○
鮎川参考人 おはようございます。
WWFジャパンの
鮎川です。
WWFは、御存じだと思いますけれども、一九六一年に設立された
世界最大規模の
自然保護団体で、約四百六十万人と約一万社・
団体のサポーターによって支えられております。百カ国以上の国で活動しており、
プログラムとしては、森林、淡水、
有害化学物質、生物の種の保全及び
気候変動プログラムが展開されています。
気候変動プログラムでは、二十五カ国、五十名から成るグローバルなチームが編成されておりまして、私はその中で
日本担当をしております。二一〇〇年までの
世界の
気温上昇を二度未満に抑えるべく、
最大の
排出セクターである
電力部門に焦点を当てたパワー・スイッチ!
キャンペーン、
企業の
自主的取り組みとして
削減目標を掲げ、それを
第三者機関に検証、認証してもらうクライメート・セイバーズ・
プログラム、そして
日本においては、大
規模排出者に向けた
国内排出量取引制度の提案、及び
一般の
方たちの
参加できる
温DOWN化計画キャンペーンなどを展開しております。
ことし二月十六日
京都議定書が
発効し、ようやく
国際的な
取り組みが始まったということで、そうした中で、
日本は
京都議定書の約束を
達成するために
京都議定書目標達成計画案を立てたことは
評価したいと思います。しかし、この
計画案は、以下の点で残念なものとなっています。
それは、九〇年以来
日本の
温室効果ガス排出の増大傾向をとめられなかった反省に基づいておらず、増大傾向が続いている分野や、特に
排出量の多い
事業者に対する新たな
政策、
施策が定められていない。それから、長期的に見て、脱
温暖化社会構築を促す枠組みがなく、この
達成計画案は排出を減少方向に向かわせるものとなっていない。新たなものと言えるのは、
省エネルギー法の
改正による
省エネの
取り組み強化、拡大と、本日議論されております
温暖化対策推進法の
改正による
排出量算定・
報告・
公表制度でありますけれども、これ自体が排出
削減につながるわけではなく、
排出量削減を担保するものともなっておりません。しかし、これは、排出実態を把握し
削減対策を立てる上での第一歩でありますので、それについて以下のことを述べさせていただきます。
まず、排出の抑制という言葉があちこちで使われているんですけれども、これはすべて
削減とするべきではないかという点です。
例えば、第一条「目的」のところに「
温室効果ガスの排出の抑制等を促進するための措置」とありますけれども、これは排出の
削減とするべきでありますし、ほかにも、「国の責務」「
地方公共団体」では「
削減」となっているのに、「
温室効果ガス総
排出量が相当程度多い
事業者について
温室効果ガスの排出の抑制」となっていますし、四章のタイトルも「
温室効果ガスの排出の抑制」となっています。
既に先ほどもお話があったように、二〇〇二年時点で
排出量は九〇年レベルより七・六%増大しており、今は抑制等ということで済む話ではなく、
削減を担保しなくてはならないということが問題なので、すべてこの法案では抑制という言葉を
削減に置きかえるべきだというふうに思います。
それから、
公表の中身と方法についてなんですけれども、それについてはいろいろ二十一条に書いてありますが、
一般の人たちが見やすい形で
公表されるのかどうかということは不明です。そして、集計されたものでなく、個別の
企業、
業種、
都道府県の
排出量を私たちが知るためには開示の請求を行わなければならないのだとすると、本当の
意味での
公表に相当することにはならないと思います。
それで、
排出量の
情報開示は
企業の
社会的責任でもあり、そうした
観点からも、本
法律改正によって、
企業単位、事業単位、
都道府県単位の
排出量が
データベース化され、ウエブなどで開示されて、私たちが自由にアクセスできるようにするべきです。その方が、一々開示請求をして、それに
対応するという行政側の負担も軽くなるはずです。また、そういうふうにすると、
企業にとっての
削減インセンティブもわきます。にもかかわらず、もし
情報開示請求というハードルを
国民に対して置くのであれば、それがなぜ必要なのかを説明していただきたいと思います。
それから、二十一条の八で、「
温室効果ガス算定排出量の増減の
状況に関する
情報その他の
情報を
提供することができる。」とありますが、これは重要な点だと思います。というのも、この制度の運用に当たっては、ただ単に
排出量を
公表するだけではなく、
事業者がどのようにして排出
削減計画を立て、どのようにして
実施し、その結果としてどのような
削減量が獲得できたかということが適切に
反映されるような
公表の仕方にするべきであります。そうすれば、
達成計画案でも述べられているように、
国民、
事業者全般の
