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篠原公述人 御指名いただきました
篠原裕明と申します。
私、まだ弱冠二十三歳でございまして、ことしの四月に
大学を卒業したばかりでございます。
会社員という肩書ではございますが、ほとんど学生のような
立場でしか
お話ができませんので、その点をお酌みおきいただいて、
お話をさせていただければと思います。
本日は、このような大変権威ある
憲法調査会にお招きいただいたことを、心から
御礼を申し上げたいと思います。
国会は、この五十年間、さまざまな役割をしてきたと思うんですが、落ちついてこの国の形を考えるということは余りなかったのではないか、日々
政府から提出される
法案を処理していくことにきゅうきゅうとしていたのではないかなと。そういう中で、中長期的な
視点に立って議論をされている
先生方、そしてまた、大変有益な資料をつくられている
事務局の皆様に敬意を申し上げたいと思います。
私、きょうはまず
国会、
行政監視を中心にというふうなテーマで
お話を申し上げるのでありますが、日々このような
活動をされている
先生方の前で
お話を申し上げるのは大変恐縮でございます。その点はどうか御容赦いただいて、
お話を聞いていただければと思います。
私、
国会が空洞化しているという
意見をよく聞きまして、私自身もある
意味それは当たっているのかなというふうに思います。
例えば、今
国会に提出されました
独占禁止法という
法案がございますけれ
ども、きのう何かニュースでは
継続審議が決まったということですが。
政府部内での
調整に一年から一年半ぐらいかかっているわけですね、
公正取引委員会、
日本経団連であるとか
与党であるとか。そういうところでほとんど
利害調整がなされてしまって、済んだものを
国会に出してもらっても、直すところがほとんどなかったり、
一つを直せば全体を直さなければいけなかったりして、結局は、ほとんど
政府が提出したままの形で
法案を通すことが多いのかなというふうに思います。
実際、
国会に提出される前の方が、
国会に提出された後よりも
法案に対する
新聞記事というのが多くて、世の中がどういうところに注目しているのかというと、やはり
政府の中での
調整に目が行っていて、
国会の中には全然目が行っていないなというのが
一つあります。
やはり、
一つこれは、
国会が余り
政府が提出してきた
法案に対して修正を行っていないという
現状が、そういう
国会に対する無関心につながっているのかなというふうに思います。
その
一つの原因は、
政府の
法案というのは、現在、もうほとんど完璧な形で出てきているわけですね。
条文形式が整って、既存の
法体系との
整合性を整えて。これは、例えば建物でいえば、鉄骨も組み立てて内装も整えて、もうあとはかぎを渡すだけという
状態で、では、今ここから何か直しますかと聞かれているのと変わらないわけです。
本当に
国会で直すことを予定しているのであれば、もっと
法案はシンプルな形で出してくるべきではないのかなというふうに思います。それはどういう段階で出すのか、
法案大綱なのか、
法案要綱なのか。
法案要綱といっても大体はもう形ができている
状態なんですが、もう少し
国会で直すのだという前提のもとで
法案を
政府も
国会もつくっていかなければならないのではないかというふうに
一つ思います。
また、
法案の
形式に関しましても、最近は
法律を読んでも一体どういうものなのかよくわからない、特に
運用がどういうふうに行われるのかわからないような
法案が多いわけですね。政令であったり省令であったり、
次官通達、
局長通達、
課長通達、それを見ないと全くどういう
運用をなされるのかわからないような
法律が多いわけです。そういう中で、
国会はやはりもう少し細かく
法律で
規定しなさいというふうに
政府に対して注文をつけることも必要なのではないかというふうに思います。
政府を監視するに当たって、
一つ有益な
手段とされるのが
議員立法でございます。
特に九〇年代の半ば、
土井たか子さんが
衆議院議長をやられていたあたりで、大変、
議員立法が重要だということが叫ばれて、それ自体は私も賛同をいたすのですが、何が何でも
議員立法でなければいけないんだという
考え方は、
議院内閣制をとる我が国においてはちょっと外れているのかなというふうに思います。やはり
基本は、
議院内閣制である以上、
政府が出してくる
法案を
国会が
審議するのでありますが、やはり
政府として提案しにくい
法案もございます。そのような
法案について、野党なり
与党の有志の
議員が立法府の
立場から
議員立法をされるというのが一番いいのではないかというふうに思います。
レジュメにも書いてありますが、
民主党の
皆さんがいる中で恐縮なんですが、一時期、
対案としての
議員立法というのを大変重視された時期があったと思うんですが、これははっきり言って
議院法制局の大きな負担になっていたと思うんですね。
一つの
委員会の
担当について
議院法制局、二、三人しか
