シンクタンクの
調査では、冬ソナ関連商品の対日輸出額を合計すると経済効果が大体二兆ウォン、二千億円に達するということなんですね。二〇〇三年の
韓国の対日
貿易赤字というのは一・九兆ウォンぐらいあるんですけれども、こうした韓流ブームによる
韓国商品の対日輸出額というのが日韓のこれまで非常に重い
テーマであった
貿易不均衡の緩和にも大きく寄与するものと私は考えています。
また、日韓両政府は、今年、国交正常化四十周年ということで、日韓友情年二〇〇五年ということを定めて様々な交流行事が企画されています。これを機会に日韓の
文化交流というのが政治や経済面でも密接な
協力関係に広がっていって、やがて日韓が
中核となった
東アジア共同体の基礎が築かれていくことを期待したいと思っています。
しかし、この
日中韓三国が、
山影先生がおっしゃったように、
タイやマレーシア、フィリピンというような国と
FTA交渉を進めて、それぞれ
ASEANとの
経済統合に踏み出し、正にこの
東アジア共同体というのが現実味を帯びていく一方で、肝心のその日韓の
FTA交渉が行き詰まりを見せていることは先生方も御承知のとおりだと思います。この日韓の
FTA交渉が進展しないのは一体なぜなんでしょうか。
そもそも、
日本は
FTAで高い水準が期待できる
韓国との締結に強い意欲を示してきたと言われています。五年の対話を続けまして、二〇〇三年十二月から交渉に入って今年中には締結するものと考えられてきました。しかし、この日韓の
FTA交渉が昨年十二月以降中断しておりまして、現在、再開のめどが立っていないということです。
交渉が難航している最大の原因は何なのかといいますと、
日本の農水分野の関税撤廃品目が全体の五割程度にとどまっていることに
韓国側が強い不満を持っているということです。特に水産物の取扱いをめぐりましては、
韓国側は非常に神経質になっています。
日本が
韓国ノリの輸入数量を割当て制にして輸入制限をしていると、そして近海水産物についてもその金額や捕獲量の面で制限枠を設定しているためだと思います。
韓国が
日本よりも競争力を持っているのは実は、特に水産分野ぐらいで、鉱工業の分野では得られるものが少ないわけです。特に競争力を持つ近海水産物の輸入制限は
韓国にとって致命的でありまして、
韓国政府が
日本のノリ輸入制限をWTOに今回提訴したというのは、正にこうした
韓国側の反発を象徴しているものだと思います。
韓国側の意思は強くて、
日本の農水分野の受入れ
姿勢がこのまま大幅に改善されなければ、日韓の
FTA交渉は前に進まないのではないかということを私は強く危惧しています。
農林水産省のある知人の話では、
韓国が
FTA交渉に本気で取り組まないのはノリが原因じゃないんだと、実は
FTAが締結されると
日本製品が一挙に流入してきて対日赤字が増えることを恐れているんじゃないかということを言っていました。すなわち、水産物問題はあくまでカムフラージュで、
韓国は本気で
日本と
FTA交渉なんてする気がないんだというふうなことを農林水産省の人が考えている節があるんですけれども。
しかし、私、この間、
韓国に何度も一年間に行ったり来たりしていろんな政治家の人たちでありますとかビジネスマンとお話をしていて感じることは、対日
文化開放政策がこの九八年から進みまして現在では完全開放されているんですが、このときにも、
日本の映画であるとかアニメであるとかCDとかビデオが一挙に流入することで
韓国内の映画、音楽産業が大打撃を受けるんじゃないかと
韓国人は当初大変恐れていたんですね。ところが、いったん開放してみるとどうだったのかというと、そうした懸念が全く杞憂であることが分かったと。実際はその逆でして、
日本の製品が入ってきたことで、かえって
韓国の映画や音楽産業の質が向上して国際競争力を付けることができたというのが多くの
韓国人の実は実感なんです。
恐らく、
日本の水産物問題をクリアすれば、日韓の
FTA交渉は大きく前進すると思います。日韓の
FTAというのは、将来、
中国や
ASEANを巻き込んだ
東アジアの自由
貿易圏の軸になるものだと思います。
