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参考人(
浅野史郎君)
全国知事会社会文教常任委員会委員長の
宮城県知事浅野史郎でございます。
参議院
厚生労働委員会の
委員の
皆様、去年の今ごろ、こういうような場が開かれるとよもや思った人は多分いないんだと思うんですね。つまり、今年この
段階に
国民健康保険法の
改正案というのが参議院に提出されるというふうに夢想だにした方、いらっしゃったでしょうか。それは、多くの方は二年後ぐらいというのを考えていました。また、
政府自体も、この
医療保険については
平成二十年度に改革の実施をする、で、
平成十八年度の
制度改正を目指しと言っていたわけです。それが、今ここでこういう審議が行われているわけです。これは極めてまず、まあ奇異というか、なぜこういうことになったのかということの原点から考えていく必要があると思って私はここに来ております。
私
自身は、今回のこういう改正が出されたこと、内容も含め、極めて不幸なものと受け取っております。こういうふうにされた、押し切られたという感じがしますので、敗北感を負いながらこの場に立っております。その
意味で、ちょっとお二人のようにこれをこのまま礼賛することができないということなんです。内容についてもありますけ
ども、やはりこれ、手順の問題というのもあると思うんですね。
この法案は、単なる
国民健康保険等の一部を改正する
法律案じゃございません。前に頭が付いています。「国の
補助金等の
整理及び
合理化等に伴う」という関係代名詞が付いているわけですね。これはいわゆる三位一体改革なんですよ、この経過は。三位一体改革という、やるっていう中で
国民健康保険についてはこういうふうにしようということで出てきたので、これは
医療保険改革というちゃんと筋道立って経過をたどってやっていくという文脈から外れて出てきたものなんですね、いい悪いは別として。そういうことだということをまず押さえる必要があると思います。
で、大変不幸だと言ったことについてちょっと幾つか申しますと、これは我々、我々と言っているのは地方六団体と思っていただきたいと思いますけ
ども、主にそれは私の
立場でいえば
都道府県です、知事会だと思いますけ
ども。我々が言っていた、三位一体改革をこういうことでやれと言った内容に反しています。むしろ、昨年の八月、地方六団体がまとめた案の中では、こういったことだけはやらないでくださいと言ってます。こういったことというのはどういうことかというと、単なる国庫補助率の削減というようなことはやめてくださいと。
何で三位一体改革やるかというと、地方に権限と裁量の余地を広げるというためのこれ改革ですから、単に国の補助率を下げた、その分が
都道府県が持つというのは我々が言う三位一体改革のゆえんではありませんから、これはもう明示的にこういうことだけはやめてくださいと言ったものです。それをやられてしまったということです。
それと、実は今回、三位一体改革の中でこの
国民健康保険のこういう改正がされたということで、六千億、七千億のお金が浮きました。つまり、三兆円という税源移譲の目標を出したときに六千億ここで稼いだわけですよ、六千億、七千億。稼いだという内実を見ますと、厚生労働省関係の四十五の施策がこれで助かったんですよ。四十五の施策が、この六千億、七千億
国民健康保険が一手に引き受けてもらったおかげで、我々地方案にあった、厚生労働省の挙げるこういう補助金付きの施策はやめましょうと、これはもう廃止して税源移譲して地方に任せましょうってやつ四十五件並べたんです。で、それが全部救われました、これ一本で。そういう
意味でも、これは
国民健康保険の問題というよりは、実はこれを三位一体改革の
政府側の答えとしてやられたことによって四十五がすぽんと飛んでしまったわけです。これは、我々真摯に三位一体改革を進めてきた
立場からいえば極めて不幸なことであり、もっと言えば理不尽なことだというふうに思っています。これは三位一体改革に関してのことなんですが。
もう
一つ、やっぱり僕は、これ、今回のこういったやり方というのは、
国民健康保険制度の改正を考える上でも良くないことではないか、不幸なことではないかというふうに思います。
まず言えば、順番が違います。今、
デンマークの例なんか挙げられて、
デンマークでは県が
医療をやっている、
コミューンで
