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参考人(
杉本健三君)
兵庫県
教育委員会の
杉本でございます。
私の方から、本県が実施いたしております、本県のすべての中
学校二年生、公立中
学校にいますすべての中
学校二年生の
社会体験
活動でありますトライやる・ウィークの取組につきまして、パワーポイントを使わせていただいて御説明を申し上げます。お手元に届いておりますカラー刷りのものとパワーポイントと同じになっておりますので、御
参考にしていただけたらと思います。(資料映写)
この
事業を開始しましたのは平成十年でございまして、もう八年目になります。この
事業を実施するに当たりまして二つ契機がございました。
一つは、十年前のあの阪神・淡路大震災であります。非常に大変な大被害をもたらしたわけでありますけれども、一方では、ともに生きる心が非常に大切なんだといったふうな多くの貴重な教訓をもたらした面もございます。そのような教訓を生かすという
意味で、私たちは、生きる力をはぐくむ、そういったふうな
教育を一層充実するために、やはり何らかの体験
活動の充実を図っていく必要があるだろうと、こういったふうに模索しておりました。ということが
一つ目であります。
もう
一つは、その二年後に神戸の須磨区で連続児童殺傷事件が起こりました。事件の後、現在、文化庁の長官であられます河合隼雄
先生に座長になっていただきまして、
兵庫県で心の
教育緊急会議を開催いたしまして、提言をいただきました。その提言の
一つは、中
学校で長期
社会体験学習を導入すべきだということ。二つには、様々な
課題に対する
学校、
家庭、関係機関等との連携システムの構築を進めると、こういったふうな趣旨の提言をいただきました。トライやる・ウィークは、このような二つのこと、そして先ほどの提言を具現化して、中学生の心の
教育を充実させる、そして生きる力をはぐくむということを目的としまして、平成十年に始めまして、本年で八年目となっております。
県下の全公立中
学校二年生、約五万人でございますが、連続した五日間、地域の中で勤労生産
活動あるいは
職場体験あるいは福祉体験等の
活動を行っておるものでございます。
活動は、各
学校ごとに六月若しくは十一月を中心として、それぞれ一週間で行っております。トライやる・ウィークというネーミングもなかなか良かったのか、手前みそでございますが、そんなことも少し思っております。
次に、この
事業の推進体制について説明を申し上げます。
子供の
教育を
学校だけに任せるのではなくて、地域全体で育てる機運の下に、このトライやる・ウィークを県民運動として取り組めるようにするために、またこの五万人の中学生には一万五千ぐらいの
活動場所が必要でございます。この
活動場所を提供できるように、県の
教育委員会だけではなくて、県下全体で取り組む推進体制を構築いたしております。
まず、県では、
兵庫県の推進協議会を設置いたしております。この協議会は、知事を代表にいたしまして、県の商店連合会とかあるいはコープこうべ等の五十一
団体の代表から構成しております。そして、このような各
団体を通じて、県民全体への啓発等に協力をいただいておるものでございます。さらに、円滑な実施に向けまして、この推進協議会を
支援する県の検討
委員会あるいは
支援会議も設置をいたしておりますし、市町におきましても市町レベルでの推進協議会を設置し、さらに各中
学校の校区ごとに
学校長、PTA、地域
団体代表等で構成いたしますトライやる・ウィークの推進
委員会を設置いたしますなど、県と市町と中
学校区、それぞれの
段階で
支援体制を整えているところでございます。
本県では、従来から県民とともに歩む県政を推進して、
教育、生涯学習、福祉、保健、環境等の各種の分野で県民運動を提唱、推進しておるところでございます。とりわけ震災の後は、県民と
行政のパートナーシップ、いわゆる県民の参画と協働を基盤とした創造的な復興に向けて取り組んできたところであります。このトライやる・ウィークも、この
教育の分野における県民運動として地域住民による受入れ体制の整備、あるいは
事業所等による生徒の受入れ、あるいは指導に至るまで県民の参画と協働の下に実施をいたしておるものでございます。
次に、このシステムについてでありますが、この
事業は、先ほど申し上げましたように、
学校と
家庭と地域
社会の連携を基盤として実施いたしております。地域の
大人たちが中学生に本気でかかわり、交わることで、生徒が様々な人との出会いとか働くことの厳しさあるいは楽しさを
実感すること、
自分にでもできるという自信を付ける
経験をすることなどを通しまして、
自分らしい生き方とか将来について考えるなど、中学生の
自分探しを
支援しておるものであります。そして、県民運動としてのトライやる・ウィークを県、市の推進協議会、あるいは中