アジアナンバーワンの経済
大国のやはり
日本には、
東アジアの安定と繁栄というグローバルな海に立って、水産物というえさで日韓の
FTAという大きな魚を釣るぐらいの器量を示してほしいと私は先生方に訴えたいと思います。
また、日韓がこれから進展していくこの
文化とか経済の交流を中断させることなく発展させていくためには、克服すべき政治
課題も少なくありません。日韓のその
文化・経済交流を中断させないためには、交流の阻害要因になる日韓の政治摩擦をこれからできるだけ回避していく、これは双方の努力が必要になってくるんじゃないかと思います。
こういった問題に向けて
韓国側はこの間どういう努力をしてきたのかということをここで先生方に若干アピールさせていただきたいと思うんですが、
韓国は今年、日
韓国交正常化四十周年だけではなくて、実は
日本が
韓国を保護国にした一九〇五年の第二次日韓協約から百周年に当たるということで、様々な
レベルで日韓の歴史問題についての再検討、
韓国ではこれを過去の見直し作業というふうに呼んでいますが、それが進められています。
昨年十二月に反民族行為真相究明特別法という、ちょっとおどろおどろしい名前なんですが、そういう法律が
韓国の国会で可決されました。これは、植民地時代に行われた朝鮮人の対日
協力行為について洗い直し作業を進めていくというものです。これは一体どういうものなのかというふうに考えてみますと、日韓併合や植民地支配の責任を当時の
日本帝国主義に求めるだけではなくて、植民地支配許した民族の責任、
韓国側の責任を追及すべきという
韓国人の反省からもたらされて作られた法律だと思います。
なお、この法律名には当初、親日・反民族行為真相究明法という、親日という名称が付いていたんですけども、この親日という名称は
日本側に不快感を与える
可能性が強いとして、採択前に法律名からこの親日という言葉が外されたという経緯がございます。日韓
関係への悪影響を配慮する
韓国側の
姿勢がうかがえると思います。
また、
韓国政府は今年に入って、
日本に先駆けて日韓
条約交渉、一九六五年の日韓
条約交渉関連文書の公開に踏み切りました。財産請求権などを定めた
外交文書から、
韓国側は、個人補償など八項目の対日請求を放棄する見返りに
日本から
経済協力権を獲得して、個人補償については
韓国政府自身が行う考えを示したことがこの秘密文書から改めて再確認されました。これによって、植民地時代に
日本に徴用、徴兵された
韓国人遺族などの個人補償義務については
韓国政府が負うことを改めて対外的に明確にされることになったわけです。
九〇年以降、実は
韓国の戦争被害者による
日本政府を相手取った訴訟が頻発しているんですけれども、今回の文書の公開は、徴用、徴兵の被害者あるいは遺族の責任追及の矛先を、
日本政府ではなくてあえて
韓国政府に向けさせようとするものだと思います。六五年の日韓請求権
協定には戦後処理の在り方をめぐって様々な矛盾や問題点があると思いますけれども、
韓国政府はこうした問題処理を引き受けることで日韓の歴史に自ら区切りを付けようとする、歴史問題解決に向けた
韓国側の強い
姿勢が感じられます。
この間も、このようないわゆる
韓国側の作業について、駐日大使を務められました孔魯明さんという方が、やはり、こういった作業を通じて、過去の問題が両国
関係の未来の足かせになることを排除したいという強い思いから
韓国側はこういった作業をしているんだということを朝日新聞で語っておりました。私は、こういった
韓国側の努力に深い敬意を表したいと思います。
一方、過去克服に向けて
日本側にはどのような
課題が残されているのでしょうか。
日本も日韓
条約の関連文書がたくさんあるんですけれども、
韓国政府がその日韓
条約に関する
外交文書を公開して
韓国の戦争被害者に対する補償責任を
韓国側にあることを明らかにしたわけですが、だからといって
日本側の責任がすべてなくなったというわけではないと思います。何よりも、日韓請求権
協定の問題点を
日本側からも検証していくために、私は
日本側もこのような日韓