福祉をやっている。これ結構な議論ですよ。だったら、そういう議論をしっかりやって、関係者がみんなそうだということを思ってやるべきなんですよ。順番が完全に違っています。
まず、金を持たせようと、
財政調整交付金ということで県に一部持たせようと、それから
保険料軽減の分で持たせようというのを、これ、今回の内容ですよね。それをやっていて、本来
国民健康保険ということの実施主体の
制度設計をどういうふうにしていくんですかという基本中の基本の議論という全体構想がない中で、言わば金の
部分だけこれ先行してやっているわけです。
で、我々からすると非常に愉快でない言われ方が、県にこれ
負担させれば関心が出るだろうというような言われ方をしています。それは、どうも県は
国民健康保険について、
医療制度について無関心で寝ぼけている、だから金を出させれば嫌でも目覚めるだろうと。それはないでしょうと。それは単に子供っぽく言っているわけじゃないですよ。
制度のこういうことを考えるときには、やはり全体として、
国民健康保険を
医療保険制度全体の中でどうやっていくか、そういう中で国の役割はどうか、道府県の役割はどうか、
市町村の役割はどうかということをしっかり押さえて、よし、県もこういう役割をすべきだと。だったらこういう
財政調整交付金、だけでないもっと大掛かりなものやるかもしれませんね、そういうものをやるべきなんですよ。そこのところの議論をすぽんと抜いておいて、これはないでしょうと。それは、私は怒っているんではなくて、まあ怒ってもいるんですけ
ども、
国民健康保険制度の今後の在り方についても大変不幸なこれは一歩ではないかと。曲がりなりにも一歩と言われますけど、私は曲がりなりの一歩だと思っているんです。方向が違っていると思います。
で、これは
医療保険制度全体の問題、なかんずく
国民健康保険制度にとってとっても大きいのは、高齢者
医療をどうするかなんですよ、高齢者
医療制度を。それがもう今回の、まあ一本化という話もありますよ、それは
医療保険制度全体の一本化という話もありますけ
ども、これはもう少し先にならざるを得ないと思います。その前に、のっぴきならない問題として、我が国の高齢者
医療をどうするかということは、もうこれはこのところ一年、二年の課題です。これをやらないでおいてこっちが先に出るというのは、これもやっぱり順番からいって極めて理解不能という問題だということで、その
意味で不幸だというふうに申し上げました。
実は、こういった議論の中で、お二人から、また
市町村からはそれなりに評価するというのがあるんです。これは気持ちは分かります。それは、
国民健康保険の
保険者としてこの
制度をこれから将来、まあ現在も含めどうやって担っていくんだと、もうパンクですと、
一つの町でこれを担っていくことできませんと。それは県も御出馬願いたいという気持ちは痛いほど分かるんです、それは。であるからといって、しかし今回の
制度にこれは一歩前進だと言うのは、私はちょっと、
制度全体を考えても極めて問題ありということでちょっと考えています。
今日、たまたま今日付けで間に合ったんです。お手元に資料をお配りしていると思いますけ
ども、「
国民健康保険制度における
都道府県負担導入に向けた基本的
考え方」、本日付けで、クレジットは
全国知事会です。これは地方六団体ではなくて
全国知事会で、
市町村とはちょっと違っているかもしれませんけ
ども、知事会としてまとめました。これ今日付けです。
この内容についてちょっと触れさせていただきますけ
ども、その内容について入る前に、今申し上げた前提からいくと、私は今回の
改正案と言われるものは極めて問題が多いというふうに思っています。したがって、ただ、そう言いながら、今回の
改正案を前提に考えなければならないと思いますので、そうしますと、私から言わせると、これによってもたらされる被害を最小限にとどめるということです。それから二番目に、少しでもやっぱり、これは三位一体改革の趣旨から出てきている改革ですから、我々の自負としても、これの内容及び運用は、三位一体改革、つまり地方が権限を持って裁量の余地を広げるという観点から、その趣旨に沿う運用をできる限りしたいということです。三つ目には、できるならば、その次の、確かに
医療保険、
国民健康保険制度の改革の流れに乗せていきたいという思いはあります。重要度はその今の順番になろうかと思います。
内容をちょっと触れさせていただきたいと思いますけれ
ども、一ページ目の上の方にはさっき言った恨みつらみのがもうちょっと上品に書いてあるというふうにお受け止めいただきたいと思いますけれ
