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原参考人 きょうは、ちょっと長いタイトルですので、私も
ADR法と略して
意見を述べさせていただきたいと思いますけれども、
ADR法の
審議に
参考人として招致をしていただきまして、大変ありがとうございました。私自身は、埼玉大学経済学部の非常勤講師というふうに所属がなっておりますけれども、
ADR検討会に消費者、
利用者の
立場ということで参画をいたしました。消費者運動に二十数年携わっておりまして、そういった見地から、きょうの
意見を述べさせていただきたいというふうに思っております。
最初に、この
ADR法案ができるということなんですけれども、二年半という時間をかけてきました。これは、先ほど
青山座長のお話にもありましたように、なかなか、
学問的な研究ですとか、それから実際にどういったニーズがあるのかとか、実際の
利用者の不満とかはどういうところにあるのかというような調査とか、そういうものが大変不足をしておりまして、勉強しながら、考えながらの
検討を重ねたということで二年半という時間がかかりましたが、それだけ内容はかなり
検討を尽くした形で、今、最善ということで出てきているというふうに思います。
私ども
検討委員がいつも考えていたのは、
司法制度改革の報告書で、
裁判と並ぶ魅力的な
選択肢となるようにというのが宿題としてついておりまして、この
裁判と並ぶ魅力的な
選択肢にするためにはどうしたらいいかということを非常に考えさせられた二年半ということになります。
私は、今回、この
法律、制定ということになるというふうに思っておりますけれども、
法律の制定のみで魅力ある存在になるというふうには考えておりません。苦情や
紛争解決の仕組みの中できちんとこの
ADRが
位置づけられて、活用されていってこそ、
ADR法が生きてくるというふうに考えております。もとより、司法そのもの、それから
裁判そのものが、
利用者にとって魅力ある存在であることも必須です。
裁判にかわるものではなくて、双方ともが魅力ある
選択肢であるべきだというふうに考えております。
以下、
法律の必要性、
法律の内容について、それから
ADR全体を取り巻く仕組みについて
意見を述べたいと思います。
最初に、第一に、
裁判外紛争解決手続の立法化の必要性についてです。
これについては、三点のことを考えております。
一つは、消費者トラブルというのは各地の消費者センターですとか
国民生活センターなどに寄せられておりますけれども、年間数十万件だったものが、昨年度は百万件を超え、百四十万件に迫ろうというふうにしております。こういった消費者が抱えるトラブルというものは大変多いわけですけれども、消費生活センターなどを
利用するものは四%にすぎないというふうに調査でも出ておりまして、世の中には、
解決に至らず滞留をしている苦情とか不満とか
紛争とかというのが数多く存在をしております。これは、
紛争解決の仕組みがとられていない、それから機能していないことにも大きな原因があるというふうに考えております。
それから、
二つ目ですが、規制改革政策の展開のもとで、これまでの消費者
行政というのは事前チェックということで進められてきておりましたけれども、今後については、市場ルールの整備ですとか民事ルールの変更ということを積み重ねるというようなことで徐々に転換をしており、消費者みずからが苦情や
紛争解決に取り組むべきだという面もふえてきております。しかし、消費者トラブルというのは、少額被害のためとか、それから立証の壁の厚さということもあり、訴訟をためらうケースが大変多いということも
特徴で、
裁判に至らない簡易な
紛争解決のための仕組みというものも求められております。
それから、三番目ですが、判断を
裁判官に預けるのではなく、
私的自治のもと、自分たちが自主的に
紛争解決に取り組みたいという機運も高まっております。これは、国境を越えるネット取引とか金融取引など、消費者を取り巻くトラブルも国内だけではなくて国境を越えるようなものも登場してきているというところで、
法律の判断によらない
紛争解決の仕組みが求められているということも背景にあると考えております。
次に、
裁判外紛争解決手続の
利用の
促進に関する
法律案について
意見を述べたいと思います。
ここについても三点ございますけれども、三点の中に、またちょっと項目によっては少し詳しく触れてみたいと思う点もございます。
まず
一つですが、
当事者同士が主体的に
紛争解決に取り組める
法律になってほしいというふうに思っております。
法律の
名称も
紛争解決手続というふうにしておりまして、これまで
紛争処理ですとか苦情処理という言葉を使ってきておりましたけれども、処理ではなくて