学校区ごとの推進
委員会が
支援をいたしまして、地域の
子供は地域で育てるということを合い
言葉にしまして、
大人たちが
子供たちの成長にかかわるものとして本気で向き合い、取り組んでいただいておるものでございます。
それでは、実際の
活動の様子をごらんいただきながら、それ以外の説明を話しさせていただきます。
そば屋さんで
活動しておるところでございますが、この五日間の
活動はいわゆる
学校の特別
活動の中の
学校行事という形で行っております。ただ、事前指導、事後指導はそれぞれの
学校ごとに総合的な学習の時間等に位置付けております。五日間の合計は大体三十時間で、一日七時間は超えないように配慮をしていただいております。もちろん過度の就労とならないように、また賃金を得るようなことがないように、労基法とか児童福祉法に抵触せぬような形で留意しながら進めております。
事故等が起こることもたまにございます。年間六十件から七十件ぐらいありますが、事故等に対する総合補償制度も設けております。また、ガラスを壊すとか道具を壊すとかといったふうなこともありますので、これについての賠償についてもこの補償制度の中で行っております。賠償は大体年間十件程度でございますが、あります。保険料はちなみに五日間で一人五百七十円、ボランティアの方にも保険入っていただいております。
また、中
学校、不登校の生徒がかなりいるんですけれども、不登校の生徒もその六五%ぐらいがこの「トライやる」には参加しようということで参加いたしております。そして、この不登校ぎみの生徒で「トライやる」に参加した生徒のうちの七〇%が「トライやる」にはすべて五日間とも
出席しておるというふうな実情がございますし、また、そのような
子供たちが一か月後あるいは二か月後を見てみましたら、
出席率を向上した生徒が大体四〇%ぐらいはいると。そういう
意味で、そういうふうな心の
居場所ができたとか、あるいは新しい
人間関係ができたといったふうなことが不登校の改善にもつながっている面もございます。
場面、そば屋とあるいは炭焼き等が出ましたが、この指導ボランティアの方は、やっぱり
子供は素直でよく頑張りますと、
大人も学ぶところが非常に多かったというふうな感想を述べていただいております。
次、ちょっと時間が押してまいりましたので急ぎますが、七枚目のところですが、これは先ほど申し上げました本県すべての公立中
学校三百七十二校で実施しておりまして、病欠等ごく一部の生徒を除く四万九千人以上の生徒が
活動いたしております。そして、生徒は主として
活動場所ごとに班をつくっておりまして、その班の数が大体一万六千班ぐらいになります。
活動場所もしたがいまして大体一万五千か所ぐらいになります。また、生徒の世話をしていただける方、引率とかそういったふうなことをしていただく方、あるいはそれぞれの
活動場所で直接指導していただく方、こういったふうなボランティアの方につきましても大体約二万人の協力を得ております。一か所当たりの受入れ生徒数が平均で約三人ぐらいでございます。
次に、
活動内容でございますけれども、商店あるいは飲食店、あるいは幼稚園、保育園等で
活動するいわゆる
職場体験が全体の七九・二%、そして養護老人ホームなどでの福祉体験をするのが七・九%、また人形浄瑠璃などの地域の伝統芸能を継承するような文化・芸術
活動が五・七%、農業、漁業、林業などの勤労生産
活動が三・五%ぐらいになっております。
また、この
活動期間中に生徒が感じたことを問うアンケートでは、記載いたしておりますように、働くことで
仕事の厳しさを知ったり、
仕事を仕上げたときの楽しさを通して働くことの大切さを
実感したというのが九割近い生徒がこのように職業に対する意識を高めております。また、このことについて、生徒は具体的な感想といたしまして、
大人が
仕事に対して誇りを持ち
仕事に取り組んでいる姿に毎日触れ、
お金をもらうことだけが
仕事ではないと感じたとか、あるいは、二日目、三日目と日を追うごとに
自分から進んで働くことができるようになり、人の役に立つことでうれしさや喜びを感じ、
自分自身が大きくなったと感じたなどの感想も述べております。次に、指導していただいた方との触れ合いが楽しかったとか、
社会のルールやマナーの大切さが分かった、あるいは
コミュニケーションの大切さを感じたがそれぞれ約七割と、
社会性をはぐくむ良い機会となったのではないかなと、こういうふうにも思っております。具体的には、
仕事では時間を守ることや
言葉遣いなどで甘えは許されず
社会の厳しい面を見たとか、あるいは、
社会で生活をしていく上で大切なことは
人間関係であり、それにはあいさつなど礼儀が大変重要であることが分かった、こういったふうな感想も述べております。続いて、記載のとおりの感想も述べておるところでございます。
次、
活動場所で生徒に直接指導等に携わっていただきました指導ボランティアの
