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五十嵐参考人 五十嵐です。きょうは、お招きいただきましてどうもありがとうございました。
今回の
法案は
国土総合開発法のいわば
修正版として出ておりますので、今回の
法案を考えるに
当たりまして、
国土総合開発法にどういう
問題点があったのか、それが是正される
可能性があるのかどうかという
観点から少し
意見を述べさせていただきます。ただ、時間が非常に短いので、要点だけ述べさせていただきまして、後で
質問等があったら詳細についてはお話しさせていただくという形にしたいと思います。
御
承知のとおり、表でもついてありますけれども、今回まで、二十一
世紀の
国土の
グランドデザインを五全総と言うのかどうかわかりませんけれども、五回、
全国総合開発計画がつくられてきました。言ってみれば、これはあらゆる
開発計画の
頂点にありまして、法的に言いますと、それをトップからずっと
整合性を持って
都市計画法等まで、ある種のヒエラルキーを持ってこの
総合計画の
あり方が
隅々まで貫徹されるという
構造になっております。
これを端的に言いますと、私自身は、
公共事業計画としての
全国総合開発計画の
意義という
観点からきょうはお話しさせていただきたいんですけれども、この
公共事業計画としての最大の
計画がこの
計画でありまして、
社会資本整備重点計画法ができる前までは、各種五カ年
計画のいわば
頂点に存在していたということであります。この
全国総合開発計画に基づきまして、道路、港湾、
治水等の五カ年
計画が立てられていくという
構造になっていたと思います。
その中で一番今になって目につくのは、膨大な
投資額というのが想定されてこの
計画が立てられてきたということであります。きょうレジュメで出しております
全国総合開発計画の概要の比較というところの一番下を見ますと、二全総、新全総で約百三十兆円から百七十兆円、三全総で約三百七十兆円、それから四全総になりますと千兆円
程度というふうになっておりました。
五全総、二十一
世紀の
国土グランドデザインでは
投資額が書いてありませんが、なぜ書いていないかを少し調査しましたところ、多分、千兆円もしくはそれを超えるぐらいの額がやはり
投資額としてなる。しかし、全体的に、この
平成十年三月三十一日というのは、もうバブルが崩壊して低
経済成長に入った時期でありますから、莫大な
投資額と低
経済成長での
ミスマッチが起こるかもしれないということで
投資額を外したというふうに聞いております。
そこで、これだけの巨大な
投資額が何を一体意味するかといいますと、率直に言いまして、やはり
公共事業にまつわるさまざまな弊害というものがこの
投資額と結びついて
日本社会に起きてきたんだろうと私は考えております。
一つは、やはりどう見ても過剰な
投資計画が
全国至るところに蔓延してきた。非常に端的に言いますと、むだな
公共事業というものが目につくようになってきたというようなことが
一つです。
それから、むだな
公共事業が
財政的に非常に困難をもたらしまして、国の
財政の大きな
要因になっておりますし、特に
地方自治体の
財政の中の
逼迫要因の大きな
原因になっているというようなことであります。
三番目は、これに基づきまして、非常に端的に申し上げますと、至るところにコンクリートの
事業が蔓延いたしまして、
環境破壊というものがかつてなく進んだというふうに言われておりまして、
公共事業の
見直しというものが
全国で沸き上がるようになってまいりました。
この
計画を見ますと、なぜこういう
計画がつくられるかということを言いますと、この
決定方法の中に幾つか
問題点があったんだろうというふうに私は思っております。
一つは、
全国総合開発計画を策定するに
当たりまして、
国土審議会というのがありまして、これは一応
学者さんとか
国会議員の方とかから成っている
委員会でありますけれども、ここで本当に今後の
国土のあるべき姿についてきちんと
議論したんだろうかということを見ますと、必ずしもそうではないというふうに聞いております。
特に、二十一
世紀の
国土の
グランドデザインなどを見ますと、膨大な大きな
報告書でありますけれども、一部、二部、三部に分かれておりまして、一部を見ますと、今後のあるべき姿に、主として
学者が執筆したと言われておりますけれども、ある種の
日本の
国土の
あり方について理念的なことが書いてあります。
二部は、主として、これは主たる官庁が企画立案したというふうになっておりますけれども、
学者の考えるような
国土に向かいまして、それを
事業計画としてまとめるとどういう形になるかという形がありまして、それぞれの
事業別に
計画が盛られております。
三番目に、
自治体ごとにどういう
公共事業があり得るかということがありまして、ここにいろいろな
公共事業が書かれているんですけれども、徐々に見ていきますと、ありとあらゆる
公共事業が全部この中に列記されるということになっております。特に、
自治体側から聞きますと、この
全国総合開発計画に記載されるか記載されないかによって今後の
事業計画の実施のめどが立つかどうかが決まるというふうに考えられておりまして、あらゆる
公共事業をここに盛り込むということになっていて、私どもの間では、
公共事業の玉手箱といいますか、何でもここに入っているものだというふうに理解しておりました。
これがどうも、
時代の変遷に従って、やめるべきはやめなきゃいけないし、新しく起こすべき
