○辻惠君
民主党の辻惠でございます。
ただいま
議題となりました
刑事施設及び
受刑者の処遇に関する
法律案について、
民主党・
無所属クラブを代表して
質問いたします。(
拍手)
まず、
質問に先立ち、本日、日本
歯科医師政治連盟の元常任理事内田裕丈被告に対して、懲役二年六月、執行猶予五年の判決が下されました。判決の要旨として、政治活動の透明性確保という法の
趣旨に反した悪質な犯罪である、
国民に多大の疑惑を抱かせ、
制度への信頼を損なった、そして、橋本元首相に一億円を交付したという事実を認定しております。
この問題の解明については、
国民の九〇%の皆さんが強くその解明を要求している。まさに、これにこたえることが議会としての
責任を果たすことではありませんか。この衆議院本
会議の意思として、橋本元首相を初めとした証人喚問を実現していくこと、このことを強く訴えたいと
思います。(
拍手)
小泉政権が
発足して四年間、この間に日本の財政赤字は雪だるま式に膨れ上がり、その矛盾は、年間自殺者三万五千人、自己破産者二十四万人という数字となってあらわれております。一体、
小泉政権は、日本の現状をどのようにとらえ、未来に向けてどのように希望をつくり出そうとしているのでありましょうか。
小泉政権の一連の
政策に、未来を展望した確かな構想を感じることはできません。本
法律案もまたしかりであります。日本の二十一世紀の行刑をどのように構築するのかという一貫した理念を見出すことはできないのであります。速やかな
政権交代が必要となるゆえんであります。(
拍手)
まず、
法律案の立法事実についてであります。
日本の行刑
制度に関する法制は、一九〇八年の監獄法の制定を嚆矢とします。当時は、行刑
制度が
法律に
規定されることはまれな時代でありましたが、その後百年近くにわたり実質的な改正が行われず、このため、日本の行刑は、特別権力
関係を強調した規律秩序偏重のまま推移し、国際的な行刑理念、基準から大きくおくれをとっております。行刑に関する国際準則として、一九五五年に国連で定められた被拘禁者処遇最低基準規則に照らせば、今日の日本の行刑がいかに国際基準にもとるものであるのかは一目瞭然であります。(
拍手)
二〇〇一年十二月から二〇〇二年九月にかけて名古屋刑務所で発生した
受刑者の死傷事件は、今日の日本の行刑
制度が必然的に生み出したものと言うことができます。保護房収容や革手錠等の戒具の使用など
全国の監獄施設の実態は、一刻も早い規律
優先から
受刑者の人権尊重への転換を迫るものであります。
これまでも、一九八〇年代以降、現行監獄法の改正は三度にわたって試みてこられました。しかし、各
改正案は、代用監獄の恒久化を図るものであり、かつ、未決、既決の被拘禁者の人権保障が極めて不十分であることもあって、現在まで改正されるに至っておりません。今や、端的に
受刑者の人権保障のための監獄法改正を行うべきときであります。そして、二十一世紀の未来に向けた日本の行刑を真剣に構築しなければならないときであります。(
拍手)
そこで、立法目的として、日本の行刑の目指すべき方向性について述べたいと
思います。
名古屋刑務所事件を契機に
発足した行刑改革
会議は、二〇〇三年十二月の同
会議提言において次のように述べております。
国民の目が刑務所の中に届き、また、その声が伝わり、そして、刑務所の中の声が
国民に伝わってくることが、最も大切なことではないかと確信した。
かつて他人の人間性を踏みにじった
受刑者の人権を尊重する必要などあるのかという声も
国民の中にあるかもしれない。また、
受刑者のために一層の
コストをかけることに対して抵抗感を抱く
国民もいるかもしれない。しかし、我々は、
受刑者の人権を尊重し、改善更生や社会復帰を図るために施す処遇を充実させることに要する
コストを無駄なものとは考えない。むしろ、今、必要不可欠なものである。なぜなら、この改革において実現される処遇により、
受刑者が、真の意味での改善更生を遂げ、再び社会の担い手となるべく、人間としての自信と誇りをもって社会に復帰することが、最終的には
国民全体の利益となるものと考えるからである。
まさに、この提言やよしとしなければなりません。(
拍手)
行刑の基本理念が、
受刑者の社会からの隔離、そして
受刑者の改善更生及び社会復帰の促進にあることから、
受刑者の処遇こそ行刑にとって最重要の課題です。罪を犯した者を、真の意味で改善更生させ、円滑な社会復帰をさせることが重要であり、このためには、単に刑務所に戻りたくないという消極的な形にとどまるのではなく、各
受刑者が、人間としての誇りと自信を取り戻し、自発的、自律的に改善更生及び社会復帰の意欲を持つことを導き出すことのできる処遇を実現していかなければならないのであります。
そのためには、まず第一に、
受刑者が人間としてその人権を十分に尊重されることが必要であります。具体的には、
受刑者の権利義務が明確化され、外部交通権、医療や不服申し立て
制度を初め、人間としての尊厳を保持するための諸権利が保障されなければなりません。
次に第二に、
受刑者が人間性を尊重されるためには、行刑施設の職員もまた、みずからの職務に使命感と充実感を持ち得ることができていなければなりません。職員の人権意識の涵養を図るとともに、職員の権限を明確にし、健全な執務環境を確保することを不可欠といたします。
そして第三に、何よりも
受刑者の特性に応じた実効的な処遇がなされることが重要であります。作業時間を短縮するなど刑務作業の
内容を見直すとともに、カウンセリング、教誨、教科指導、生活指導などの刑務作業以外の処遇や治療の充実、豊富化が図られる必要があります。
この処遇の充実に当たっては、
受刑者に対して