方々からは、このような感想があります。直接中学生にかかわり、素直な姿や
可能性にあふれた姿を目にして、新聞などの
情報から持つ中学生に対するイメージが変わり、地域の
子供の育成に積極的にかかわっていこうという気持ちが持てたとか、緊張して何もできなかった生徒が
自分たちの指導で短い期間で変わっていく様子から、
自分たちが生徒の成長に役立てたという充
実感があった、あるいは、中学生という新鮮な従業員ができたことで他の従業員にとっても良い刺激になって
職場の活性化につながったと、こういったふうな報告も受けております。
また、一週間同じ
活動場所で行うということの効果についてであります。これは、原則同じ
活動場所で五日間体験しておるんですが、この
事業がスタートした当初、一部の市町では
活動場所を何回か変えて実施していたというところがありましたけれども、これを比較したら次のようなことが分かったところであります。一日目、二日目はあいさつなどの
職場に慣れるのに二日ぐらいかかります。三日目ぐらいから生活のリズムのようなものが出てきて、四日目、五日目で
自分なりの創意工夫した
活動ができるなどの成果が現れてきます。また、受入先の人々の職業に対する誇りとか苦労とか人生観などに触れる機会ともなって、やはり五日間同一体験を続けることが非常に大きな意義があると、こういうふうに言えると思います。赤い線が一週間同一体験をした方、青い線が複数体験をした生徒の状況を示しております。私にもできるんだという自己効力感は両者は余り差がありませんが、
社会的な発達の領域におきましては、同一
活動場所で継続体験した生徒に高い効果が見られております。
次に、実施五年を経過いたしまして、五年目の検証
委員会を十四年度に持ちました。この検証
委員会の提言といたしまして、ここに記載をいたしておりますような事前指導、再点検の充実を図る必要があるとか、あるいは、一週間だけで終わるのではなくて、土日とか長期期間中なども続けて体験できるような日常化を図ってはどうか、あるいは、もっと
子供の発達
段階に応じた体系的な取組を展開する必要があると、こういったふうな
意見もいただいております。検証をしたところでございます。
次に、
兵庫県は、この表に示しておりますように、児童生徒の発達
段階に応じまして体験
活動を体系化して取り組んでおります。まず、小
学校では五泊六日の自然
学校というのを、これは県下の全公立小
学校の五年生を対象にして昭和六十三年度から実施いたしまして、本年で十八年目になっております。中学生では、先ほど申し上げましたトライやる・ウィークを実施いたしておりますが、先ほどの五年目の検証をきっかけにしまして、土曜日とか日曜日とか夏休み、何らかの形で
子供たちが地域でこういったふうな
活動が継続できるようないわゆる「トライやる」アクションという形で現在推進をしております。また、高校生は、このような小
学校、中
学校での体験を更に伸ばしていくということで、従前から実はクリエイティブ21という形でやっておったんですが、来年度から新たにこれらを拡充するということで、高校生の就業体験
事業とか高校生の地域貢献
事業に取り組むことといたしております。
ちょっと時間が押しておるんですが、これにつきまして簡単に申し上げましたら、まず、高等
学校での具体的な取組としまして、本年度、平成十七年度から全県立高等
学校の二年生を対象にいたしまして、専門高校の場合は大体五日間程度、普通科高校の場合では大体三日間程度の高校生の就業体験
事業を実施することといたしました。
産業界などによります推進協議会を設置いたしまして、
企業などでの
職場実習とか、そこまではまだ実施は難しいと言われる、難しいとも思われる普通科高校では、場合によっては
企業訪問あるいは私のしごと館などの職業体験施設等の活用なども含めて、何らかの形で就業体験
事業という形で継続していきたいと思っております。
またさらに、本年度から同じく全県立高等
学校の一年生を主に対象としまして、年間、各
学校五、六回程度、
クラス単位によるボランティア
活動とか、あるいは部
活動等のグループ単位等による福祉
活動等を行います高校生地域貢献
事業を実施いたしまして、地域
社会に対する参画意識など、地域を支える人材としての自覚と態度をはぐくんでいきたいと。この
事業については「トライやる」ワークというふうに銘打って推進してまいりたいと考えております。
このように、本県では
子供たちの発達
段階に応じまして、
社会性や豊かな
人間性を培うために、様々な体験
活動を通して
子供たちが自ら学び、考え、そして体得する
教育に重点を置いてまいりました。
今後とも、これらの体験
活動の充実を図りまして、
子供たちに豊かな心をはぐくむ心の
教育、さらに
子供たちの職業観、勤労観を培うキャリア
教育を一層推進してまいりたいと思っております。
時間がオーバーして失礼いたしました。
以上でございます。