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参考人(
清水規廣君)
日本弁護士連合会副
会長の
清水規廣でございます。
本日は、私が
意見を申し上げますのは、時間の
関係もございますので、第一に
民法の一部を
改正する
法律案の中の
保証制度の
見直しに関する
部分、第二にもう
一つの
法案であります
債権譲渡の
対抗要件に関する
民法の
特例等に関する
法律の一部を
改正する
法律案について申し上げます。
では、第一の
保証制度の
見直しでありますが、
個人の
保証人が
保証債務を負い、そこから
経済的に
破綻をすることが多発しております。このことは客観的な
資料からも明らかでありまして、
日本弁護士連合会は、
最高裁判所の御協力を得まして、
平成九年、十二年、十四年と三回にわたりまして
全国の地方裁判所において
破産記録全国調査を実施しております。
この結果によりますと、
破産者が
多重債務を
負担するに至った
理由のうち、
保証債務だとかあるいは
第三者の
債務の
肩代わりという、そういう
理由の占める割合は、三回ですから、約二四から二七%にもなっておりました。極めて高い数値を示しております。また、
平成十四年に併せて
個人再生事件の
全国調査を行っておりますけれども、そこでも
個人再生手続を開始した
再生債務者の
破綻理由を尋ねましたところ、一八・六%が
保証債務であるとか
第三者の
債務の
肩代わりであるとされておりました。
このように
経済的に
破綻した方の中で
保証債務を負ったことが原因とされる場合がなぜこれほど多いのでしょうか。
保証人はいわゆる
人的担保として
我が国においては広く普及しております。しかし、その実態に着目してみますと、
保証人と
保証される人、つまり被
保証人との
親族関係その他の
情実的関係を動機として
保証契約が結ばれる場合が多いわけです。さらに、
保証契約においては、
保証人が現実に
履行を余儀なくされるような事態に立ち入るか否かは必ずしも
保証人としては
保証時には確定的ではありません。このため
保証人は、自分は何らの
負担も負わないで済むものと軽信しまして軽率に
保証を引き受けることが少なくありません。また、
保証契約は
原則として
無償契約、ただであります。また、片務
契約、一方的な
契約であります。
保証人は
保証を引き受けるについて対価たる報酬をだれからも取得していないというのが普通です。
他人すなわち被
保証人のために
債務を
負担するという
特殊性を持っているものであります。
保証契約をしたことを契機に
債務を
負担し、
経済的に
破綻する中でも、特に
根保証契約を結んだ
保証人の場合には予想を超える過大な
責任を追及されるということになります。
根保証には、
保証期間と
保証限度額の
定めのない
包括根保証と、それらについて
定めのある
限定根保証の二
種類がありますが、また、
保証人となる主体について、主たる
債務者が法人の場合にその
経営者が
保証人となる場合、
経営者保証と申しますが、それと、それ以外の全くの
第三者が
保証人となる場合、
第三者保証と呼びますけれども、この二
種類がございます。
では、
根保証契約を締結したことによりどのような
被害が
発生するのでしょうか。
中小企業においては、
銀行等の
金融機関から
融資を受ける際に、
会社経営者は
一般的に
包括根保証をする場合が多いのであります。その経営する
会社が倒産したときは、
根保証人たる
経営者は
生活基盤を失い、
破産に追い込まれ、
保証債務履行を回避する
余り法的整理の
申立てが遅れ、再建の機会を失う結果となります。
商工ローン業者のほとんどは、
融資をするに際して
経営者から
包括根保証を取ります。
第三者からは
限定根保証を取っています。その際、
第三者に対して
根保証について十分な説明をせず、主たる
債務者が倒産し、
保証人に対して
保証債務の
履行請求がなされた場合に、
保証人は初めて、自分の行った
契約が通常の
保証じゃなくて
限定保証契約であったということを初めて知ったという人が少なくありません。また、主たる
債務者や
経営者は
第三者の
保証人に迷惑を掛けまいとして
破産手続を選択することもちゅうちょして、解決を逆に引き延ばして、
保証人にとってはより一層
債務が増大するということにもなってまいります。商工ローンからの借入れに起因する夜逃げ、自殺、倒産が多数
発生し、社会問題となったことは記憶に新しいところであります。
今回の
保証制度見直しに関する
民法の
改正案を拝見して、
評価すべき点と更に
改正が必要な点について指摘させていただきます。
まず第一点として、本
法案は、
保証契約は
要式契約であるとして、
書面でしなければ効力を生じないものとしていることは
評価されます。しかし、一歩進めて、
根保証人に対しては
根保証契約書が交付されなければ効力は生じないものとすべきであるというふうに考えております。
根保証人が自分の
負担する
債務の内容がどのようなものであるかを明確に知るためには、
