○小泉(龍)
委員 小泉龍司でございます。
ちょうど十四年ぐらい前になるんですけれ
ども、私も財務省から出向の形でニューヨークのコロンビア大学に留学をしておりました。ちょうど
竹中大臣も、私も客員研究員だったんですけれ
ども、同じ客員研究員で、机を並べたというほど近くはありませんでしたけれ
ども、同じ時期にアメリカというものを見てきたわけでございます。
竹中大臣は当時から流暢な英語をしゃべられた。私は英語が大変苦手でしたから、そこから道が分かれるんですね。
きょうは、正反対の立場から、こうして十四年ぶりに、もちろん日ごろ対面はしておりますけれ
ども、議論をさせていただくことになった。どうしてこういうふうに道が分かれたんだろうということを
考えてみました。私はアメリカの悪い部分を見、
大臣はアメリカのいい部分を見てこられたと思うんですね。
アメリカの悪い部分。当時、既にアメリカのトップ一%の高額所得者というのが、全米の国富の、これは土地も
金融資産も含めて、四〇%をひとり占めしておりました。ちょうど私が選挙に出たころです。そして今、その占有比率は五〇%に高まってしまっている。
また、航空自由法という規制緩和がありました。鉄道の規制緩和もございました。バス
事業の規制緩和もございました。航空自由法が
施行されまして、全米で航空機の運送
事業が自由化される。結局、何が起こったかというと、ワシントンとニューヨークの間だけ一生懸命飛行機を飛ばすんですね、そこがもうかるから。もちろん民がやることは、もうかるところに行かなければ株主に対して責任が果たせない。結果として、その法案に賛成した上院議員の地元も含めて、全米で百以上の地方空港が閉鎖になりました。今度の基金と同じでございます。ちょうど同じなんですが、一部、三十数カ所はコミューター航空の補助金が出ました。やがてこれが打ち切られました。そして、その法案に賛成した上院議員が慌てて異を唱えたけれ
ども、もう遅い。鉄道
事業についても同じことが起こりました。全米で千二百のステーションが閉鎖をされた。バス
事業は、全米で五千のバスターミナルがなくなりました。
私がコロンビア大学で学んだのは、この厳然たる事実でございます。もうかるところしか投資をしない、やがて地方は切り捨てられる。これはちょうど
郵政民営化の議論とダブるんですね、同じになる。コミューター航空の補助は基金とそっくり、こういう思いが私にはありまして、自民党の部会で、最初はそれほどこだわりを持たずに議論に参加しておりましたけれ
ども、政府とやりとりする間に、どうもこれはおかしいんじゃないかと、かたい反対論の方に私は流れていったわけでございます。
今回の
郵政民営化法案の本質は何か、レントゲン写真を当てますと、それはやはり、郵貯、簡保を
完全民営化する、これがエッセンスだと思うんですね。その結果、裏側で、
金融のユニバーサルサービスが
廃止をされるということになります。郵貯法そして簡易生命
保険法が
廃止をされまして、
郵便貯金制度がなくなります、簡保制度がなくなります。
郵便局というのは
郵便窓口
業務をやる営業所という位置づけになるわけでございます。
もう一つ、二番目の問題点は、四分社化でございます。これは、一つの
企業を生体解剖するように、無理やり生木を裂くように四分社化するわけです。非常に机上の議論だというふうに直観的に大勢の方が感じている部分でございます。本業を持たないネットワーク
会社、本業がないんですよ、受託
業務だけじゃないですか。本業はコンビニをやるということですけれ
ども、そこはまた後ほど議論しますけれ
ども、千三百ぐらいのところでできるかな。
世界にこういう例があるのだろうか。支店のない
銀行、本業のないネットワーク
会社、支店のない
郵便事業会社、いかにも学者の机上の議論ではないか。
大臣はもう学者じゃないですから、個人攻撃ではありませんよ、政治家ですから。学者さんの机上の議論だなとみんなが不安を感じている。マーケットで自由競争をしたときにこんな不自然な
経営形態が生まれてくるんでしょうか、マーケットの競争の中で。そうじゃないと思うんですね。人工的につくり出された
経営形態、絶対もたないですよ、いずれおかしくなる。そのときに国民負担が出てくる。
最初、ちょっと演説になって申しわけないんですけれ
