○
近藤(基)
委員 自由
民主党の
近藤基彦でございます。
本
調査会が設置されて早くも五年が経過しました。その間、
憲法調査会は精力的に
調査を行い、いずれの
委員も、我が国の今後のあり方を見据えつつ、
憲法のありよう、そして、
憲法のあるべき姿について真摯に
調査を重ねてきたところであります。
私自身は、
平成十二年六月の初当選以来、一貫して本
調査会の
委員として
調査に参画させていただいており、また、安全保障及び国際協力等に関する小
委員会の小
委員長も務めさせていただきました。この間、本日のテーマである安全保障、国際協力、非常事態については、特に大きな関心を持ちながら討議の詳細を間近に見てきました。本日は、そうした
議論を踏まえつつ、私の
意見を述べてみたいと思います。
憲法は、制定以来、
国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三
原則のもとで我が国の戦後の復興、繁栄を支えてきました。このことの意義は高く評価されるべきだと思います。しかし同時に、冷戦終結後の国際環境の急激な変化に十分対応できていないといった
問題点も多く、多くの論者から指摘されているところであり、このような国際環境の変化に応じた安全保障のあり方、すなわち
憲法のあるべき姿が活発に
論議されるようになってきました。つい最近まで、このような
憲法のあるべき姿についてタブーなく
議論すること自体が遠慮されるような異常な事態が続いてきたように思われますが、本
調査会が
中山会長を初め各
会派の方々の御尽力で設置され、これが契機となって、現在では、
憲法について自由に
議論するという当たり前のことが現実のものとなりました。本
調査会の果たした
役割は、この
一つをとっても大変意義深いものがあったと思います。
さて、本日は、安全保障、国際協力、そして非常事態に関する締めくくりの
自由討議でありますから、少しまとまった形で
意見を申し述べたいと思います。まず平和主義、次いで
憲法九条について
意見を述べたいと思います。
私は、
現行憲法の掲げる平和主義の
原則は不変のものであり、今後も堅持すべきものであると
考えます。しかし、この
原則のもとで、我が国がどのようにして国家の独立と
国民の安全を確保し、さらには国際の平和と安全のために貢献していくのかについては、本
調査会においてもさまざまな
意見がありました。この
論点に関して、私は次の二つの点を指摘しておきたいと思います。
一つは、前文の、平和を愛する諸
国民の公正と信義に信頼して我が国の安全を保持しようとすることは、理想としては理解できても、現在の国際情勢、国際常識から見て、果たしてこのような安全保障観で国や
国民の安全を守ることができるのだろうかという疑問であります。
そして、もう
一つは、我が国の国力に応じて国際社会から期待されているような国際貢献を行おうとした場合、
憲法上の制約によって必ずしも十分な人的貢献を行えない場合があるということであります。これは、自分の国さえ平和であればよいという一国平和主義の問題と言うこともできます。
つまり、安全保障と国際貢献の両面において、これまでの平和主義は必ずしも十分でない部分があったのではないかと
考えます。これを打開し、現在の国際情勢の中で真の平和主義を構築していくための方策として、私自身は次のように
考えます。
まず、現実の脅威を目の前に、万が一の場合に備えておくことは、
国民の生命、身体、財産の安全の確保を第一義とする政治家の責務であり、また多くの
国民の望むところであると
考えます。もちろん、日ごろから周辺諸国を初めとする諸外国と
信頼関係を築き、紛争の未然防止のために外交努力をすることは当然でありますが、他国から武力行使を受けるという万が一の不測の事態が生じたときには、武力をもってしてでも国と
国民の安全を守るべきであり、そのための体制整備をしておくことは必要不可欠なことではないでしょうか。
また、我が国の安全や繁栄は、国際の平和と安全から大きな恩恵を受けております。グローバル化が進む現代においては、とりわけ国際的な相互依存
関係が強まり、我が国から遠く離れた地域における紛争が我が国の安全を脅かし、経済的な活動にも大きな
影響を及ぼすことになります。我が国は、経済大国にふさわしい国際貢献をする責任を負っており、また、こうした貢献は我が国の安全と繁栄のためにも不可欠であるということを認識すべきであります。
このような相応の実力に支えられた国際貢献というテーマについて、以前、私は本
調査会において、人道上の人間の安全保障に基づく国際貢献という形で述べたことがあります。これは、一人一人の人間の豊かな
可能性を引き出し、意義ある生活を送ることができるよう、政府、NGO、国際機関等が連携して基本的支援を行うというヒューマンエンパワーメントの側面とともに、その支援が実施される地域での社会秩序の維持に関し、第一義的な責任を負う国家がその機能を発揮する十分な能力と意思を有しない場合であって、その支援について正当性が担保される場合においては、軍事力の提供をも含む支援を行うことによりこのヒューマンエンパワーメントを実現するというプロテクションの側面も有するものであります。人間の安全保障とは、このような実力行使をも伴ったものであることをまず御理解いただきたいと思います。