担当がいない中で、ほとんど
審議をされずに流されていく
法案をたくさんつくるということは、これは
政治的な
意味は大変あると思うんですが、
現実的な
視点からいえば、ちょっとむだもあるのかなというふうに思います。
そうした
意味で、
対案は
対案なんですけれ
ども、ことし
民主党が出された
年金法案というのは、大変プログラム法的で
内容がよかったのではないかなというふうに思います。ここにも書いてありますが、
橋本行革の
行革基本法は、
内閣官房の方で起案をしたものではありますけれ
ども、
大枠を定めた上で細かい
法律を
改正するステップを踏んでいるんですね。このような形がやはり
国会が提出する
議員立法にはふさわしいのかなというふうに思います。
一つ一つの
法案の、ここをどう変えますよという、一々
法案改正文を書いていたら切りがないわけで、そういう細かい
部分は官僚に任せて
大枠を
議員立法でつくる、そういうような
慣例がこれから強くなっていけばいいなというふうに思っております。
ちょっと
レジュメが前後するんですが、
国会は九〇年代の後半に
決算行政監視委員会というのができまして、それとともに
会計検査院に対して
検査を要請することができるようになったと思います。
しかし、実態はどうかと申し上げますと、
先生方御存じのとおり、まだ二件しか
検査が発令されていないわけでございます。
衆議院一件、参議院一件。これは大変もったいない
お話だと思います。
会計検査院もなかなかの
調査力を持っているわけでありますから、
国会と
会計検査院がもっと連動してさまざまな
調査を行うべきではないかというふうに思います。
それとともに、
会計検査院は今、
内閣からもある程度独立した
機関でございますが、諸
外国を見ても
会計検査院的なものは、
アメリカにしても
イギリスにしても
議会に属しているわけでありまして、今の宙ぶらりんな
会計検査院の
立場ではなくて、この際、
憲法改正を考えるに当たっては、
会計検査院を
国会の
附属機関にするということもひとつ視野に入れてはいかがでしょうか。
次に、
内閣法制局について
お話をさせていただきたいと思います。
憲法調査会でも、さまざま、この
憲法の有権解釈権はどこにあるのだという
お話がされてきたと思います。建前で申し上げれば最高裁判所なんでしょうが、現在の、具体的な訴訟がなければ
憲法判断できないという
状況であれば、抽象的な
法体系を重視している
日本、事が起きる前にどうなんだ、どうなんだと。九条の解釈は、集団的
自衛権を有しているのか、有していないのか、集団的
自衛権を有していないならば、こういう戦闘のときどうなんだ、どこまでがやっていいのか、やっていけないのかと。
事が起こる前にいろいろな判断を重視する、抽象的な
法体系を重視する我が国において、具体的な訴訟がなければ
憲法を判断しませんという最高裁判所の
権限では、やはり事実上、
内閣法制局に判断をゆだねざるを得ないこの
状況はいたし方ないのではないのかなというふうに思います。
憲法改正を視野に入れるのであれば、私は明確に、
憲法裁判所を創設すべきだと思いますし、現在の
状況は明らかに法の不備、
憲法の不備であるというふうに思います。
日本の
法体系と
憲法裁判の前提となっているものが明らかに違うと思います。
短期的な解決策としては、
内閣法制局の長官に
国会議員をするなどして、長官職の
政治的責任を明確にしていく必要があるのかなというふうに思います。一応、
内閣法制局の主管大臣は
内閣総理大臣でありますが、法制局の判断がおかしいからといって
内閣総理大臣を罷免するというのは、
内閣総辞職に追い込まれる可能性がありますので、それは、はっきり言って余りできないわけですね。そういう
意味で、
内閣法制局の
政治的責任をより明確にするには、長官職に
国会議員を持ってくるのが一番早いのかなというふうに思います。その際、
国会法の三十九条の兼職
規定を改定する必要がございます。
また、同様に、
議会にも
議院法制局という大変有能なセクションがありますが、こちらも
内閣法制局に対しては余り力がなさ過ぎるのではないのかなというふうに思います。この際、
議院法制局も局長職を
国会議員にして、
内閣法制局と
議院法制局が
政治家同士で議論できるようなシステムをつくってはいかがかというふうに思います。
内閣法制局と
議院法制局は、今はだんまりを決め込んでいるような
状況、たとえ何か
国会で
内閣法制局の見解がおかしいという議論が起こっても、
議院法制局は黙ったままですし、
内閣法制局に対して異議を申し立てるシステムがございません。これを打破するために、法制局の中に
国会議員を送り込むというのも
一つの解決策ではないかと思います。
しかし、もっと大きい視野に立てば、やはり
憲法裁判所を設立する、今の最高裁では抽象的な
憲法裁判はできないという
お話が
憲法調査会の中でもございましたので、やはり、この際、
憲法裁判所を設立する必要があるのではないかなというふうに思います。
こうしたときに、