解決という言葉にしております。
法律の中でも、第三条でも、「
紛争の
当事者の自主的な
紛争解決の
努力を尊重しつつ、」という文言が入っておりまして、そのとおりだというふうに考えております。これは、
認証制をとっておりますけれども、
認証の有無にかかわらず、どの
ADRであっても柔軟な
解決の仕組みづくりということで
検討をしていただきたいというふうに思っております。
二点目は、公正さが担保されるということです。ここには
幾つかの項目を考えております。
一つは、
法律の第六条に定められている「
認証の
基準」にあるように
紛争解決手続が公正に組まれ、さらに、法第十四条にあるとおり、
利用者に、定められた事項について説明義務を課すということです。これも、
認証の有無にかかわらず、どの
ADRであっても遵守していただきたいと考えております。
それから
二つ目は、言葉の定義の明確化と
選択性の確保が必要だということです。
ADRという言葉は大変なじみがない言葉ではありますけれども、消費者とか
国民の間では、相談、苦情、
調停、裁定、
仲裁などさまざまな言葉が用いられて、混乱しているのが
実情です。定義を明確化して、自分が今どの
立場に立っているのかということがはっきりわかり、消費者や
利用者の
選択が最後まで働くということが確保されているということが必須だと思います。
それから三番目ですが、公正さを確保するためには透明性の視点が欠かせません。
ADRの
メリットとして、よく非開示性が強調されることがあるわけですけれども、これは、BツーBの場合、例えば
事業者対
事業者の場合とか、CツーCの場合、一般の
市民対
市民の場合というところでは有用かもしれませんけれども、
事業者対消費者、それから労働者対雇用者といったトラブルに関しては、こういった秘密性とはやはり相入れないのではないかというふうに思っております。必要最低限の秘密保持、もちろん、個人情報保護の、プライバシーへの配慮といったような秘密保持はかけても、その
ADRにどのような案件がかかり、どういう
解決を得ているかは開示していただきたいと考えます。それでないと、消費者や
利用者からは
ADRの
選択もできないし、公正さもジャッジできません。
それから四点目ですが、第一条にある「公正な第三者」という文言が入っております。「第三者」の冠に「公正な」という文言が入っているということですが、この「公正な第三者」になるための人材育成が欠かせないと考えております。
ADRは
当事者の間に入る第三者が果たす役割が非常に大きいということも考えて、これは
法律の中に
規定はされておりますけれども、
国等の
責務、それから
ADR機関の
責務としてぜひ考えていただきたいと思っております。
それから五番目ですが、消費者対
事業者、労働者対雇用主のように、構造的に力の格差が存在する
当事者間の
紛争解決のための配慮が必要だと考えております。考えられる例としては、契約書面などに
一定の
ADR機関利用の定めを一方的に置いたりするようなことですね。離脱ができるので
仲裁とは違いますけれども、そういった構造的な力の格差という場面の
紛争解決のための配慮ということは欠かせないというふうに思っております。
それから、この
法律案についての大きな三点目についての
意見なんですが、
認証制を
選択的
導入にしたということについて、四点ほど
意見を述べたいと思います。
これは
検討会の中で、
法的効果の付与の話と絡めて、どの
ADR機関にも
法的効果付与は認められないだろう、そうすると、やはり、
認証基準というものに沿って、ここであれば大丈夫であろうというような
ADR機関に付与をするということで、最後、非常に
検討を重ねた結果、
選択制ということでこの
認証制を
導入いたしました。これは、私としては、
多様性の中での
選択肢になるということで、
現状、今の形では、こういう形でスタートするのが妥当ではないかというふうに考えております。
それから、
法的効果の付与の中で
執行力の付与についても
検討を尽くしたわけですけれども、
執行力の付与については、その与える影響というものが大変大きいということで今回は見送りました。これで妥当ではなかったかというふうに考えております。
それから
二つ目ですが、
認証制を
導入することで、
弁護士法の第七十二条を
原則的に外すということを可能にいたしました。これは、
ADRの担い手として、必ずしも法的判断を必要としない
解決手法があってもいいとして多様な人材の登用の道を開いたということになると思います。
社会的に見てその
紛争解決が適正なものであったかどうか、公正なものであったかどうかのジャッジというものは、
ADRの透明性を図ることで確保されていくのではないかということを期待しております。