根保証契約書の交付を受けて手元においてじっくりと検討することが必要であります。
今回の
法案は、
保証の要式化と
包括根保証の
見直しに
限定されましたけれども、特に消費者
金融や消費者取引に伴う
保証被害がこれでなくなるものではありませんので、なおも検討をお願いしたいと思います。
第二点として、
法案は、貸し渡し金や手形割引について
包括根保証を禁止し、
限定根保証のみが許されているとしています。この点は、これまで
包括根保証が非常に大きな
責任を
根保証人に課して、その結果、
経済的再生の道を閉ざしてきたことを考えれば、誠に大きな前進であると考えます。しかし、
平成十一年に社会問題となった商工ローン
被害で明らかになりましたように、
包括根保証を禁止して
限定根保証になったとしても、今度は
極度額を大きく設定して過剰な与信がなされれば、
包括根保証の場合と同じような
保証人被害が
発生することには変わりありません。仮に、今回の法
改正において、
限定根保証についての規制を盛り込むことが時間的制約から困難であるとすれば、特に
個人だとかあるいは
個人と
経済的実質の異ならない
個人会社などがする
根保証については、将来的な再検討、法
改正の余地を残していただきたいと考える次第であります。
また、今回の法
改正において、国会での審議の中で御議論をいただき時間的に余裕があるのであれば、
限定根保証であっても許されるのは
経営者保証だけであって、特に
個人や
個人と
経済的実質の異ならない
個人会社による
第三者保証は許されないというふうにすべきであると考えます。
今回の
改正では取り上げられない重要な点について更に申し上げます。
個人の
根保証人に対しては、
一定の特別な事情がある場合には
根保証契約からの離脱をすることが可能な方策を設けるべきであると考えます。
すなわち、
根保証契約による
保証期間中であっても、主たる
債務者と
根保証人との
関係とか、あるいは
債権者と主たる
債務者との
関係、あるいは主たる
債務者の資産状況のいずれかに著しい事情の
変更があった場合など
一定の特別な事情がある場合には、
根保証人は
保証すべき
債権の元本の確定を請求することができるということにして、
根保証契約から離脱することができるようなシステムを考えるべきではないかと思います。
例えば、
会社の取締役であった人がそのために
根保証人になったという方がおりますけれども、そういう方が
会社を退社した場合には元本確定を請求できることとして、退社以降に
発生する
債務については
負担しないものとする
制度を設けるべきではないでしょうか。
さらにもう一点、通知義務についても
規定を設けるべきです。
根保証人に限らず、
保証人というのは、
保証をした後は
融資の状況やどのように
履行されているかという状況について
債権者や主たる
債務者から何の連絡もありません。主たる
債務の変動、不
履行の有無について十分な
情報を有しない事例が多数あります。ある日突然に
保証人の
責任を追及されることが多いのであります。残高、
履行状況等の
情報が
債権者から入れば、
保証人からも主たる
債務者に対して業況の改善や優先的にこの
債務について弁済しなさいということを求めることができます。せめて、
債権者に対して主たる
債務者が遅滞となった場合など
一定の事由が
発生したことについて
個人の
保証人に通知をなすべきである、そういう
制度を考えるべきだと考えます。
次に、第二の
法案について申し上げます。
動産譲渡担保の
公示制度につきましては、
弁護士会の中で賛否両論あるところであります。
賛成論は、従来実務で行われてきました
動産の
譲渡担保は
占有改定の方法を取るため、外部から分からない、
占有改定の公示力はないに等しいため不安のある
担保であったので、
公示制度を整備し、
動産譲渡担保をより利用しやすく、かつ安定、実効性を高めたものにすることによって、
資金調達・
資金供給手法が多様な発展を遂げていくことが期待されるから、
登記という公示方法を設けることに
一定の
評価をすることができるというものであります。
しかし、賛成論ももろ手を挙げて賛成するというのは少なく、反対論の論拠であります
動産の
特定方法によっては
企業のすべての
動産が
債権の
担保となる事態が生ずる可能性があるとか、あるいは新たな与信や貸付けを生じさせることなく既存
債務の補強や事業者が過剰
担保を強いられる場面で使われる危険があるとか、
企業の
労働者や納品業者らが引き当てとなる財産がなくなることなどへの何らかの手当てを条件に賛成している者も多いのであります。
賛成論と反対論が分かれるところは、
企業への
資金調達・
資金供給手法に多くのメニューがあった方が良いとするか、法的安定性を求めるかの問題であると思われます。
ただ、私から
制度導入後の疑問点を
一つ申し上げますと、本
法案によりましても
動産担保の法的不安定性は、
登記しても即時取得を妨げないという例にもありますように、避けられません。これは、不
