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参考人(
伊藤周平君) 鹿児島大学の法科大学院の
伊藤と申します。よろしくお願いします。今日はこういう場に
意見陳述の機会を与えていただいて有り難く思っております。どうもありがとうございました。
お手元に資料があると思うんですが、私の、今回の
介護保険法改正法案に対する
意見は大体ここにまとめてあるんで、これ全部読むと十分で言えませんので本題だけ言いますと、
一つは、今回の
介護保険法等の一部を
改正する
法律案、
改正法案は是非廃案にしていただきたいと、そういう
立場から
意見を述べます。
改正法案の提出の背景はもうそこに書いてあるとおりで、
厚生労働省がずっと言ってきたことですが、私が一番言いたいのは、そもそも、先ほ
どもお話ありましたが、
介護の社会化という形で始まったこの
介護保険が、家族
介護の
負担を軽減して
サービスの利用を伸ばすんであれば、当然
給付が
増大するというのは最初から分かっていることです。というか、最初からそういうことを想定して設計されているにもかかわらず、今になって、
サービスの利用、適切ではないとか、利用し過ぎだとか、
事業者がもうけ過ぎているとか、そういうことを言うのは非常に矛盾しているんじゃないかと思います。
そもそも、
制度の持続性とか財政の論理ばっかり今表に来てて、二ページのところに書いてあるように、当初言われていた
介護の社会化とか家族
介護の
負担軽減というのはどこに行ったんですか。そんなことは一言も言わなくなりましたね。
しかも、衆議院の審議過程で、今回の
予防事業についてモデル
事業をやっているんですが、有効性がほとんど立証されておりません。さらに、高知県など多くの自治体からは、新
介護予防事業への対応が無理だということが言われておりますし、何と与党推薦の公述人からも批判が出ていますね。こういう法案を、今参議院に回っているわけですが、実際問題として、通していいのかと。しかも、特に
施設入所者のホテルコストの徴収、
負担増については今年の十月からです。これは説明義務を果たしてないと思いますよ、私は。もうあと四か月、四か月もないですね。その間に、じゃ、
施設の側にそういう説明をするわけですか、
入所者に対して。
入所者は今知らない人もたくさんいらっしゃいますよ。こういう拙速な法案を私は通すべきではないと思っています。予算関連法案ということで二月十日までに、だから二月八日に法案提出されたんですが。
以下、全体的なことを今言いましたが、新
予防給付の
内容とそれから個別の問題について、問題点を指摘しながら
意見述べたいと思います。
新
予防給付については二ページから三ページにレジュメの方で書いてあるとおりなんですが、どうも
厚生労働省は二〇一二年、
介護保険料が、三ページのところですが、
介護予防対策が相当進めば二割ぐらいは
給付費が削減されるから、
現行のままいくと月額六千円の
保険料が四千九百円に抑えられると言っているらしいですが、私はこの
効果は極めて危ういと思います。
そもそも、さっき言ったように、新
予防給付の有効性というのがほとんど検証されておりません。ましてや、要
支援や要
介護一の認定者を新たに
サービス利用を制限するということは、そもそも
介護保険法二条三項に被
保険者の選択を定めている、それに抵触するんじゃないか。
結局、よく言われてるんですけれ
ども、十七種類ぐらい、
介護予防支援を含めて十七種類ぐらいあるわけですが、
サービスの利用が。しかし、よく考えてみると、要
支援と判定された人のその
支給限度額をかなり低くしてしまえば、これは国会も何も通さないわけですね、
厚生労働省がいわゆる政省令という形でやっちゃうわけですから、
支給限度額の根拠は何かということも十分議論されていません。結局、その中で限度額を低くしてしまえば、あとそれを超えた
部分は全額自己
負担です。全額自己
負担して自ら
サービスを利用できる人なんていません。
しかも、今度の新
予防給付には全部にわたって、一部例外ありますけれ
ども、
厚生労働大臣が定める期間、つまり
給付期間を付けると言っているわけです。ある一定の期間が過ぎると
給付を打ち切る、つまり
サービスが利用できなくなるというようなことも考えられるわけで、もし、今までよく、何でしたっけ、筋力トレーニングは強制ではないとか言われていますけれ
ども、でも実質的に強制でなくてもそれをやらなかったら
給付が受けられないわけですね。今まで家事援助
サービスを受けていたのが、やっぱりそれが制限されるのは変わりはないわけです。家事援助
サービスとは言っていないわけですね、
厚生労働省は。家事代行
サービスと言って専門性はほとんど認めていません。
何といいますか、結局、ヘルパーさんがたくさんやってあげるから
自立支援にならないとか、そういう根拠はないと思うんですね、私は。結局、
予防効果が上がらなかったのは、後でも言いますけれ
ども、老人保健
事業や
介護支え合い
事業といった公費でやっている
予防の分野についてちゃんとした予算を付けてこなかったこと、それから公費でやる保健
事業とそういった
介護保険との連携が取れていないことに求められると思います。
それにもかかわらず、こういう形で現場に責任を押し付けて
給付を抑制するということは非常に私は
国民の反発を招くと思います。少なくとも、今まで
サービスが利用できたのに、急に要
支援に認定されて
サービス利用を制限される事態が増えれば、四ページのところですが、
意見書を書いた主治医への不満が出たり、場合によっては
市町村に対する不服申立てや訴訟に持ち込まれるケースも考えられます。もし、そういった反発を恐れて各
市町村が要
支援の判定を出さなかったら、結局この新
予防給付というのは絵にかいたもちになります。
現実に、もう
一つは、
介護予防サービスの
