○
首藤信彦君
首藤信彦です。民主党・
無所属クラブを代表し、ただいま
趣旨説明のございました
経済上の
連携の
強化に関する
日本国と
メキシコ合衆国との間の
協定について
質問いたします。(
拍手)
それに先立ち、昨今の
台風、そして
新潟を襲った
地震によって被災されている
皆様に心からお悔やみとお
見舞いを申し上げます。
と同時に、
政府には
危機管理対策の充実を望みます。
危機管理の要諦はプリペアドネス、すなわち、どれだけ
事前に
準備と
覚悟ができているかということでございます。
準備のない
危機管理は単なる
管理危機であって、今、
政府は
管理危機に陥っているのではないでしょうか。
きょうは二〇〇四年十月二十九日、くしくも今から八十日後の一月十六日は、阪神・
淡路大震災から十年目を迎えることになります。しかし、テレビを見ると、
新潟の現状はデジャビュ、
既視体験とでもいいましょうか、
規模こそ違え、同じような
状況を目の当たりにして愕然とする思いです。
また、今この瞬間において、
イラクでは
日本人青年が
武装グループに拘束され、生命の
危機が迫っています。
政府におかれましては、救出に
全力を挙げると同時に、
危機管理の
基本が
事前対策と予防にあることを再認識し、
危機管理体制の再建に
全力をかけられることを切に切にお願い申し上げます。
さて、先ほど
外務大臣から
イラクの
事件に関しての御
説明がございました。
今、この
国会の開かれる直前に、
イラクの北部の
ティクリット、サダム・
フセイン大統領の故郷でありますが、
ティクリットにおいて
アジア人らしき人物の死体が発見されたという
情報がございました。その
情報はまだ未確認であり、また、
本件の
事件とどれだけの
関係があるかもわかりません。しかし、このことは何よりも
国民の重大な
関心事であり、
外務大臣に特別にその
詳細説明をもう一度求めたいと思います。(
拍手)
そして同時に、なぜこの
青年がビザもなく
イラクに入っていけたのか、どうしてこのことをこんな難しい時期に
我が国の
外務省がチェックできなかった、そのことに関して
外務大臣の
弁明を求めたいと思います。
この
事件に関しては、各地でさまざまな
情報を手に入れる必要があると思います。しかし、残念ながら、
我が国には、この
事件に関しても、また
イラクで起こっているさまざまな
事件に関しても、ほとんど
情報がない。これではまさに、目隠しされて
障害物競走に出るようなものではないでしょうか。一体、今後、
イラクでのこれからのさまざまな
事件、そして、それがチェックできないというなら、どうやって私
ども国民と
国民の財産を守っていくのか。
政府の
危機管理体制、そして
イラクへの
対策を
質問したいと思います。(
拍手)
さて、ちょうど今から六十年前の一九四四年、まだ第二次
世界大戦も
最終局面に達していなかったころ、ニューハンプシャー州の
ブレトンウッズで、ハリー・デクスター・ホワイト、ジョン・メイナード・ケインズという
アメリカとイギリスを代表する
経済財政専門家、そして四十四カ国の代表などが集まって、戦後の
経済システムの
基本デザインを決めました。その結果、IMFとIBRD、いわゆる
国際通貨基金と世銀とが成立して、今日に至るまで
世界経済を支えています。
なぜ
戦争継続中にこのような
会議を設けたかというと、
国際経済システムの崩壊こそが
貿易を縮小させ、
通貨切り下げ競争、そして
ブロック経済化を招き、最終的に第二次
世界大戦をもたらしたという反省であり、したがって、二度と
戦争をもたらしてはならないという
覚悟で
ブレトンウッズ協定をつくり出したのです。
実は、戦後においてもう
一つの柱、
自由貿易のルールをつくろうとしました。それが一九四八年の
ハバナ憲章であり、
ITO、
国際貿易機構の
創設によって安定的な
国際経済システムをつくろうとしたのです。ところが、
投資や
農業分野で
アメリカが反対して、結局、
ハバナ憲章を批准せず、
ITOは成立しませんでした。
国際貿易システムは、
関税協定のガット、現在の
WTOだけが生き残ったものの、
国際貿易の自由公正な
発展には必ずしも十分な働きをすることができないまま現在に至っています。
今、なぜこのような話を、半世紀前の昔の話を持ち出してきたかというと、
国際経済システムや
貿易協定のようなものが、その取り扱いによっては、一国の
経済を破綻させ、