条約関連文書を公開すべきであると、一刻も早く公開すべきであると考えます。
また、
日本に補償請求裁判を起こしている太平洋戦争遺族会の
メンバーの話では、いまだに
日本に徴用された
韓国人の大半の遺骨が戻っていないと、肉親の生死すら確認できていない人が多いと言っています。戦後、
日本政府が遺体や遺骨を
韓国側に返還した
韓国人犠牲者はわずか一割で、遺体や遺骨が返還されず放置された遺族からは
日本政府の対応に不満の声が上がっています。
韓国政府は、今年の二月から、植民地時代に連行された
韓国人の死亡や遺骨確認などの真相
調査をするための被害申告を受け付け始めているわけですが、国内に資料が乏しいために
日本側の
協力がなければ対応できないというのが実情です。
昨年十二月、日韓首脳会談で、盧武鉉大統領が強制連行された
韓国人の遺骨返還への
協力を小泉首相に要請しましたが、
日本政府も、九八年の日韓共同宣言に盛り込まれた過去の清算を言葉で終わらせないために、過去と向き合い、植民地支配による加害、被害の真相究明に全力を挙げて取り組んでいただきたいと思っています。
さらに、二〇〇一年にソウルで開かれた日韓首脳会談で、小泉首相は歴史教科書問題について、
相互理解を深めるために日韓の専門家で共同研究を行うことを提案しました。
韓国の学者、
日本の学者、歴史学者が集まって共同研究は現在も続いています。しかし、私は、日韓の共同研究だけで歴史教科書問題が収束に向かうとは到底思えません。共同研究を通じて幾ら歴史に対する
相互理解を深めたとしても、
日本の政府が過去を正当化する歴史教科書を検定
制度を通じて公認し続ける限り、再び日韓や日中間で摩擦が生じることは避けられないと思います。
歴史教科書問題を解決するためには、現在の検定
制度を根本的に見直す必要性があるのではないかと思います。
日本政府が教科書問題を回避するために取り得る選択肢として、私は以下のようなものを考えています。
まず第一の選択肢は、教科書検定を廃止して、一般書籍と同じように、どのような思想で書かれた教科書も学校で自由に使用できるようにすることだと思います。そうすれば、
日本政府も介入できませんが、
韓国や
中国も介入できないと思います。恐らくとんでもない教科書が出版されるかもしれませんが、教科書の選定は各教育
委員会や学校教員の良識に任せればよいのではないかと思います。
検定がどうしても必要であるというなら、
韓国のように歴史教科書を一種類の国定教科書にしてしまうという方法もあります。ただし、教科書作りには、様々な考え方を持つ歴史学者の人々、あるいは
韓国や
中国の歴史学者から成る御
意見番も加えた歴史教科書作成
委員会を設置して、だれもが納得する歴史教科書を提供することが必要ではないかと思います。学校には、副読本を自由に選ばせることで独自性を出せばよいのではないかと思います。この選択肢を取った場合は、日韓の共同研究機関が大きな役割を果たすと思います。
最後の選択肢は、
日本が思い切って歴史教科書におけるいわゆる近隣諸国条項というものを破棄してしまうことではないかと思います。
私、よくこの教科書問題についてマスコミから
意見を求められたり、あるいは授業でこの
テーマについて語ったりするときに、
日本人の学生から、先生にそのようなことを言われるのは
内政干渉だと言う生意気な生徒もいるんですけれども、私、この問題についてその学生にどういうリプライをするかというと、
日本は一九八二年に第一次教科書問題が生じたときに、歴史教科書の検定基準に、近現代における
日本と
アジアの
関係の記述については近隣諸国の意向に配慮するという、この近隣諸国条項を設けたわけです。そして、この
外交問題化した教科書問題の収束を図った。このような近隣諸国条項が有効である限り、
日本の教科書検定で日韓、日中
関係に関する不適切な記述が認められた場合、
韓国や
中国が
日本側に記述の修正を求めるのはある
意味で当然であり、それはまた
日本政府から公認された対応であるというふうに考えています。したがって、こうした
韓国や
中国の行為を
内政干渉と批判するのは、近隣諸国条項を無視した発言というふうに私は考えています。