動産と異なりまして正に
動産でありまして、簡単に動いて転々流通されるという
動産の性格からくるもので、即時取得され、
他人のものでも
登記できてしまいます。
次いで、
債権譲渡に係る
債務者、つまり第三
債務者不
特定の将来
債権の
譲渡の
登記制度について申し上げます。
この問題につきましても、
弁護士会内に賛否両論があります。
意見の分かれる原因はおおむね
動産譲渡担保の
公示制度についてと同じと思われます。ただ、
債務者が不
特定の将来の
債権で金額も明示しないというこのような
権利について、
権利の内容が不確定であるのに
公示制度だけ作ろうとしているんではないかということで反対論の方が若干多いように見受けられます。
私なりに気付いた疑問点を申し上げますと、既存の
債権譲渡につきましては、第三
債務者の名前や住所、それから
債権の総額が必要的
登記事項とされております。その
理由は
債権の
特定に必要であるからとされているのでありますけれども、将来の
債権についてはこれらはなくてもほかのもので
特定可能で有効とされておりますけれども、第三
債務者の名前や金額が
特定できる段階できちんと
特定の
登記をしておかないと、
譲渡された
債権であったのかをめぐって
債務者とトラブルになったり、
債権が二重に
譲渡されるときにトラブルが出ないか懸念があります。
最後に、
動産と
債権譲渡との両方に関連したことについて二点申し上げます。
債権譲渡登記の創設と
債務者不
特定の将来
債権の
譲渡の
登記制度とは表裏一体であると考えます。
集合動産の
譲渡は将来の
売り掛け債権に変じるから問題点が共通するんであります。
では、第一点ですが、
動産担保にしても将来の
債権担保にしましても、その法的回収方法の難しさであります。法的回収に入ったときのこと、つまり
融資等を受けた
債務者が
債務不
履行になったときのことを想定して、原材料や在庫などの集合物
担保については、正に倉庫などに出たり入ったりの
動産をあるときに突然に把握できませんので、両者の
関係がうまくいっているときから棚卸しの明細などを
提出させて
売り掛け先だとか買い掛け先の管理をする必要があります。将来の
債権担保につきましても、日常の管理をしておかないと
債権者自ら
債権を回収することができません。この管理の内容がどの程度なのか、借主への
会社の支配、借主に対する
会社の支配を過度にしないでどう管理するのかの課題と、それから管理コストの問題がございます。この点から、
金融機関の方に、新規の
融資制度としてどの程度利用される
制度であるのか、お尋ねいただきたいと思います。
第二点としましては、本
法案によるそれぞれの
登記制度を採用して、反対論の懸念する問題、すなわちニーズがどれだけあるのかとか、過剰
担保に取られないか、あるいは倒産時に悪用されないかとか、
労働債権や納品業者の最後の手だてともいうべき先取特権の
対象がなくなってしまうなどの事態が起こるのか起こらないのかは今後の
金融実務慣行の形成にゆだねられているということであります。これらの事態を防止する手だては本
法案には盛り込まれておりません。
ニーズがあるかどうかでございますけれども、在庫品や将来
債権の市場性、流通性があるかは商工団体
関係者の方にお尋ねいただきたいと思います。集合物や将来
債権の適正な
評価ができなければ、つまり、例えば一億円で納品された在庫品又は
債権額一億円になる将来
債権に対して何割で買い取ってもらえるのか、何割
融資してもらえるのか、現段階では分かりません。従来、高利
金融業者は、商工業者に貸付けをするときに詳細を白紙とした売掛金の
債権譲渡通知書を取りまして、高金利を支払い切れずに期限に遅れてまいりますと
譲渡通知書に詳細を記入して取引先へ送付して売掛金を回収してまいりました。適正に
評価されたとおりの
資金調達をせずに過剰
担保を取る高利業者の手口が今度は
登記によって正当化されないように手だては必要であると思います。
また、市場性がないと、倒産のどさくさに既存の
債権を回収するために早い者勝ち式に押し掛けて、この
登記制度を使って一網打尽式に倒産者の
動産の、売掛金
債権が移転されると、
会社再建
手続に支障となります。再建中の
債権、再建計画策定中のファイナンスにこの
制度が有用であるとの御
意見もありますけれども、いわゆる乗っ取り屋が何がしかのお金を払って、倒産時には在庫がなくなっているという手段にも使われ、再建
手続の法的支障となる可能性もあります。さらに、
担保実行後の清算をどういうふうに行うのかという問題もあります。
新
破産法では、
労働債権の一部を財団
債権化としました。従来、
労働債権は
民法で先取特権があるのに、
破産手続を行っても税金にばかり配当され、未払賃金や退職金には回らなかったという問題を、社会政策的に三か月分の給料などを確保しようとするものであります。この動きと本
法案とがリンクしておりません。本法、本
制度が悪用されたときの手だてはなされておりません。
私の
意見は以上であります。
どうもありがとうございました。