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参考人(
早川光俊君)
早川でございます。今日はこうした
機会を与えていただいて本当にありがとうございます。(
資料映写)
私は、CASAという大阪に本拠を置く
環境NGOから参りました。CASAについては、一九八八年十月に設立しまして、その直後から
温暖化問題に取り組んで
国際交渉に参加すると同時に、
市民の
環境家計簿や省エネラベル、それから自然エネルギーの普及などの
活動に取り組んでまいりました。また
日本におけるCO2
削減可能性の検討な
どもしてまいりました。
今日は
法案の
改正に対する
意見とともに、この
法案は恐らく
京都議定書目標達成計画とか、それから今国会に掛かっている省エネ法の
改正とか、そうした六%
削減をどう
実施していくかということの一環として審議されているというふうに理解しますので、全体的な御
意見を申し上げたいと思っています。
それで、御
意見申し上げるまず最初に、
京都議定書が発効し、それに至る過程で
先生方に本当に御
努力いただいた、
日本が先頭に立って、この
京都議定書を進める先頭に立っていただいたことについて深甚の敬意を表したいと思います。
まず、この
法案の
改正についてですけれ
ども、基本的に賛成です。
一点だけお願いしたいのは、算定・
報告・
公表制度、これは非常に重要な
制度だと思いますけれ
ども、企業
秘密の点です。私は
温室効果ガスの
排出量の
公表が企業
秘密に該当することは基本的にないと考えます。もちろんすべてを否定するわけじゃありませんけれ
ども、
温室効果ガスの
排出がその企業のノウハウに抵触するのは非常に限定された場面だろうと思います。
国民の知る権利を優先させて
公表を原則として
運用していただくように御審議をお願いしたいと思っています。企業
秘密についてのきちっとした見解、それから
基準を定めて、
公表を前提として、もしそれが問題ならば不服
審査制度などによって企業
秘密を判断するという
制度が取り入れられるべきだというふうに考えます。
京都議定書が二月十六日に発効して、四月二十八日には
目標達成計画が閣議決定されるという経過をたどっております。私は今後の課題は二つだと考えています。一つは
目標、第一
約束期間の
目標、
日本では六%を確実に
達成すること、これが最大の今課題だろうと思っています。二番目が二〇一三年以降、第二
約束期間以降の
制度設計、これをどうするかという、既に
国際交渉では
議論が始まっておりますけれ
ども、この将来枠組みについてどう対応していくかというのが今後の課題だと考えています。
まず、
京都議定書目標達成計画についての御
意見を申し上げたいわけでありますけれ
ども、私
たちはこの
達成計画では六%
削減は担保できないと考えています。四月二十四日でしたか行われた衆議院の
参考人質疑でも、中環審の
委員長だった森嶌さんができないというふうに断言されていました。私
たちもそういうふうに思います。
まず、この
達成計画の問題点の第一として、長期的な
目標がないということです。私は、やはり長期的な
目標を
議論した上で当面の
対策、
行動を考えるべきだというふうに思います。これについては後で少し詳しく述べたいと思います。
そして、六%
削減のうち吸収源や京都メカニズムで五・五%を
達成する
計画になっている。私は、やはり
温暖化を防ぐためには
国内での
対策を取っていくべきだ、その大きな部分を
国内対策でやるべきだというふうに考えています。六%
削減のうち三・九%が吸収源になっておりますけれ
ども、これが保証されてはいません。林野庁の
報告書でも二・六ないし三・一%ぐらいだろうという
報告になっています。
二番目に
指摘しなきゃいかぬのは、原子力発電の
推進や産業界の自主
行動計画に依存していることです。
原子力発電の
推進については、議定書交渉では、共同
実施やクリーン開発メカニズム、いわゆる海外でのプロジェクトによって
削減量をカウントする
制度の下においてはこれの利用は差し控えるということで合意されました。このことは、