自主的取り組みの促進へのインセンティブ、そして機運を高めることにつながるからです。
その努力の中には、例えば、現在は寄附としてしか扱われていない自然エネルギー発電からの電力をグリーン電力証書という形で購入するいわゆるグリーン電力制度なども、
排出量から削除する、あるいは
削減量として記載し
報告、
公表できるようになれば、グリーン電力証書購入の大きなインセンティブにつながり、
事業者にとってはグリーン電力の購入が費用
効果的な
対策になり、欠かせない手段となります。そうすると、
日本のおくれている再生可能な自然エネルギー事業全体の拡大、発展に寄与し、再生可能エネルギーの割合を高めることになると思います。
次に、
温室効果ガス総
排出量が相当程度多い
事業者についてですけれども、先ほども言いましたけれども、これに対しては
政策がなく、排出抑制のための今回のこの
公表制度以外は何ら
政策がないわけです。
WWFジャパンは、昨年来、
国内排出量取引制度を導入するべきだと提案しております。この制度は
産業界の方々に統制
経済であると大いなる誤解をされていますが、実際は全く異なり、むしろ、排出枠の売買を行うことにより最も安いところで
削減が行われる、コスト
効果の高い制度であります。
国内排出量取引は、確実に
削減量を確保でき、対象部門の
削減費用を最小化し、CDM、JIなどの活用の明確なインセンティブとなります。また、直接規制に比べて個々の主体がとる
対策の自由度が高く、余剰
削減分が売却できるため、水準以上の努力をするインセンティブが働くなどの点において、大
規模排出者に対しては有効な制度であります。また、CO2排出をコストとすることで
企業の
経済活動の中に
温暖化対策を必然的に組み込むことになり、これは、長期的に投資の傾向や金融市場における
企業評価にも影響を与え、
社会を脱炭素型へと誘導していく枠組みになります。
お手元にお配りしております
WWF提案の概要をごらんいただきたいと思います。制度設計は、ここでも述べているように、いかようにもできるので、この方向さえ確認できれば細部のルールについての議論が始められると思いますし、むしろ、早急に議論を始めるべきだと思っています。
というのも、御存じのように、EUではことしの一月より域内
排出量取引制度のパイロットフェーズを動かし始めました。そして、既に第二フェーズに向けた制度の見直しが行われております。ノルウェー、スイス、カナダ、オーストラリア、そしてアメリカでも
国内排出量取引制度導入を検討中で、これもEUとのリンクを見込んで制度設計しています。
これらの制度が互いにリンクし合うことになると、
日本だけがその取引市場から取り残されてしまうことになります。これは
日本経済にとってもマイナスになりかねません。また、こうした
排出量取引制度のリンクによって、長期的には、実質的にアメリカを
温暖化対策の枠組みの中に巻き込んでいくという戦略も考えられますので、
国際的な
観点からもこの制度は重要です。
こうした取引制度はこれからの
環境政策の主流となるというふうに考えられておりまして、各国とも、やってみながらどんな制度にしたらいいかを学んでいるところです。制度におけるさまざまな基準やノウハウの蓄積が、
日本が何もしないうちにどんどん欧米諸国では進み、このままではまた欧米諸国に先に基準をつくられ、国益の
観点からもこの制度に対する検討は重要だというふうに思います。
さらに、そのほか、
目標達成計画の問題点はいろいろあるんですけれども、
民生に対する
対策がないということで、これは
政策が必要であります。
国民運動だけでは一人一人のライフスタイルを変えていくことにはつながらないので、特に、
環境税などのような制度も重要だというふうに思います。
それから、再生可能エネルギーについても、相変わらず新エネルギーという言葉が使われているんですけれども、これは、未利用エネルギーとともに、再生可能エネルギーというふうに、
世界で使われている言葉に改めるべきだというふうに思います。それは、RPS法と言われている
法律のRはリニューアブルということで、再生可能エネルギーというふうに訳されますし、このように
世界で統一された言葉を使わないと、
日本の
状況は
世界に
理解されないということがあります。
そしてまた、
日本の再生可能エネルギー導入量が非常に低いことを考えると、RPS法だけではなく、再生可能エネルギーによる電力の固定価格買い取り制度、いわゆるフィード・イン・ローを考えるべきだと思います。特にバイオマスエネルギーに関してはこういう制度を導入し、またさらに、木質バイオマスによる地域分散型発電、コージェネレーションなどを導入して、
日本の森林を活性化させるべきだというふうに思います。
