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参考人(
小川和久君)
小川でございます。お招きいただきましてありがとうございます。どれほど御
参考になるような
お話をすることができるか、大変緊張してこの場に座らせていただいております。
私自身は、一応、
自衛隊の末端にもおりましたし、
ミリタリーバックグラウンドの
人間として一貫して
防衛庁・
自衛隊の
政策に直接かかわってきた立場として、今回の
防衛計画大綱について若干の疑義を持っております。その点を
お話を申し上げ、後ほど様々な御質問あるいは御指摘にお答えできればと思っております。
私は、
皆様方が大変お若いということを前提に、小さな文字で印刷した紙を二枚持ってまいりました。私も今年六十になりますけれども、まあ何とか見える。この二枚紙の一番
最後の方に、今月十八日、この
外交防衛委員会における
大野防衛庁長官の
発言のポイントを書いておきました。これを基に若干のコメントをしたいと思います。
大野防衛庁長官は、新
防衛大綱は今後の我が国の
安全保障及び
防衛力の在り方について新たな指針を示すものだと述べていらっしゃいます。また、これまでの
防衛大綱は策定から十年近くが経過し、今日、我が国を取り巻く
安全保障環境には大きな
変化が生じているとも述べていらっしゃいます。そして、このような
安全保障環境を踏まえということで、第一に、第二に、第三にと、ここに一、二、三とナンバーを振ったような内容のことを説明していらっしゃるわけであります。
私は、揚げ足取りをするつもりはございませんが、このレジュメの一番目の、一枚目の冒頭に戻りまして、
防衛計画大綱の
議論に欠落しているものということでまず問題提起をさせていただきたいと思っております。
安全保障環境の
変化を前提とする状況
対応型の
議論から出発している、ここに大きな問題があるということなんです。もちろん、その後に続いている様々な
議論というものの中身については、私は妥当性があるし評価もしております。ただ、出発点が間違っておるというところが第一点でございます。
ここには書いておりませんが、もっと申し上げますと、今、
樋渡参考人の
お話の中にもかなり出ておりましたけれども、本来、一つの独立
国家が安全と繁栄を
実現していくために必要な
外交安全保障に関する構想があって、その上にこの
防衛計画大綱のようなものの
位置付けが適正に行われなければいけないということも申し添えておいてよいのではないかと思います。
やはり、私として疑問があるのは、なぜ我が国の
防衛力の現状に関する認識を示し、そこからの選択肢に基づく
大綱としないのか、その辺でございます。そうしなければ、先ほどの
大野防衛庁長官の
発言にもありましたような、このかぎ括弧の中でございますが、国際的な
安全保障環境を改善する、あるいは、国際平和協力活動に主体的かつ積極的に取り組む、あるいは、新たな
安全保障環境の下での
戦略目標に関する日米の認識の
共通性を高め、日米の役割分担や米国との
戦略的対話に主体的に取り組む、そういったことはできないのではないか、そういったことを思わざるを得ないんですね。
僕は、
樋渡参考人もその
委員のお一人であったので、
懇談会の
議論というものを高く評価しながら、やはり一つの点を申し上げたい。
私は、今月七日から十四日まで、スペインの首都のマドリッドで列車爆破
テロの一周年を記念する国際サミットに出てきた。まあ、問題は一杯あるんですよ。去年の十一月に招待状が発送されたにもかかわらず、我が
日本国からのVIPの出席はゼロ。スピーカーはアナン国連事務総長ですよ。各国首脳クラスがずらっと来ている。私のホテルの同じフロアも、主役の一人であったアフガニスタンのカルザイ大統領が泊まっている。
ところが、
日本国から行ったのは、専門家として招待されていた私のチームが三人と、あと個人的に招待をされた
外務省の駐仏大使の岡村善文さん、彼が休暇を取って自費でやってきた。我が
日本国のスペインにある大使館からは情報収集要員も出てこない。岡村公使が注意したからでしょうが、閉幕間際に大使が駆け込んでくる。次の日の追悼式典にも
日本の代表者はいないわけであります。これ、国
会議員方々は国会の会期中だから出られなかったという問題は踏まえた上で申し上げているんです。
これは、それに代わるやはり要人が出てきちんと
発言しないと、
世界で初めて大量破壊兵器であるサリンを
テロで使われた国として、同時多発
テロに見舞われた
アメリカ、あるいは列車爆破
テロに見舞われたスペインとともに、
テロリズムを克服するための営みを
日本はすべき立場じゃないかという点で非難を受けるわけでございます。だから、口先ばかりの
日本の言うことは聞く必要はない、
日本の
安全保障理事会の常任理事国入りなどはとんでもない、それが
共通した認識でございました。これはやはり肝に銘じておくべきだろうと私は思っております。
