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海渡参考人 皆さん、おはようございます。
私は、
日本弁護士連合会を代表しまして、今回
提案されております
構造改革特別区域法の一部を改正する
法律案、その中のとりわけてPFI手法による刑務所の整備、運営
事業の導入に関して、
基本的に賛同する
立場から若干の問題点を指摘したいというふうに思います。
今回指摘されておりますPFI手法による刑務所の整備というのは、イギリス、アメリカ等で
実施されております刑務所の民営化というものとは根本的に様相の異なるものであります。
イギリス、アメリカで行われております民営刑務所というのは、すべてのスタッフを民間
企業が担い、公権力の行使そのものを民間会社にゆだねてしまう、こういうスキームになっております。それに対して、今回
日本で導入されようとしておりますPFI手法による刑務所の整備、運営
事業、以下PFI刑務所と言わせていただきますが、ここでPFI
事業者が行う業務というのは、資金の調達、それから刑務所の運営業務に関連しては非権力的
部分を運営するということに限定されております。
現実の刑務所の運営は公務員と民間職員が混合して運営するという方式になっておりまして、職員全体の中に公務員はかなりの程度を占めるというふうに言われております。そういう意味で、我々としては、この
制度は十分容認できるというふうに考えているわけです。
日弁連のまとめました、これは二〇〇三年九月、行刑
改革会議が活発に
議論をしていた
段階での
意見書、私のペーパーに括弧で囲って重要
部分だけは抜き出しておきましたが、これが現状も変わっておらない
基本的な
立場というふうに考えていただきたいんですが、過剰拘禁の緊急対策として、刑事拘禁施設のある程度の新設は避けられない、しかし長期的には拘禁者数の抑制を
基本とした政策をとるべきである。
新しい刑事施設の建設に当たっては、広い共用スペースがある、夜間は独房で過ごす方式、これは美祢でも実現するようですが、そういうものにすべきである。
刑務所の運営そのものを民営化することについては、財政的なメリットがはっきりしない上に、大きな弊害が予測されるので反対である。この点に関しては、参議院で審議されましたときの議事録を拝見しておりますと、横田矯正局長御
自身が、公権力の行使について民間にゆだねることは法制上できないという
立場を表明されております。この
立場を私どもも歓迎して、今後ともこういう
立場を堅持していただきたいというふうに考えているわけです。
それから、刑務所建設のPFI方式について、問題点は少ないけれども、施設そのものを所有する刑務所
産業というものが生まれていきますと、運営そのものの民営化、刑務所をどんどん建設していく、そういうドライブがかかって、被拘禁者数を減らすという方向よりも、どんどん刑務所の定員をふやしていくというような方向になりかねないということで、その導入にも慎重な検討が必要である。
刑務所の中の非権力的な作用を行う部門、例えば
教育部門、作業
指導、食事の供給、図書館などを外部にアウトソーシングするということは、弊害も少ないし、むしろメリットが見込めるということで賛成である、こういう
意見をまとめております。
本法案についてもことしの四月に日弁連として見解をまとめておりますが、次の二ページに載っております。今回、PFI刑務所は刑務所業務の全体の民営化でなく一部業務の民間委託であるということで、これに賛同するということです。
民間委託される業務については権力的な業務を含まない、公権力の行使にかかわる
部分は公務員の権限に留保されるべきである。これも、この間の国会の
質疑などを見ておりますと、そういうスタンスで法務省は考えておられるようです。
それから、PFI
企業は受刑者の労働から利益を得てはならないということです。この点に関しては、注をつけてILOの二十九号条約の二条の二項の(c)というところを引用しておきましたが、簡単に言いますと、民間
企業が刑務所労働から利益を導き出すことはILO条約で否定されているということです。
ところが、これはもう既に変更されておりますけれども、当初、法務省がお出しになった美祢の刑務所の運営プランには、民間