ども、論点を少し浮き上がらせたいので、議論をもう少し、二、三分させていただきたいと思いますが、そういう
経営形態の問題があると思います。
それから、我々は少しタイムスリップをしていると思うわけでございます。今、
民営化が必要だ、規制
改革の流れの中で、小泉
改革の流れの中で必要だと。だけれ
ども、これが実現し、実際に稼働する、我が国の社会にビルトインされるのは十年後以降の話でございます。そのときの我が国の高齢者比率は何%になっているんでしょうか。二六%余りの高齢化比率を持つ、そして国債発行
残高が今から三百兆、四百兆さらにふえる、そういう社会です。そこでこの
民営化が実現するんですね。
十年以降先の
日本国民に対して、我々はこの
民営化法案で責任をとれるのか。タイムスリップしているんですよ。今
民営化するんじゃないんです。十年後から先の国民にこれを渡すときに
日本がどういう社会になっているのか。右肩上がりではないと思うし、また官と民の議論からいえば、パブリックというものがより重視される、そういう社会になっているのではないかと私は思います。
もう一つ、アメリカの圧力ということもしばしば取りざたをされます。
日米の間に年次
改革要望書というものがございまして、毎年秋にアメリカから
日本国政府にこれが渡されます。九百人の中央省庁の課長さんにこれが切り分けられまして、一年後のフォローアップに向けてちょっとずつ譲っていく。だるまさんが転んだみたいな形でちょっとずつ譲っていく、数多く。気がつくと、この年次
改革要望書の項目はほとんど実現されているわけでございます。
日本の近未来を見るには、将来投資のために株を買うならこの年次
改革要望書を見ろというふうに言われているぐらい、きちっとこれが反映されている。ここに、
保険アジェンダから始まって、今は
郵政民営化がきめ細かく、内政干渉と思われるぐらいきめ細かく、米国の要望として書かれているわけでございます。
こういうアメリカの圧力、そして十年後に責任を持てるのか、アメリカで起こった事実、最後に、官から民へ。
この後
大臣の感想を聞いて各論に入りますけれ
ども、官から民へという言葉を一国の指導者が四年間リピートすれば、これは一番きくんですね、みんなそうだと思ってしまう。一般人が言うのとは違います。一国の指導者、総理が、官から民へ、官から民へ、官から民へ、これはみんな官と民しかないと思ってしまうわけでございます。
アメリカは官と民しかないけれ
ども、ヨーロッパの政治理念の根幹は社会的連帯でございます、社会的連帯ということがございます。
一八三〇年代に資本と労働の対立が激しくなった後、ヨーロッパの政治は二通りに分かれました。一つはマルクス・レーニン主義です。共産党の方がおられますけれ
ども、その道と、そして、自由主義の中で社会的連帯を基本に据える政治理念が起こりました。パブリックです。権力は、腐敗をする、怠惰である、サボる。民も、努力をする、創意工夫がある、しかし利益第一主義である。真ん中にパブリック、みんなのために大勢が助け合う。
国民年金の仕組み、介護
保険の仕組み、
郵政三
事業の仕組み、環境税の仕組み、農業直接所得補償制度の仕組み、これはヨーロッパの政治理念から出てきている
考え方。官から民への間にパブリックがあるんだ。こういう点も、
郵政民営化反対論の我々の心の中に、政策論として、哲学論としてあるんですね。どうして交わらないのかなと。
郵政民営化合同部会で三十三回議論をしたけれ
ども、議論が交わらないんですよ。どこかですれ違うわけです。
大臣は、マーケットは信じていいんです、マーケットは失敗するけれ
ども、マーケットの失敗が続くことはないんです、こうおっしゃいますが、我々は、アメリカの所得分配の
状況、アメリカの規制緩和の
状況、ヨーロッパの政治理念、そういうものを見たときに、根本論において、やはり一度、抽象論になってしまって申しわけないんですが、
大臣のお
考え、できれば総理のお
考えをと私は思っておりましたので、前置きの演説のようなものが大変長くなりましたが、今の論点すべてつぶさなくて結構ですから、御感想がありましたら、
大臣の本音がありましたら、ぜひこの機会に国民に向かってお話しいただきたいと思います。
大臣、いかがでしょうか。