○
神田参考人 東京大学の
神田と申します。
本日は、本
委員会におきまして
意見を述べさせていただく
機会をいただきまして、まことにありがとうございます。さっそく私の
意見を述べさせていただきたいと思います。
お手元に一枚紙を配付させていただきましたが、私からは、
投資サービス法の制定の必要性ということと、
企業買収に関するインフラ整備ということの二つについて、お話をさせていただきます。
まず、一番目の
投資サービス法の制定についてでございます。
本日、私は、
投資サービス法という名前を使うことにいたしまして、金融サービス法という名前を使わないことにいたしますが、それには次のような二つの理由があります。
すなわち、第一に、伝統的な銀行
取引分野と保険
取引分野についてはそれなりに業者
ルールが整備されていますが、これらを除いた金融分野につきましては、これを
投資サービス分野と呼びますけれ
ども、横断的な業者
ルールが不在でありまして、かつ、昨今のIT技術もあり、その不在の部分で多様な
投資商品が続出してきています。したがって、そのような伝統的な銀行
取引と保険
取引を除く分野について、
投資サービス法という
投資家保護のための横断的な業者
ルールの整備が急がれるということであります。
第二に、
投資サービス分野につきましては、
市場の番人とでもいうべき強力な
市場監視
体制が必要でありまして、これを
日本版SECなどと呼んだりいたしますが、これは伝統的な銀行
取引や保険
取引ではなくて、それらを除いた
資本市場取引、すなわち
投資サービス分野に必要なことであるからであります。
そこで、(1)の
投資サービス法の必要性についてであります。
日本の金融
資本市場は、伝統的な間接金融から直接金融へその軸足を移すべきことの重要性が叫ばれて久しいわけです。直接金融といいましても、個人の
投資家と
資金調達者との間には、年金ですとか
投資信託ですとかそういった機関
投資家が中に入る形も多いので、これを
市場型間接金融と呼ぶ人もいます。近年は、
企業再生ファンドからラーメンファンド、ワインファンドといったものに至るまで、次々とこのタイプの新しい金融の仕組みが登場し、将来はさらに一層多様な仕組みが
日本に続々と登場することが予想されます。
このような多様な
投資商品の登場は、金融イノベーションを促進し
資本市場を
活性化するものでもありまして、いわゆる貯蓄から
投資へという流れを後押しするものとして、歓迎すべきことです。また、多様な
投資商品の登場は、
投資家にとっても歓迎すべきことであります。それは、
投資の対象が広がり、
投資の選択肢が広がるからであります。
しかし、このような
投資商品が多様化すると必ず登場いたしますのが、
投資家、特に個人
投資家を欺くような詐欺的な販売、勧誘であります。したがって、
投資商品の多様化を進めていくためには、
制度的な基本インフラとしての
投資家保護法制の整備が欠かせません。
金融ビッグバンにもかかわらず、販売業者などを規律する業者
ルールは、
関係する業法も縦割りのままでありまして、横断的な法制が不在のままの状態です。
現在の
制度のもとで、
資本市場の基本法と言われております
証券取引法は、有価
証券を対象として
ディスクロージャー制度や業者
ルールなどを定めていますが、そこでの有価
証券概念は狭く定義されたままであります。平成四年の
改正等で、それ以来、有価
証券概念は少しずつ拡大されてはきておりますが、新しい動きには
対応し切れておりませんで、最近の再生ファンドやラーメンファンドなどはそのほとんどが対象外となっています。
このような現在の
証券取引法は、次々と新しい
投資商品が登場する結果として、その守備範囲が狭くなっていまして、図で申しますとすき間の部分が拡大しているということなんですけれ
ども、こうした
証券取引法の
適用範囲の減少傾向が続いているわけであります。
このような横断的な
投資家保護法制が不備という状態では、
投資商品によってはですが、業者を監督する官庁も不在で、被害をこうむった
投資家は自分で
損害賠償請求訴訟を起こすくらいしかないという
投資商品が今後続々登場しかねないという状態にありまして、そのような
資本市場が
国民の信頼を得られるはずがなく、
日本の
資本市場の将来の
発展は望めません。
そこで、次に、
投資サービス法の方向感でありますけれ
ども、昨年六月の
証券取引法改正では、組合形態の
投資ファンドの持ち分を
証券取引法の適用対象とするなど、その方向は正しい方向を向いていると思います。また、昨年十二月に成立いたしました金融先物
取引法改正では、外為証拠金
取引について、新しい
投資家保護法制を
導入しました。しかし、これらの
改正は、これまでの法体系を大きく変えないでの緊急的な
措置と
理解すべきでありまして、近い将来には
投資サービス法を構築することが急務であります。
個々の
投資商品ごとに現在の
証券取引法や金融先物
取引法の
適用範囲を広げていくというやり方では限界があります。第一に、こういうやり方ですと、新しい商品が登場するたびごとに後から
法改正をして
対応するという後追いになってしまいます。第二に、現在の
証券取引法は、伝統的な株や債券を念頭に置いておりますので、若干硬直的な構造になっています。
したがいまして、現在の
証券取引法を思い切って改組し、法律の名前も、この際、
投資サービス法などと改称いたしまして、その中身の
ルールも柔軟化して、各種の
投資商品あるいはその仕組みに応じた柔軟な規制構造をつくり上げる一方で、
投資家への業者による
投資商品の販売、勧誘につきましては横断的な
ルールを整備することがぜひとも必要であります。その目的は、
資本市場分野における
投資家保護ですけれ
ども、同時に、金融イノベーションの促進を通じた
日本の
資本市場の
活性化にあることを忘れてはならないと思います。
そして三つ目に、
市場の番人も必要ということでありまして、
日本の
資本市場は、
市場の番人として知られるアメリカのSECのような強力な、
日本版SECと呼ぶことができるような
体制を樹立することが必要と思います。
