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参考人(
古谷杉郎君) 御紹介いただきました
石綿対策全国連絡会議の
事務局長、
古谷と申します。今日はお呼びいただき、ありがとうございます。
私
たちの
石綿対策全国連絡会議というのは、一九八六年に
ILOが
アスベスト条約、
石綿条約を採択したことを契機として、
労働組合や
市民団体、
専門家や関心を持つ個人でつくられた
ネットワークです。今度の国会でその
ILO条約の批准の件が承認されたということで、感慨深いものがあるわけですが、実に十九年の長き時間を掛かったわけです。
昨年十月に、
日本でもいよいよ
アスベストが原則
禁止されるということを私
たちは非常に歓迎しました。しかし、心に留めていただきたいのは、
アスベストの
禁止は最初の第一歩であって、取り組まなければならない
課題が山積みしているということです。
大きく申しますれば、まず何よりも、一日も早く
全面禁止を実現すること。そして、その後の
対策は大きく
二つの柱があろうかと思うんですけれども、今正に流行の始めたばかりのこの
アスベスト関連疾患の増大にどう対処していくのか、そしてもう
一つは、私
たちの身の回りに残されている
既存アスベストですね、どのように取り除いていくのか。それに加えて、
日本だけで問題が解決すればいいということではなかろうと思いますので、
海外移転を阻止する、あるいは
地球規模での解決を目指すというようなことも私
たちの目の前の
課題ですし、今話題にもなっておりますように、やはり
予防原則の教訓を引き出すために過去を検証する必要があるのではないかというふうにも考えております。
そのようなことから、私
たちも決して十分な
提言ができたとは思っていませんけれども、先日、二十六日に、
総合的対策にかかわる
提言ということで、
内閣総理大臣あてに提出させていただき、今皆様のお
手元に配らせていただいております。あわせて、私
たちの
団体に参加もしております
患者と
家族の会、あるいは
アスベストセンターが緊急の要望なり重点的な
お願いということでまとめた文書もお
手元にあると思いますので、御
参考にしていただければと思います。
私
たちがここで言っていることの
一つは、今正に静かな
時限爆弾の
時限装置が発火したかのような事態を迎える中で緊急に
決断をすべきことは、一刻も早く
政治的決断をしていただきたい。その上で、総合的、抜本的な
対策というのは非常に幅広い
課題がございます。腰を据えて、本当に総合的な
対策を確立していただきたい。そういう
意味では、場当たり的なその
場しのぎの
対応で終わってはならないというふうに考えているわけです。
そこで、私なりに今最も緊急に必要と思われている
課題について、幾つか触れさせていただきたいと思います。
まず第一に、
住民被害者らに対する
補償制度を確立することです。
所轄の官庁はどこかとか、今ある
法律で使える
法律はあるんだろうかとか、
手続の問題で時間だけ掛かって結果的に何もなされてなかったということが最悪だろうと思います。まず、この
アスベストの
使用なくしては起こらなかった
被害者に対しての
補償制度を確立するという
決断があって具体的な
制度の細部が決まるんではないかというふうに考えております。
御承知のように、マスコミの報道が始まる
きっかけは
クボタ・ショックと言われています。
クボタの旧
神崎工場の
周辺に住んでいる三名の
住民被害者の方が、私
たちに参加している
患者と
家族の会、あるいは関西、尼崎の
労働者安全衛生センターを介することによって、今まで孤立させられていた
立場から、お互いを知ることによって素朴な疑問ですね、一体
工場の中で何が起こってきたのか、何が起こっているのかを明らかにしてほしい、
勇気を奮って
クボタに申し入れた、そのことが
きっかけになっています。お三人の方はこの不治の病と今、正に闘病中です。この三人の方の
勇気が国をしてこのような
対策を取ることになったと是非聞かせてあげたいというのが私の願いです。猶予は一刻もならないというふうに感じております。
第二に、
時効の問題であります。
この一か月の間、私
たちの
関係団体で受けた
相談は数千件になると思われます。非常に多忙でなかなか集約できないのですが、重立ったところで、受けた
相談で、既に
相談を受けた時点でいわゆる
労災保険の
時効が過ぎてしまったがために
労災保険の
手続が取れなかった方の件数をまとめてみました。七月二十七日の段階で八十二件の方がいらっしゃいます。既に今日までに百件になろうかと思っています。この
方々たちの
家族をどうするのかという問題です。今、
厚生労働本省や
監督署でも
相談を受けていると聞いておりますけれども、
時効に掛かった方の
相談に、これは
時効だから駄目だよと決して切り捨てないで、少なくとも後で
連絡が取れるような
対応をしてほしいと切に願うわけですけれども、今、実際にこの百人、あるいはもっと潜在的な
時効で権利を失われてしまっている
方々に対する、これが
時効の壁で補償から排除されることがないような
決断をこれも一刻も早く望みたいと思っています。
第三に、
中皮腫登録
制度の創設ということを提案させていただきたいと思っています。実は、これは私どもの発案、オリジナルではございません。
岸本先生もメンバーをなさっている、二〇〇三年の八月にまとめられた労災認定基準の検討会の報告書で既に提案されていること、
提言されていることなのですが、どうもこれまでに実現に向けての検討がなされた形跡がございませんので、改めてそれを
提言申し上げたい。
実は、この検討会報告書では
中皮腫というのを、
診断をチェックするための