そういう中で、パネルディスカッションで、ソラーナさんといって、以前NATOの事務総長をし、今はEUの
外交安全保障問題担当の上級代表をしている方が
発言をされたんですが、
テロリズムの克服にとって学者の
議論は必要がない、ばあんとかますわけです。それは学者を否定しているわけじゃない。ただ、ややもすると空論に終わってしまって現実に
対応できないんじゃないかというところを彼は言いたいわけでありますね。ちゃんと効力のある
議論をし、具体的な
政策として進めようということがここでも提起をされた。私は、
懇談会の
議論を高く評価しながらも、その学者の
議論にたぐいする部分がかなりあったような印象を受けております。だから、その部分を補うというものもこの
参考人質疑の中で進められればいいかなと思っているわけであります。
このレジュメのひし形の二番目に行きますが、なぜ我が国の
防衛力の現状認識が必要なのかという点に入りたいと思います。
大野防衛庁長官は、このかぎ括弧内にありますように、新
防衛大綱は今後の我が国の
安全保障及び
防衛力の在り方について新たな指針を示すものと言っておられます。そういうことであれば、我が国の
防衛力の現状に関する認識を明らかにし、そこから我が国が取り得る選択肢を示し、より現実的な選択をした結果として、日米安保
体制を前提とする
防衛力の在り方を追求するとの結論に達したことを明らかにしなければならないのではないか、そういうことを思うんです。
それをやらなければ、例えば、これは一般的に国際的な印象があるわけでありますが、米国の従属国、そういう印象を振りまくのみならず、大野さんが
発言をなさったような内容、つまり国際的な
安全保障環境を改善すること、あるいは国際平和協力活動に主体的かつ積極的に取り組むことについても、周辺諸国の
理解の下、最大限の活動に
自衛隊を投入し、そのことによって国際的な信頼をかち取ることは難しいのではないかと思わざるを得ないわけであります。
そこにおいては、やはり日米安保の現実に関する認識を日米の、それも朝野が、つまり
国民を挙げて共有をし、それを受けた
米軍の再編、トランスフォーメーションの
議論を進める中で、大野さんが言っておられるような国際的な
安全保障環境を改善すること、あるいは国際平和協力活動に主体的かつ積極的に取り組むこと、私自身がかねてから表現している言い方を申し上げますと、つまり日米安保の平和化というものが達成されるだろうと思うわけであります。
そこで、御説明を申し上げなければならないのは、我が国の
防衛力の現状に関してであります。
我が国の
防衛力の現状を特徴的にとらえると、まず
軍事専門家であればあるほど、戦力投射
能力の欠落が顕著だということが明らかになります。この場合、戦力投射
能力は、英語で言いますとパワープロジェクションケーパビリティーと呼びますけれども、定義をしなければ
議論がごちゃごちゃになる、だからあえて定義をしておきます。この場合、戦力投射
能力とは、敵の国を壊滅させられるほどの
軍事的
能力、そのように定義をいたします。そのような定義に基づいて考えますと、核兵器を一定のレベルで維持した核戦力は紛れもなく戦力投射
能力であります。また、核兵器を持たない場合でも、例えば五十万人、百万人規模の陸軍部隊を相手国に着上陸させ、相手国を占領することによって戦争
目的を達成できるような構造に陸軍のみならず海軍、空軍の戦力が備わっていれば、それは戦力投射
能力と言えるはずであります。
しかし、我が
日本国の場合はそのいずれでもございません。何でそのいずれでもないのか、何で戦力投射
能力がないと言えるのか、これははっきりしています。その現状は
防衛費の内訳と我が国の
防衛力の突出した部分を見れば明らかになるんです。これは、
中国の人民解放軍に対してもこの説明はきちんと通るような話なんです。
政治的なニュアンスで
外交が行われるという部分を除けば、専門家であれば認識を共有できる話でございます。
例えば、
平成十六年度予算、四兆九千三十億円の場合、使い道から見ますと四四・四%が人件・糧食費であります。つまり、給与と飯代でございます。ここにあるような内訳で構成されておる。ですから、
防衛力整備に充てることができるのはこのうちの、パーセンテージでいいますと四三・四%、装備品等の購入費、研究開発費、施設整備費、営舎費・被服費等、訓練活動経費といったところでしょう。実際には全体の三〇%
程度しか
防衛力整備に充てることはできないんです。
この限られた
防衛費で整備できるのは中規模
国家、中ぐらいの国の
軍事力でしかない。しかしその一方、我が国の
防衛力におきましては、突出した、つまり
世界有数のレベルにまで高められた
能力による役割分担を米国から求められてきたという現実があります。これははっきりした役割分担であります。その中で、例えば海上
自衛隊のASW、アンタイサブマリンウオーフェア、これは対
潜水艦戦でございますが、
世界有数でございます。それから、例えば
世界有数の航空