そういう
意味で、もしそういうものをどうしても排除したければ、やはり近隣諸国条項というものを見直さなければならないということになってきます。しかし、もしこの近隣諸国条項を見直すということになれば、当然、まあ日韓、日中
関係は更に冷却化していく
可能性もあることを覚悟しなければいけないのではないかと思います。
いずれにしましても、
日本が
アジアに向けて過去を反省すると言いながら、一方で過去を正当化する歴史教科書を公認するというダブルスタンダードの
姿勢を取っていては、やはり
アジアの国から信頼されないのではないかと思います。
どの選択肢が一番
日本の国益にかなうのか、どうすれば歴史教科書の再燃を防ぐことができるのか。特に日韓友情年の今年は、悲劇的なことに教科書検定の時期と重なっています。今年こそ無用な日韓摩擦を回避するために、政治家の先生方や文部科学省の人たちが知恵を絞る時期ではないでしょうか。
時間の
関係で、はしょってあと説明していきたいと思うんですけれども、現在、日韓
関係について御説明しましたが、やはり日韓が密接な
文化・経済交流を通じてどれほど
相互関係を深めたとしても、北朝鮮の核問題をめぐって朝鮮半島に緊張が続く限り、
東アジアの安定と平和はもたらされることはないと思います。日韓にとってこの厄介な隣国、北朝鮮とどう付き合い、どのようにこの国をソフトランディングさせていくのかということは、
東アジアの平和と繁栄をもたらすために避けて通れない
テーマであると考えます。
その
意味で、拉致被害者の安否確認、不審船の再発防止、核・ミサイル問題への対応など、日朝間のほとんどの懸案処理において、平和
構築に向けた
日本の要求を北朝鮮に受け入れさせた二〇〇二年九月の日朝平壌宣言というものは、東北
アジアの平和と安定に寄与する
協定として私は忘れられるべきではないと思います。今、日朝間に必要なのは、この幻の、ある
意味で幻の平壌宣言を死
文化させない努力ではないかと思います。
確かに、北朝鮮が核保有宣言を行ったことで平壌宣言は死
文化したと言う人もいます。また、拉致事件の全容を明らかにしなければ北朝鮮と国交正常化交渉できないという多くの
日本人の気持ちも理解できます。しかし、北朝鮮はアメリカの出方によっては核開発を凍結あるいは断念すると宣言しておりますし、また、北朝鮮の中にも
日本の拉致被害者と同じような境遇に置かれた人たちもいます。
九〇年から実は日朝交渉は始まったんですけれども、北朝鮮が
日本側に安否
調査を求めた植民地時代の朝鮮人行方不明者は三百六十余名に上っています。彼らの大部分が
日本に徴用された人々です。北朝鮮の遺族もこうした安否
調査が進まないことにいら立ちを覚えています。お互いが相手の痛みを理解し、解決に向けた対話を続けていく忍耐力が問われているのではないかと思います。
しかし、
日本側は、拉致被害者への北朝鮮の対応のまずさから北朝鮮に対して経済制裁を求める声が高まっています。強硬派の先生方の中には、そのレジュメにも書きましたような幾つかの経済制裁をてこに北朝鮮に拉致問題の早期解決を促すとおっしゃっていますが、経済制裁が北朝鮮に及ぼす効果とはどの程度のものか、本当に感情論抜きで冷静に考えてみる必要性があると思います。
北朝鮮にとって
日本はこれまで重要な
貿易相手国でありました。しかし、七〇年代になって北朝鮮が債務不履行の問題が表面化しまして、
日本政府が
貿易相手国のリスクに対応する
貿易保険の対象から北朝鮮を除外してしまったために、日朝の
貿易額は減少の一途をたどっていきました。食糧援助を除く日朝の
貿易額は、八〇年代前半は大体
日本円で年間一千億円前後で推移してきましたが、二〇〇〇年以降になりますと五百億円から三百億円に低下し、昨年、二〇〇四年の日朝
貿易総額はついに三百億を割り込み二百七十三億円、輸出が九十六億円、輸入が百七十六億円まで減少しているわけです。
特に、北朝鮮への
日本の輸出は低迷しておりまして、北朝鮮には
貿易保険が付かないことで北朝鮮への大型輸出案件がほぼ停止状態になってしまっています。
日本が北朝鮮に対する