民主政治を崩壊させ、そして
最後には
戦争をも導く
可能性があることを我々も十分認識する必要があるからであります。
第二には、製品、産品の
貿易自由化は、同時に、
投資、ソフト、人の
移動など広範な
自由化をもたらし、その
影響評価も極めて難しいということです。各
分野の
専門家を招致して
慎重審議が必要となります。
そして第三に、
過剰農産物を抱えた
アメリカの存在が、これまでも
国際貿易システムの安定にとって攪乱要素となってきたという事実への認識です。
このような視点で、今回
政府提出の
メキシコ合衆国との
経済連携協定、いわゆるEPAを見ると、多くの深刻な問題点を
指摘せざるを得ません。そこで、限られた時間の中で、そのごく一部について、
関係大臣に対応をただしたいと思います。
まず、提出者の
外務大臣に
質問いたします。
本
協定は、あくまでもEPA、すなわち
経済連携協定、エコノミック・パートナーシップ・アグリーメントでありますが、
国会においても、我が同僚においても、そしてまた
経済界においても、これをFTA、すなわち
自由貿易協定と誤解している向きが非常に多いということです。EPAは、先ほどの
趣旨説明にありましたように、
貿易のみならず、
投資、人の
移動、
ビジネス環境の
整備など、
両国間の農業や広範にわたる産業構造の調整、こうしたものが必要とされるものであり、単なる
貿易の
自由化とは似て非なるものです。
そこで、文化、制度基盤を共有し、長い生産分業の
経験を持つ
アジア諸国とではなく、
アメリカの
経済覇権を基盤とするNAFTA、北
アメリカ自由貿易協定の主要国である
メキシコとなぜ今わざわざEPAを結ぶ必要があるのか、また、その将来にどのような展望を持っているか、
説明いただきたい。
第二に、そのNAFTAに参画したことによって、
メキシコは
経済が
発展し、雇用が増加し、
農産品輸出が拡大すると期待しました。しかし、現実にはどうでしょうか。NAFTAのシステムが機能し始めるに至って
メキシコ経済は失速し、ブラジルなどいわゆるBRICs国にはるかにおくれをとるようになりました。農業においては、価格
競争力のある
アメリカの
農産品が流入し、
メキシコは自給国から農業の輸入国に転落しました。穀物ですら、
アメリカの穀物自給率一二〇%に対し六八%と、今や
メキシコは穀物自給国ですらありません。
そのため、NAFTA参加を決めた政権が揺らぎ、
アメリカの
農産品との
競争にさらされた
メキシコ農民はNAFTAの再
交渉を要求していると言われています。現政権を苦境に追い込み、同時に、NAFTA構想を推し進める
アメリカをも当惑させているのが現状ではないでしょうか。
その意味で、今回の
メキシコとのEPAは、
危機に立つ
メキシコ政府と、より
メキシコへの輸出を拡大したい
アメリカ政府にとっては確かに渡りに船なのかもしれませんが、比較劣位にある
メキシコ産品をわざわざ輸入することは、
我が国の国の富を損ね、
我が国の農民を苦しめる以外に一体何の効用があるのか、
説明いただきたいと思います。
無論、工業製品の対
メキシコ輸出が増加するという回答はあると思いますが、既に主要な
日本企業は現地生産を充実させ、現地調達を増大させており、また、
日本からの工業製品の多くが技術
レベルが高く価格
競争力を持っていることを前提にすれば、関税切り下げ効果のような紋切り型の回答が意味を持たないことを自覚していただきたいと思います。
第三に、迂回
貿易の問題があります。
本来なら、安全基準上、衛生基準、価格
競争力、関税障壁上、
我が国に容易には輸入されなかった産品が、この
協定でつくられる
自由貿易のチャンネルを通って
国内市場に入ってくる
可能性があります。
それを排除するためには、何よりも原産地証明が重要となります。また、本
協定でもそのように規定されていますが、果たして本
協定対象国の原産地証明がどれほどの信頼性を持ち得るものでしょうか。業界には、
アメリカ製品が戦略的に
メキシコを迂回して
我が国市場に大量に入り込むとのおそれもあります。
無論、外交における
相手国との信頼
関係は重要ですが、現実
世界の厳しい国際
競争を
考えれば、現実には、そうした性善説だけでは
国内市場を守ることはできません。
政府は具体的にどのようにして原産地原則を貫徹するつもりか、その
覚悟と方策を
説明してください。(
拍手)
また、
日本はこれまで、
