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参考人(
袴田茂樹君)
袴田でございます。
衆議院だけでなくて、参議院でもこのような会が持たれていることを大変高く評価したいと
思います。また、こういう
機会が、
発言の
機会が与えられたことを大変うれしく思っております。
私自身は、現在、私が座長をしております
安保研のメンバーとして一九七三年から
ロシアとこの平和
条約問題の
解決のための
民間レベルでの話合いをする、その努力を積み重ねてまいりました。昨年も、
ロシアの上下院の
有力議員たちと何回か
意見交換をしました。
マルゲロフ上院外交問題委員長はこういうことを言っておりました。
是非とも
日本を
訪問して平和
条約問題について徹底的に
日本の
専門家や
国会議員と議論をしたいと、この問題について本当の本音のところを知りたいんだということを言っておりまして、それで、近いうちに彼は
訪問したいという意向を持っております、
国会議員何人かを引き連れて。そういう
国会議員に皆さんの方もお会いして、彼らがなるほどそうだったのかという形で納得するような、そういう理論武装を
是非ともしっかりしていただきたいと願っております。
さて、
皆様のお手元にお配りしております
意見陳述の概要に従いまして私の
意見を述べさせていただきたいと
思います。
まず、一番目ですが、
日ロの平和
条約問題に対する
ロシアの姿勢をどう
理解すべきかということでございます。
今、
小泉さんの
発言にもありましたけれども、昨年の十一月から今年の一月にかけまして
ロシアのラブロフ外務大臣、それから
プーチン大統領が何回か
日ロの平和
条約問題に言及しております。
ロシアの首脳は、この問題を
解決しなければならないという
認識は持っております。それから、昨年の十月に中国との間で
領土問題を最終的に
解決いたしました。
日本との間でも、この
日ロ間の
関係をぎくしゃくするものにさせているこの問題を何とか
解決したいという、その意欲は持っていると私は見ております。
では、二番目に、
ロシアの対応に対してどう
日本は評価すべきか、またそれに対して
日本はどう対応すべきかという問題であります。
ロシアは、一九五六年の日
ソ共同宣言にのみ触れまして、最近の首脳の
発言ですけれども、
東京宣言は無視する形の
発言に終わっております。日
ソ共同宣言では、平和
条約を締結して
歯舞、色丹の二島を引き渡すという
合意ができているわけですが、
東京宣言で初めて四島の帰属問題を
解決して平和
条約を締結すると
合意したわけですから、当然この両方の宣言が有効であるということを両国が認めている以上、一方のみに触れるのはこれは不誠実であると、また
合意に対する違反であるとはっきり指摘する必要があると
思います。
しかし、
ロシアの首脳が
日本との間で平和
条約を締結することの必要性をテレビを通じて
国民に説いたということ、つまりこの問題を何とかしようという姿勢を見せたということ、このことは私は肯定的に評価してもいいのではないかと。
したがいまして、
ロシアの首脳の
発言は確かにこれまでと変わったことを言っているわけではない、
日本の
政府代表も公式的には検討に値しないという
発言もいたしましたけれども、しかしこのアプローチだけでは不十分、つまりこの
ロシアの首脳の
発言に
日本政府や議会も関心を示し、その一定の意義は認めているんだということを
ロシア側に
認識させる必要があると私は考えております。このことに関連して、実は今日こちらに来る前に谷内外務次官とじっくり話をいたしました。外務省の首脳も今私が述べたことは十分
理解されていると今は考えております。
それから三番目に、
ロシア側の最近の
発言の中には、
歯舞、色丹の二島のみを引き渡す、それが嫌なら一島も
返還しないという、そういう意味の
発言をしておりますが、これをいかに評価すべきかという問題であります。
これから
交渉を始めようというときに、
ロシア側がこういう、どういいますか、ある意味で固い姿勢を示す、これは私は当然だと思っているんですね。
交渉を始めるとき、
ロシア人のメンタリティーとしてバザール的な取引の、そういう感覚の強い
国民であります。最初から落としどころを言うはずがないわけですよ。そういう意味では、この
発言は
交渉の始めとしては当然であって、したがって、この
発言を額面どおりに受け取って、これを
ロシアの最終的な態度だと、もうこれはお話にならないという、そういう対応をすべきではないのではないかと考えるわけであります。
それから、
ロシアが五六年宣言を認めるというのであれば、じゃ取りあえずこの二島を
返還してもらって、残りは継続協議とか、あるいは様々な形で暫定的な措置を取ったらいいじゃないかという
意見が考えられますし、既にそういう
意見は
国会議員の
方々も含めて