温暖化対策において原子力発電を利用することを全体としては差し控える、やめようという合意だと思います。私は、
国内において、原子力発電の
推進についてはやはり、後でも少し詳しく述べますけれ
ども、冷静で理性的な
議論をきちっとすべきだと思っています。
この
目標達成計画について、
先ほど浅岡さんの方からも御
指摘ありましたけれ
ども、従来の
対策の羅列にすぎないもので、再生可能エネルギーの買取り
制度、固定買取り
制度や
環境税、
国内排出量取引といった抜本的な
対策が全く取り入れられていない、これでは六%
削減は全く担保できないんだろうと思います。
少し詳しく個々に述べたいと思いますけれ
ども、
温暖化対策というのは突き詰めれば省エネ
対策とエネルギー転換しかありません。
地球温暖化を防ぐためには、恐らく二一〇〇年を超えた時点では脱化石燃料
社会をつくらなきゃいかぬというふうに考えます。これまでの中環審の
報告書などでも、九〇%、八〇%といった
数字が
議論されているわけですから、今の化石燃料に依存した
社会経済システムではとても
温暖化を防げない。となれば、省エネ
対策と同時にエネルギー転換が進められるべきだというふうに考えます。
産業界の自主
行動計画については、私は自主
行動計画を否定するものではありません。ただ、これが自主
行動計画である限りは履行が担保されないというふうに考えます。
COP3の前にドイツの産業界の方と話し合う
機会があったんですけれ
ども、彼らは、当面自主
行動計画をやるけれ
ども、それが
達成できない場合には
自分たちは
規制を受け入れると表明している。
社会協定化し、
規制を受け入れて
削減していくということも受け入れているというふうにおっしゃっていました。
私は、やはり自主
行動計画、最初は自主
行動計画をやられるのは結構なことですし、産業界がCOP3以降随分と
努力されたことも承知しておりますけれ
ども、やはりこの
行動計画をきちっと担保するためには、次の段階での協定化ということをきちっと考えていくべきであろうと思います。
再生可能エネルギーや固定買取り
制度については、再生可能エネルギーについての現在RPS法がありますけれ
ども、残念ながらこれは自然エネルギー、再生可能エネルギーの
導入に対しては桎梏となっています。そのほとんどが廃棄物発電によって賄われているという現状にあります。ここをどうしても変えていただきたいというふうに考えるわけです。
原子力発電についてはいろんな
議論があると思います。私も別に原子力発電を頭から否定するつもりはありません。ここに書きましたように、
安全性の問題、放射性廃棄物の問題、経済性の問題、エネルギー安全保障の問題、そして破壊
活動からの、対する脆弱性の問題、そういった問題がやはり理性的に民主的に
議論されるべきだと思います。私は、
日本においてはエネルギー問題が
国民的
議論に付されたことはないというふうに考えています。きちっとした
議論をやはりすべきだろう、その結果、原子力発電を
推進することが
国民の総意であるならば、多数であるならば、それはそれでそう進めていくべきだろうと思います。
ドイツにおいて原子力発電を廃止した理由についてドイツの方に聞いたことがありますけれ
ども、主な理由は、経済性と破壊
活動に対する脆弱性の問題だと言っていました。これは九・一一の前の
議論です。原子力発電ほど破壊
活動に弱い設備はない、またこれによって大きな被害を及ぼす設備はないというふうに言っていました。
経済性については、私はCASAにおいて試算をしてもらいました。研究者に試算をしてもらいました。一九七〇年から一九九八年までの二十八年間の有価証券
報告書に書かれている水力、火力、原子力の費用を全部抜き出してきて、原子力、火力、水力がどういったコストになっているかを計算してもらいました。試算結果はここに書かれているとおりで、原子力が一番高いことになりました。いろんな試算の仕方があると思いますし、経済性についてはいろんな考え方があると思いますけれ
ども、原子力に非常に有利に計算した結果でも、私