昨年の
改正でも、一定の
市場ルールに違反した者に
課徴金を科す
制度を新設するなど新しい
取り組みが含まれており、また、昨日この衆議院で可決いただきました
改正法案では、流通
市場における虚偽
開示の場合に
課徴金制度を
導入いただきましたことは大変重要なことでございます。今後は、
資本市場への
国民の信頼を
確保するためにも、十分な予算と人員を擁した
市場監視
機能とその
体制を
強化するということが
日本にとって不可欠の
課題だと思います。
以上をまとめますと、
資本市場は特に自由度が高い
市場であり、そうでなければ
発展しません。しかし、自由と引きかえに、
市場を悪用し
投資家を欺く業者が後を絶ちません。したがいまして、
資本市場を横断する業者
ルールである
投資サービス法を整備するとともに、
市場の番人となる、
日本版SECと呼ぶことができるような
市場監視
体制を樹立することが急務であると思います。
次に、簡単に、二つ目の、
企業買収についてのインフラ整備について申し上げます。
最近のニッポン放送をめぐる裁判等は、
日本でも
企業買収本格化時代を一気に迎えたという感じを強く与え、そして、
日本で
企業買収本格化時代における法や裁判所の役割は何かということを考えさせるいい例になりました。
企業価値とは何か、
取締役会にはどういう権限があるのか、
株主の利益とは何か、また
上場会社はだれのものかといった問い、そして
企業買収や
買収防衛策について、いろいろと考えさせる論点を提供しました。
この分野は、法律という
観点から見ますと、
商法、
会社法、
証券取引法、税制など、関連する
制度も多岐にわたっています。また、これらについての先進諸外国の
制度はばらばらに異なっていまして、難しい分野であります。しかし、
考え方は単純でありまして、諸外国の
制度とも、達成しようとしている目標は共通です。
この分野は、
日本ではまだまだ経験不足です。今は何か必要以上に慌てているような感じがいたします。
敵対的買収、対象となる経営陣が賛同していない
買収ですけれ
ども、イコール悪というわけではありません。
買収にはよい
買収と悪い
買収があります。よい、悪いとは
社会から見てという意味でありまして、区別の
基準になるのは
企業価値あるいは
会社の
価値であります。つまり、
企業価値を高める
買収はよい
買収で、実現されるべきでありまして、
企業価値を損なう
買収は悪い
買収ですので、実現されるべきではないということであります。
したがって、
防衛策についていいますと、悪い
買収はとめるべきですが、よい
買収はとめるべきではありません。そのように作動するような
防衛策が合理的な
防衛策であるということになります。
日本は、そのための経験と知恵を重ねていく必要があります。
世界のお金の流れ方は、ここ十年くらいの間に急変しました。
買収ファンドと呼ばれる仕組みが多数登場し、世界の金融
市場において、
企業買収のために巨額のお金がすぐ集まるようになりました。その結果、
買収しようとする者は、自分に資金がなくてもすぐにお金を調達できるようになっているのが現状です。したがって、
企業買収はいとも簡単になったわけです。つまり、今日では、
上場会社であればどんな
会社も瞬時のうちに
買収の対象となり、その資金も集まるという現実があるということを直視すべきです。その上で、悪い
買収はとめ、よい
買収であれば実現させるという姿勢を持つことが重要です。その手段として、
防衛策などが工夫されるべきであります。
証券取引法による
株式公開買い付け、
TOB制度につきましては、昨日可決いただきました証取
法改正でも、
ToSTNeT等による
立ち会い外取引についての重要な
改正が含まれています。支配権争いが生じた場合に、一方が
証券取引法に基づく公正な
公開買い付け手続をしているのに、他方は
立ち会い外取引で
株式を買い集められるというのでは、
市場で判断する
株主や
投資家にゆがみをもたらし、公平とは言えません。今回の
改正はこの点を是正する緊急
改正です。
しかし、これ以外にも、
企業買収についての
ルールの整備を
検討する必要があるように思います。例えば、現在の
制度のもとでは、
公開買い付けが開始した場合に、
公開買い付け期間中に対象となる
会社は
株式分割ができます。そういうことが起きても、
公開買い付けをしている者は
公開買い付けの
条件は変えられないと言われています。そういう状態では、
公開買い付けをする者に致命的に不利であります。これは
公開買い付けをする者にとっての不平等の是正という
課題です。
また、そのほかにも、
公開買い付け者の
情報開示の
強化ですとか、アメリカのように
公開買い付けについての
開示、大量保有報告書等に不実
開示があったような場合には対象
会社からの
公開買い付け差しとめ訴訟を認めるといった
制度も
検討に値するように思います。
なお、この点に関連して、行政が
投資家にかわって差しとめをするという現在の
証券取引法百九十二条という条文がありますが、法律の制定以来、一度も使われていないというのも問題だと思います。一昨年十二月の金融審議会での提言にもかかわらず、この
制度の
改善が実現しないままであることは大変残念であります。
なお、
公開買い付け制度以外にも、大幅な
株式分割を繰り返し、その間に
株式を買い上げることで
株価をつり上げるとか、
資本市場において許されるべきではないようなやり方が
日本では横行していると言ってもよい
状況にあります。先ほ
どもお話がありましたが、
東京証券取引所が、こうしたいわば
資本市場のおきてに反するような
取引をしないようにと、その自粛を
上場会社に
要請したことは、当然の
措置であります。
以上を要しますに、
証券取引法の
公開買い付け制度や、より広く、
企業買収に関する
ルールの
あり方につきましては、今後も引き続き本
委員会において積極的な御
検討を深めていただければ大変ありがたいと思います。
以上で私の
意見の陳述を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(
拍手)