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中村参考人 ただいま
委員長より御紹介を賜りました
中村でございます。
本日は、
参考人としてお招きをいただき、愚見を申し上げる
機会を賜りましたことにつきまして、大変光栄に存じますとともに、感謝を申し上げます。
私は、
中小企業専門の
金融機関で金融
法務の
実務に携わっております。また、商工
会議所等経済団体の諸活動におきましても、経済法規に関する政策提言づくりに参加しており、そのことから、
法制審議会保証制度部会並びに同じく
動産・
債権担保法制部会の
委員にも就任し、議論に参加してまいりました。これらのことを
背景に、本日は、
金融機関と
中小企業の双方の視点をもって
意見を述べさせていただきます。
なお、以下は、
中村の
個人的見解であることをあらかじめお断り申し上げます。
まず、本日の案件でございます
二つの
法律案についての総論としての評価を申し上げます。
両
法律案とも、
中小企業の
資金調達の多様化並びに地域金融の機能強化に資するものとして、賛成をいたします。
すなわち、
中小企業におきましては、
資金調達手段の確保が経営上の最大かつ喫緊の
課題であります。長期にわたる
資産価値下落の
状況下、
不動産担保並びに
第三者保証等への過度の依存からの脱却、
企業のキャッシュフローのモニタリング等の実施、
債務者企業による経営状態の適切な
開示により、
中小企業の
資金調達手法の多様化を図ることが
現下の急務となっております。
その意味で、両
法案ともに、現在の
中小企業金融における問題点の解決に資するものとして、高く評価できるものであります。
次に、それぞれの
法律案の細目について申し上げます。
第一に、
民法の一部を
改正する
法律案であります。この
法律案のうち、
包括根保証を禁止する旨の箇所につき、特に
意見を申し上げます。
我が国経済の礎となっている
中小企業におきましては、
金融機関から
融資を受けるほとんどの場合、
経営者の
個人保証を求められており、加えて、経営に直接関与していない
第三者、
親族、知人等の
個人保証を求められることも少なくありません。
また、その
保証の
内容につきましては、
特定債務保証や
期間、
限度額を
定める
限定根保証ではなく、そうした
定めのない
包括根保証が求められるケースがありましたが、その場合、
第三者であっても、
債務者との情義あるいは
債務者の
資金調達の便宜を顧慮し、あえて
包括根保証を受諾することもありました。
さらには、当該
包括根保証の法的な責任の態様、換言すれば、
債務者が破綻した場合に想定される
保証人の責任
範囲や連帯
保証であるがゆえの厳しさ、これは、催告の
抗弁権や検索の
抗弁権が排除されているということに代表的であろうかと思いますが、これなどについて
債権者から満足な説明を受けないまま
保証人となる事例も散見されたのであります。
しかしながら、
保証人が
個人として
包括根保証を負っている場合、
経営者であるなしにかかわらず、
特定の
債権者に対するすべての
債務を一括で弁済することが求められるなど、実質的に
個人保証人が無限責任を負っているに等しく、あたかも人生を
担保として提供しているかのようであります。
このような
個人保証人の過度の
負担ゆえに、
債務を
負担している
企業の破綻が直ちに
個人保証人の破綻、破産、失踪あるいは一家離散等につながる悲劇を生じさせているとの指摘も聞かれます。
中小企業金融におきまして、過度の
個人保証依存が
改善されなければ、現在強く求められております経営のモニタリング等によるキャッシュフロー評価や事業の将来性評価に基づいたリレーションシップバンキングが定着しないばかりか、
保証かぶりを恐れる
経営者等の判断の遅延により、業績不芳
企業の早期再生が困難となるなどの懸念が払拭されません。
以上のような問題認識に立って、
法案に賛成するものであります。
さらに、具体的な条項について付言いたします。
極度額、
限度額の
定めのほか、
元本確定期日、
保証期間の制限の
定めが設けられたことで、
保証人にとって、半永久的に
保証の責務を負うということよりも、例えば、
契約によって五年ごとに自己と
債務者との
関係を見直し、
保証継続の可否の判断が可能となります。また、
元本確定事由として、強制執行を受けた場合や破産手続開始決定を受けた場合は当然のことながら、特に死亡した場合は、御遺族など相続人の精神、経済生活両面にわたる御
負担に思いをいたせば、自明なこととしてうなずくものであります。
また、
根保証契約を含む
保証契約は
書面、
契約書によらなければ無効とすることにつきましても、
債権者が
保証人に不当に圧力をかけて口頭で
保証の条件を強要した場合はもちろんのこと、法的、経済的知識や経験に乏しい人が
債権者に言われるままに口頭で合意するといった懸念を払拭することになると存じます。
ここで、
法律案には直接
関係のない
事項に若干言及させていただきます。
まず、
個人保証人に係る
制度的見直しはさることながら、次に述べます
動産や
債権等の多様な
資産の
活用によるリスク補完の提供等、
個人保証に過度に依存しない形での保全手法の進展も図られるべきであります。
また、
根保証の提供の必要性や
債務者の資金ニーズに合った合理的な
