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参考人(
福井俊彦君)
日本銀行の
福井でございます。
日本銀行は、去る六月でございますが、
平成十五年度下期の通貨及び
金融の調節に関する
報告書を国会に提出させていただきました。本日、
日本銀行の
金融政策運営について詳しく御
説明申し上げる機会をちょうだいし、厚く御礼を申し上げます。
最初に、最近の経済
金融情勢について御
説明申し上げます。
我が国の景気は回復を続けております。その背景について御
説明申し上げますと、世界経済は、これまでの高めの成長から幾分速度を落としつつも拡大を続けております。米国では、原油価格上昇の影響などから個人消費が減速しておりますほか、雇用拡大のテンポも春先に比べれば鈍化しております。しかしながら、
企業収益や設備投資は
増加を続けておりまして、景気拡大のモメンタムは維持されているものと見られます。また、東アジア経済も、中国を中心になお高めの成長を続けております。
こうした世界経済の下で、
我が国の輸出や生産は伸びがやや鈍化しつつも
増加傾向を続けておりまして、これが
企業収益の好転をもたらし、設備投資の拡大を促しております。こうした前向きの循環が働いていることが今回の景気回復の
一つの背景でございます。
また、
企業の過剰投資、過剰
債務、過剰雇用や
金融システムの脆弱性といった、これまで
我が国経済の回復を遅らせてきた構造的な要因の調整がかなり進んできていることが景気回復の二つ目の背景として挙げられると
思います。そうした調整が進展している成果といたしまして、
企業収益は大きく
増加しておりますし、雇用面の改善傾向も続いております。
先行きにつきましては、原油価格の高騰が内外経済に与える影響や世界的なIT関連需要の動向などに留意していく必要はございますが、世界経済が拡大を続け、
我が国でも構造的な調整圧力が和らいでいく下で、景気は回復を続けるものと見ております。
次に、物価の面について見ますと、国内
企業物価は、原油を始めとする内外の商品市況高あるいは需給バランスの改善ということを反映して上昇しております。一方、消費者物価、特に生鮮食品を除く全国の消費者物価は、
企業部門における生産性の向上や人件費の抑制などが商品市況等の上昇の影響を吸収する効果もございまして、小幅の下落を続けております。
金融面では、
日本銀行の潤沢な資金供給の下で、
金融市場は総じて落ち着いた
状況が続いております。
資本市場では、長期金利は年半ばにかけて幾分上昇いたしましたが、このところは一%台半ばで推移しております。また、株価は、景気が回復を続ける下で、総じて底堅く推移している
状況でございます。
企業金融をめぐる環境も、
信用力の低い
企業についてはなお厳しい
状況にございますが、全体として見れば、緩和される
方向にございます。民間銀行の貸出し姿勢は緩和してきておりまして、
企業の方から見た民間銀行の貸出し態度も引き続き改善しております。また、民間の資金需要は減少テンポが幾分緩やかになってきております。こうした下で、民間銀行の貸出しは減少幅の縮小が基調として続いております。さらに、CP、社債といった
資本市場を通じた資金調達環境も良好な
状況が続いておりまして、CP、社債の発行
残高は前年を上回って推移しております。
次に、最近の
金融政策の
運営について申し述べさせていただきたいと
思います。
日本銀行は、現在、日銀当座預金
残高という量を操作
目標として
金融緩和政策を実施いたしております。具体的には、三十兆円から三十五兆円
程度という
目標値の下で
金融市場に潤沢な資金供給を行っております。また、この
金融緩和政策を消費者物価、生鮮食品を除く全国ベースの消費者物価の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで継続する、そういう約束をしております。
以上のような約束は、先行きの金利予想、ひいては市場金利を安定させる効果がございまして、その下で
企業にとっては引き続き低利での資金調達が可能となる環境が整えられております。このような金利を通じた景気支援効果は、景気が回復し
企業収益が改善する
状況においてより強まっていくと
考えられるところでございます。
こうした政策の効果を念頭に置いて、
日本銀行は、消費者物価指数に基づく約束に従って量的緩和政策を堅持いたしております。
加えまして、
日本銀行は、
金融緩和の効果を経済に幅広く浸透させるため、市場を通じる資金仲介の多様化、効率化にも取り組んでおります。このことは、長期的には
金融・
資本市場の整備につながっていくと期待されるところでございます。その一環として、昨年夏場から
資産担保証券の買入れを開始し、これまでに累計で約一兆五千億円の買入れを実施いたしております。
さらに、今年の五月から、国債市場の流動性向上という観点から、市場で不足する国債の銘柄について、
日本銀行が保有する国債を補完的に市場に供給する制度を実施しております。
このように、
日本銀行は、幅広く
金融・
資本市場の整備に資する取組を進めておりまして、今後ともそうした
努力を更に続けていきたいと
考えております。
なお、
日本銀行は、株価の変動が
金融機関経営、ひいては
金融システム全般に及ぼすリスクを緩和する趣旨から、銀行保有株式の買入れを行ってまいりましたが、本
措置については、本年九月末をもって終了いたしました。この間の買入れ額は二兆百八十億円に上っております。
日本経済は、世界経済が拡大を続ける下で今後も回復を続けていくものと予想されます。これを持続的な成長とデフレ克服の実現につなげていくためには、引き続き幅広い経済主体の経済活性化に向けた取組が重要だと
考えております。
日本銀行といたしましては、景気が回復を続ける中にあっても、消費者物価指数を基準とする約束に沿って粘り強く
金融緩和を続けることで日本経済を
金融面からしっかりと支援してまいる、そういう覚悟でございます。
御清聴ありがとうございました。