発言をされております。
この問題について、私は、取りあえず二島論は実は論理的にあり得ないんだということを
是非とも皆さんにしっかり
理解しておいていただきたいと
思います。
といいますのは、この
ロシア側の五六年宣言の
理解、これは
日本も共通の
理解をしている点は、平和
条約を締結後に
歯舞、色丹の二島を引き渡すということであります。したがいまして、たとえ、取りあえずといいましても、平和
条約なしに
ロシアが
歯舞、色丹を
日本に引き渡すということはあり得ない。じゃ、いったん、それだったら、それでは平和
条約を締結して、その後、国後、択捉問題は継続協議にしたらどうかという
意見もあるわけです。
歯舞、色丹は
返還させて、国後、択捉は暫定的に共同開発とか共同管理とか、そういう考え方も出るかもしれません。
しかし、すべてそれが終わったときに平和
条約というのがあり得ないのであれば、つまり二島をまず
返還させて、それからその後暫定的な措置を取って、すべてが終わったときに平和
条約というのが論理的にあり得ないのであれば、平和
条約締結後に国後、択捉の継続協議をするということになるわけですけれども、平和
条約というのが戦後処理が最終的に終わったということを意味する以上、平和
条約締結後に
ロシアが本気で国後、択捉の
返還交渉を行うということは、これも考えられないことなわけですね。
そういう意味で、論理的に考えて、どう考えてみても取りあえず二島を
返還してもらうということはあり得ないんだということ、このことをしっかり
理解していただきたいと
思います。
では、その
解決のために
日本はどうすべきかということですけれども、当然のことながら
東京宣言というもの、これは、ただ細川さんとエリツィン大統領が、細川首相とエリツィン大統領が
合意しただけではなくて、その後、
プーチン大統領も含めまして
ロシア側の首脳及び
政府レベルで何回もこれは確認していることで、宣言であります。したがいまして、この
東京宣言に従って四島の帰属問題を本気で真剣に
交渉するということ、このことを始めるということが基本的に重要なことであります。
ロシアは、これまで
東京宣言を認めながら、国後、択捉の帰属問題について本気で話し合ったことは一度もありません。したがいまして、これをまずするということですね、
合意に従ってということ、このことがまず重要なことだと
思います。
それから、四島の帰属問題を真剣にといいましても、日
ソ共同宣言に従いますと、平和
条約締結後、
歯舞、色丹は
日本に引き渡すということになっているわけですから、実質的には四島の帰属問題の
交渉ということは、国後、択捉の
主権問題、帰属問題の
交渉ということになります。この
交渉に当たりまして、
日本側も川奈提案をいったん引く必要があると私は考えております。もちろん、川奈提案というのは、皆さんも御存じのように、この四島の北に国境線を認めるならば
返還の時期とか様態は柔軟に考えてもいいということでありまして、四島の
主権をまず認めるということを述べているわけですが、この川奈提案を認めることを条件にするという
立場を
日本が取るならば、
主権の問題を、四島の帰属問題を
交渉しようというときに、その前に四島が
日本に帰属することを認めよと、それが条件だということになると、論理的にこれはこの
交渉成り立たないわけですから、私は、
国民運動として、また
日本の
国家の目標としてその四島の
主権は
日本のものであるというのは、これは当然だと思うんですね。しかし、
交渉の論理としては、いったんその川奈提案は白紙にすると、
交渉の論理としてはね。でないと
交渉にならないということであります。それについては今日の産経新聞の「正論」をごらんください。
最後に、では平和
条約問題
解決の諸条件は何かということでありますけれども、最終的にはこれは政治的な、両首脳の政治的な決断が必要であると私は考えております。つまり、歴史的な議論とかあるいは法的な、国際法的な議論を積み重ねれば、自動的にじゃどちらが正しい、こうしましょうという結論が出るわけではないということですね。
この政治的な決断を行うためには三つの条件が必要だと考えております。一つは、両国に安定した政権が存在する。といいますのは、これは一方だけが完全に勝ったという形の
解決があり得ないとしますと、双方が何らかの譲歩を迫られる。当然、両国に不満、批判も起きます。それを抑えるだけの安定した政権が必要だということ。二つ目に、この政治的な決断を行うためには両首脳間に信頼
関係が成立するということですね。それから
最後に、この
領土問題の
解決、平和
条約の締結は単に
日本だけではなくて
ロシアにとってもメリットなんだと、メリットということを
ロシア側にしっかりと
理解させるということ。この三つの条件が必要だと私は考えております。
以上で私の
意見陳述を終わらせていただきます。
御清聴ありがとうございました。