企業であるPFI
企業が刑務所で生産された物品を保有してそれの売却収入を得られるというスキームがありました。これは確定する前のプランですけれども、それについて日弁連として緊急に、こういう問題点があるということを指摘して、それを削除していただいたという経緯がございます。
削除されているということ
自身は歓迎するわけですが、今後ともこういうことが
実施されないように、この点は法案の十一条の十項で法務省令の中で定めることになっておりまして、法案
自身では触れない
部分なんですけれども、この法務省令の中で、受刑者の労働からPFI
企業が利益を得ないということを明記していただきたいというふうに考えております。
それから、確認すべき事項の、二項を今説明してしまいましたが、一項について、公権力の行使にかかわる業務が含まれないことを確認する必要があるということで、この点も、この間の国会審議などを見ると、かなり細かい点まで御
議論が進んでいるようですけれども、あくまで実際に被拘禁者と接触して公権力を行使するような場面については公務員が
中心になってやる、民間の職員はその補助的業務をやるというふうに整理されているようでございます。
これで結構かと思いますが、現実の運用の中では、実際に民間の職員が刑務所の受刑者と接する場面もあるわけで、そこでトラブルが起こったときなどどうするかといったことをかなり子細に検討して、事前にマニュアルをつくるなり、そういう
対応が必要かと思われます。
三ページ目の刑務所の全面的な民営化の持つ問題点については、きょうは時間もありませんので簡単に済ませたいと思いますが、刑務所の全体を民営化したアメリカでは、むしろ民営化が失敗に終わったということで、民営化刑務所の被拘禁者数が
減少を始めている、そういう
実態があります。
イギリスにおいても、
一定の
成果があったというような報告もありますが、むしろ、イギリスの場合は刑務所に労働組合があります。非常に強い労働組合で、この労働組合が
改革の障害になっているというふうに
政府が考えておられて、ある意味、民営刑務所をつくることによって労働組合に対する牽制をすることで
効果が上がっているというようなレポートがあって、公営刑務所の効率が上がった、民営刑務所を一個つくることによって他の公営刑務所の効率が上がっているから
成果があったというような報告になっております。
本当に民営会社が全体を運営するといったことになれば、利潤の追求によって処遇の質が低下してしまうといった問題も避けられないかと思われます。また、責任の所在が不明確になってしまう。今回の法務省さんが立てられているスキームでは、あくまで公権力の行使にかかわる
部分は公務員がやられるということですから、こういう問題点は一応回避されているというふうに考えます。
最後のページですけれども、「PFI刑務所に期待する条件」としましては、今回のPFI刑務所は、国家財政が逼迫している中で新たな予算化が難しい中で、刑務所新設の予算の捻出のためのプランとして考えられたものと
理解しております。苦肉の策であるとはいえ、新たな刑務所の設置にこぎつけるためにはこういう財政手段しかなかったという意味では十分
理解できるというふうに考えております。
しかし、過剰拘禁対策というものの軸足としては、今もうあふれてしまっているわけですから、それを入れるための箱をつくることは当然必要ですが、
基本は被拘禁者数自体を
減少させることに置くべきだ。今後、新たな施設を次々につくって施設の定員をふやし続けるということは避けるべきだと考えます。
この点に関しては、きょうの資料の中に、英文のものですけれども、各国の刑務所の拘禁
人口がどの程度のレベルかという資料を入れておきました。センテンシングプロジェクトというようなもののペーパーで、グラフになっているのでわかりやすいと思いますが、
人口十万人当たりの被拘禁者数がアメリカは七百二十六人、
日本は五十八人です。
日本は過剰拘禁、過剰拘禁と言われていますが、アメリカの十分の一以下なんですね、被拘禁者数の比率としては。インドよりは少し多いですが、
日本は
世界でも最低のランク。過剰拘禁だと言われていますが、現状はそのようなレベルで、厳罰化を進めてどんどん刑務所をつくっていくとアメリカのようになってしまう。民営刑務所を一生懸命つくっているところというのは過剰拘禁がむしろひどくなっているということを御