どもの計算ではこうなりました。
残る安全保障の問題については、次の段階でまたお話をしたいと思います。
再生可能エネルギーについては、私は幾つかの特徴があると思いますけれ
ども、私自身が
大気汚染公害裁判等を担当したこともあって、やはり
環境に優しい、CO2の
排出が少ないだけでなくて、
大気汚染を起こさないというところがやはりこの再生可能エネルギーの特徴だというふうに考えます。枯渇しない、小
規模分散型、そしてやはり平和だということです。エネルギーの大半を占める化石燃料は偏在しています。その化石エネルギーの偏在がともすれば戦争を引き起こします。分散型である、そして小
規模であるこの再生可能エネルギーというのは平和なエネルギーだというふうに私は考えます。
ドイツでは、一昨年、七百万キロワットの風力発電がその七〇%から八〇%が
市民の投資によって建設されました。
制度さえきちっとできれば、
日本においても恐らく
市民は再生可能エネルギーの建設に投資をするんだろうと思います。デンマークでもその七、八割は
市民の投資によって建てられています。そのためには、やはりこの二つの国が
導入しているのは固定価格買取り
制度です。そういったものも是非御検討いただきたいというふうに思います。
私
たちは、
日本における二酸化炭素の
削減可能性について何回かの試算を行ってきました。二〇一〇年までに一一%
削減可能というのが私
たちの試算であります。現在ある、現在利用できる既に商業ベースに乗っている技術、九十四技術を
一つ一つ検討して、それをどう普及していくかの
政策も併せて検討していただきました。一方で、原発については、即時廃止ではなくて、三十年の寿命で順次廃止していく、フェードアウトの条件で計算してもらいました。その結果は、二〇一〇年までに二酸化炭素
排出量を九%
削減できるという結果になりました。私
たちの試算が正しいかどうか、正しいと声を大きくして申し上げるつもりはありません。しかし、少なくともこういった私
どもの試算も含めて俎上に乗せて検討したい、産業界の方の
意見も聞いて検討したいと思っています。
代替フロン類については、代替物質の
使用や工場内での管理をすれば二%程度
削減が可能だということであります。
そして、もう一つの特徴は、こういった省エネ
対策を取ることが、当然コストが掛かるわけでありますけれ
ども、二〇一〇年度単年度ベースでも二兆七千億の省エネによる効果が生まれてきた。要するに、コストは掛かるけれ
ども、技術
導入にコストは掛かるけれ
ども、その一方で燃料費が浮いてくるという試算になりました。これは決して私
たちだけの計算ではなくて、アメリカのエネルギー省がCOP3の前に五つの研究機関に発注してこの検討をさせたことがありますけれ
ども、それもいずれも、金額の多寡は別として、全部プラスの効果が出ました。
CASAの試算はこの図のとおりであります。一九九〇年
レベルから二〇一〇年まで一一%
削減できると思います。
次に申し上げたいのは、長期
目標についてであります。
私は、
日本の
政策がなかなか進まないのは、やはり長期的な
目標についての
議論をきちっとしていないからだろうと思います。今回の
目標達成計画にも長期的
目標についての記述がありません。
温暖化対策の
目標は、何をやるかではなくて
温暖化を防ぐことです。
温暖化を防ぐといっても、
温暖化自身はもう既に進行していますし、防ぐことはできないと思いますけれ
ども、危険な
レベルに至らないまでに
温暖化をどう防ぐかというのが今の
議論であります。
中央環境審議会の専門
委員会は五月に、
気温上昇の抑制幅を二度とする長期
目標を提案されました。二度未満という長期
目標については、既に世界の
環境NGO、私
どもも、
浅岡さんのところの
気候ネットワークも参加しているクライメート・アクション・ネットワークという
団体は既に三年前に二度という
目標を採用すべきという提言をしています。EUも二度という長期
目標を前提にいろんな
対策を立てていることは御承知のとおりです。
なぜ二度なのか。いろんな
科学的知見を見てみますと、やはり二度程度の上昇が、様々な影響が大きく変わる変換点だということです。これもお