介護報酬についても引き下げることが予想されますから、果たしてこれで収益の上がる
事業として成り立つかどうかは極めて疑問です。しかも、
利用者の五割、六割が
現行の要
支援か要
介護一の認定者で占められている
事業者は、小さい
事業者は極めて経営が苦しくなる
可能性がある。
在宅介護支援センターにしても、再編した
地域包括支援センターを造ると言っていますが、中立、公平性を求めてそういったものが
市町村直営でできるんでしょうか。もちろん経過
措置は設けられていますけれ
ども。
さらに、そういった
介護報酬と
支給限度額をそもそも、全然分からないわけですね、まだね。この
介護保険法の一部を
改正する
法律案、
介護保険改正法案は、結局大枠のところしか決めていないわけです。あとの、じゃ、
支給限度額はどのぐらいになるかというのをチェックする
仕組みがない。
基本的には審議会を通すとはいっても、外部からはチェックがほとんど利かない
仕組みになっています。
ちなみに、ドイツの場合は
介護報酬は各州の
介護金庫(
保険者)
連合が
事業者、
施設などと協議で決めて
介護報酬契約を結んでおります。日本では中央集権的に上から決めてしまう。しかも、限度額の根拠はよく分からない。
四ページのところに書いてありますが、国基準の
支給限度額はモデル的な
サービスパッケージの中の
サービス回数にそれぞれの単価を乗じて設定されている。
施設の場合は前あった診療
報酬単価や
措置費をベースにしていると。
次の五ページもそうですが、結局、政策的に決められているわけですね。新
予防給付についても客観的で科学的な根拠はありますと書いてあるけれ
ども、これ見ても、と報告されていますだけじゃないですか。それが客観的な根拠なんですか。
予防の
効果が報告されているだけで科学的な根拠になるんですか。私は、こんなの学会で発表したら総攻撃食らうと思いますね。
こういうのを平気で書いて、それに納得すべきじゃないと思うし、
地域支援事業だってそうですが、五ページのところに、
給付費の三%ですね。今まで税金でやっていた老人保健
事業や
介護予防・
地域支え合い
事業なんかを今度
介護保険に回しちゃうと。
介護保険の
給付になるということは、結局、それらの
事業を充実させようと思えば、
介護保険料が上がるということです。一割
負担も取れるということですね。
さらに、
施設入所者の
負担増については、もう先ほどお話ししたように、賛成の方が多かったんですが、ほかのヨーロッパ諸国でも確かに自己
負担を取っていますが、
年金の水準が全然違うわけですよ、日本と。そういう中でこれを仮に実行するとしても、余りにも拙速ではないか。十月からです。
私は、これはちゃんと説明義務を果たしてないと思いますし、じゃ、なぜ最初に保険
給付に入れていたわけですか、
食費や
居住費を。そのときの説明をどうやって覆すわけなんですか、どういう根拠で。
それからもう
一つは、
介護労働者の労働条件問題です。
先ほ
どもお話ありましたが、もう本当に悲惨なものです、現場は。今、
福祉を志す若い人が増えていますが、みんなバーンアウトしちゃいますね、現場に行くと。パートぐらいしかないんですよ、
在宅は。正社員で雇ってくれる
施設であっても、そこは本当に労働条件どんどん悪くなっていますし、労働条件の悪化は
サービスの質の低下につながります。
七ページのところに書いてあるように、事故や虐待事件が頻発する
可能性は極めて高い。これはJR西日本の列車の脱線事故やそういうのを見りゃ明らかです。だれですか、多様な
事業者の参入とその間の競争により
サービスの質が向上すると言ったのは。これは全く現実によって反証されているじゃないですか。
競争してコスト削減したら、大体
福祉というのは人件費の塊ですから、人件費を削るしかないわけですね。そういう中でパート化を進めて、非常に労働条件が悪い中で二、三か月で辞めてしまう、ヘルパーなんかは。全然定着しない。そうですね、JRの事故もそうですね、ベテランの運転手をどんどん解雇して若い人を即席で採用してやって、そしてわずか一分三十秒かそのぐらいの遅れのために百何人の命がなくなってしまった。効率性がいかに悲惨なことになるかというのは、もうここで実証されているじゃないですか。
私は、効率性、効率性、だから、
介護労働者の労働条件の向上のためには、まず
介護報酬を上げるべきです。人員配置基準は引き上げなきゃいけません。そういうことは今回一切書かれておりません。全く、まあ
介護支援専門員については若干そういうことが書かれていますけれ
ども。
介護報酬の中にちゃんと社会
保険料分も入れるような、そういう
仕組みにしていくべきだと思うし、何しろ
介護保険料の
負担が高齢者には重過ぎます。これを定率にすることによって
介護保険財政を安定させるということをやった方がいいと思います、ドイツのように。
介護保険料を第一号被
保険者については定率
保険料にするとか、
現行の要
介護認定を廃止して、大まかな
サービス提供の基準を法定した上で
介護支援専門員がそういうふうな形で、もちろんそのためには
ケアマネジャーを独立させることが必要です。独立したそういう機関にしながら専門職としての待遇を
改善していけば、私は決して
給付は伸びていかないと思うんです。
今みたいに企業を入れて
ケアマネジャーがそこにくっ付くような形になってしまうと、それはニーズの掘り起こしをやろうと思いますから、結果的には
給付は伸びますよ、それは。だから、そういう
意味では非営利を
基本にして、ちゃんと
ケアマネジャーの中立性を
確保してちゃんとした
ケアプランを現場に立てさせていけば、そんな
給付は伸びないと思います。
何よりも、今回の政省令に白紙委任したような立法は是非廃案にしていただきたい。良識の府としての参議院で同法案を廃案にしていただきたいということを強く望んで終わりにいたします。
済みません、ちょっと時間をオーバーしまして。