相手国に検査官などを派遣して
相手政府の認証、業界の慣行などをチェックすることがありませんでした。しかし、皆さん、EUなどの
貿易体制を見れば、主権侵害ではないかと思われるほど
日本にも
専門家や検査官を派遣して検査しています。
日本政府もこのような行動をとられるのかどうか、お答え願いたい。
以上、四点につき、
外務大臣に
質問いたします。
次に、このEPAによって最も深刻な
影響を受けるであろう
農業分野について、農林水産
大臣に
質問いたします。
何よりも危惧するのは、食の安全でございます。BSE騒動で明らかなように、
日本と
アメリカの検疫、衛生基準に差がある現状において、
アメリカ産の肉骨粉や残留農薬汚染の飼料を食べた
可能性のある豚や牛の製品が
日本に輸入されるリスクにどう対応するのか、明確にお答え願いたい。
BSEに関しては、
メキシコ政府は、牛肉に関し、自国がBSE発生国でない証明書をつけて輸出すると言われますが、そもそも、
日本のように全頭検査が行われているわけではなく、
アメリカと同様に三十カ月齢以下の牛には検査が行われていないと言われる
メキシコで、BSE発生あるいは無発生の確認が権威を持ち得るのか、大変疑問であります。
農林水産
大臣はBSEを余り深刻には
考えておられないという報道も流れておりましたが、BSE汚染牛の輸入を阻止できる具体的な方策を示してください。
また、既に
日本で深刻な問題となっているGM
農産品、すなわち遺伝子組み換え産品の侵入をどのように防ぐか、具体策を
説明ください。
最近、驚くべきニュースがもたらされました。それは、
メキシコのトウモロコシが大
規模にスターリンクに汚染されているという
情報です。それが事実かどうか、御確認ください。また、トウモロコシの輸入を禁止するとしても、スターリンクで汚染されたトウモロコシを飼料とした豚肉、牛肉の検査及び排除手段を御
説明ください。
最後に、農林
大臣、この
メキシコEPAで最も直接的で深刻な
影響を受けるのは、
我が国の農家です。既に
日本の食料自給率は実質四割を切っていると
専門家は
指摘しています。今回のEPA
協定で、例えば
メキシコからの豚肉の輸入は、従価税率半減の特恵輸入枠を設定し、一年目で三万八千トン、五年目には八万トンに達すると想定されていますが、それは
日本の輸入量の一割近い量です。
食料自給率向上が安全保障上の至上命題である、その
我が国において、
メキシコだけでなく今後EPAが拡大すれば、
農産品輸入の大幅拡大は火を見るよりも明らかですが、
日本の自給率を向上させるために、農業補助金を含め、
平成十二年の食料・農業・農村
基本計画を超える、どのような抜本農業改革が行われるのか、そのグランドデザインをお示しください。
以上六点、御回答をお願いします。(
拍手)
次に、法務
大臣にお聞きします。
今回、
メキシコとのEPAで危惧される要素は、大
規模な製品と産品の
貿易に加えて、
企業間契約形態の多様化、労働・雇用・教育システムの調整など、これまでの
貿易概念とは量的にも質的にも飛躍的に拡大した
関係が生まれ、そこにおける紛争も多様で広範なものになると、その
可能性が
指摘されています。異なった言語、文化、習慣の衝突も予想されます。さらに、EPAであるために、
企業間紛争も
WTOの紛争解決手続を利用することができません。これらすべてが、
我が国の法体系、裁判システムなど法制度及び法曹界を含む大
規模な対応が必要となることを暗示しています。
法務省は、今回、EPA
協定の実行を前提にどのような対応を打とうとしているのか、御
説明ください。
また、今回、EPAでは、大
規模な
ビジネスマンの交流、
移動を前提としています。それは、必ず、ホワイトカラーや技術者だけではなく、非熟練労働者や職探しの若者など、大量に
メキシコから
日本にやってくることを予想させています。
アメリカでは、九・一一テロ以降、国境管理が極度に厳しくなり、
メキシコからの不法入国が困難になっている現状を見れば、そうした傾向が加速することは容易に
考えられます。
しかしながら、
日本の入管システム、収容施設、通訳、
国内定着
支援などが極端な欠陥と限界を持っていることは、最近のアフガニスタン難民騒動などで明らかなはずです。今回の
メキシコEPAに関して、また将来のEPAに伴う人の流入に対して、法務省としてどのように対応しようとしているのか、具体策をお示しください。