貿易保険の取扱いを停止しているということが、実は最も強い経済制裁の役割を果たしてきたということはこれで分かると思います。
北朝鮮は、
日本との
貿易額を減らす一方で、
中国や
韓国との
貿易額を大きく増加させています。北朝鮮と
中国との
貿易総額は、九九年、四百億程度でしたが、二〇〇三年には一千百億円まで増加しています。
韓国との
貿易も太陽政策にのっとって急増しまして、二〇〇三年には南北の
貿易総額が七百九十億まで膨らんでいます。この結果、北朝鮮の対外
貿易の大部分が現在
韓国と
中国で占められておりまして、
日本との
貿易は一割に満たない、大体八%程度というのが実情です。今後もこのような傾向が続く限り、
日本が単独で経済制裁をしても、
中国や
韓国が
連携しなければ金正日政権に大きな打撃を与えることはできないんじゃないでしょうか。
北朝鮮への送金や北朝鮮船籍への
日本の寄港が停止されて本当に困る人は一体だれなのか。それは、北朝鮮の支配層ではなくて、十万人に達すると言われている北に帰国した元在日朝鮮人や、彼ら帰国者と結婚して北朝鮮で生活する
日本人配偶者たちだと思います。彼らの大部分は北朝鮮帰国後、極めて貧しい経済政策を余儀なくされ、
日本の親族からの仕送りを唯一の生活の糧としています。
日本からの送金停止は、彼らにある
意味で死刑宣告を告げるようなものだと私は考えます。
また、今回、
日本政府が十二万五千トンの食糧支援を凍結したことで本当に困っているのはだれでしょうか。それは、やはり北朝鮮の支配層ではなくて、現地で飢餓に直面している子供たちであります。WFPの
調査によれば、現在北朝鮮の人口の四分の一に当たる六百四十万人が食糧不足に陥っておりまして、医薬品も必要としている人の半分以下しか行き届いていないということです。昨年、アムネスティ・インターナショナルも北朝鮮の食糧
危機でこれまで数十万人が餓死したと報告しています。こういう
状況下で食糧支援を凍結するということは、北朝鮮の罪もない子供たちやあるいは弱者を苦しめることにもなるということを
日本の政治家の皆様にも十分に御理解していただきたいと思います。
さて、やはり私は、最終的には、圧力よりも対話、経済制裁よりも援助こそが金正日政権を最終的に動かすカードになると考えます。経済制裁のポーズは
日本国民の怒りを北朝鮮に伝達するには有効なカードかもしれませんが、核や拉致問題を解決に向かわせるとは到底思えません。六者協議の中で北朝鮮を加盟させ、彼らを粘り強く説得し、核凍結・廃棄に向けた粘り強い交渉をしながら拉致問題を解決していくという忍耐強い
姿勢が
日本の政治にも求められているのではないかというふうに思います。
最後に、残り時間がもう三分ぐらいになりましたので、
日本と
ASEANとの
関係について一点だけ私が考えていることを申し上げさせていただきたいんですけれども、最近、
日本と
ASEANとの間で
FTAが進んでおります。特にフィリピンや
タイとの間で
FTA交渉が始まりまして、特にそのフィリピンや
タイは、
日本製品に市場を開放する見返りに看護師や介護士の分野に対する労働市場の開放を求めております。これが妥結しますと、たくさんの実はフィリピンや
タイから看護師や介護士の皆さんがやってきて
日本の高齢者のお世話をすることになるのではないかと思いますけれども、このような
アジアからの看護師、介護士の受入れが送り出し国に与える影響も十分に検討しながらこういった政策を進めていかなければいけないのではないかと思います。
九八年時点で、フィリピンの看護師は十七万八千人のうち、その八五%の十五万一千人が海外で勤務している人たちです。そのため実はフィリピン国内では深刻な看護師不足という現実があります。このまま
FTAが通過し、フィリピンから
日本の高額な賃金を求めてたくさんの介護士や看護師が
日本にやってくるとなると、ますますフィリピンの看護師不足が深刻になる。
アジア全体で
アジアのこうした貧しい国の医療体制をどうするのかということも視野に入れた計画的な受入れ政策というものが望まれているのではないでしょうか。
以上、私の
意見を終えさせていただきます。ありがとうございました。