ども、しかし趣旨は同じです。やはりこれは唐突である、おかしいということを一応書いております。
この「基本的
考え方」は、実は
浅野私案というのを出しまして、この問題を考える際に、
都道府県としての
考え方をまとめるためにやっぱり私案がなくちゃいけないということで、私が私の案として出しました。シ案のシは試みだったか私だったか忘れましたけれ
ども、私だったような気がします。それを四十七
都道府県にお配りをして、それに対する反応、御回答をいただいたのを基にして今日まとめたのが目の前にあるものです。ですから、内容によっては賛否分かれたものもありますけれ
ども、一応最大公約数的にまとめました。
まず、一ページ目の下の方の「(2)「基本的
考え方」の三つの視点」ですけれ
ども、
一つ目は、やはり
現状の問題として
市町村国民健康保険財政は厳しいんだと、これに対する配慮というのがあります。これは、ここに書いていませんけれ
ども、具体的に言うと、この今回の問題の中で、国庫定率
負担、これは現在四〇%のものが三四%になるという案になっています。今年度は、来年度ですね、三六%ですけれ
ども、でき上がりは三四%になると。このこと自体をはたから見ると、厳しい
市町村保険財政から見ると極めて大きな脅威です、これは。とんでもないというふうに受け止める
市町村がほとんどだろうと思います。したがって、
保険運営の安定的な
運営の確保という観点からいうと、この定率
負担の、国の定率
負担の激減というのは、これは抑えなければならないということが答えとして出てくるわけです。
二番目に「三位一体の改革の趣旨に沿った裁量の確保」、二ページになりますけれ
ども。さっきもちょっと言いましたように唐突に出てきましたけれ
ども、これの運用に当たっては、やはり三位一体改革の趣旨である地方の自己決定・責任を深めるという視点での運用、これは自らに言い聞かせている
部分も含めて、こういったようなことを基本に考えています。
三番目は「
医療保険制度の将来像確立までの暫定的な
措置」。キーワードはこの暫定的ということです。我々は、今回のこと、ずっと申し上げていますように唐突であるというようなことで受け止めておりまして、本来の将来像確立までの重要な一歩とも実は考えておりません。やはり曲がりなりの改革であって、その
意味では、三位一体改革というのを、
政府全体として三兆円の税源移譲というのを実現しないとしようがないよねと、そういう中で非常に大きな財源として
国民健康保険というのがあって目を付けられて、そしてこうやって召し出したと、これしようがないよねということで受け止めれば、これは
国保改革の中においても暫定的な
措置と受け止めざるを得ないと。
現在、国の社会保障審議会の
医療保険部会で、私もメンバーですけれ
ども、精力的に審議が行われているということですけれ
ども、その中でこの話は全く出てこなかったんですね、今回のような改正のことは。
ということであって、また元に戻りますけれ
ども、全体像をちゃんと確定してそこから議論を進めていくべきだということを申し上げております。
二ページの下の方の大きな二番、これは、今回の
改正案をそれはそれとして受け止めてどういうふうにやっていくかということで、ちょっと簡単に解説をさしていただきます。
都道府県財政調整交付金の配分基準について、今度、七%という
財政調整交付金の配分権限を県はいただきました。いただくことになります。十七年度は五%ですけれ
ども、七%。これをどう配分するかということなんですが、先ほどの一番目で、「基本的な
考え方」の一番目で言ったように、やはり激変緩和というか、定率国庫
負担をこれだけ激減されるということが
市町村にとって大変な脅威と受け止められているんだったらば、それに真摯に対応していくべきだということで、これは本当にちょっと苦しい言い方なんですが、せっかくいただいた七%の自由に使えるお金を我々は自由に使わない決断をしましたということなんです、ここは。その七%、五%のうち自由に使うのは当面は一%だけと。だから、残りの六%、来年度の四%分というのは定率国庫
負担の配分方式と全く同じにしましょうと。結果としては定率国庫
負担が四〇%のままということになります。
ただ、これはアンケート調査の中では、いやもう少し裁量でやりたいという県も少数ではありましたがございました。それはそれであると思いますが、多くの県においては、実際に自分のところの