理解いただきたいと思います。
それから二番目に、PFI刑務所においても、刑務作業の管理と監督に当たる職員は刑務官である公務員であるべきであって、刑務所労働は、ILO条約に従って名実ともに公の機関の監督、運営のもとに置かれることを今後とも実質的に確保していただきたいというふうに思います。
とりわけて強制労働から民間
企業が利益を得ることがないように、この点は今回の美祢の刑務所でもこういうスキームになっておりますけれども、このことを法制上も明確にしていただきたい。そのためには、先ほど申し上げた省令の中にそのことをきちんと織り込むことを国会の審議の中で御確認いただきたいというふうに思います。
医療や
教育、炊事、洗濯など、非権力的な業務については民営化するということについては、当連合会としては賛成でございます。そのことによってこういったサービスのレベルアップが図られる、民間の知識経験を生かすことができるということで、評価できるものと考えております。
ただ、
教育の
分野についてですが、ここにも書きましたが、実は、民間の
方々が刑務所の
教育にかかわるということは既に今までの公営刑務所でも相当幅広く
実施されてきておる。民間の篤志面接
委員といった
方々が相当かかわってこられた。これはボランティアワークとしてかかわってきていただいているわけですが、そういった
部分。さらには、アルコール問題とか薬物問題などについてはNGOの関与みたいなものも進んでおるわけでありまして、こういった
教育部分を
企業化するということも、まあ反対はしませんけれども、むしろこういった個人の方や民間のNGO、
教育機関などを巻き込んでいく、共同していくといったことも今後とも追求されるべきかと思われます。
とりわけて、きょうはちょっと注目したいと思っておりますのは医療の問題であります。
医療については、今次の行刑
改革で、刑務所医療を厚生労働省に移管してほしいということを日弁連は強く申し上げてきたわけですが、なかなかこの点は実現いたしませんでした。行刑
改革会議の提言の中では、この点は諸外国の状況を見ながら今後も検討していくという形になっております。実際に、フランス、イギリスなどでは刑務所医療を厚生労働省所管にするということが現に実現しております。そして、刑務所医療を改善するという大きな
成果を上げておるわけです。
今回のPFI刑務所では、全体の公営の刑務所では実現しなかった民間の医療との連携ということが実現しております。
地域医療機関との連携ということが実現しておりまして、市立病院への管理委託という形で、公営刑務所に先駆けて、厚生労働省の所管する医療機関で受刑者が医療を受けられるという
制度が発足するわけです。これはむしろ
弁護士会としては大賛成です。
このことによって、医療水準がアップする、刑務所の医療が刑務所の保安体制の中に組み込まれてそれに従属しているといった状態を脱却できる、受刑者の刑務所医療への不信感を払拭できる、また刑務所の医療
自身が魅力のある職場となって、今非常に深刻な医師不足なんですが、医師不足を解消するといった
効果が期待されます。これが成功するかどうか、日弁連としても非常に注目しているところであります。
今回、山口県の美祢市に
計画されております美祢
社会復帰促進センターの
構想、これを読ませていただきましたが、開放的な処遇を取り入れる、自立的な
生活体制、集団でのカウンセリングをするとか、遮へいのない面会室をオプションとして取り入れるとか、ヨーロッパ式と言っていいと思うんですが、新しい刑務所体制をここで実験的にやってみようという、非常に意欲的な
計画となっております。
もちろん、日弁連の
立場からいいますと、こういうことは大賛成なんですが、別に公営でも同じことをやっていただいていいはずで、PFIでなければできないというものではないんですけれども、ただ、既存の刑務所を一気に変えることが難しい中で、こういう新しい種類の刑務所をつくって、そこで実験をして成功させて、これを公営の刑務所にも広めていこう、そういう意欲を感じているということで、この意欲的な実験についてはぜひとも成功させていただきたいという観点から
意見を述べさせていただきます。
以上です。(拍手)