手元に表が配られていますけれ
ども、一度—二度、二度—三度でここに書いているような経済影響、食料安全保障、水不足、異常気象などが大きく変わってきます。
概括的に申しますと、一部の影響にとどまる、一度から二度の範囲では一部の影響にとどまる影響が、二度を超えると全世界的な影響になる、質的に変わってくるということであります。そして、この二度未満に
気温上昇を抑えようとすれば、今後十年から二十年の
取組が決定的に重要だということです。恐らく今のトレンドでいけば二〇三〇年に二度を超える可能性があるということです。もしこの十年二十年の間に
行動を起こさなければ、この
目標を
達成する選択肢さえ失われてしまうというふうに私
たちは考えています。
二度未満に抑制するためには、EUの
環境理事会では、
先進国は二〇二〇年までに
温室効果ガスを一五から三〇、二〇五〇年までに六〇から八〇%
削減する必要があると言っています。
中央環境審議会の専門
委員会の
報告でも、これは世界全体、
先進国で世界全体ですけれ
ども、二〇二〇年までに一〇%、二〇五〇年までに五〇%、二一〇〇年までに七五%
削減することが必要と言っています。このことを念頭に置いて、今何をすべきかが
議論されるべきだというふうに考えます。
一つ
最後に申し上げたいことは、将来枠組みの問題であります。
経産省から非常に私
どもが心配するような提案がなされています。端的に言えば、今の
京都議定書の延長上に将来枠組みを考えるのではなく、
京都議定書と全く異なった
仕組みを考えられているということであります。私は、
京都議定書の骨格は、法的拘束力、
達成期限を持った総量
削減、そして遵守
制度だと思っています。こういったものをすべてなくしてしまおうという提案がなされています。
もし、第二
約束期間以降が非常に緩い
制度になってしまうならば、第一
約束期間の
目標達成の
インセンティブは大きく損なわれることになります。私
たちは、やはり第二
約束期間以降、より高い
削減目標が設定されるべきであり、合意されるべきであり、
京都議定書の基本的構造が引き継ぐ
制度が
議論されるべきであると考えています。
これはCO2
濃度の上昇です。大体一・五ppmぐらい毎年増えているわけでありますけれ
ども、二〇〇二年、二〇〇三年は二ppm以上の増加率を示しました。このまま行くと二〇三〇年ころには二度を超えてしまうおそれがあるということです。
これもよく見られる図かもしれませんけれ
ども、IPCCは今後百年間の
気温上昇幅をこのように見ています。この下の四角が過去千年の温度の、地表の平均気温の推移であります。一九〇〇年ころから急速に上がってきて、そして今後百年でここに書かれているような大きな幅の
気温上昇が予測されている。
是非ここで御認識いただきたいのは、今の
状況が続けば、この一番上の五・八度に近い
気温上昇が起こるということです。徹底的に
対策を取っても一・四度程度の
気温上昇が予測されているわけであります。百年でこれだけの
気温上昇というのは、少なくとも過去百年では人類は、過去一万年に人類が経験したことのない
気温上昇であります。
そして、もう一つ、是非私
たちが認識しておかなきゃいかぬことは、
気候変動が始まる、
温暖化が始まるとすぐには止まらないということであります。これもIPCCが出している図でありますけれ
ども、CO2
濃度、
大気中の二酸化炭素
濃度を
安定化しても気温の
安定化、
気温上昇というのは数世紀にわたって止まらない。そして、熱膨張による海面水位の上昇、氷の融解による海面水位の上昇というのは数千年
単位で続いてしまう。そして、この一番下の茶色の線でありますけれ
ども、
濃度の
安定化するためには
排出量は大幅に
削減していかなきゃいかぬということであります。
私
たちの子や孫というふうによく言いますけれ
ども、もう孫の問題ではなくて、私
たちのこの
時代に私
たち人類の生存の基盤が失われるかどうかの問題が
温暖化問題だということを申し上げて私の
発言を終わりたいと思います。
ありがとうございました。