残念ながら、こうした
考え方は、国際法上いまだ十分に確立されているとは言えませんが、その必要性にかんがみて、今後、我が国は、このような
考え方を未来志向のよりしなやかで強靱な平和主義の形として提示し、国際の平和及び安全の維持に向けた取り組みに積極的に関与すべきであると
考えます。
こうした
考え方を踏まえて、次に
憲法九条について、やや具体的な
意見を申し述べたいと思います。
憲法九条は、戦後我が国の繁栄と発展に大きな
役割を果たしてまいりました。このこと自体については、幾ら評価しても評価し過ぎるということはないと思います。しかし、国際環境の急激な変化に応じた
解釈の積み重ねにより対応することはもはや限界が来ていることも、多くの
委員の共通認識であるかと思います。
このような
解釈を放置しておくことは、
憲法と現実が乖離しているとの印象を
国民に与え、ひいては
国民の
憲法軽視にもつながりかねない
状況を招いてしまうと危惧します。これは、法の支配の
観点からも問題であり、
憲法九条を国際社会の現状に沿った明確な規定にする必要があると思います。
第一に、九条一項の国際紛争を解決する手段としての戦争、これは侵略戦争と解するのが国際法上の定説であることをまず確認しておき、そのような侵略戦争の放棄の理念は今後とも堅持する必要があります。
その上で、第二に、国際社会の現状に沿わない戦力不保持と交戦権の否認を定める同条二項は、これは削除あるいは
改正すべきと
考えます。
国連憲章は、武力行使を
原則として禁止しつつも、
例外として個別的及び集団的自衛権の行使が許される場合についても規定しております。したがって、二項の削除あるいは
改正により、必要な場合には集団的自衛権も含めた自衛権の行使が認められることを明確にすべきと
考えます。
もちろん、個別的であろうと集団的であろうと、武力行使を伴う自衛権の行使は抑制的であるべきです。こうしたことを明らかにするために、特に集団的自衛権を発動する場合は、あくまでも我が国の死活的な利益に重大な
影響がある場合などに限定するとともに、その手続として
国会の関与などを明文で規定するのが適当ではないかと
考えます。
このように集団的自衛権の行使を容認することは、米国と共同して行う我が国の防衛及び我が国周辺における国際貢献をより円滑、効果的に行う意味でも、また、アジア地域における地域安全保障の枠組みの構築を見据えた場合にも重要なことであろうかと思います。
第三に、国連決議に基づく多国籍軍を初めとする国際的な
合意に基づく国際の平和と安全の維持や、人道的支援のために行う国際的共同活動に積極的に参加する旨を
憲法に規定すべきであると
考えます。国際的共同活動を行う際には、他国とリスクを共有できるようにすることがより一層の国際貢献を行うために必要であり、抑制的に行うことはもちろんですが、
一定の武力の行使が必要な場合もあり得ると
考えます。その際には、先ほど述べましたように、人間の安全保障の
考え方についても言及することが有益かと思います。
第四は、自衛隊の
憲法上の位置づけを明確にすることです。
自衛隊は国の防衛を担う組織ですが、これに加えて最近では、国際貢献活動や国内外における災害救援活動について、国際的にも
国民の間からも高い評価を受けております。このことを踏まえて、自衛隊を国の防衛と国際貢献を担う主体として
憲法に明確に位置づけるとともに、同時に、その最高指揮権が
内閣総理大臣にあることや、武力行使を伴うような自衛隊の活動に対する
国会の関与などのいわゆるシビリアンコントロールの
原則をもあわせて規定すべきであると
考えます。
最後に、非常事態についてでありますが、
現行憲法が国家緊急権を認めているか否かについては論争があります。しかし、
現行憲法上、非常事態あるいは緊急事態について言及している規定は、わずか参議院の緊急集会の規定しかありません。しかし、テロや大規模自然災害など、非常事態はいつどこで起きるかわからないものです。これに的確に対処するためには、一時的な権限の集中や
一定の人権制約などが必要であり、このような場合に関する規定が
憲法上明確にされていないと、かえって超法規的な運用を招く事態となりかねません。
したがって、ドイツの基本法のように、我が国有事のような場合だけでなく、大規模テロや大規模自然災害などの場合も含めて、非常事態全般に関する規定を整備すべきであると
考えます。
憲法調査会の活動期間は五年を経過し、いよいよ
最終報告書を
取りまとめていく段階に来ました。これまでの
議論を踏まえ、
国民の信託にこたえるためにも、より明確な形で
報告書が
取りまとめられることを希望いたします。
また、
最終報告書の提出後には、議案提出権を有する機関において、
憲法改正の発議や
国民投票法制定に向けてさらに
議論が深まることを切にお願いをして、私の
意見とさせていただきます。