三点目ですが、一方、
認証制が
導入されることでの悪用の懸念も
検討会ではたびたび
議論となりました。つまり、
ADRの
認証を取ることで、お墨つきをもらっている、私どもの
ADRはお墨つきをもらっているということで、その中でかなり自由な
解決手法をとれますので、消費者や
利用者にとって不利な形での
紛争解決という仕組みを迫られるということがあってはならないというふうに考えておりまして、この
ADRの
名称独占の問題については
審議を尽くしていただきたいというふうに思っております。
それから最後ですが、
法律が
認証制を軸にして制定されますけれども、
認証を取るところについてはいろいろな条文でいろいろなことが明確化されてきておりますけれども、
認証を取らない
ADRというものも世の中には存在するということになります。こういったものに対しての配慮とか目配りというものも、
法律の中には盛り込まれませんけれども、
審議の中では
検討を尽くしていただきたい点です。
大きな点の三番目、
法律ができるだけでは
ADRの
活性化とかそれから魅力ある
選択肢にはならないというふうに申し上げた点について、若干
意見を述べたいと思います。五十三分までに終われということなのであと一分しかないのですけれども、ちょっと三分
程度お話をさせていただきたいと思います。ちょっと項
目的に、羅列的に、大変恐縮です。
一つは、ポータルサイトの設置とか
ADR間の連携が必要です。
ADRに対する消費者の認知度は、いまだ非常に低いものです。認知度を上げることと、どこにどのような
ADRがあるのかを広く知ってもらうということが大切で、それから各
ADR機関の連携も必須だと思っております。
二つ目は、コストの負担の問題です。これも、
法律の第二十八条で「報酬を受けることができる。」という条文を置いて、
ADRの運営にかかる費用の負担の問題ということは明示をしておりますけれども、だれがどのような形で負担をしていくのか。
検討会の当初では、
法律扶助の適用ができないかどうかということの
検討もいたしました。ただ、条文化には至っておりません。それぞれの
ADRにゆだねるしかないところですけれども、こうしたことの配慮は絶対欠かすことができないというふうに、これは、
利用者もそれから
ADR機関側からも非常に強い
意見が出ているところです。
それから三番目なんですけれども、相談とか苦情体制の整備がまず必須だと思います。
紛争解決の
手続だけ手厚く法整備をしても、その前の
段階の相談とか苦情体制の整備から考えていかなければならないというふうに思っております。
それから四番目ですが、政策などに生かす方策が必要です。
裁判で判決となれば、そこで示された判断というのは判例として積み重ねられていきますけれども、
ADRでは、どこでどのように
解決が図られたのかは、必ずしも明示的にされるわけではありません。判例は
社会性を持ちますけれども、
ADRでの
解決も何らかの工夫をして
社会性を持たせ、特に消費者政策などは思うところですけれども、そういった政策などに反映させる道筋も必要だと考えております。
それから五番目ですが、国際的視野が必要ということです。現在、国際標準化機構、ISOでは、
ADRの規格化がガイドラインとしてまとめられようとしております。来年十一月ごろに発効の予定です。国際的にも
ADRのあり方は関心を集めておりますし、ネット取引に見られるように国際間の取引も活発化しています。こうした中での
ADRのあり方の
検討も必須です。
それから最後に、消費者や
利用者による
紛争解決プロセスのチェックということです。
認証を取る
ADRであっても、
紛争解決プロセスのチェックは内容までは踏み込まないということを、
検討会でもかなりそういう
検討結果というんでしょうか、というところになっておりますけれども、
認証を取らない
ADRというのは、基本的には
当事者同士が納得すれば自由な設計になるということになりますので、消費者や
利用者によるチェックは欠かせないと考えております。
この点については、CI、国際消費者機構でも、二〇〇〇年度から各国の
ADRについて消費者の視点からのチェックというような、調査というようなことも進められておりますので、こういった視点も欠かせないと思っております。
ADRは、私は、
社会には非常に有用な存在だというふうに考えております。
法律が制定されることで、こうした
紛争解決の場を
利用する機運が高まることを期待しております。これが既存の
ADRの改善、それから
活性化にも結びついていくことも期待をしております。
審議を十分尽くして、この
法案を世の中に送り出していただきたいと考えております。
以上、私の
意見ということで陳述をさせていただきました。どうもありがとうございました。(拍手)