自衛隊による防空
能力、これも要撃密度という基準で測りますが、空から攻めてくる相手に対する防空戦闘
能力をきちっと
能力、数から評価していきますと、
世界で第三番目、第四番目というランクに入ってくる。
日本列島はその
世界有数の航空
自衛隊の防空
能力の傘の下にあるということは間違いないんです。その防空
能力の下に
日本列島を足場とする
アメリカ軍の
能力が展開されているという役割分担も明確なわけであります。
ただ、このような
世界有数の海上
自衛隊の
能力あるいは航空
自衛隊の
能力を持とうといたしますと、大変高い兵器を導入せざるを得ない。高額兵器症候群という病気があるわけでございます。例えば海上
自衛隊のイージス艦あるいは哨戒機もそうでございます。あるいはパトリオットの地対空ミサイルだってそうでございます。こういったものをどんどんどんどん更新していかざるを得ない。これ具体的に数字を出したら、もうほかの
能力の整備に回せるお金はないんです。つまり、戦力投射
能力が備わるはずがないという問題なんですね。
何でこんなことになっているのかといいますと、これは
日本側の主体性とか
責任ということを前提にしなきゃいけないんですが、戦後一貫して
アメリカが、ドイツと
日本については自立できない
軍事力を整備してほしい、敵に回ったら厄介な連中だからと。これは
アメリカが、いい悪いじゃなくて当たり前の話でございますが、そういったことで、役割分担においては、やはり
日本の場合、対
潜水艦能力と有数の防空
能力を求めてきた結果であるということを申し上げていいと思います。
二枚目に参りますけれども、こういった
防衛力の現状を受けた選択肢というのがあるんですね。戦力投射
能力が全然ないよという現実です。これを踏まえてどっちに行くのかということを
議論するのが
防衛計画大綱に関する
議論の出発点になるべきじゃないんでしょうか。それがなければ、これはソラーナさんの
発言と一緒で、学者の
議論は要らぬという話になるわけでございます。陸海空の幕僚長、あるいは統幕議長、その
経験者の皆さん方とこの件について話し合ってきた結果を申し上げても、大体
共通認識としてはその辺があるわけでございます。
このような戦力投射
能力を欠いた
日本の
防衛力の現状を受けて、大まかには二つの選択肢があると考えられます。
一つは、戦力投射
能力まで備える
方向に行く。だから、これはもう自立した
軍事力を目指す。そこにおいては、米国がそういう
日本の動向は望まない、だから日米摩擦を覚悟でやるだけの勇気があるのかどうかという問題でもあります。最悪の場合は
日米同盟解消ということもある、そこまで視野に入れてこの選択肢を取るのかどうかということも突き付けられてまいります。
もう一つの選択肢としては、戦力投射
能力を持たない現状を踏まえて、この
軍事力の構造で進むんだ、そして足りない部分は
日米同盟で補っていく、補完をする、そのことを公式に表明をするという
方向でございます。この二つぐらいが選択肢としては大まかに考えられるだろう。
もちろん、現実的なのはこの二番目の選択肢でございます。この選択をいたしますと、戦力投射
能力がない
日本について、まず政府が公式に表明をするということにもなるでしょう。また、その現実についても、各国も改めて再評価をすることになるでしょう。その中では
軍事大国化などという言い掛かりを付けられなくなるということがはっきりあるわけでございます。周辺諸国も
日本の現実を分かっているわけでありますけれども、今のところ、政府の
外交安全保障構想の中での公式表明がないから言い掛かりを付けてくるという面がある。
だから、これは一昨年の夏、
日本にいる
中国の
外交官、軍人、学者、ジャーナリストを集めて、私自身、
日本の
軍事力の現状というスピーチを二時間ほどやらされた。でも、
最後に彼らが言ったのは、我々が間違っていましたという話なんです。
ただ、政府同士の間での
議論は、やはりもうちょっと違うニュアンスがずっと続くだろうと。ただ、
日本の
軍事力を使ってどうやって
中国大陸攻めるんだ、朝鮮半島に軍を進めることができるんだということを
中国の軍人に常に私は突き付けてきている。できるとしたら、これは手品だよ。いや、それはもう向こうも分かるわけです。そういったことをきちっと
日本として明らかにするということですね。そういったことになりますと、周辺諸国の懸念や反対が出ない環境において、国際平和協力活動などに
自衛隊をフルに投入することもできるようになるだろうという話なんです。
同時に、
日米同盟の現状を直視する必要があるだろう。
日本は
アメリカの
戦略的根拠地、英語で申しますとパワープロジェクションプラットホームであります、これを最初に明らかにする作業がたまたま私の手で行われた、これは一九八四年の夏でございます。それまでは、
日本は
アメリカに守られているんだから、
アメリカに文句を言ったら安保を切られるという
議論で
外務省、
防衛庁のかなりな部分までが来ていたわけであります。