極度額の設定などについて、個別の案件ベースでの
金融機関の説明
義務、アカウンタビリティーの充実が必要であり、金融庁の総合監督指針にうたわれておりますとおり、顧客から求められれば、事後の紛争を未然に防止するため、理解と納得を得ることを目的として、その
契約が合理的かつ客観的理由に基づくものであることを説明する体制が
金融機関において
整備されることが必要であることは言うをまちません。
さらに、
中小企業自体におきましても、これまで以上に適切な会計慣行を確立することにより、信頼性、透明性を維持向上させることも不可欠のことであります。
本
法律案は、さきの第百五十九回国会において
成立し、本年六月二日に公布されたいわゆる新
破産法の御
審議の際の衆参両院の
法務委員会の附帯決議にも沿った
内容であり、その意味で、まことに国民の声を尊重されたものと言うことができるものだと思っております。
第二に、
動産及び
債権譲渡の
公示制度の
整備を旨とする
債権譲渡の
対抗要件に関する
民法の
特例等に関する
法律の一部を
改正する
法律案についてであります。
中小企業におきまして、在庫等の
動産を
担保とすることは、事業の収益
状況、キャッシュフロー重視の
資金調達手法の多様化を実現する手段として有効であります。また、
個別動産の
担保につきましても、当該
動産の購入資金等の調達がより容易にできることが必要であります。
譲渡担保の場合の
対抗要件は引き渡しでありますが、これは
民法百七十八条であります。引き渡しは
占有改定で足りるとされております。
占有改定によって
対抗要件が具備されている場合には、既存の
譲渡担保が存在しても、外形的にはこれが判然としません。そのため、
債務者のもとにある
動産に
譲渡担保を設定しようとする際、予定していなかった既存の
担保権が存在する場合がありますが、
占有改定による即時
取得が認められていないため、後発の
譲渡担保は既存の
譲渡担保に劣後することになります。
金融機関等は、こうした点を懸念し、
動産に
担保権を設定しての
融資に消極的になりがちであります。
なお、習慣上、明認方法を利用することがありますが、倉庫に張り紙をするといった明認方法は、
債務者側からの抵抗感も強いため利用しづらく、また剥離等の懸念もありますので、
占有改定による公示性の低さを補うための手段としては甚だ不完全であります。このような
動産譲渡担保の公示手段の不十分性が、
動産に対する
譲渡担保の安全性を低くしており、
動産の
担保としての
活用の
障害となっていることがつとに指摘されておりました。
すなわち、
集合動産、
個別動産を問わず、在庫等の
動産を
担保とする
融資モデルを確立、定着させるためには、
第三者対抗力の有無を外形上識別できず、したがって、
担保としての予見可能性、
安定性に欠けている現行の
譲渡担保のあり方を見直し、
公示制度を
創設することは、まことに有用であります。
また、第三
債務者不
特定の将来
債権を
担保に提供し、かつそれを公示する
制度の
整備につきましては、例えば在庫のライフサイクルを考えた場合、在庫、売掛金もしくは手形、さらに預金という流れになるのであり、その視点から、キャッシュフロー重視の
融資慣行の確立と相まって、
動産と一体的に
担保として提供されることが考えられます。既に、ある地域
金融機関にあっては、そのような手法を実施したと仄聞しております。今後、公示、
登記制度が
整備されることになり、特に地域金融のより一層の進展が期待できるものと考えます。
以上から、
実効性のある
公示制度の
整備を主眼とする本
法案に賛成するものであります。
さらに、第一の場合と同様に、
法律案とは直接の
関係のない
事項に触れさせていただきます。
動産等の
担保融資、アセット・ベース・レンディングが
実務上確立していくためには、
公示制度の
整備を重要な契機として、さらに、
担保評価の手法や
担保品の処分市場の確立、そのプレーヤーとなる事業者の育成といった環境
整備が必要であります。この点は今後の重要
課題と言っても過言ではないと存じますが、既に一部の物流専門商社等がプレーヤーとして名乗りを上げております。
また、
動産等の
担保が
債権者において過度の保全強化の手段として濫用されることのないよう、
債権者は十分に留意をする必要があります。このことは、
債務者の倒産を見越した上での
担保取得が
破産法上の否認権や
民法上の詐害行為取消権の対象となり得ることで
制度的な手当てはなされていると言えますが、さらに
金融機関にあっては、
担保提供の必要性等について、さきに述べた総合監督指針に従ってアカウンタビリティーを果たすことが必要であり、また、
金融機関以外の
債権者も、合理的な
範囲内での
担保取得を常に念頭に置くことを強く望むものであります。
冒頭に申し上げましたとおり、両
法律案はいずれも、
中小企業金融の第一線に立つ者として、長年の懸案であった問題の解決に資するものとして、換言すれば、
不動産担保や人的
保証への過度の依存から脱却し、事業の収益性に着目した
融資慣行を確立し、地域金融の機能強化につながる重要な第一歩であると認識しております。適切な御
審議を経て御承認をいただき、速やかに施行されることを望むものであります。
以上、雑駁な
内容となりましたことを御容赦いただきますようお願い申し上げます。
御清聴ありがとうございました。(拍手)