特定の職員が個別指導するという、これまでの日本行刑に特有な担当制の弊害が除去されなければなりません。担当職員の裁量が大きく生殺与奪の権を与えることとなる担当制と、担当者のいわばさじかげんによって昇級が決まるという累進処遇
制度とが相まって、日本の行刑は規律偏重が常態化してきているのです。
さらに第四に、このような処遇を実効あらしめるためには、施設内処遇と社会内処遇の円滑な移行が図られなければなりません。円滑な社会復帰が実現できるためには、
受刑者が入所した時点から、施設の処遇計画と並行して保護観察官を関与させることが有用であります。行刑施設と更生保護機関とがより一層連携を密にして、具体的な方策を煮詰めることが喫緊の課題なのであります。(
拍手)
それでは、本法案の
内容はどうなのでありましょうか。
本法案は第一条で、
刑事施設の適正な管理
運営を図ること、
受刑者等の人権を尊重すること、そして適切な処遇を行うことという三つの目標を掲げております。人権保障と適切な処遇を目的として掲げ、従前の規律
優先の行刑から脱しようとしていることは、遅きに失したとはいえ、相応の
評価がなされるべきであります。
しかし、本
法律案が行刑の中核たる
受刑者の適切な処遇を実現する理念で貫かれているかについては疑問があります。
すなわち、
刑事施設の長が主体となった
規定が多く、また法務省令への委任となっていて、
受刑者の権利義務
規定として不十分である。拘禁条件を含んだ待遇という意味での広義の処遇と、
受刑者の社会復帰に向けた働きかけという積極的な
施策を指す狭義の処遇という概念が混在して、統一的に使用されていない。現行担当制が温存されており、
受刑者の矯正処遇が実務上どう実現されるのか不明である。外部交通権の保障、不服申し立て
制度等
受刑者の権利
規定が不十分であり、かつ、警察庁長官の巡察など不必要な警察留置場
規定が盛り込まれている等だからであります。
そこで、各大臣に対して、次のとおり所見を伺います。
まず、法務大臣に対して、第一に、
受刑者の処遇の原則について、自発性、自律性に基づくことを原則としながら、矯正処遇の
内容としては作業、改善指導、教科指導が
規定されているだけであり、これだけでは、自発性、自律性がはぐくまれることにならないのではないでしょうか。
第二に、行刑累進処遇令を廃止して、受刑態度の
評価に応じた優遇
措置を講ずるものとされておりますが、従前の担当制が変わらない限り処遇の実効性はなされないと考えますが、担当
制度をどのように改善するおつもりでありましょうか。
第三に、「矯正処遇は、必要に応じ、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識及び技術を活用して行う」とされておりますが、専門家以外に職員が関与することは予定していないのでありましょうか。
第四に、施設内処遇と社会内処遇との連携について、具体的にどのような
施策を講ずる予定なのでありましょうか。
第五に、
受刑者の権利義務についてであります。
面会、信書、書類閲覧などの権利制約の要件をより限定すべきではありませんか。
一日一時間の運動を
法律上保障することに支障があるのでしょうか。
受刑者の居室を単独室とすることを
法律上の原則とすることに支障があるのでしょうか。
申し出のあったときに診療義務があることを明確にすべきではないでしょうか。
医療の充実をどのように図るおつもりか。
以上、お答えいただきたいと
思います。(
拍手)
次に、厚生労働大臣に対して、矯正施設内における医療水準について、どのようにお考えでしょうか。刑務所といえども、医療
分野においては厚生労働省の管轄下に置き、法務省との連携を図った方がより妥当なのではありませんか。
さらに、
総務大臣に対して、行刑改革
会議の提言で、
国民に開かれた行刑ということが強調されております。これを実現していくためには刑務所と地域社会との連携を深めることが重要と考えますが、そのために
地方公共団体が果たすべき役割について、どのようにお考えでしょうか。
最後に、国家公安
委員長に対して、警察留置場に関する
規定は来年にも改正が予定されております。必要最小限の今回の改正とすべきではありませんか。
以上、総括的に述べれば、今日の社会は、行刑の基本理念が前提としていた従前の社会と異なってきており、処遇にとってより困難な
状況が現出しているのであります。すなわち、行刑施設は恒常的な過剰収容状態にあり、その上、高齢
受刑者や在日外国人
受刑者が増加し、また、さまざまな価値観や生活歴を有する多様な
受刑者が収容され、さらに精神に障害を有する等の処遇困難
受刑者の数もふえているのであります。
そして、
小泉政権のもとで、行刑目的の実現を困難にする社会
状況をより拡大する
施策が、無自覚、野方図にとられております。自由競争という強者の原理に基づいて、日本社会の二極分化はさらに強まっており、しかも、刑法の重罰化のような犯罪者への敵対感情と排斥意識を助長する治安重視の法案が、法制審への諮問から一年も経ないうちに、思慮深い検証もないまま拙速的に導入されているのです。
応報と教育という刑罰の機能は、階級・階層対立を顕在的に意識させない日本の市民社会の柔構造のもとで、十全ではないにしても、曲がりなりにも機能してきました。しかし、今やこの柔構造は切り裂かれつつあり、そもそも改善更生の意欲を持ち得ない
受刑者や、社会生活に適応する
能力を欠如した
受刑者が増加しているのであります。
法務大臣は、極めて無邪気に、しかも思慮もなく、刑法の重罰化により規範意識が醸成されるなどと官僚の作成した浅薄な
答弁を棒読みされましたが、みずからの行為が日本の社会を取り返しのつかない方向に切り裂き、ひいては本
法律案の目的とする矯正処遇の前提を覆すことになっていることの自覚をお持ちでしょうか。