市町村の
状況を見ると定率国庫
負担を激減させるという決断を取りにくいということで、
財政調整交付金の配分基準についてもこのように考えているということです。それが(1)です。
(2)ですけ
ども、この(2)はちょっと難しい
部分なんですけ
ども、実は別なところでも出てきますけれ
ども、県が県がというふうに言われる中に実は二つの
考え方があるんですね。その
一つの広がりとしての県という、県の、何というんですかね、広がりという、例えば広域性、
市町村が一緒になって広域的にやっていくというやつの一番大きな形というのは、これ
県単位で
一つの
保険者になるってありますけれ
ども、これはいわゆる為政者としての知事に代表される県とはちょっと違う概念ですね。ここで言っているのはちょっとそれとは違いますけれ
ども、為政者としての県というのがこの
財政調整交付金を配るということになると、実はこれは単なる
国民健康保険財政だけを頭に置いて運用されるべきかどうかということで、例えば
福祉の観点というようなこともあっていいじゃないか。
ちょっと具体的にちょこっとだけ言いますと、これは、例えば乳幼児
医療における現物支給の問題です。乳幼児
医療についての自己
負担分をほとんどすべての県において単独で援助しています。その際に
国民健康保険制度においてテクニックを使って現物
給付をするようにしているんですね、償還払いじゃなくて。厚生労働省がおっしゃる、見るには、償還払いになると
医療費が上がりますと。つまり、使いやすくなるために乳幼児
医療の無料化
制度を使う対象が増える、したがって
国民健康保険の
医療費が上がる、それは良くないと。で、我々から言うと、ペナルティーという言い方していますけれ
ども、
財政調整交付金がその分切られるんですよ。
それは、
国民健康保険の
財政の健全化という観点からいえば是とされますけれ
ども、別な
宮城県知事の
立場からいえば、乳幼児
医療の無料化
制度を円滑に使ってもらうというのはそれはそれで
一つの政策目標ですから、そういうふうにやっているところにはペナルティーの逆にお土産付けましょうと。
財政調整交付金は切るのではなくて上乗せをするということになって、これ完全に今の国の交付金、調整交付金の配り方と相反するということになるんです。しかし、それも裁量ということではありですよというようなことをちょっと言っています。
(3)は、ずっと暫定暫定だと言っているところから、これは暫定的な
措置ですということです。
それから(4)、三ページのところ行っていますけれ
ども、配置基準の決定については
市町村の
意見も十分聞きますと。
当たり前のことです。
最後に、今まで申し上げたのは、今のこの目の前にしている
国民健康保険法の改正によってもたらされることについてどうするかということですけれ
ども、三番目の「今後の課題について」は正に今後の課題です。
これを一体どういうふうに次の改正というのがあるとしたときに考えていくかというと、さっき言ったように私は、最小限度の被害にしたいということからいったときに、
財政調整交付金というのをどうするかということなんですが、実は
浅野私案というのでは明確にもう国の
財政調整交付金は要らないというふうに言いました。全部これ
都道府県で一本化しますと。これは極めて評判が悪かったんです、四十七
都道府県では。やっぱり国の
財政調整交付金を残すべきだというのが三十
都道府県、
都道府県かどうか、三十主体がありました。県の一本化でもいいよというのが九ですから、圧倒的に、国の
財政調整交付金も残す、県の
財政調整交付金も残すということで考えるべきだというのが将来にわたってもありました。
それから、四ページの(2)、
保険基盤安定
制度、これは極めて評判が悪かった。今のこの法案に盛られています。
保険基盤安定
制度については、現在国が二分の一持って
市町村四分の一、県四分の一というのを、国の二分の一分は引っ込んでその分を県が持つという、県が結局四分の三持つという仕組みにするというのが今回の
改正案の内容ですが、それは、単なるそれは国庫
負担を県に転嫁するだけじゃないかと、何らこれによって権限
強化につながりませんとここに書いてあるところで、これは元に戻すべきだというのが全員です。基本的に全員です。答えがあった中では全員がそういうような答えでした。
ということで、時間になりましたので、いろいろ申し上げましたけれ
ども、極めて今回の
制度には問題があるということでございます。