次に、原子力発電なんですけれども、原子力発電は、発電の際にCO2を排出しないとしても、ウラン採掘、燃料精製、濃縮、加工、製造、輸送、放射性廃棄物の処理などについては多大なエネルギーを使い、
温暖化対策としては不適切で、京都メカニズムのCDM、JIの対象事業としても外されました。
そしてまた、
日本の原発は既に二十年以上たつものが多くなり、その老朽化があらゆる問題を起こしておりまして、その典型的な事例として、昨年、美浜原発事故が起きました。CO2排出原単位を向上させるために原発の設備利用率を上げるということが挙げられていますけれども、こうした事故の危険性をさらに増すことになります。
その前には東京電力による定期検査の
データ捏造が発覚し、すべての原発を停止して、改めて検査をし直さなければならないという事態が起こりまして、その場合に、代替電源として火力発電が使われたわけです。
そのように、原発は安定的な電源とは言いがたく、そして
温暖化を防ぐために原発を主柱に置くということは、不安定、不確実さをもたらすということが明らかになったわけです。ぜひ、
温暖化対策として原発を柱に置くことは考え直していただきたいと思います。
さらに、
達成計画案には、原発の
推進だけではなく核燃料サイクルの確立ということまでもが言われているんですけれども、これは
国際的に見て非常に問題だと思います。
核燃料サイクル自体は、
日本のエネルギー保障上の悲願ではありますけれども、これを確立している国は
世界じゅうどこにもなく、非
現実的なものであります。実際に
日本でも、「もんじゅ」が事故を起こして以来とまっておりますし、プルトニウム利用は今MOX利用が
中心になっていますが、これも進んでいません。
そういうふうにプルトニウムの需要がない中で六ケ所の再処理工場が稼働に向けて動き始めていますけれども、これは核拡散の
観点から非常に問題であり、アナン国連事務総長も、三月二十一日付の国連改革に関する勧告において、ウラン濃縮及びプルトニウムの分離の能力については各国が自発的に差し控えるようというふうに述べ、核拡散の防止措置の強化の
重要性を強調しました。なので、そうした
世界情勢の中で
京都議定書という
国際公約を
達成するために核燃料サイクルの確立が必要だと
達成計画に書き込むことは、非常に問題だと思いますので、削除してほしいと思います。
それから、長期
目標の必要なんですけれども、IPCCは、
気温上昇が二度以上になると、特有な種の絶滅など、サンゴの白化とかいろいろな影響が出てくると予測しています。既に〇・六度以上上昇しているということがあり、そして、
WWFとしては、この十二月に発表した
報告の中で、
温暖化の現象というのは、気温だけではなくて、それによって起こる異常気象であるというふうにリポートしました。その中で、
気温上昇を二度に抑えることでは不十分で、一・五度に抑え、その割合も十年に〇・〇五度以下にするべきだというふうにしています。
さらに、一月に発表したリポートですと、この二度の
気温上昇は、このままいくと二〇二六年から二〇六〇年の間に
達成されてしまう。つまり、私たちが生きている間にも起こってしまう可能性があるということが
報告されました。
三月下旬なんですけれども、EU閣僚
理事会においては、二度未満という
目標を決め、そして、それのためには、二〇二〇年までに一五から三〇%の
削減をする必要性があるという結論を出しました。また、
我が国の国立
環境研究所を
中心とした二〇五〇年
目標検討チームも、地球の
気温上昇を二・六度に抑えるためでさえ、
日本は二〇五〇年までに七八・三%から八四%の
削減が必要であるというふうに言っております。それから、先日開かれた
中央環境審議会の
国際戦略専門
委員会でも、二一五〇年までに
気温上昇を二度に抑えようとすると、二〇五〇年で
世界規模で約五〇%の
削減をしなくてはならないと。
そういう
意味で、
日本がまずやらなくてはならないことは、二一〇〇年という長期
目標に向かって、地球の平均気温をどこで抑えるのかということを決め、それに対して、二〇五〇年、二〇三〇年、そして今、何をしなくてはならないかということを明確に示すことです。それでないと、その上で
京都議定書目標を
達成するというようなシナリオを書かないと、説得力を持たないわけです。
二〇一二年以降の
地球規模での
削減に向けて
日本が
リーダーシップをとりたいと思えば、まずそういうように長期的
目標を示し、そこに到達するための一里塚として、
京都議定書の
目標を
経済効果的な方法で
達成するビジョンを示すことだと思います。
最後に、この
京都議定書目標達成計画は、このまま五月に、パブコメが二週間ありましたけれども、国会で議論も経ずに
閣議決定されるということなので、この法案と同様に、ぜひ国会の場で、皆様方、
先生方に、幅広く透明の議論を行って決定していただきたいというふうに思います。よろしく
お願いします。(
拍手)