調査したことがなかった。それについて私は、
アメリカ政府の正式な許可を得て全部基地を歩き、基地司令官の聞き取り
調査を行い、
国防総省の資料を基に
国防総省にブリーフィングを求め、それをまとめたら、違うじゃないですか。
アメリカの
同盟国の中で、
アメリカが
世界のリーダーでい続けるためには、
日本が最も重要なんです。
日本なくして
世界のリーダーでいられないということははっきり出てくる。
日本ができないのは、
アメリカが望んだ結果でありますが、
米軍と一緒に
自衛隊を戦場に出すことだけであります、
日本の
防衛以外の戦場にね。そこのところをきちっと押さえなきゃいけない。
で、
日本列島を足場にしている
アメリカの
軍事力は、非常に大まかに言いますと、地球の半分でございます。これは、ハワイから喜望峰までの範囲で、インド洋のすべてと太平洋の三分の二を含みます。もっと具体的に言うと、ハワイは西経百六十度、喜望峰は東経十七度。この範囲で
行動する
米軍は、全部
日本列島に支えられていると言っても過言ではありません。昨今
アメリカが言っております
テロの温床にもなりかねない不安定の弧というものも、大部分ここに含まれてくるわけであります。そして、大事なのは、
日本に代わって
アメリカの
戦略的根拠地になれる国はないということです。だから、
日本が
日米同盟を解消することを
アメリカは一貫して恐れている。
それはどういうことかといいますと、基地を造るとかなんとかという話じゃないんです。
アメリカと同等の工業力や、失礼、これ「
軍事力」と書いてありますが技術力でございます、技術力の間違い。工業力、技術力がなければ、最先端を行く
米軍を支えられないわけであります。ほかにどんな国があるのと。全くない。そこを押さえなきゃいけない。
ですから私は、
日本の政府の方が
日米同盟解消したらどうするんだという話をなかなか
アメリカ側とできないから、私などが出席していい場所では、折に触れて
アメリカ側に突き付け、いや、
日本なしでは
世界のリーダーでいられないという言葉をもらってきております。
最近でいいますと、去年の三月に
アメリカのジョージ・ワシントン大学で日米、特に沖縄問題に関するフォーラムをやったとき、
アメリカ側の
出席者に対して一人一人これは聞いていきました。もちろん
国防総省の制服組も全部来ている。その中で、
日本なしに
世界のリーダーでいられるか、日米安保を
日本が切ったら
アメリカは
世界のリーダーでいられるか。皆さん、いられないとはっきり答えている。これは、日米安保がなくなれば、
日本が失うものも大きいけれども、
アメリカが失うものはもっと大きいということです。それを
共通認識として持ちながら、お互いの
国益のために
同盟関係を使っていくということが必要だということですね。
やはり
日本は、この現実に対して
責任ある、しかも原理原則に基づく
姿勢を示す必要がある。少なくとも、この地球の半分の範囲の安定のために日米安保を機能させる
方向を示すことなど、非常に有効ではないかと思います。
そういったことを考えますと、国際平和協力活動に
自衛隊を投入できるための環境を整える、つまり周辺諸国から言い掛かりを付けられないなどの条件を整えていく営みはしなきゃいけないだろう。そして、そういう中で、
アメリカをリードするほどのかかわりをして初めて、私が使っている言葉で申し上げますと、
日米同盟の平和化というものが
実現するんじゃないか。
それは、一九九二年当時、私がこういった問題を提起したら、同じ時期、たまたまでありますが、当時
国防総省の次官補であったジョセフ・ナイさん、彼も同じような内容の問題提起をしていて、考えることは似たようなことになるんだなという印象を持ったのを覚えております。
とにかく、
防衛計画の
大綱なるものは
防衛戦略でなきゃいけない、先ほど
樋渡参考人もおっしゃったような
お話でございます。だから私は、今まで
お話しいたしましたような前提を抜きにして単にこのような
安全保障関係を踏まえて言うのは、
大綱の話じゃないということなんです。そこのところは欠け落ちている。
防衛計画の
大綱は、言葉を換えれば
防衛戦略なんです。だから、どのような国を我々はつくろうとしているのか、どのような
防衛力にしようとしているのか、これは避けられない
議論なんですね。とにかく環境が変わっています、ファッション変わっています、流行が変わっています。そういう中で衣装や化粧品、つまり
組織の改編や装備品の更新の話でごまかしてはならないテーマなんですよ。そこのところが欠けているんじゃないか。そういうところまで整理して初めて、
防衛計画大綱と一連のものになっております中期
防衛力整備計画の中身を明確な根拠を持ったものとして説明できるようになるんじゃないか、そういったことを私は
防衛計画大綱、あるいはそれに至る
議論について印象として持っていたという
お話をさしていただきました。
どうも御清聴ありがとうございました。