事業は起こさなきゃいけないと思うんですけれども、これがごちゃまぜになっておりまして、ほとんど費用対効果などを含めたある種の評価なしにこの五全総の中に全部盛り込まれるということになっておりまして、これが現在の大きな
修正をもたらさざるを得ない大きな
要因になっていたのではないかと私は思っております。
そこで、これがどうして決まるかのもう
一つの
問題点は、
国土審議会で、いわば要望、陳情の集まりというだけじゃなくて、
国会でちゃんと
議論したのかどうかというところがもう
一つの
問題点だったと思います。
なぜこうなっているのかよくわかりませんけれども、
公共事業計画のこの全総を含めたすべての
計画、
漁港法に基づく
漁業計画を除きまして、すべての
計画の
最終決定者は
閣議決定というふうになっておりまして、
国会でこれを討論し議決するという形にはなっておりません。膨大な、一千兆を超える
投資額を予想し、かつ、
公共事業の
あり方は、御
承知のとおり、国民の
生活の
隅々まで
影響を及ぼすはずでありますし、現に及ぼしてきましたけれども、それがなぜ
国会で
議論されないんだろうかということが非常に不思議でありました。
この点について、なぜ
閣議決定なのかということを調査しましたところ、どうも明快な答えが見えてまいりません。非常に俗っぽく言いますと、
国会などで
公共事業について、この
計画がいいとか悪いとか
議論すると、むしろ
国会がある種の利権の場になってきて、
中立性や
公平性が守れない。それよりは、
中立を守る官僚さんが、行政が決めて、そこで実施する方が公平だというようなことが聞こえてまいりましたけれども、本当にそうだろうか。むしろ、逆から言いますと、
国会議員さんは、これだけの大きな
事業について討論し議決する権利をなぜ放棄するんだろうかということが非常に不思議でありました。
同じようなことが、つい最近制定されました
社会資本整備重点計画法にも書いてありまして、ここも依然として
閣議決定になっているということでありました。これは一体、今後また何十年か、全部
閣議決定という形で継続していくんだろうかということが非常に問題だと私は思っておりました。
さらに問題なのは、ある種のこれは十年単位の
計画でありまして、その間、先ほど
森地先生も言っておりましたけれども、非常に社会
変化が激しいときに、こういう
計画について絶えず見直すとか評価することが必要だと思いますけれども、この
修正方法が
法案上は少なくとも見当たらないというような問題があります。私自身も、
全国総合開発計画はこの五全総でピリオドで、全く新しい
計画論をつくらないと問題が多いのではないかというふうに思っておりました。
その意味で、今回の
法案についてはある種の必然だというふうに思いますが、しかし、なお依然として幾つかの
問題点が残っているというふうに私は思っております。
名は体をあらわすわけですけれども、今回の
法案の名前が
国土形成計画法であります。この
国土形成計画法の以前に、非常に新しい、
時代にふさわしいものとして、政府は
地域再生や
都市再生や自然
環境の再生法というものを出してまいりました。そういうものと比べますと、この
形成というのは一体何だろうかというのが、
日本語として区別がよくわかりません。再生は、中身はいろいろ問題があると思いますけれども、ある種の今までの過去を総括して新しく再出発するということがイメージできますけれども、この
形成計画というものは、何をどうするのか、前の
開発計画とほとんど区別がつかない、やや焦点ぼけじゃないかなという感じがいたしました。
あわせて、その内容を見ますと、理念とシステムについて、確かに少し、従来にない新しい方法が入れられています。とりわけ、広域
計画、
地方の
計画が割と前面に出ておりまして、この辺は新しいと思いますけれども、しかし、これによって今までとられてきた
公共事業が変わるかといいますと、ほとんど変わらないというふうに私は見ております。なぜならば、五カ年
計画に基づいたさまざまな数値目標がありまして、これらがこの
国土形成計画法によってどう変わるか、その道筋は何も見えてこないというふうに私は思います。
私自身は、社会変動が非常に大きいということを感じますので、従来の
計画については一たんサンセットにして、改めてそれを行うべきかどうかについて
国会で審議をするというのが正しい姿だと思いますけれども、そういう方法はこの中には見えておりません。
それから、
決定方法についても、依然として
閣議決定をファイナル決定者にしておりまして、
国会が除外されております。
それから、この
計画のよしあしに関する評価方法について見ますと、確かに第七条で、行政評価法に基づく評価の対象にはなるようになっておりますけれども、果たして
閣議決定がなされた
計画について、ある種の行政評価法に基づく評価という方法でこれが
修正可能かどうか、やや行政法上の
整合性からいっても難しい点があるのではないかというふうに私は思っております。
それから
最後に、
広域地方計画でありますけれども、これも
地方という名も入れますと、やや分権的なことがありまして、
歴史の方向性を示しているようにも見えますけれども、実際、この運用方法を想定すると、いわば
国土交通省の
地方整備局を中心として案が練られるようなにおいがいたします。これは本当に分権的なものなのかどうかについてやや疑問がありまして、もう一度、この
国土形成計画法については、従来の反省を踏まえて審議し、もっと抜本的な法律をつくるべきではないかというのが私の
意見であります。
どうもありがとうございました。