中皮腫パネルと
中皮腫登録と
二つのシステムを
提言されておるんですけれども、私自身は、その
診断の確かさをチェックするだけでなくて、その方がどのような状況で
アスベストに暴露したのか、職業暴露なのか
環境暴露なのか、そのようなことから今後の
対策に資するような情報も得るというようないろんな思い込みも含めて、この
中皮腫登録という
制度を是非創設していただきたい。
この点については、さきに御
説明がありました「当面の
対応」の中で、
厚生労働省が緊急に研究を実施するというふうにしていますうちの二〇〇三年に八百七十八名亡くなった
中皮腫の
方々のこの実態
調査、この
調査に基づいてすぐ実現することも不可能ではなかろうと思います。是非、この研究班の目的をそのように位置付けた上で、一刻も早く
中皮腫登録
制度を実現していただきたいと思います。
以上、三点申し上げて、もちろん緊急にやってほしいこと、ほかにも多々ございます。まあ、ちょっとだけ触れさせていただけば、例えば
クボタの旧
神崎工場の住民の
方々の疫学
調査が実施できないだろうかということがあります。
先ほど申し上げました
住民被害者の
補償制度をつくるという
決断をするために、これ以上の追加的な
調査とか検討は必要ないと私は考えています。そうではなくて、実際にどの
程度の
被害の広がり、あるいは
アスベスト暴露の広がりがあったのかということをこの
クボタの旧
神崎工場を徹底的に調べることで
一つのモデルがつくれるのじゃないかというふうに考えているからです。
環境省の方で
中皮腫で亡くなられた方の
調査をするということも言われていますけれども、私、
岸本先生の
お話も聞いて、例えばですけれども、CTを使って住民の方の
胸膜プラークを調べる、もう少し検討の方法があろうかと思います。そういう
意味では、この問題についても早急に検討ができればというふうに思う。実際の感覚からいいますと、もうとっくにどこかでやるという話が出てきても不思議ではないような気がするんですけれども、先ほどの住民
被害の補償の問題と併せて、どこが所轄するのかとかいう話の前に、是非とも検討していただきたい問題だというふうに考えております。
それと、本日は
厚生労働委員会ということでありますので、若干、私の本来の仕事といいますか、
労働者の安全にかかわることについても一、二触れさしていただきたいんですけれども、「当面の
対応」の中で
厚生労働省は、今ある労災認定の仕組み、あるいはハイリスク者が退職後に健康管理をするシステムである健康管理手帳
制度というのを周知するということをおっしゃいました。私
たちは、この周知もさることながら、この
二つの
制度についても改善をしていただきたいというふうに願っております。
まず、健康管理手帳
制度については、これはハイリスクな暴露を受けた方の登録
制度というふうにも位置付けることのできる重要な
制度ですけれども、何よりも交付件数が余りに少な過ぎます。恐らく累計で千件行ってなかろうというふうに思われますし、実はそのうちの二割か三割は神奈川県の在日米軍の元従事者であろうかと思います。
これには理由がございます。
労働組合全駐労横須賀支部や神奈川労災職業病センターというNPOの要望を受ける形で、神奈川県が三年間掛けて元海軍基地に従事したことのある
労働者一万五千人を追跡
調査して、全員に手紙をお届けして、こういう
制度があるから希望する方は活用してくださいという周知事業を三年間やった結果です。したがって、該当する方があったら是非申し出てくださいという
相談窓口を開いて待っているだけでは決して増えません。
健康管理手帳
制度については、すぐできる改善によってその
効果を非常に上げることがございます。
まず第一に、交付対象の範囲を、今ある中でいうとベンジジンという作業があって、この作業に三か月以上従事した方全員を対象にしております。
アスベスト作業についても同様に交付対象を広げていただくこと。それと、現行のシステムでは本人が給付の
手続をしなければ交付されないことになっておりますが、これを対象要件に該当する人には自動的に交付すること。で、それを過去の退職者にも行き渡らしてほしいわけですが、加えて、現在では、健康管理手帳を持っていても県内に二、三か所ある指定
医療機関でしか無料健診を受けられません。これを、かかりつけ医ですとか労災指定
医療機関ならどこでも健診が受けられるということになると非常に便利な
制度になろうかと思います。最後に、健診の中身についても、是非CTを加えていただきたい。
このような改善によっても、この健康管理手帳は非常にいい
制度になると思います。
さて、ほかにも緊急の
対応として申したいことは多々あります。
閣僚
会議の報告を見ても、今、実は
アスベストに関して
関係のある主な
法律だけでも非常に整合性を欠く面があります。例えば、労働安全衛生法、
化学物質管理法、大気汚染防止法、廃棄物処理法、建設リサイクル法、それぞれ微妙に違ったカバーをしておって整合性を欠いている。こんなこと例えばすぐに直していただきたいと言い続けていることですけれども、残念ながら盛り込まれておりません。
そういうことも含めまして、冒頭申しましたように、緊急に
決断しなければならないことは一刻も早く、そして、
総合的対策と言えるような内容を腰を据えてじっくりと、縦割り行政の弊害を排して確立していただきたいというふうに考えております。その際には、
政府の中でこのように検討した結果こうなりましたということを後で報告していただくだけではなくて、その計画の策定あるいは過去の検証の過程に、是非
アスベスト被害の
患者と
家族の代表、あるいはNPOの代表を加えて作業をすることが決定的に重要なのではないかというふうに考えている次第です。
以上です。