憲法裁判所は司法なのか、第四権、また違ったものなのか議論は分かれますが、司法が
政治的な場に入ってくるのは司法の正当性をゆがめるというような御議論がございますが、では、果たして本当に最高裁判所がこれまで
憲法判断を避けてきてばかりいるのかといったら、合憲判断は山ほどしているわけですね。違憲判断はあくまで余りしていないだけであって、今の最高裁判所も十分
政治的な色彩を帯びていると思います。この点で、
憲法裁判所をつくったら司法が
政治に染まってしまうみたいな議論は当たらないのではないのかというふうに思います。
そうした点も含めまして、
国会でさまざまな、法判断であったり条文化であったり、そういう、今まで法制局の中であったり
政府部内で行われてきた
部分を、
国会のこういう
委員会や小
委員会の場でできれば、より透明性が高まり、また、
日本では全然盛んになっていない立法学のケーススタディーの積み重ねにもなっていくのではないのかなというふうに思います。
そうしたときに
一つ考えなければならないのは、やはりそうやって実質的に、修正を前提にしたり、ここで条文化をしていくには、やはり
審議日数が今よりも当然必要になってくるわけですね。正直申し上げまして、今、余り重要でない一般的な
法案は、大体、
委員会審議、三時間か四時間で終わっているのが実情だと思います。そういう中で条文化をしていくような作業をしていくと、大変
審議がきゅうきゅうとしてしまうと思います。
ですので、この際、
憲法改正を考えるのであれば、
国会の会期というものも考え直さなければならないのかなというふうに思います。はっきり言って、私は非効率だと思います。会社も二十四時間、テレビで会議をできるようなシステムを備えているこの
時代に、今は会期じゃないから何もできないなんというのは、ちょっと古い
考え方、中世の王様の
時代の
議会なのかなというふうに思ってしまいます。この際、一年を通して
国会を開けるようなシステムにしていくべきではないかというふうに思います。
また、諸
外国が
法案の審査にどれぐらいの日数をかけているのかも
一つ重要な研究論点ではないかなというふうに思います。
今までは、
基本的に、
政府や
与党の
先生方に対して
意見を申し上げたような形なんですが、野党の
先生方にも、ちょっと
一つ注文を申し上げたいのであります。
行政監視、
政府の監視というのは、大変、
国会の重要な機能ではありますが、
委員会において大臣の
出席をやたらと今求めているような
現状がありますが、やはり大臣は、第一には省内、各省の政策の企画立案が第一の仕事でありまして、
国会に来てばかりいるのは本末転倒ではないのかなというふうに思います。
国会の
委員会で縛られて外遊にも行けない、省内の政策の把握もできない、そういうようなことがあるのは余り有益ではないのかなというふうに思います。
イギリスに関しても、
委員会においては、政務官、副大臣がどんどん答弁をしております。大臣の
出席にこだわるというのは、皆様方が
政府に回ったときに、やはり大変大きな足かせになるのではないだろうかなというふうに思います。
また、大臣といっても生身の人間ですから、以前の大臣やずっと前の大臣の答弁との一貫性をつつくのもいかがなものかというふうに思います。より活発な議論をしていくには、多少の
発言ミスがあってもいいのではないのかなと。そういう点で、もう少し野党の
先生方には鷹揚になっていただいたらいいのかなというふうに思います。
私、最後に
国会の
事務局についても
お話をさせていただきたいと思います。
今、参議院と
衆議院で
事務局は独立しているわけですが、独立性は
審議であくまで担保すればよいのであって、こういう後方支援に関しては、統合できるものはどんどん統合していった方がいいと思うんです。法制局にしても、片方の法制局だけだと七十人強ですが、両方合わせれば百五十人弱になるわけですね。それぐらいあれば、やはりもっと大きい仕事ができるのではないかと思います。
国会図書館も、
衆議院、参議院、どちらへも対応していますよね。ですから、
衆議院と参議院の
事務局、法制局を統合することも不可能ではないのではないかというふうに思います。
最後に、
憲法全体についてなんですが、戦後六十年となって、国家統治の前提、
基本システムが、やはり終戦直後とは異なってきているのではないかと思います。ですから、
憲法と
現実が乖離しつつあるのであれば、やはり
改正するのが一番だと思います。
しかし、
憲法九条、大変大きく議論の分かれる分野でございますから、そうした
部分は後回しにして、実務的な
改正を先に行うべきではないかというふうに私は思っております。
そのときに、
国会と
内閣の関係がどのようであるのかというのは
一つ重要なテーマであるというふうに思います。
憲法の条文には直接関係のない
部分でも、
国会と
内閣がどのような関係であるのかというのは
議院内閣制においては重要なテーマでございますので、ある程度、どういうものであるのか、前提をしっかりとお考えになった上で新しい
憲法を考えていただければというふうに思います。
ありがとうございました。(拍手)